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エピローグ
若き領主は、草刈りの手を止めて、額の汗を拭う。一面に広がる緑の平野が、彼の目の前に広がっていた。
かつて『闇の森』と呼ばれていたこの場所も、だいぶ開拓が進んだが、今はまだ、領主自ら農民に混じって草刈りを手伝わねばならぬ始末だ。だが、新興の領地であり、まだ領民も少ないので、今は仕方がない。それに、身体を動かすのも、農民に交わるのも嫌いではなかった。
少年が一人、領主のもとに駆けてきて、その腰に抱きついた。その衝撃で、領主の栗色の巻毛が揺れる。
「ハルマ様」
「ジェド。義姉上とアニス殿は、また二人で出かけられたのか?」
「うん。僕には、ハルマ様のところへ行っていなさいって」
ハルマは苦笑して、ジェドの髪を撫でてやる。母親に似た美貌と、艷やかな黒髪を持つ少年は、嬉しそうに満面の笑顔を作った。
ハルマは義姉たちがいるだろう場所、遠く、緑の平野の奥深くに見える木立を見る。それはかつての森のわずかな燃え残りだった。そこには墓標がある。
もう、誰も名を知らぬ者達のための墓標だった。