13章 片鱗
暴走した機械たちを倒し、菫子は炭坑のさらに奥へと足を進めた。
だんだん周りが自然の岩盤に回帰し、掘られていない場所まで到達したことが伺える。
「・・・この先にコントロール制御装置があるに違いない。問題は、誰が制御装置を『弄ったか』、だ」
「採掘用に作られた機械が突然一斉に暴走を始める訳がない・・・。・・・熾烈な戦いになりそうね」
メランコリーはこの先に待ち構えているであろう難関を予想していた。
この町に何かしらの恨みを持った者がやったとしか考えられないこの行為は、一種の意味で大惨害を引き起こそうとした。
「私、こんな酷いことしようとした人、許せない!」
「確かにそうかもな。そして、お前の「赦せないリスト」には間違いなく私が載ってることだろうな」
永遠の闇・・・彼女は暗雲に囚われていた。
終わりなき呪縛を受け続けることになろう菫子は、そんなジュノアに発言したのだ。
過去に起きた出来事は・・・見逃されるわけでは無い。
菫子は・・・悲しかった。あの頃の自分を殺してでも止めたかった。
だが、今死のうがもう遅い。彼女は「罪滅ぼし」という名の冒険をしなければならないのだ。
―――しかし、ジュノアはそんな菫子の思っていたこととは背反した事を呟いたのだ。
「・・・私は治安保護兵は許せない。でも菫子さんはもう治安保護兵じゃないよ。
・・・それに、私のパパママの為に一緒に旅をしてくれてるし・・・、ジュノアは菫子さんを許してるよ」
「・・・」
そんなジュノアの言葉に菫子は黙ってしまった。
本人は許しているかもしれない。だが許せないのは自分自身の心であった。
永遠に囚われ続けるであろう彼女は―――自分自身の過去を想う心に許されなかったのだ。
「・・・菫子、もういいんじゃないの?」
「・・・何がだ」
「菫子がずっと何か考えてるけど、大体は分かってるよ。・・・本人が許してくれたんだから。
後はジュノアの為に何かやってあげられることが大事なんじゃないかな」
「・・・」
メランコリーにも諭され、彼女は下を俯いた。
彼女の足音が段々と小さくなっていく。そこから分かることは彼女の境遇だろう。
今の立場からすれば昔の自分は敵であった―――だが、昔の彼女からすれば未来の自分は敵そのもの。
どちらが正義でどちらが悪なのかも甲乙付け難いのであった。
すると進む一行の視界に一つの大きな明かりが見えてきたのだ。
そこに菫子が足を踏み入れると、鉱山一帯を取り仕切るコントロール制御装置がでかでかと視界を埋め尽くした。
そして、そこの前には1人のスーツ姿が存在した。
◆◆◆
そしてそのスーツ服姿の主は後ろの4人に気づいたのか、振り向いたのだ。
・・・主は、曾ての菫子と同じ治安保護兵である、霧雨魔理沙であった。
「やあ・・・ようこそ諸君。よくここまで来れたものだ」
「私も随分舐められたものだな・・・」
菫子は持っていたオデュッセウスウェポンを構え、剣先を魔理沙に向ける。
魔理沙の右腕に付けられたロゴがジュノアに怒りを覚えさせる。
「オデュッセウス・アーバンテクノロジー・・・!」
「どうしてこんな酷いことをしようと思ったんですか!」
「どうして、って・・・お前らに教えなきゃいけないのか?」
魔理沙は懐から拳銃2丁を取り出し、両手で構えた。
「理由を聞いてるんだよ!こっちは!お前の所為で町の人たちが困ってるんだ!」
「知るかよ。お前らの街とかはっきり言ってどうでもいいね。・・・それよりも、お前らは私を止めに来たんだろう?」
「そう!私たちが・・・お前を止める!」
スーさんが高々と魔理沙に言い放った時、彼女は嘲笑うかのように馬鹿にした。
彼女たちの心情を貶すが如く・・・。
「好きにすればいいんだぜ。だが、それが『出来れば』の話だけどな!」
魔理沙は右手に構えた銃口に息を吹きかけていた。
そんな魔理沙の横暴さに―――ジュノアは怒りを抑えきれなかった。
「・・・どうしてみんなを困らせるの!?私たちは・・・何もしていないのに!」
「困らせる?そう言われてもな・・・こっちも仕事でやってるんだ、給料が無いと食っていけないんだぜ」
「他にも食べる方法は幾らでもあるけどな・・・!」
「でもオデュッセウス・アーバンテクノロジーって結構な大企業なんだぜ。
・・・そんなとこに入社して今、この地位を手に入れたんだ、易々と手放してたまるか!」
「・・・やっぱりお前は何処までも屑だな。・・・ならいい、話し合っても無駄だ。
・・・魔理沙、覚悟しろ」
そして4人は戦う構えを取った。
「まあ、やってみるがいいんだぜ。・・・全力で相手してやる!さあ来い!
