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本件、責任者の『麗野まお』が承ります。~転生先は魔王城。理不尽なクレーマー魔族は、元SVの私が「接客」で蹂躙致します~  作者: 彩月鳴


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Call.19「『騙し討ちにするのは卑怯だ』というクレームは、本製品の仕様上お受け致しかねます」

「……というわけで、最近すごく心が痛むんです。ボク、この仕事に向いてないんじゃないかって……」


魔王城の地下最下層、『お客様相談室』。

私のデスクの前にチョコンと座っているのは、木箱に真鍮の装飾が施された、立派な宝箱――の姿をしたモンスター、『ミミック』だった。


彼(?)の悩みを要約すると、こうだ。

ダンジョンで宝箱に擬態して獲物――冒険者を待つのがミミックの生態なのだが、いざ冒険者が蓋を開けて襲いかかろうとすると、驚いた相手から凄まじい罵声を浴びせられるらしい。



『うわっ、キモッ!』『最悪だ、ハズレじゃねぇか!』『クソミミック死ね!』


「……ボク、ただ自然の摂理に従って、ご飯を食べようとしているだけなのに。毎日毎日あんな汚い言葉をぶつけられると、さすがにメンタルが……」


蓋をパカパカと力なく開閉させながら落ち込むミミックに、私は深く頷いた。


「お辛いですよね。……心中お察し致します。理不尽な顧客からの暴言は、最前線で働く現場スタッフの心を確実に削ります」


「ミミックさん、かわいそうですぅ。ご飯を食べようとするだけで悪口を言われちゃうなんて……」


ティティナが涙目になりながら口に手を当てている。

向こうで(以前に私……もとい、冒険者が空けた)巨大な穴を結界で修繕しながら、ノアも頷いている。



「えぇ、その通りです。……承知致しました。本件、責任者の麗野まおが承ります。これから私が現場に同行し、彼らの『カスタマーハラスメント』の実態を調査致しましょう」


「ほ、本当ですか!?」


「もちろんでございます。当窓口は、魔王軍で働くすべてのスタッフの労働環境とメンタルを守る使命がございますから」


私がスッと立ち上がると、ティティナがニコニコと手を振った。


「裏の魔王様、現場視察ですね!いってらっしゃ〜い!気をつけてくださいねぇ」

「い、いってらっしゃいませ、裏の魔王さん……!ミミックさんも頑張って!」


ティティナの朗らかな声と、ノアの声援を背に受けながら。

私はミミックと共に、彼の住処である『ダンジョン』へと向かうのだった。






――数時間後。

魔王軍管轄の中級者向けダンジョン、第三階層。



私は通路の物陰に隠れ、息を潜めていた。

数メートル先の行き止まりには、先ほどのミミックが完璧な宝箱のフォルムで鎮座している。

金具のくすみ具合といい、絶妙な「お宝が入っていそうなオーラ」といい、素晴らしいプロの仕事(擬態)だ。




しばらくすると、足音と共に、いかにも血気盛んな三人組の冒険者パーティーがやってきた。


「おい見ろよ!行き止まりに宝箱があるぜ!」

「マジか!ここまでハズレ続きだったけど、やっとお宝にありつけるな!」

「アタシの扱える武器が入ってたりして!!?」



嬉々として駆け寄る冒険者たち。

彼らは何の疑いも持たずに宝箱の前にしゃがみ込み、ガチャリと留め金を外して、勢いよく蓋を開けた。


「よっしゃ、中身は――」


『ガァァァッ!!』


「うわあああああっ!?」


蓋が大きく開き、中からギザギザの牙と長い舌が飛び出した。

冒険者たちは尻餅をついて後ずさり、次いで顔を真っ赤にして剣を抜いた。


「ふざけんな!ミミックじゃねぇか!期待させやがって、このクソゴミ箱が!」

「マジでキモい!汚い舌出しやがって、さっさと燃やしてタダの炭にしてやる!」


口々に吐き出される、容赦のない罵詈雑言。

ミミックの蓋が、「ほら、いつもこうなんです……」と言わんばかりに、シュンと力なく下がった。




これはいけない。完全なカスハラである。

私はバインダーを片手に物陰からスッと歩み出た。


「――恐れ入ります、お客様方」


「な、なんだお前!?どこから……って、魔族か!」


武器を構える冒険者たちに対し、私は極上の営業スマイルと共に一礼した。



「魔王城お客様相談室の麗野まおと申します。……お客様、当ダンジョンのスタッフに対する、度を越えた暴言と侮辱行為はご遠慮いただけますでしょうか。彼の自尊心が傷つきますので」


