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本件、責任者の『麗野まお』が承ります。~転生先は魔王城。理不尽なクレーマー魔族は、元SVの私が「接客」で蹂躙致します~  作者: 彩月鳴


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Call.4「当ダンジョンの致死率は、正常な仕様となっております」

ある日の魔王城・地下最下層。

血の匂いが染み付いた『元・拷問室』で、私は今日も優雅にデスクワーク(という名の暇つぶし)に勤しんでいた。


「うぅ……裏の魔王様、このお茶やっぱり泥みたいな味がしますぅ……」


「ティティナさん。ですから、その出どころの分からない魔界茶葉に、ドロドロの獣のミルクを入れるのはやめなさいと……はぁ、せめて無糖のブラックコーヒーか、ほうじ茶があれば……」



デスクの脇でマイ湯呑みを両手で持ち、涙目になっている見習いサキュバスのティティナ。

私がそんな彼女にため息まじりの説教をしていた、その時だった。


「「「ぎゃあああああああっ!?」」」


突如、天井のダストシュート――おそらく上の階層に設置された落とし穴トラップの排出口――から、複数の悲鳴が重なって降ってきた。


ドサッ!ゴスッ!べちゃっ!


私の築いたパーテーションの前の石畳に、三つの人影が派手な音を立てて落下してくる。

重装備の剣士、軽装の盗賊、そしてボロボロのローブを着た魔法使いだ。

いずれも酷い土埃にまみれ、息も絶え絶えになっている。



「ひぃぃぃっ!?に、人間!?まさか勇者たちがこの最下層まで!?」


ティティナが悲鳴を上げ、パタパタと小さな羽を揺らして即座に私の背後に隠れた。


「ど、どうしましょう裏の魔王様!浄化されちゃいますぅ!」


彼女は涙目でそう叫びながら、私のドレスの裾をガクガクと強く引っ張っている。




一方の人間たちも、想定外の落下ダメージから必死に身を起こし、部屋の光景を見回して血の気を引かせた。


「いってぇぇ……っ!な、なんだここは!?血だらけの拷問器具……処刑部屋か!?」


「お、おいリーダー!あそこに誰かいるぞ!ま、まずい、吸血鬼だ!」


剣士と盗賊がパニックを起こし、ガタガタと震える手で武器を構える。

だが、彼らの目に飛び込んできたのは、恐ろしい処刑人などではない。

部屋の隅に追いやられた拷問器具とは対極にある、やけに綺麗に整頓されたパーテーション付きのデスク。

そして、そこでパイプ椅子に座る可憐なゴシックドレスの美女()だった。



「――いらっしゃいませ。頭上からのご来店、誠にありがとうございます」


私が極上の営業スマイルで立ち上がり一礼すると、決死の覚悟を決めていた三人は、完全に思考がフリーズしたように口をパクパクさせた。


「は、あ……?いらっしゃい……?」



「アポなしではございますが……魔王城お客様相談室、責任者の麗野まおが承ります。本日はどのようなご用件でしょうか?」


私が魔法で構築したパイプ椅子を三脚並べて勧めると、彼らは激しく警戒しつつも、ダンジョン探索のあまりの疲労からか、誘惑に負けてドカッと腰を下ろした。

そして、リーダーらしき重装備の剣士が、堰を切ったように不満をぶちまけ始めたのである。


「ご用件じゃねぇよ!なんだこのダンジョンは!出てくる魔物はやたらと強えし、宝箱を開けたら毒ガスが噴き出すし、初見殺しの罠ばっかりじゃねぇか!何度死にかけたと思ってるんだ!」


「そ、そうです!私の回復魔法ももう底を突いてるんです!」


魔法使いの少女も、涙目になりながら激しく同調する。

私は手元のバインダーを開き、事務的な声で淡々と答えた。



「……ご不便をおかけし、誠に申し訳ございません。しかしながら当施設は『魔王軍の最終拠点(ラストダンジョン)』として設計されております。そのため、極めて高い致死率、および初見での生存困難な難易度は、正常な『仕様』となっております」


「し、仕様……?」


「はい。決して不具合等ではございませんので、どうかご安心くださいませ」


「安心できるか!ふざけんな!!客……じゃねぇ、侵入者を殺す気満々じゃねぇか!」


「えぇ、防衛施設ですので」


「「「………………」」」


完璧な正論の前に、圧倒的な静寂が場を支配した。

ティティナだけが、おどおどとした様子で私と人間たちを交互に見ている。



「だ、だいたい、道が入り組んでて複雑すぎるんだよ!『絶望の無限回廊』とかいうふざけた名前のフロア、行けども行けども同じ景色で、気づいたら同じ場所に戻ってくるし、案内板のひとつも出しとけってんだ!」