―――お前らの墓を4つ、ここに作ってやる!」
◆◆◆
魔理沙は早速2丁構えた拳銃で4人に向けて火を噴かせたのだ。
横殴りの雨のような銃弾が彼女たちに襲い掛かるが、率先して菫子が3人の前に立った。
「『銃は剣よりも強い』・・・という言葉が聞いた事があるが、残念だがそれは間違いだ」
菫子はオデュッセウスウェポンの大きな刀身を生かして彼女の銃弾を弾いていったのだ。
そして弾きながら魔理沙に接近していく。
「フン、下らないことを・・・」
魔理沙は発砲を止め、襲来してきた菫子の重たい一撃を右手の拳銃で受け止めたのだ。
本来なら壊れるであろう拳銃を盾代わりにした魔理沙は少し辛そうであった。
それは負担がかかる面積が狭いことであろう。
「随分と固い拳銃を持ってるんだな」
「悪いね、治安保護兵には特別な拳銃が支給されるものだぜ」
「隙あり!」
ジュノアはそんな魔理沙に向けて電磁銃の引き金を引いたのだ。
放たれた電流が暴れ狂いながら魔理沙の方へ走っていく。
「菫子!お前が受けるんだぜ!」
魔理沙は自分に放たれた電流を近くにいる菫子に身代わりさせようと画策したのだ。
すぐに開いていた左手の拳銃で菫子に向けて発砲する。
「あっ・・・」
菫子は左肩を貫かれ、力が抜けたのだ。
その瞬間に魔理沙は右足で菫子の腹部に蹴りを入れ、盾になるようにしたのだ。
案の定、菫子は魔理沙が喰らうはずであった放電現象を受け、断末魔の声をあげる。
「ぎゃああああああああああああああああ!!!」
「いい叫び声だよ、菫子・・・!」
「す、菫子さん!」
ジュノアの叫びも続いて放たれたが、その間にメランコリーは魔理沙の背後をとっていた。
忍者のような動きを取って―――短剣2つを構えて魔理沙を襲撃する。
「そこだぜ」
「なっ・・・!?」
魔理沙はすぐさまメランコリーの動きに気づいて、彼女の右手を後ろで掴んだのだ。
しかしメランコリーにはまだ考えがあった。
「スーさん!」
「分かったよメランコリー!」
スーさんはメランコリーを掴んでいた動けない魔理沙に向けて黒い塊を投げたのだ。
大きな弧を描いてそれは魔理沙の足元に落ちる。
「な、何だぜ!?」
「ちょ・・・!」
メランコリーは必死に魔理沙を解いて脱出し、その場から離れる。
そして傷つきながらも立ちあがった菫子の元へ避難する。
スーさんが投げた手榴弾はそのまま魔理沙の足元で―――爆発した。
「うわああああああああああああ!!!」
魔理沙の大きな声がその場で響き渡った。
そして彼女は・・・そのまま倒れたのだ。
◆◆◆
「菫子さん!大丈夫ですか!」
「私は平気だ・・・こんなのでくたばっていたら元・治安保護兵の名が廃れるしな」
菫子は感電しながらも立ち上がり、そして魔理沙にとどめをさした2人に礼を述べた。
「有難うな・・・私が倒れている間に魔理沙をやっつけてくれて・・・」
「気にしたら負けよ。私たちだって仲間じゃない」
「そうだよ。それに無事に魔理沙を倒したからね」
メランコリーとスーさんはそんな菫子の言葉を否定したのだ。
それは彼女にとって嬉しかったものであった。「仲間」だと思ってくれたこと―――それが何よりも―――
―――彼女の心を癒したのであった。
「・・・ククク・・・まさかお前らに敗れるとは・・・想定外だったぜ・・・」
魔理沙は手榴弾を受けてスーツ服の所々が燃えて無くなり、顔には大きな火傷を負っていた。
だが帽子は大事な物なのか、右手を犠牲にしてまで抑えていたのであった。お陰で右腕は火傷の脈が出来上がっていた。
「・・・まあいい、ここでは一旦撤退だぜ、あばよ菫子!」
そして彼女はすぐに身を消したのであった。
「ま、待て!」
ジュノアは逃げる魔理沙を追いかけようとしたが、菫子がそんな彼女を抑えた。
「ど、どうして行かせてくれないの菫子さん!」
「今はいいだろう、これ以上深追いしても奴はどうせ逃げる。間に合わない」
そして菫子は魔理沙が弄っていたコントロール制御装置を見据えた。
魔理沙が弄った影響で幾つかの液晶画面には「Error」と表示されている。
「・・・まずは帰ろう。この事をさとりとこいしに報告しよう」
そして彼女たちは再び、真っ暗な世界に足を踏み入れたのだ。




