14章 残虐
一度行った道を反対方向に向かう4人。
薙ぎ倒した採掘機械たちの残骸を足元に、静かな水の雫が垂れる音が澄み渡る。
段々と開けていき、元のB町へと戻ったのであった。
・・・しかし、目に映ったのは広々した赤。
・・・家々は、噴水は、綺麗な道路は・・・全て・・・
―――消え去った。
「あ・・・あああ・・・」
「・・・ど、どうして・・・!」
B町もまた・・・A町やC町と同じ運命を辿ったのであった・・・。
・・・炎は家々を薪として更に燃え盛っていく。
それは・・・地獄。ジュノアの眼から、不意に涙が線を描いていた。
足が、動かない。立ち竦んでいたのだ。
・・・哀れなる、その光景を見据えて。
・・・全ては残酷、残虐であった。
「・・・私たちは、何も守れないのか・・・」
菫子は、その光景を前に項垂れてしまった。
美しき町並みは、一瞬にして奪われた―――。
「・・・ここでモタモタしてる暇はありませんよ!もしかしたら、まだみんな助かってるかもしれません!」
「行こう、まだ残ってる奴らがいるかもしれない!」
◆◆◆
4人は燃える街道の上を急いで走った。
さとりとこいしに出会ったあの場所を目指して、一生懸命走ったのだ。
だがしかし・・・そこには―――さとりとこいしが泣き叫んでいただけであった。
他の人たちは・・・誰もいなかった。
「さとり・・・こいし・・・これはどういうことだ・・・!?」
「・・・見た通りよ・・・私たちの街は・・・完全に破壊された・・・!」
さとりはそんな菫子の両腕を掴んで・・・泣きながら必死に訴えた。
「私たちは・・・私たちはどうすればいいの!ねえ!」
「・・・」
「私たちが住んでいた町が・・・どうして治安保護兵に・・・どうして・・・!」
「奴らは町に爆弾を容赦なく落とす連中だ・・・」
菫子は燃える町の中、そう・・・ゆっくりと呟いた。
「残虐なる運命だな・・・。・・・でも、これも受け入れなければいけない。
もう、変えられないんだ、過去は・・・。・・・でも、未来は幾らでも変わる」
「・・・こいしもそう思う」
泣き止んだ彼女は菫子の意見に賛同を示した。
過去はタイムマシンでも無い限り変えられない。
・・・なら、未来を変える。この―――オデュッセウス・アーバンテクノロジーに支配された世界を。
「・・・こいしも、町の人たちが攫われたの、止められなかったけど・・・。
・・・でも、止めたいよ・・・こんな乱暴な事、するの・・・!」
「・・・全員攫われたのか。・・・それにしても、2人は良く助かったな」
「たまたま地下室にいたのよ・・・。・・・掃除をしていて、外に出たら・・・」
さとりはやっぱり泣き止めなかった。
今まで暮らしてきた町をボロボロにまでされたのであったから・・・現実を受け入れ難かった。
「・・・治安保護兵は・・・どういう神経をしてるの・・・!?」
スーさんは思わず口を開いて言ったのだ。
そして何よりも、その言葉が最も心に突き刺さったのは―――菫子であった。
「・・・治安保護兵は、私みたいな馬鹿で愚劣な人間が集まった組織だ。
・・・でも、中には心が透明のように純粋な奴もいる。・・・そいつらもまた、同じ治安保護兵だ」
「・・・菫子さんは、馬鹿なんかでも無いし、愚劣なんかでもないよ・・・」
こいしはゆっくりと、帽子で顔を隠しながら告げたのであった。
「・・・でも、このままの私たちは馬鹿で愚劣で終わってしまう・・・。
・・・戦おう、あの会社・・・オデュッセウス・アーバンテクノロジーと・・・!」
こいしは確かなる決意を口にした。
そしてそれは姉であるさとりも同調させる。
「そうね・・・。・・・ここで蹲っていても、泣き寝入りで終わってしまうわ・・・!
・・・抗おう・・・あの会社に・・・そして世界に・・・!」
「2人も来るのね」
「ええ、当たり前よ。・・・このままここで待ってられないわ」
「なら行こう・・・。・・・ここから電車があったよな」
「こいしが駅まで案内するよ」
そしてこいしは5人を案内する為に先導して足を進めた。
その後ろを5人もついていった。
―――炎は燃え盛っていた。そんな6人は炎を遮るように進んでいったのだ。
―――世界は残酷だ。
―――だが、世界の運命は人の手で変えられるものだ。