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後編

…お腹が痛い。



そう思った私は薄く目を開いた。


あれ、何かデジャヴ。こんなこと、前にもあったような…。



…ハッ!そうだ私また攫われたんだ。人生で2回も攫われるとかどんな星のもとに生まれたの私。



周りを見渡すと、廃材や古ぼけた木箱があった。私がいるのは前いた場所とは違うがどうやらまた倉庫のようだ。埃っぽいのは変わらない。


前回と違って扉は鉄で固く閉ざされており、光が漏れているということもない。




「そうだ、ジン…。」




ジンは今頃どうしているだろうか、私がいなくなって探しているだろうか。

いやでもたった1日一緒にいただけで探すかな…。



私とジンの関係は(もろ)い。いまだハッキリとしていない。命の恩人と元人質?いや、今は現人質か。

少なくとも自らの危険を冒してまで助けに来るような関係ではないだろう。

前回はたまたまだ。二度目は、きっとない。


そう思うと、胸がズキリと痛んだ。



…とにかくここから出なければ、自分でなんとかしなくちゃ。

私は自分を奮い立たせた。



私はむくりと起き上がる。

お腹はまだ鈍く痛むがなんとか動けそうだ。手は後手に縛られているが、幸い足は縛られていなかった。




天井を見上げると通気口があった。だいぶ高い天井だがあそこから脱出できそうだ。



ともかく手の縄を解かなければならない。私は何か尖っているものを探した。




「あった!」




折れた木の廃材がちょうどいい感じに尖っていた。


私はそれをナイフのようにして縄を切ろうと、廃材に縄を押しつけるようにして手を動かす。



か、固い。どんだけキツく結んでるのよ!


私はひたすら手を動かした。





ところが手がだいぶ疲れてきた頃、縄がちぎれるまであと少しという所で扉がガチャリと開いた。



あとちょっとだったのに…!




「ヨォ、ウサギちゃん。起きたみたいだナァ?」



「・・・。」




入ってきたのはロイド兄弟の片割れだった。この変な喋り方からして、おそらく兄だろうか。




「おいおい返事なしかヨォ。あの捕まった時の威勢の良さはどこに行っちまったんダァ?」



「…っ!」



耳掴まれ、顔を上げさせられる。

ジンといいこいつといい何でみんなそこ掴むの!?


私はキッとロイド兄弟(兄)を睨みつけた。



「やっぱり絶望した目よりも、反抗的な目の方がいいナァ、その目、最近の商品の中では随一だゼェ?」




私を見る気持ち悪い眼差し。その瞳には私に対する(あざけ)りと、いい商品を見つけたという愉悦があった。


…こいつの性根は腐ってる。




「…触らないで。」




「触らないでダァ?ずいぶん生意気なこと言う商品だナァ、今すぐその反抗的な目を絶望に染めてやろうか!?」




そう言って男は手を振りかざす。



殴られるっ!

私は咄嗟に目を瞑った。








––––ドガァァァァン!!!




殴られる痛みよりも先に私に伝わったのは、けたたましい破壊音だった。

音がした方を見ると固く閉ざされていたはずだった鉄の扉が吹き飛んでいた。





「サーシャ!!無事か!?」




そう言って扉を蹴破って倉庫に入ってきたのはジンだった。


助けに来てくれた…。


私はジンの顔を見た瞬間安心したのか一気に身体の力が抜けた。


一方ジンは、耳を掴まれ、今にも殴られそうな私の状況を見て鬼の形相になる。



ヒィィィィィィ!!あれは絶対1人は殺ってる顔だよ!




「汚ねぇ手で俺の嫁(予定)に触ってんじゃねぇぇぇぇ!!」




––––ドガッ!!!




