10 -勇者になれなかった者-
ユウトを家に送り届けた後、カノンは宿に戻った。
体の痛みが引いてきたとはいえ、久々に体を動かしたため疲労感が溜まっておりゆっくり風呂に入った。
風呂から上がり、湯冷ましついでに夜風に当たろうかと思い外に出る。
散歩がてら、道なりに歩いていると用水路の分岐点に人が座っているのが見えた。
近づいてみると、セインが座り込んでいるようだった。
「よぉ、セイン。こんなところでどうしたんだ?」
こちらに気づいたセインは優しく笑いかける。
「カノンか。ちょっと夜風に当たりたくてな。お前こそ何してるんだ?」
「湯冷ましついでに散歩でも、って思ってな。」
そういって、セインの隣に座る。
「・・・。おれはさ、勇者にあこがれてたんだよ。」
唐突に、遠くを見ながらセインが語りだす。
「だから騎士団に?」
聞き返すと、セインは頷く。
「あぁ。だが、勇者ってのは努力とかそういうのじゃなくて生まれた時から決まってるんだって知ったのは騎士団に入ってからだったよ。
そん時はショックだったなぁ。強くなりたいとか、世界を救いたいとか、そういう気持ちが急に崩れていった気がしたんだよ。」
「それはなんというか・・・ごめん。」
居た堪れなくなってつい謝ってしまった。
そんな俺を見て、セインはまた笑う。
「カノンが謝ることじゃないさ。小さい俺が勝手に勘違いしてただけなんだ。」
それに、とセインは続ける。
「勇者じゃなくたって、鍛えれば強くなるし騎士団として王国民は守れる。間接的に世界を救っていることには変わりないんだ。だから、勇者パーティに選出されたときはうれしかった。
勇者にはなれなかったが、勇者とともに世界を救えるんだって。」
どこか遠い目をしているセイン。しかし、その瞳の奥にはしっかりとした決意があるように感じた。
「俺は勇者じゃない。でも、平和な世界を守りたい。だからお前が世界を守るために勇者をやるなら味方になる。黒狼の時みたいに味方に襲い掛かろうが、世間がお前を敵視しようが、世界のために、平和のために行動するなら俺はお前の騎士になるよ。」
「もし、俺がこの前みたいに暴走してそのまま世界を滅ぼそうとしたら?」
「決まってるさ。その時はお前を討つ。正気に戻して、説教してやるさ。」
セインはそんな質問も想定していたかのように、しっかり答えた。
そして、照れくさそうに続ける。
「だからさ。お前は思う存分勇者になれよ、俺たちは仲間なんだからさ。」
そして、しっかりした顔でセインは言う。
「俺は、俺たちは、お前を信じてる。」
そんなセインの言葉を聞いて、もちろん。と返そうとして言葉が詰まった。
湧き上がる昔の記憶。
「ミオを返せ!何が勇者の子供だ!まるで魔王じゃないか!」
子供を奪われ、ミオの父親に言われた言葉。
何か起こるたび、段々冷たくなっていくみんなの視線。
そして、エルドの言った優しい言葉。
「俺は、母さんはお前を信じてる。」
ずっと優しいセレナ。父親として育ててくれたエルド。
その姿と重なって、思わず涙があふれた。
「・・・ありがとう。」
「おいおい、泣くなって。」
セインは困ったように頭をかいた。
「勇者がそんな顔してたら、子供たちに幻滅されるぞ。」
「うるさい。」
「くくっ、ははは!」
用水路を流れる水の音にセインの笑い声が響く。
心の奥に張り付いていた何かが少しだけ軽くなった気がした。
その後、宿に戻る途中セインに頼みごとをした。
セインは話を聞いて、快く引き受けてくれた。
きっと、これは俺よりセインの方が向いているから。
セインの話を聞いて、俺はそう思った。
★ ★ ★
次の日、セインと外に出ようとした時フィナが声をかけてきた。
「カノンさん、セインさん。お出かけですか?」
「あぁ、セインにちょっと付き合ってもらおうかと思ってな。フィナは今日も診療所か?」
「いいえ、昨日で大体診て回れたので今日は行く予定はないですよ。カノンさん達は何を?」
「あぁ、カノンに頼まれて子供たちの相手をしに行くんだ。」
「私も一緒に行ってもいいですか?」
「もちろん。じゃあ一緒に行こうか。」
「はい!」
こんどこそ行こうとした時、レオハルトがひょっこり顔を出した。
「おいおい、なんか楽しそうなことしようとしてるじゃん~?俺も混ぜろよ。」
