表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もう重圧に苦しむ必要はございませんよ  作者: 紡里


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/7

終わりの始まり

 夫が愛人を作った。事後報告だ。

 ――安らぎが必要だと。国王という重責を担い、日々疲れていると。


 それならば、わたくしは?

 生まれついての王族ではない。あなたの妻に選ばれたから、王族の一員になった。

 自由を制限され、高位貴族のマナーでは足りないと叱責された。相手があなたでなければ、必要ない苦労だ。


 王妃は重責を担っていないと? 日々疲れることはないと?

 あなたは立派に国王を務めている。

 けれど、見落としはある。独善的に進めて作った敵を宥める苦労は……あなたが気付かないところで支えているのはわたくしよ。

 あなたの矜持を傷つけないように、黙っていたのがいけなかったと言うの? 恩着せがましい、品がない――そう考えて、ひたすらあなたを立ててきたのに。


 わたくしの中で、何かにひびが入った。



 夫が執務室の近くに、愛人の部屋を作ったらしい。

 そんな部屋は、ない。そのために、誰かの部屋を取り上げたはずだ。


 被害者は、宰相の補佐官たちだった。宰相の部屋に移ればいいだろうと、部屋を明け渡すよう命令したのだ。なんと愚かな。ひどすぎる。

 全ての情報が集まり、数多の人々が相談に訪れる宰相府。ある程度解放的にして情報収集をする補佐官と、秘匿性の高い宰相の業務を同じ部屋で行うなど正気とは思えない。


 ――もう、駄目だ。夫としても国王としても、この男は駄目だ。

 王妃には、哀しみに浸っている時間などなかった。執務机の上で拳を握りしめ、覚悟を決める。女官長は、全力でわたくしを支えてくれるという。


 よろしい。ならば、この瞬間から、あの男を敵と仮定して行動する。

「愛人を政務棟に引き入れたときから、すでに敵です」

 女官長は不敵な笑みを浮かべた。

「あら、あなたの方がわたくしより決断が早いなんて。王妃として、負けていられないわね」

 そんな軽口を叩きながら、目が潤むのを止められなかった。

 踏みにじられて悔しい。受け手がいなくなった愛情が虚しい。夫婦の情を育むための努力が――なんて滑稽なの。

 そして、裏切られるなんてと慟哭している少女時代のわたくし……。


 きつく目を瞑り、一呼吸してから目を見開く。

 心に刻め。感傷に浸っている暇はない。



 宰相に声をかけて、補佐官たちをわたくしの女官たちの部屋に呼び寄せた。手狭にはなるが、居場所がないよりはマシだろう。

 補佐官たちは宰相の執務室と半々に分かれて、仕事机を確保した。棲み分けは、外交官が来る可能性のある仕事は二階へ、国内向けの仕事は三階へ。

 宰相の執務机を中央の窓際から横に移動して、補佐官たちの机との間に大きな衝立を立てた。

 国宝の、中興の祖の功績を描いた作品だ。愚王を退け、国土を回復した征服王。

 宰相が苦笑いをした。

「あまりに露骨な当てこすりではないですか?」

「あの人が文句を言ってきたら、わたくしが選んだと答えていいわ。この意味さえ理解できなかったら、末期ね」


 各国選りすぐりの外交官なら、この意味に気付くだろう。

 愚王と息子は違う、息子には国を正す気概があるぞと。


 後日、夫は「勇猛な中興の祖の話には励まされるな」と呑気に言い、愛人は「もっと優美な衝立の方が良いと思う」と的外れなことを言ったそうだ。


 敵が愚かすぎる。楽に勝てるという喜びよりも、こんな人たちに容易に踏みにじられる己が惨めだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