そう叫んだジンはロイド兄弟(兄)を殴り飛ばした。

殴り飛ばされ、壁に激突した奴はピクリとも動かない。




「サーシャ!!この馬鹿!!気をつけろって言っただろ!」




「ジン…!」



ジンが駆け寄ってきて悪態をつきながら私を強く抱きしめる。


さっき嫁とかちょっと意味がわからない単語が聞こえたけど、今はそれは置いとこう。



というかジンさん、強くしめすぎてちょっと苦しいです。




「サーシャ、痛む所は?」



ようやく解放され、手の縄を解かれながら、ジンにそう聞かれる。




「お腹殴られただけ、大丈夫。」




「腹殴られたぁ!?アイツ、ぶっ殺す!!」




「落ち着いて、ジン!私はジンが来てくれたからもう平気。」




私は自由になった両手でジンの手をギュッと握りしめる。




「ジンに2回も助けられちゃったね、ありがとう。」




ジンも私の手をギュッと握り返す。

そして再び抱きしめられた。



「馬鹿やろう、心配かけさせやがって…。」



「うん、ごめんね。」



私はジンの肩に顔をうずめる。

私の胸にじんわりと暖かい何かが広がるのがわかった。



あぁ。私、この人のことが……、








しばらく抱き合っていると、外からサイレンの音が聞こえてきた。

警察だろう、今度はヘボくないといいけど。




「帰るぞ、乗れ。」




ジンがしゃがんで私に背中を向けた。おぶされということだろうか。



私は素直にそれに従って、ジンの背中に身を預けた。

ジンの背中で揺られていると、安心したのか疲れがどっと襲ってきて眠たくなってきた。




「ジン、私、ちょっと疲れたから寝るね…。」



「……おー、寝てろ。」




そうして、私は暖かなジンの背中でそっと眠りについた。





これは後から聞いた話だが、あの後ロイド兄弟は捕まり、一度入るともう二度と出れないとうセキュリティ対策万全の刑務所へと送られたそうだ。








次の日の朝、私たちはテーブルで向かい合って朝ごはんを食べていた。




私たちはあの後病院へ行き、私の殴られたお腹も治療済みだ。

もっとも、アザになっただけで内臓に影響は無かったそうだ。不幸中の幸いである。




「そういえば、ジン。」



「あ?なんだサーシャ。」



「どうして私の場所がわかったの?」



「あー、お前が出て行った後、すぐに後を追いかけて行ったらお前がいない代わりにその帽子が道に落ちてたんだよ。」



ジンがソファの上にある帽子を指差す。

それは私が目立たないようにジンが被せてくれた帽子だった。


どうやら捕まった時に脱げてしまったようだ。



「そっからパン屋にロイド兄弟が脱走したって聞いて、1番近い廃倉庫へ向かったんだよ。初めにお前を助けた時に目ぼしいところは全部知ってたからな、すぐに見当がついた。」



「そっかぁ…。私、運が良かったんだね。」




「そうだ。運が悪けりゃ今頃売り飛ばされてたぞ、もう二度と無茶すんな。」



「うん、ごめんねジン。それと、助けてくれてありがとう。」



「……おー。」



私の言葉に短い返事をしたジンが食後のコーヒーを飲む。



そして私は、もう1つ気になっていたことを聞いた。




「あと、私っていつからジンのお嫁さんになったの?」




「ブッ!!!」




「うわ!汚い!!」




「ゲッホゲッホ…な、なんでそうなんだよ!」




ジンが飲んでいたコーヒーを吹いた。

どうやら気管に入ったようだ。




「なんでって…私を助けてくれた時に言ってたじゃない、俺の嫁に触るなーって。」




「あれはだな………まあ、いずれはそうする予定だったっつーか…。」




「え?なんて言ったの?声が小さくて聞こえないよ。」




「だああぁぁぁ!!!めんどくせぇ!!!おい、サーシャ!!」




「は、はい!」




頭を掻き毟り、大きな声で私の名を呼ぶジン。

いきなり名前を呼ばれ、驚いて私も大きな声で返事をしてしまった。



真剣な表情でジンは私を見つめる。





「俺の嫁に来い!お前に惚れた!」




「うん、いいよ。」




「・・・。」




「でも、ロップ村には一回帰してね、みんなに無事を知らせたいし、ジンのことも紹介したいし…。」




「・・・。」




「ジン?」




「あっさりし過ぎだろ!もう少し恥ずかしがるとかねぇのかよ!」




「えええ!!そんなこと言ったってOKするしかないでしょう。私もジンのこと好きだし、ジンのお嫁さんにならなりたいなって。」




「あ?!今なんて言った!?」




「『えええ!!そんなこと言われ…』」




「そこじゃねぇよ!その後だよ!」




「え、もう一回言うの?恥ずかしいんだけど…。」




「なんで今照れ始めんだよ!」




そう言われても恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。


それに2回も危ない所を助けられて、しかも優しいなんて、誰でも好きになっちゃうと思う。口はチンピラ並みに悪いけど。




「いずれはお嫁さんになるけど、とりあえずは恋人ね。」




「………そーかよ。」




「あれ?ジンもしかして照れてるの?」




「照れてねぇ!俺のガラじゃねぇんだよ!……チッ、ったく、1カ月でじわじわ行く予定だったのに、なんでこんな展開早えんだよ…。」




「え?最後の方なんて言ったの?よく聞こえないよ。」




「うるっせぇ!お前はもっと照れろ!」




「理不尽!!」




こうして、私とジンの関係は命の恩人と元人質から恋人になったのだった。



じわじわと攻めるつもりが、墓穴掘って逆にサーシャに振り回されるジンなのでした。


ちなみにジンさんはサーシャに一目惚れです。ジャストミートです。


お読みいただき、ありがとうございました!

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