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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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そして戦いへ 4


 俺は余裕の笑みを浮かべてただ黙って立っていた。


 タルウィの顔は怒気をおび、繰り返し斬撃を飛ばしてくる。しかしその攻撃は俺の目の前で呆気なく消滅する。


「ふざけるなあああああああああっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!」


 間合いに踏み込んできたタルウィが呆気なくはじかれる。ようやく無駄だと悟ったのか距離をとったまま動きを止めた。


「認めんぞ……虫けら風情がハイデーモンであるワタシの魔力を凌駕するなど……」


 なるほど……わからん。


 この口ぶりだと相手の魔力を上回るとレジストできるようだが、そもそも魔力のない俺には関係ない理屈だ。おそらくサイコキネシスで守られているのだろう。しかしこの壁どこまで耐えられるのだろうか?


 正直に言えばこの笑みはフェイクだった。俺の動体視力ではタルウィの動きについていけない。さっきだって突進してきたことを理解したときにはすでに視界まで迫っていた。慌ててサイコキネシスぶつけようとしたほどだ。しかし間合いに入る直前でレジストしたむねを伝えられたので慌てずにいられただけだった。


 問題はそれだけではない。これだけ早いと果たしてこちらの攻撃を当てられるのだろうか?


「まとがでかくなったぶんは有利か……」

「何をごちゃごちゃと――ぶはっ!」


 命中した。不愉快な顔面に一発いれてやったらタルウィがのけぞり後退した。


「無動作に……無詠唱だと……人間風情がああああああああああっっっっっっっっっっ!!!!!!!!!」


 片腕を突き出したタルウィの指先から無数の火球が生まれたかと思うと俺に向かって飛んできた。しかしそれも当たり前のように消滅する。


 魔法もレジストできるのか? その疑問はすぐに答えがでた。なんせ火球が近づいてきてもまったく熱を感じなかったのだ。これは確信をもってレジストできると信じた俺は鼻で笑ってやった。


 腕をおろしたタルウィは気が触れたような奇妙な笑い声をあげた。


「あれだけの数の上位魔法すらレジストするか……虫けらと侮っていたのは誤りだったようだ」

「気づくのがおせーよ」

「まったくだな……殺さずに遊んでやろうとしたのがそもそもの間違いだった。余興は――終わりだ」

「――っ!」


 タルウィの背中から二対の羽根が生えると瞬く間に上空へと登った。そして両手を突き上げると何事かを呟く。呪詛のようなその言葉をつむぐと背後の月を覆い隠し、己の体の何倍もの大きさの火球を生み出した。


「熱――っ!」


 高さ三十メートル、マンションなら八階ぐらいありそうな高さから熱を感じたのだ。あれはヤバイ……。


「あれは高位魔法……ダメだケイジ……逃げろっ!」

「何度も言わせないで下さい――逃げませんよ俺はっ!」


 とはいえレジストは期待できそうにない。ならティアラを担いで――悩む時間は与えてくれなかった。


「遊びは終わりと言っただろう。逃がしはせん――女共々消し炭となれっ!」


 放たれた火球が熱風を撒き散らしながら頭上へと落ちてくる。もはや巨大な火球から逃げ出す隙はない。覚悟を決めた俺は意識を守りへと集中させた――。


 地表に届くことなく爆散した火球が木々を呑み込み広大な森を炎の海へと変貌させる。メラメラと燃えさかる炎のなかに悪魔の笑い声が木霊した。


「見たか虫けらっ! これが絶対たる脅威であるハイデーモンの力だっ! あの世で絶望するがいいっ!」

「……勝手に殺すんじゃねーよ」

「――っ!」


 俺は押さえ込んでいた力を一気に解放した。すると炎の海が一瞬で消し飛び紅く燃えていた空も静寂した闇へともどった。


「ばか……なっ」


 タルウィの唇が震えていた。何がおこったのか理解できない、そんな顔だった。


 俺も内心穏やかではなかった。サイコキネシスで常にはじけばなんとかなる公算はあったが、酸素のことまでは考えがおよばなかった。一帯が焼かれたことで酸素の供給が絶たれ危うく酸欠で死ぬところだった。