「レオハルトか、今日はナンパしに行かなくていいのか?」
「セイン、別にしてるわけじゃねぇ、村の人と仲良くなってるだけだぜ~。」
「そういって、昼間はいっつも女の子に声かけてるくせに。」
「夜はおっちゃんたちと飲み明かしてるんだ、男女平等さ。昨日であらかた村の人の顔も覚えたしな、俺も付き合うぜ。」
「あぁ、じゃあみんなで行こうか。クラリスは?」
「あいつも今日は休みとか言ってたな、連れて行こう!」
そんなこんなで、皆で行くことになった。
準備を整え、川の方へ行くと昨日のように川で遊ぶトーマ達が見えた。
「あ!勇者さまたちだ!」
気づいた子供たちがわらわらと集まってくる。
「よう。今日はみんなに俺の仲間がいろいろ教えてくれるってさ。なぁ、みんな?」
勇者パーティの勢ぞろいに、子供たちは目を輝かせる。
「勇者パーティだ!すごい!」
「まほう!魔法が見たい!」
「聖女さまだ~!」
子供たちはみな思うように駆け寄っては話を聞く。
「あんまりでかい魔法は使えないけどな、ほれ!」
そういって、レオハルトがパチンと指を鳴らすと目の前に小さな火花が散る。
「すごいすご~い!もっともっと!」
リサはやはり魔法が好きなようだ。
ミナはあこがれの聖女を目の前にして色々質問している。
「聖女さま、わたしも聖女になれますか?」
「ミナちゃんはなんで聖女になりたいの?」
「だって、けがしたら痛いから!みんな元気になってほしいから!」
「なら、なれますよ。大事なのは困った人を助けたいその優しい心です。」
「やった!じゃあ、ヒールおぼえて聖女さまみたいにみんなのけがを治したい!」
子どもの相手は慣れているようで、フィナは優しい顔で話を聞いている。
そんななか、トーマは俺のところにきた。
「勇者さま、おれ強くなりたい!村を守りたい!」
「そういうことなら、クラリスに鍛えてもらうといいぞ。あいつは王国騎士団だ。」
「騎士団!すげー!」
そういってクラリスのところへ連れていく。
「クラリス、トーマがつよくなりたいんだってさ。教えてやってくれ。」
「トーマです!みんなを守りたいんだ!教えてください!」
「この気持ちやよし、まずはいつもやってる風にやってみろ。」
そういうと、トーマは両手を広げた。
「ふははは!おれは魔王だ!かかってこい!勇者ども!」
その言葉に、カノンは思わず噴き出した。
「ふははっ!違う違う!勇者ごっこじゃないんだから剣を振れってことだよ!」
「そ、そうなのか!やべ、はずかしい・・・」
恥ずかしがっているトーマに、真剣な顔でクラリスは話しかける。
「ふむ、いつも魔王役なのか?」
「だって、魔王役がいないと勇者ごっこ出来ないし、魔王って勇者と違って強い敵ってかんじでなんかかっこいいじゃん?」
「魔王がかっこいい?」
クラリスが真剣な顔でトーマに問いかける。
「だってさ、勇者はみんなと戦うけど魔王はひとりで戦いだろ?だからその分つよいんだよ!おれはつよくなりたいしみんなと戦うのが好きだから!」
「確かに魔王はつよい。だが、一人だけ強くても守れないものがある。」
「守れない?」
「ああそうだ。守るために強くなるのも大事だが、一人だけで頑張るより、皆と力を合わせて戦うのも大事だぞ。」
「でも、そうすると勇者ごっこ出来ない・・・」
落ち込むトーマに、クラリスは言う。
「いつも魔王役をやってるなら、皆がどうやって戦うのか知ってるだろう?魔法を出すタイミング、剣の振り方。そういうのを知って指示を出す。騎士団の隊長にはそういうのも必要になる。」
そういって、胸を張ってクラリスは続ける。
「自分の強さよりも、皆の強さに合わせて足りないところを合わせていく。時には攻めるんじゃなくて仲間を守っていく。みんなをよく見てるトーマは、きっと隊長に向いているんだろう。」
そう言われて、トーマの顔が明るくなった。
「じゃあ、隊長になれるように俺頑張る!」
「あぁ。じゃあ、今日は隊長としてどんなことをするか教えてあげよう。」
トーマとクラリスはなかなか相性がいいみたいだ。
ベルナ村の小さな勇者パーティ結束も近いですね!
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