ヒロインVS王子様 SideL
私――ルーナが潰そうとしているルート。
それはアッシュとローゼリア様の間の中の一番の難関
『フェリックス殿下の婚約者がローゼリア様である』ことだ。
ゲーム内でのフェリックス殿下は、難易度がかなり低い。
一番最初に通るルートがフェリックスというプレイヤーは多かっただろう。私もそうだ。
やっぱり王道シンデレラストーリーはキュンとする。
入りやすいからこそ、潰しにくいルートでもある。
私はせっかくだからこの世界を楽しみたい。ヴィンセントルートは潰したとアッシュが言っていたし、本物のヤンデレの真髄はアレを見て、嫌だと思った。
だから私はこの世界を堪能して、好きな人を選ぶ! そう決めた。
そして、大きな問題になっているのが――ローゼリア様とアッシュの距離が近すぎることが、周りに知れ渡っている、これも問題だ。
本人たちは気にしていないようだけれど、二人は付き合っているとか、禁じられた恋とか……ローゼリア様が男好きという下衆な話まで。
ということで、あの二人をくっつけるために、早くフェリックスとローゼリア様の婚約を解消してもらわないといけないのだ。
私はフェリックスがよくいる生徒会室の前で立った。
庶民の私が、直接殿下と交渉するのは正直無理である。
でも――話しかけてもらえたら別だ。
――『創造主』に世界を変える力があるように、私にも力がある。
「《ヒロイン権限》」
私は、私にしか使えない魔法を唱えた。
これを唱えると、通常ではありえない出会いイベントが発生する。
――その瞬間、扉が開いた。
「あぃだっ!」
ドアは外開きで、私の額を直撃した。
その先には、フェリックス殿下の側近の騎士――そして攻略対象の一人である『レオナルド』がいた。
「す、すまない。まさか人がいるとは思わなくて……」
たどたどしく、レオナルドが謝ってくる。
「い、いえ……こちらこそ、ややこしいところを歩いていて申し訳ございません。あぁ……でも、頭が――」
ふらっと倒れるふりをする。
「――おや、レオナルド、どうしたんだい?」
扉の奥――生徒会室から、フェリックス殿下が顔を出す。
「おや、君はルーナ・アリス・ハリソン嬢ではないですか」
どうやら私のことも覚えててくれたらしい。
ヒロイン補正グッジョブ!
「なるほど、頭を痛めていますね。少しこちらで休まれるか、レオナルド、保健室まで運んで――」
「あぁ……う、動けません」
「……――ふむ」
王子はなにか考えて、納得をしていた。
一方、騎士であるレオナルドはオタオタしていた。
「殿下、彼女を保健室につれていきます」
と、私はレオナルドにひょいっと抱えられてしまう。
いやいやいや、だめだ。ここでフェリックス殿下と話し合わないと。
もう一度、《ヒロイン権限》の魔法を使おうかしら――と思った時、
「いいや、レオナルド。彼女をこの部屋に招きましょう。そして、貴方は外で見張りを」
「し、しかし殿下、彼女は怪我人で」
「レオナルド。命令です」
「……承知しました」
渋々レオナルドは下がった。
そして私を生徒会室のソファーに座らせて、部屋から出ていった。
生徒会室はとても豪華だった。
もうあらゆるものが金色で出来ていた。
壁にはこの国の地図の絵画と、代々この学校を受け継いできた生徒会長の肖像画がズラリと並んでいる。
「もう演技はいいですよ。ルーナ嬢」
淡々とした声で、彼――フェリックス殿下は言った。
どうやら彼には、私のペラい演技はお見通しだったらしい。
「申し訳ございません。殿下。強引な手段をとったことをお許しください」
「いいえ。君がロゼと仲良くしているという話を耳にしまして。少し話をしてみたいと思っていたんです」
「……あら」
私とローゼリア様が仲良くなったのは、ここ数日のことである。
それをフェリックス殿下はもう知っていた。
ローゼリアをマークしているのか、それとも私をマークしているのか。
――うん、おそらく前者だろう。ローゼリア様可愛いし。
「失礼を承知申し上げます。ローゼリア様とその従者について」
「あぁ、最近噂になっているね」
「殿下の耳にも入っているのですか?」
「逆に僕の耳に入らないほうが可笑しいだろう?」
殿下は冷たい目をしていた。
確かに。婚約者の噂話を殿下が聞いていないわけがない。
しかもあの二人、堂々と抱き合ったり、距離が近いから、変な噂を立ててもおかしくない。
フェリックス殿下は、机の上に置いてあった水晶玉をそっと撫でた。
そこに映っていたのは、顔を真っ赤に染め上げているローゼリア様だった。アッシュから全力ダッシュで逃げている。
あ、たぶんこれ現在進行系の出来事だ。
「彼女はすぐに逃げますからね。先日もエドワード・ウォーカーJrに話しかけられていましたし、本当に危なっかしい子猫なんですから……」
くすくす、とフェリックス殿下は嗤った。
ちょっと待て。噂で聞いた等ではなく、フェリックス殿下は水晶玉を通してローゼリア様を見ていたと――?