「あの炎を……消し飛ばしただと?」

「焚き火で山火事なんてさせるかよ」


 単純に苦しかったので消し飛ばしたのだが、そういうことにして不適な笑みを浮かべておいた。


「な……なんなのだ――貴様はいったいなんなのだああああああああっっっっっっっっっ!!!!!!!!!」

「またそれか――うっとおしいっ!」


 闇雲に放たれた火球をサイコキネシスで蹴散らすついでにタルウィにも一発お見舞いしてやる。が――。


「ちっ――かわされるか」


 もっと近づけばあるいは……。


「ははっ……はははっ……む、無駄だ。貴様の攻撃は当たらないぞ。そうだ、空も飛べぬ人間にわれら魔族が負けるはずがないっ!」


 優位性を思い出したのか怯えすら浮かべていたその顔に余裕が戻っていく。


「飛べないなんて誰が言ったよ」

「な……に?」


 地面から足裏が離れ浮遊する俺を見てタルウィの顔が青ざめる。


「飛行魔法……だと?」


 タルウィの意識は完全に俺に向けられている。動くならいまか……。


「ティアラさん、少しだけ待っていて下さい。すぐに――けりをつけてきます」


 振り向くと呆然と口をあけていたティアラは慌てて口をとじると疑いのない瞳を向けて頷いた。


 俺は空を見上げるとトップスピードを出して瞬く間にタルウィの元へ飛ぶ。そして奴の目の高さまで上がると慣性を無視して止まった。


「なぜだ……なぜ貴様ごとき人間が飛行魔法など使える? よ、よるな――それ以上よるなあああああああっっっっっ!!!!!」

「だからきかねえーんだよ!」


 火球はレジストされ消滅する。が――。


「弾幕としては有効かっ」


 逃げまどいながら闇雲に撃ってくる火球をかわすと反撃を加える。


「ぐはあああっっっっ!!!!!」

「よしっ――この距離なら当たるっ!」


 しかし攻撃は当たるものの消し飛んだ肉片はすぐさま再生していく。


「やっかいな――っ!」

「なめるなよおおおおおおお人間んんんんんんっっっっっっっっっ!!!!!!!!!」


 タルウィはただ逃げていたわけではなかった。胸に抱くように隠していた火球が一気に膨れあがると同時に反転した。


「自爆するつもりかっ!」

「ワタシは死なないっ! しかし人間である貴様では耐えられまい。レジストできぬ距離まで詰めればワタシの勝ちだっ!」

「はん! 守りに徹すれば――」


 しまったっ!


 あの火球が広範囲に炎を撒き散らす魔法だったことを思い出す。地上との距離を考えるまでもなく――カバーしきれない。


「我が身可愛さに女を見捨てるか身代わりとなって死ぬか選ぶがいいいいいいいっっっっっっ!!!!!!」


 迫り来るタルウィ。迷っている時間は――ないっ。


 俺は浮遊するのをやめて自然落下に身を任せる。バサバサと風を裂くような耳障りな音のなか意識を空へと集中する。自然と両手を突き出してタルウィへと向けていた。


「血迷ったか? いかに貴様の魔力が強大でも守りきれぬぞっ! その手はなんだぁ? 無駄な足掻きかっ! 貴様の攻撃ではワタシを殺せないっ! 貴様の魔法はワタシに通じないいいいいいいっっっっっっ!!!!!!!!!!!」

「ゴチャゴチャうるせー魔法なんて最初から使ってねーんだよっ!」


 炎に呑み込まれたタルウィが迫る。そして俺は全身全霊をこめて視界に広がる空に向けて叫んだ――。


「魔法じゃない、超能力だ――――――――ッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!」


 刹那――大気の壁が何層も弾け、轟音と共に放たれた衝撃波に空が――雲が――吹き飛ぶ!


 禍々しい紅い炎は闇に呑み込まれたかのように一瞬で消えた……形も残らず欠片も残さず空を穢すものは何一つなく消え去った。


「なんとかなったな……あれ?」


 力が入らない……落下が一向に止まらない。そして意識までもが俺の意思を無視して消えて――……。



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