私は小さくため息をつき、さっきよりもさらに一段階、丁寧で冷たい声を作った。

そして、クレーム対応において「肯定しながらも反論する時」に使う、奥義の一つを行使する。


「貴重なご意見を賜り、誠にありがとうございます。……ですがお客様。先ほども申し上げました通り、当施設は魔王軍の『最終拠点』でございます。侵入者を徹底的に阻むための構造となっておりますため、あいにく、私ども末端の窓口には『ダンジョンの構造変更』や『案内板の設置』を行う権限は付与されておりません」


「はぁ!?じゃあどうすりゃなんとかなるんだよ!」


「そうですね……」


私はバインダーの端を指先でトントンと叩き、『アブソリュート・ログ』を展開する。

そして空中に浮かんだデータから、唯一の代替案を提示した。


「もし、地殻変動等の『自然な構造変化』をお待ちいただく場合、こちらのロビーにて200年ほどお時間を頂戴することになりますが、お待ちになられますか?」


「待てるか!!その前に寿命で死ぬわ!!」


「なるほど。ではその場合、当施設にてアンデッドとして再起、永住する手続きも可能ですが、いかがでしょうか?」


「「「………………」」」





「話にならねぇ!!」


剣士が机をバンッと叩いて立ち上がる。

その横で、軽装の盗賊が顔を真っ青にさせて剣士の袖を必死に引っ張った。


「お、おいリーダー、やめとけって!この魔族、マジでヤバい!今は全く魔力を感じないが、さっきから俺の生存本能が『これ以上喋ったら消し飛ばされる』ってガンガン警告してくるんだよ……!」


「うるせぇよ!こっちはもう心身ともに限界なんだよ!」



剣士は盗賊の制止を振り切り、テーブルに身を乗り出した。


「そもそも、俺たちは勇者様みたいに魔王を倒しにきたわけじゃないんだ!」


「なるほど。勇者様御一行ではなかったのですね」


その言葉に、背後のティティナがホッと大げさに胸を撫でおろしている。



「あぁ。ギルドに『最近魔王軍の様子がおかしいから、偵察がてらダンジョンの構造を調査してこい』って安請け合いで丸投げされただけの、ただのしがない冒険者なんだよ!頼むから帰してくれ!」


半泣きになりながら訴える冒険者(下請け)

それを聞いた私は、パタンと手元のバインダーを閉じ、左耳のヘッドセットにスッと手を当てた。


「……左様でございましたか。ご来城の目的が『ギルドからの調査依頼』であり、当城の攻略、および武力行使の意思は一切ないとのこと。承知致しました」


私はパイプ椅子から立ち上がり、スカートの裾をつまんで一礼する。



「では、これより当窓口にて『お客様都合による返品(強制送還)』の手続きを代行させていただきます」


「ほ、本当か!?助かる、あんた魔族なのに話が分かる――」


剣士が安堵の表情を浮かべた、まさにその瞬間。

私の身体から、部屋の空気を震わせるほどの莫大な魔力が溢れ出し、三人の足元に光り輝く巨大な魔法陣が展開された。

隠しきれない、真祖の吸血鬼が放つ終焉級のプレッシャー。



「「「ひっ……!?」」」


「え、待って!これ、転移魔法じゃない!超高位の戦略級・爆砕魔法陣だよ!!?」


魔法のプロである少女が、今日一番の悲鳴を上げてその場に腰を抜かした。


「ご安心くださいませ、お客様。防御魔法を施しておりますので、痛みは()()()()ございません」



「ほ、ほとんどってどういう――」

「――本日のご来城、誠にありがとうございました。お足元(上空数千メートル)に十分お気をつけてお帰りくださいませ」


「いや待てえぇぇぇぇぇっ!?」


私が極上の笑顔で深く頭を下げた直後。


ドゴォォォォォンッ!!!


鼓膜を破るような大轟音と共に、冒険者三人の体はロケットの如き猛スピードで天井のダストシュートを逆走。

遥か彼方の人間界へ向けて、物理的かつ魔力的にカッ飛ばされていった。


「……本件、責任者の麗野まおが担当致しました。またのご来城を、心よりお待ち申し上げます」




後に残されたのは、天井にポッカリと空いたさらに巨大な大穴と、静かにバインダーを片付ける私。

そして、部屋の隅でマイ湯呑みを落とし、完全に白目を剥いて気絶しているティティナだけだった。


「……さて。少しばかり、部屋の風通しが良くなってしまいましたね」


私はパラパラと落ちてくる瓦礫を魔法のホウキで掃き集めながら、静かに息を吐いた。

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