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魔法じゃない、超能力だ  作者: 一川一
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帰らずの森のエルフ 6

「あらぁ……エルフは皆殺しにしたはずよねぇ……どういうことかしらぁ?」

「白々しい……先ほどの芝居は我々に対する挑発なのだろう」


 そういうことかよ……。


 自己満足で語っているとばかり思っていたが、目的は隠れていたエルエリスたちを誘き出すことだったようだ。


 エルエリスが剣を抜きその切っ先をザリクに向ける。


「貴様が長々と戯れ言を吐いている間にこの一帯を包囲した。もはや逃げ場はないとしれ!」


 千里眼で周囲を見てみるとたしかにいるわいるわ……。ざっと数えただけでも三桁はいる。エルエリスの自信も納得できた。ここはでしゃばらずに任せる方がよさそうだ。


「チキを解放してもらおう!」

「そうねぇ……アナタのお家に招待してくれたら考えてもいいわよぉ?」

「勘違いするな。これは交渉ではない――命令だ!」

「あらやだこわーい」


 ザリクは怖がるどころかクスクスと笑い出す。まったく動じていないのは相手を侮っているからなのか?


 何か引っ掛かる……。


 この演出家きどりの悪魔が笑っている理由は……まだ茶番が続いているということではないのか?


 つまりこの展開もシナリオどおり?


 俺は千里眼で再度周囲を確認する。しかし隠れているのはエルフばかりで魔物の姿は見当たらない。更に森の奥へと探索の目を広げるが異常はない。ただ光源も少なく、いつの間にか出てきた霧のせいで探索はより困難に――。


 何故だか急に視界がクリアになった。


 霧が消えたのか?


 少し戻ると再び視界が霧に包まれる。それも先ほどより霧の量が増えている。その不自然な形に違和感をおぼえて、この霧が自然現象ではないことに気づいた。


 チキの精霊魔法? しかし何故? 何を隠している?


 魔物がいるのならまだしも――っ!


 まさかの思いで視界を森に潜むエルフへと戻し――俺は唇を噛みしめた。


「エルエリス! 伏兵の背後に敵がいるっ!」

「なんだと?」

「あらぁ、勘の良い坊やだことぉ――でも一足遅かったわねぇ」


 森の中から悲鳴があがる。その声を皮切りに静寂は一気に霧散して周囲は喧騒に包まれた。しかしそれだけはなかった――。


「この霧は――っ!」


 いつの間にかエルエリスや俺たちの足下からも霧がたちのぼり、瞬く間に視界を覆った。


「この子は良い拾いものだったわぁ……条件さえ揃えば戦略魔法が無動作無詠唱でつかえてしまうのだものぉ……妖精族の精霊魔法も馬鹿にしたものではないわねぇ」


 川辺に誘い込んだのはそういうことか。ここなら水に事欠かない……。


「だが視界を奪われたのはお前等も同じだろ?」

「そうねぇ……でもぉ――死ぬことを恐れない兵隊さんなら問題ないんじゃないかしらぁ……うふふっ」

 

 そのとおりだ。なにせこいつの使った兵隊とは――。


「ぐ――っ?」


 足首に走る激痛――見下ろすと霧の奥に地面から生えたような腕が俺の足首を掴んでいた。


「グワアアアッッッ!!!!!」

「じっとしていろ――ケイジっ」


 間一髪――地面から這いだしたエルフが俺の足に噛みつこうとした瞬間、その頭蓋にティアラの剣が突き立てられた。足首を掴んでいた万力のような力が消えると俺は慌ててその死骸を振り払った。


「助かりました……」

「いいさ。あの距離ではレジストも難しかろう」


 そういうものなのか? 魔法的なものとをは違うはずだが共通点もあるのか。この力についても、もっと知しらなければならないと反省する。が、いまは目の前の問題に対処せなばならない……。


「エルフをゾンビ化して使役させてくるとは……」


 そう……俺が見た伏兵の大半は蘇った屍だったのだ。はじめからもっとよく観察していればと悔やまれる。


「この霧をどうにか――せねばっ!」


 また一体、俺の背後から現れた屍の首をティアラがはねる。またレジストが発動しなかった。どうやら距離だけの問題ではないらしい。最悪、組み付かれて攻撃されたらやばいかもしれない……。