「し、失礼ですが、殿下。いつからローゼリア様の行動を見ているのですか?」
「学園に入学したときから、ですね。今まで遠かった彼女が手の届く場所に来たので、変な虫がつかないように、こうしてたまに眺めています」
――めっちゃ変な虫ついてますけど!?
「彼女について、僕になにか相談が?」
「……えぇっと」
――こんなの物語のシナリオに無い!
フェリックス殿下が、いつでもどこでも監視カメラのようなもので婚約者を見張っているなんて!
そもそもフェリックスはヤンデレじゃない。
正統派王子様だ。
えっ、ローゼリア様……もしかして、攻略対象をヤンデレ化させる魔法でもかけられているの?
めっちゃありえそう。
……さて、どう動きましょうか。ここからは私のアドリブ力に頼るしかなくなってしまう。
アッシュに睡眠薬を飲まされた時のように油断はできない。
「殿下はローゼリア様のことを愛していらっしゃるのですね」
「そうですね。彼女のことは、とても愛おしく思っているよ。どれだけ見ても飽きないですから」
「……では、彼女の従者について、どう思っていらっしゃいますか?」
「あぁ、アッシュのことですか? いやぁ、彼には手を焼かされてます。どれだけ警告しても、忠告しても、気にすらしない。僕の存在について知っているのに……全く」
少し、フェリックの声が低くなった。
これは……まずい。
一筋縄じゃあいかなさそうだ。
「《ヒロイン権限》」
私は小さく唱えた。
あんまり使いたくなかったけど……。
「《愛情対象を悪役令嬢からヒロインに改変》」
ローゼリア様がアッシュの心を無理やり否定したように、私もフェリックスの思いを砕いてみせよう。
きっとヒロインだから、なんとかなる――そう思っていたけど。
「……本当にローゼリアはかわいいなぁ」
ヒロイン権限を使った後も、フェリックスの想いは変わらなかった。
「あ、君。さっきから魔法を使っているようですが、僕には防護魔法がかかっているから効かないですよ」
「――っ!!!???」
そこまで知られていた!?
どうしよう。もう手がない。
ローゼリア様はヤンデレ発生装置なの!?
「今日は機嫌がいいから赦してあげます。でも、あんまりその魔法は使ってほしくないですね」
「……失礼いたしました。では、魔法で通じないのであれば、直接交渉させていただきます。ローゼリア様との婚約を、どうか破棄してくださいませ!」
「……何故?」
冷たい瞳。彼はにやりと笑う。
「私はローゼリア様の友人として、彼女に幸せになっていただきたいんです。彼女の想い人は――」
「アッシュ……ですね」
「気づいていらしたんですね」
「あれで気づかないほうが可笑しいでしょう」
王子は肩をすくめて笑う。
ですよねぇ、と私も思った。
ローゼリア様は隠せていると思っているようだし、アッシュは気づいていないようだけれど、私と最初に出会った時から二人は両思いだった。
きっとずっと前から、あの二人はそういう関係だったんだろう。
でもそれなら何故フェリックス殿下は注意をしないのか。
一言、彼女の両親に言えば、アッシュを専属従者から遠ざけられるのではないか?
