第15話: 狂おしき予言の星
──全門、斉射!
放たれた砲弾が、あの大海戦の英雄ネルソンの背中を、物理的な破壊をもって粉砕した。
硝煙が立ち込める甲板で、私は喉の奥からせり上がる熱い塊を抑えられずにいた。
この勝利は、戦術ではない。ましてや練度の差でもない。
私の隣で、飛沫に濡れながら海を見据えるこの小さな少女──渚が綴った、たった数行の「予言」がもたらした、一方的な虐殺だ。
「……信じられないわ」
独り言が漏れる。
当初、彼女から「予言書」という名のアウトラインを受け取った時、私の心には冷ややかな疑念が澱のように溜まっていた。
荒れ狂うミストラルの中心を突き抜け、あろうことかイギリス艦隊の背後に回るなど、正気の沙汰ではない。
けれど、どうだ。
嵐の地獄を抜けた先、霧のカーテンが割れた向こう側に、無防備な『ヴィクトリー』の艦尾が晒されていた。
彼女の予言通りに舵を切り、彼女の言った一秒に引き鉄を引く。それだけで、無敵を誇った大英帝国の封鎖網が、まるで紙細工のように引き裂かれたのだ。
未来を視る。運命を知っている。
それは、なんと甘美で、なんと悍ましい毒なのだろう。
私は、震える手で自身の軍服の胸元を掴んだ。
心臓が、耳元で鐘のように鳴り響いている。
ナギ……。
あなたは、神の筆を奪い取って、この世界の台本を書き換えてしまったのね。
恐怖?
ああ、アドリアンたちの顔を見ればいい。彼らは彼女を、救世主を通り越して「化け物」を見る目で見ている。無理もないわ。人間にとって、理解不能な奇跡は恐怖でしかないもの。
けれど、私は違う。
私の内側で暴れ回るこの熱は、畏怖などという言葉では到底足りない。
ゾクゾクする。
背筋を駆け上がる戦慄が、やがて下腹部へとなだれ込み、どろりとした官能的な興奮へと変質していく。
姉様、見ていらっしゃる? 貴女が焦がれた「自由な海」は、この娘の指先一つで簡単に形を変えていく。
その光景に、私はどうしようもなく──疼いてしまう。
乱れた呼吸を整えようとするが、溢れ出す生命の昂ぶりを隠しきれずに軍服をきつく締め付ける。
男としての本能か、あるいは姉の魂が歓喜に震えているのか。
「……あぁ、いいわ。最高よ、ナギ」
私は、勝利に沸く兵士たちの怒号を遠くに聞きながら、陶酔の溜息を吐いた。
もはや疑いなど欠片も残っていない。
この娘は、私の、フランスの、そしてこの時代の唯一絶対の「星」。
彼女が地獄へ向かえと言うのなら、私は微笑んでその深淵へ飛び込みましょう。
だって、その先には必ず、誰も見たことのない「勝利」という名の絶頂が待っているのだから。
「さあ……行きましょうか。運命が悲鳴を上げる、その先へ」
私は濡れた髪をかき上げ、狂気にも似た崇拝の眼差しを、愛しい予言者の背中に突き刺した。