 悠長に考えている時間はないな。ならば――。


「エルエリス、生きてるか?」

「当然――だっ!」


 苦戦しているのは見るまでもなさそうだ。屍とはいえ同胞相手では戦い辛いだろう。


「この霧をはらう、少し乱暴にするが飛ばされるなよっ! ティアラさんっ!」

「ああ――やってくれ!」 


 ティアラが地面に剣を突き立てて両手で柄を掴むのを確認すると、俺は意識を集中する。


 できるだけ広範囲をイメージする――すると千里眼の視界がパノラマ写真のように広がりぐるりと一周した。全方位をカバーして更に広がっていく。驚きつつも受け入れてサイコキネシスを――放った。


 周囲の霧が一瞬で吹き飛び、空間を埋めるように流れてきた空気が風となり突風を巻き起こす。その風もすぐに消えて周囲は嵐が去ったかような惨状となっていた。


「ティアラさん?」

「私なら大丈夫だ」


 辛うじてその場に止まれた様子のティアラが立ち上がる。エルエリスがいた場所をみると彼女の姿はなく離れた場所に吹き飛ばされていた。それでも立ち上がる姿が見えたので大丈夫だろう。そしてザリクは――。


 視界から消えていた。


「戦略級の広範囲魔法を一瞬で消し去るなんて予想していた以上ねぇ……でもよかったわぁ……ここで潰せてぇ……だってこれ以上邪魔されるのは困るものぉ……ねぇ」


 頭上から落ちてきた声――見上げると鮮血のような紅く巨大な魔法陣が空を覆っていた。


「ティアラさんあれは?」

「召喚魔法だ――とてつもない――見たこともない大きさだっ」


 動揺するティアラと呆気にとられて立ちすくむエルエリスの姿を見て異常な魔法なのだと理解した。そして魔法陣の奥から聞こえてきたとつてもない咆哮を聞かされてその異常を実感する。


「なんだよこれ――っ!」


 耳を塞ぎたくなるような不快で威圧的な咆哮と共に、魔法陣の中から現れたそれは――どす黒い爬虫類じみた皮膚に鋭い牙を生やし、一見すると巨大なトカゲのような顔をしていたが、その正体がなんなのかは俺にも察しがついた。


「ドラゴン……」

「ただのドラゴンじゃない……あ、あの特徴……まさか……そんな?」


 ティアラの顔から血の気が引いている……つまりそれほどの敵なのか?


「聖方騎士ならご存じよねぇ……聖典にも記録されている世界を滅ぼす一端を担った邪竜……この子の名前はぁ――カオスドラゴンっ」


 ティアラが震えていた。エルエリスにいたっては腰が抜けたかのようにドラゴンを見上げて座り込んでいた。二人の反応見る限りハイデーモンの存在よりも厄介なことは明白だ。カオスドラゴンはまだ顔を出しただけだ。頭部だけ見てもゆうに五メートル以上ある。その巨大な全貌を想像するとまともにやりあうなんてごめんこむりたい。ならば――。


 ザリクにサイコキネシスをぶつけると呆気なく下半身が吹き飛ぶ。が――。


「あらぁ……そんなことしても無駄よぉ……ご存じないのかしらぁ?」


 当たり前のように再生されていく下半身など気にもとめず、わずかな苦痛すら浮かべないその表情には不思議そうな色が浮かんでいた。


「ダメだ……ケイジ。一度召喚されたら術者が止めない限り、術者が死んでも発動する……」

「そういうことですか……」


 あれと戦う以外に方法はないということか……。ハイデーモン一人でも厄介なのにそれ以上の化け物が出てきては勝ち目がなくなる。悔しいが逃げるべきかなのか? 


 ダメだ……森のなかにはまだ生存しているエルフたちがいる。見捨ててはいけない……。


「あらぁ……黙っちゃってどうしたのぉ……わかっているとは思うけどぉ……逃がさないわよぉ!」


 ザリクの言葉に呼応するようにカオスドラゴンの口が裂けるように開かれる。


 紅い口の中から真っ黒な炎が溢れ出して瞬く間に巨大な口を覆い尽くした。


「絶死の咆哮……黒き終演……生きとし生けるものいずか死を受け入れざる……カオスブレスっ!」


 タールのように黒く呼吸をしただけ肺が焼かれてしまいそうな死の業火が世界を覆った――。



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