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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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エルフたちの思い 3


 異様な光景にドン引きしている俺とは別に、ティアラもまた緊張した面持ちで身構えていた。


「脅かしてしまいましたか?」


 木の幹に浮かび上がった少女の顔が困ったような表情を作るとすっと消えた。すると木の中からうっすらとした人影が現れる。


 出てきたのは背後が透けて見えるほど希薄な少女だった。蔦のように長い若草色の髪が肌に巻き付き、少女が女性である部分を隠しているが、いやらしさは感じられない。神秘的なオーラのようなものを感じさせる不思議な少女だった。


「この姿ならお話もできましょうか? わたしはドリュアス……この樹の精霊です」

「精霊……?」

「ハイ。賢者殿は精霊に会われたことはございませんでしたか?」

「ああ……。それと……賢者というのは俺のことか?」

「ハイ。大昔アナタのような優れた魔術師のことを賢者とお呼びしておりました」

「そうなのか……」


 魔術師ですらないのだが、いまはそんなことどうでもいい。それよりも……。


「若きエルフって……」


 やはりドリュアスはティアラへと視線を向けた。


「ティアラさん……エルフだったんですか?」

「すまない……隠しているつもりはなかったのだ」


 急に正体を暴かれたことで居心地悪そうにしているが、俺にとっては興味以外に思うところはなかった。しかし側にいるエルエリスは違うようだ。


「ではその姿……ハーフエルフか?」

「ああ……黙っていてすまない」

「いや……今はいい」


 なんだか居心地が悪い。ハーフというのはそんなに特別な意味をもつのだろうか?


「エルフたちは長寿であるがゆえに出生率が非常に低いのです。それゆえに血を絶やさぬため他種族との交配は忌諱されています」


 俺の疑問を見透かしたドリュアスが答えてくれたがちょっと納得がいかない。


「つまりそれは親の責任だろ? ティアラさんに冷たくあたるのは筋違いだ」

「それは……わかっている」


 エルエリスも理解はしているが、気持ちが追いついていない感じだった。ついカッとなって俺も余計なことを言ってしまったのかもしれない。この世界の常識すらまともに知らない俺が、人権問題に口を挟むのはおこがましかったかと反省した。


「無粋なことを言ってしまいましたね。どうかお許し下さい」


 頭を下げるドリュアスを見てティアラもエルエリスも面食らっている。


「あ、頭をあげて下さいドリュアス様!」

「そ、そうです。慣習を払いきれない未熟な私の失態です!」


 二人の様子を見るかぎり和解の糸口はありそうだ。俺ものっかるとしよう。


「そう言えばエルエリスは頭がかたいってチキも言ってたな」

「な――っ!」


 エルエリスの顔が紅く染まる姿を笑ってやると、嫌な空気もすっかり流された。こうなることがわかっていたのだろう。気の利いた精霊だ。


「えっと……ドリュアス様?」

「敬称も敬語も結構です。わたしは精霊であり神のように崇められる対象ではありませんので」

「そんなことはありません! 私たち森の民にとって精霊とは女神と同じく尊いお方です」


 俺は森の民とやらじゃないのでよくわからないが、エルエリスが興奮するぐらいには尊いのだろう。


「ありがとう。ですが賢者殿に無理強いなどできません。なにせわたしはこの身を守ってほしいとお願いする立場なのですから」


 ドリュアスは俺をじっと見つめた。


「言われなくてもわかってるよ。ハイデーモンが狙う何かがこの里にあって、その為の戦力がほしかった……まあ、貴重なお宝とかじゃなくて精霊を守ることだったとは思わなかったけどな」

「同じことですよ」

「?」

「守って頂きたいのはわたしではなく本体である世界樹……つまり魔法資源なのですから」


 俺にはよくわからなかったがティアラは酷く驚いていた。エルエリスも何故だか驚いている。


「ドリュアス様それは――」

「包み隠さずお話しましょう……賢者殿はすでに当事者です。これ以上の誤解と悲劇を生まぬためにも……」


 俺もなんとなく察した。


「もう一つの里や……チキのことだな?」

「はい。襲撃された理由はおそらく世界樹で間違いないでしょう」


 里に侵入したザリクがチキにさせたことを思い出す。世界樹のことは口にしなかったが、一軒一軒まわったというくだりを捜査と考えれば辻褄もあう。


「魔法資源とか言ってたけど……それほど重要なものなのか?」

「……ご存じありませんか?」

「悪いな……あまりそういうことに詳しくないんだ」


 記憶喪失と言ってもいいのだが、どうも人ならざる者に嘘をつくのが躊躇われた。


「……わかりました。説明を交えてお話しましょう――」


 魔法資源とは死元戦争と呼ばれる人類最後の戦争の引き金となったものだそうで、世界樹のように膨大な魔力を蓄えた植物であったり生物であったり遺跡であったりするものらしい。ようは外部から取り出せるエネルギーの塊のようなものなのだろう。


 人類最後の戦争とやらが気になったが、今は掘り下げる話題ではないと考え自重した。


「つまり戦争の火種になるほどの膨大な魔力を狙っているわけか?」

「用途までわかりませんが、森でひっそりと暮らすエルフの集落を襲う理由が他に思いつきませんので」

「なるほどな……」


 消去法ではあるが外れてはいないだろう。


「チキの住んでいた里にも世界樹はあったのか?」


 ドリュアスは首を振り、エルエリスは悔しそうに呻いた。運悪く巻き込まれたわけか……。ドリュアスたちもやるせないことだろう。


「エルフたちの死を無駄にしないためにも世界樹は守りぬかねばなりません。どうかお力をお貸し下さい」


 ドリュアスが頭を下げるとエルエリスも深く頭を下げた。俺のはらは既に決まっている。ティアラを見ると同じ気持ちであると言いたげに頷いた。


「俺だってこれ以上悪魔の思い通りにはさせるつもりはない。世界樹を守り抜いて――チキも取り戻すっ」


 俺はあらためて決意をのべて思いをはせた。



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