「はぁ!?スタッフだか何だか知らねぇが、こいつがいきなり襲いかかってきたんだろうが!」


戦士風の男が、ミミックを剣で指差して怒鳴った。



「俺たちだって命がかかってるんだよ!心臓が止まるかと思ったぜ!宝箱のフリをして騙し討ちにするなんて、卑怯にも程があるだろうが!」


「そうよ!そんなにアタシたちを襲いたいなら、最初から宝箱の擬態なんかしないで、堂々と通路の真ん中に隠れてればいいじゃない!」


魔法使いの女性も、プンスカと怒りながら同調する。



「……なるほど。命がかかっているから、擬態をせずに隠れていろ、と」


私はバインダーを開き、彼らに向かって、子供にでも言い聞かせるような穏やかなトーンで語りかけた。


「お客様方。それは本製品の『根本的な仕様』に対する、重大な認識の欠如でございます」



((((……製品???))))(ミミックの心の声含む)



「……そもそもミミックという種族は、待ち伏せに特化した捕食者です。彼らにとって『宝箱のフォルム』は、獲物である皆様を惹きつけるための、いわば『最適なUI』なのです」


「ゆーあい……?」


「他の自然界に置き換えてみてください。お客様は、甘い匂いで虫をおびき寄せる『食虫植物』や、疑似餌で小魚を釣る『チョウチンアンコウ』に向かって、『卑怯だ!擬態なんかせずに正々堂々と隠れてろ!』とクレームを入れますか?」


「え……いや、それは……」


「入れませんよね?それが彼らの仕様……即ち『生態』だからです。もし彼がただの木箱や鍋に擬態して通路に隠れていたら、お客様はわざわざ近づいて蓋を開けますか?」



「……開けない、かな」


「左様でございます。誰も開けてくれないのでは、彼は餓死してしまいます。つまり、『宝箱に擬態する』という行為は、彼が生きるために設計された絶対不可欠な仕様なのです。それを否定するのは、鳥に向かって『空を飛ぶな』と言うのと同じ理不尽な要求でございます」



冒険者たちは顔を見合わせ、言葉に詰まった。

私はそこへ、さらにトドメの論理を重ねる。


「第一。お客様は先ほど『騙された』と仰いましたが……宝箱を開ける前、『罠探知』や『鑑定』の魔法を使用されましたか?あるいは、長い棒で叩いて安全確認をしましたか?」


「あっ……」

「いや、その……ハズレ続きで焦ってて、ついそのまま……」


図星を突かれ、気まずそうに目を逸らす冒険者たち。



「……ダンジョンという危険地帯において、未確認のオブジェクトに対してセキュリティ対策を怠り、ただ『お宝が欲しい』というご自身の欲求だけで不用意に蓋を開けた。……それは、利用規約を読まずに怪しい契約書にサインをした、お客様ご自身の『完全な自己責任』でございます」


私はピシャリと言い放ち、ミミックの蓋を優しく撫でた。


「当製品は、仕様通りに完璧に稼働致しました」



((((また製品って言った))))



「ご自身の確認不足を棚に上げ、己の欲望に従って生きているだけの善良なミミックに対し、『ゴミ』や『キモい』といった人格(モンスター格)を否定する暴言を吐くのは、お門違いというものです」


「うっ……」



「……確かに、お客様方も命がけでしょう。しかし、それは彼も同じです。見知らぬ人間に突然家ダンジョンに押し入られ、刃物を向けられているのですから。……ハズレを引いたからといって、過剰な八つ当たりをするのは、冒険者としてのマナー違反ではないでしょうか?」


私の理路整然とした、そして身も蓋もない説教を受け、冒険者たちの顔からは、すっかり怒りの色が消え失せていた。

彼らは気まずそうに剣を鞘に収め、ポリポリと頬を掻いた。



「いや……なんか、その……言われてみれば、確かに俺たちの不注意だったわ」

「宝箱の中身がいつも金銀財宝とは限らないしね……。ごめんね、八つ当たりして」



「「「……なんか、ごめん。ミミック」」」


「パカッ!」


冒険者たちの素直な謝罪に、ミミックは嬉しそうに(?)蓋を鳴らして応えた。

その後、冒険者たちは「次はちゃんと罠探知使うわ……」と反省しながら、大人しくダンジョンの奥へと去っていった。






「裏の魔王様、ありがとうございました!ボク、なんだかすごく自信が持てました!」


「とんでもございません。お役に立てたのであれば、何よりでございます。……貴方の擬態はとても美しい、誇るべき立派な『仕様』ですよ。これからも自信を持って、欲深い冒険者たちに最高のサプライズを提供してあげてくださいね」


「はいっ!」


元気を取り戻し、再び完璧な宝箱のフォルムへと戻るミミックを見届けながら。

私は「さて、帰って温かいコーヒーでもいただきましょうか」と、心温まる達成感と共に、相談室への帰路につくのだった。

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