……うむむむ。
考えろ。考えろ私。何かを見落としている。
フェリックスの考えていることを……婚約者が他の男に迫られて、放置する理由を。
――ひとつ、思いついた。
いや、そんなわけない。そんなわけない……けれど……可能性はないことはない?
……うーん。
彼は王子だ。
貴族の微笑みを絶やさない。だから心が透けて見えない。
「……殿下、私が今から言うことが違っていたら、私の首をはねてください」
「そんな物騒なことを。……くすくす。なんだい? 聞きますよ」
「フェリックス殿下、もしや……ローゼリア様とアッシュ様の恋愛模様を楽しんでおりませんか?」
私は導き出した推論を告げた。
フェリックス殿下がガチヤンデレで、ローゼリア様のことを抱え込もうとしている――それにしては行動が遅い。
たった数日前のエドワードとの出会いは把握していた。
この推論……正直違ったら本当に首をはねられても可笑しくない。
「………………」
「…………」
無音の空間が辛い。
やっぱり違う? 違うよね?
あぁ、なんて馬鹿なことを口にしてしまったんだろう。
グッバイ私のセカンドライフ。
またアッシュみたいにループして戻れたらいいなぁ……と思っていたら、王子が笑い出した。
「ふふふ、よくわかりましたね」
王子はそう言って、仮面の下の、本当の笑みを見せてくれた。
「あ、当たっていたのですか!?」
「いや、わかる子がいるとは思いませんでしたけれど。君は本当に洞察力がある」
「……えっ、でも……それなら何故、婚約を……」
「そもそも、僕とローゼリアは、正式な婚約者ではないですよ?」
「……へ?」
……ちょっとまって。
そんなのシナリオになかった。
シナリオ上では、フェリックスとローゼリアは正式な婚約者であったはず。
――いや、シナリオにないと言ったら、あれもこれも十分イレギュラーか。
「彼女にはまだ返事をもらえていないんですよ。彼女の両親も、あまり野心がない方達でして、出世よりも娘の幸せを優先したいようです。……それに――何よりもあの二人を見ていると、面白くて、……ぷぷっ、たまらなくて……」
王子が吹き出した。
いや、たしかにあの二人を見ていると楽しいのはわかるけれど。
「それなら、何故婚約者という噂が広まっているのですか?」
「僕が否定していないからですね」
「何故否定しないのですか?」
「そのほうが面白いからですね」
「……でも、最近彼女をめぐる酷い噂が広まってきております。その件に関しては」
「そんなことを言っている輩は、一人ずつ潰し――いなくなっていただいていますが、まぁ、二人がくっついたら撤回したいと思っているんですが……これがなかなか……」
潰し――ってちょっと物騒な言葉が出かけたけれど、フェリックスは言い直した。
んー。えーっと、つまり、これは……。
「……つまり、あの……その……殿下は、ローゼリア様とアッシュ様の小競り合いのファン……なのですか?」
「小競り合い……ぷぷ、そうですね。僕はローゼリアとアッシュの幸せを願っています。心から」
――なんということだ。
一番の難関だと思っていたフェリックス殿下は、あの二人のファンだったとは。
「……殿下、一つ提案が」
「なんだい?」
「ローゼリア様ファンクラブをつくりませんか?」
「会員番号の一番をくれるなら、喜んで」
こうして、フェリックスとローゼリア様のフラグは潰せた――というか、元々成り立っていないことがわかった。
そして私とフェリックス殿下はプライベートで『友人として』仲良くなり、ローゼリア様ファンクラブとして二人の恋を見守ることになるのは、もう少し先のお話。
というわけで、ファンが一人増えました。
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