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ダイミョウギョウレツ

 俺の買い物はまだまだ終わらない。

 穀物屋を出た俺は、穀物屋の店主に教えて貰った同じ通りにある鮮魚店に向かう事にした。アイテムボックス内にある魚介類の在庫はグランドフィッシュだけだ。マグロは好きだが、流石にマグロだけでは飽きてしまう。鮮魚店に向かう短い道中を移動する光景は、さながら大名行列のようだった。

 富豪買いする俺の後ろを見物する人や、自分の店に買い物に来るよう客引きする人で俺の後ろには大行列が出来ていた。


「若旦那!是非うちの店に寄ってください!良い魔物肉が入ってますよ!」とか「大将!うちの野菜は深淵の森にある野菜より旨いですよ!」とか「シャッチョサン、ウチノヤキチョリトカラアケオイシイヨ!」とか、引っ切り無しに声を掛けられている。正直ウザいが、あれだけの富豪買いをしている人間を見つけたら、街の商人は色気も出すだろう。


 そして大名行列を引き連れたまま、鮮魚店に到着した。

 鮮魚店の品揃えは正直ガッカリだった。鮮魚は川魚しかなく、しかも鮮度が悪い。海の魚は干物が少し並んでいるが、保存状態が悪く傷んだ臭いを放っていた。しかも高い。例えば鯵みたいな魚。日本の干物のように内臓を抜いて開いて干してあるのではなく、内臓を抜いてそのまま干してあるだけだ。さすがにこれは欲しくならない。

 ニコニコして富豪買いを期待している店主には悪いが、何も言わずに次なる目的地《生活雑貨》を取り扱う店に向かった。


 俺の後ろからは「若旦那!お安くしますのでうちの魚を買って下さい!」とか「あの魚屋は不味いくせに高いからな~見る人が見たら買わないよな~」とか「この旦那に着いて行けば良い物を置いてる店がわかるよな」とか聞こえて来る。そんな事ないです。欲しい物が無かっただけです。しかし島国日本で育った自分としては、魚に対して妥協はしたくない!だから余計買う気にならなかっただけだ。


 雑貨屋を探し歩いている道中、身なりの良い中年男性が話しかけてきた。

「私は魔国を中心に商いをしております、ディアボロ商会のマモンと申します。どちらの若様かは存じ上げませんが、我が商会も品揃えには自信がございます。特に生活雑貨や香辛料に力を入れておりますので、よろしければお立ち寄りいただけませんでしょうか」

 マモンと名乗る男性は商会で力を入れて販売している物を説明したあと、深々と頭を下げてきた。これは不味い展開だ。魔国の国名が付いた商会の恐らく商会長かそれに準ずる立場の人に、街中のこれだけのの人の前で頭を下げられた。特に関係性は無いが、ここで断ると後々面倒な事になりそうな気がする。


「俺はハカイと申します。若様なんて大そうなご身分ではないですが、これも何かの縁。お邪魔させていただきます」

 マモンにそう答えると、マモンは嬉しそうに店へと案内をしてくれた。その後ろを着いて来ている行列の方々は、「マモンの旦那が出て来たよ」とか「マモンの旦那がわざわざ出て来たって事は、どこかの大商会の人じゃないか?」とか「シャッチョサ~ン、ドウハンデヤケニクツレテッテ~」とか言っていた。このマモンって人間はいったいどんな人なんだろう?不安と面倒な気持ちになりながらマモンに着いて行った。


 ディアボロ商会に着いた俺は、店舗を見て驚いた。先ほどまで買い物をしていた店と違い、石造りの立派な2階建ての大きな建物が店舗になっているらしい。しかも店の出入口には武装をした警備要員が立っており、物々しさを感じる。それを察してかマモンは「うちの商会で取り扱っている香辛料や雑貨は高級な物が多いので、万が一を考えて警備を配置しております」と警備の説明をしてきた。


 そして店内へと入る。面倒が起きそうな予感がするので、この商会では買物だけして出て行こうと思っている。だからすぐに品定めに入った。

 まず生活雑貨。皿やコップの食器類や、鍋やフライパン、包丁などの調理器具を中心に選んだ物をマモンに伝えると、その商品を従業員が会計場に運んで行った。

 そして香辛料のコーナー。力を入れていると言ったのは本当のようで、多種多様な香辛料が取り揃えてあった。これだけあればカレーが作れるんじゃ?と思い、香辛料は富豪買いさせて貰う事にした。

 会計場に行き、支払いと商品の済ませると、収納袋に買った商品を収納していく。


「マモンさん、良い買い物が出来ました。ご案内いただいて助かりました。ありがとうございました。それでは失礼します」

 あまり長居をしたくなかったので、お礼を伝え店を出ようとするとマモンに呼び止められた。


「ハカイ様、少しお時間をいただいてもよろしいですか。色々とお話させていただきたい事がございます」

 ほら来た・・・。何か面倒な事が起きそうだ。 


 店の奥にある応接スペースに案内され、俺にはお茶と茶菓子、ウメには広めの器に入れた牛乳と猪の骨を出された。もちろん鑑定済みです。


「単刀直入にお伝えしますが、少々目立ちすぎたかと思います。あれだけ派手に買い物をされていれば、心の悪い者がハカイ様に良からぬ思いを抱いてもおかしくないかと。その証拠に、当商会に入られて時間が経っておりますが、明らかに野次馬ではない風体の者が当商会を取り囲んでおります」

 マモンはそう言うと窓の外を指さした。窓から外の様子を伺うと確かに悪そうな雰囲気を纏った者達が店の様子を伺っていた。


「これも何かの縁、この街で安全に過ごしていただけるよう、当商会がお力にならせていただきたく存じます。具体的には魔人族に強者と認められれば襲って来る者は居なくなります。ですので、当商会の護衛をしている元Sランク冒険者のゲンシュウと決闘していただきたく存じます。勝敗に関わらず、ゲンシュウと良い闘いを繰り広げれば強者として認められます。いかがでしょう?」

 とんでもない内容の提案を受けた。正直、有象無象がかかって来ても負ける気はしない。

 が、ひと手間でこの街での安全が手に入るのであれば悪くない。ゲンシュウさんがいくら強くても所詮はこの世界基準で強い人間だ。俺に勝てる訳ないと思うが《いい勝負》を演じればこの街の住民も納得するだろう。


「お気遣いありがとうございます。そのご提案、ありがたくお引き受けしたいと思います」

 俺はマモンの提案に乗る事にした。例え裏があってもマモンの描いた盤面を引っ繰り返す事の出来るだけの実力はある。


「それでは当商会の正面で《ハカイ様の腕試し》という名目で決闘を行いたく存じます。ご準備が出来次第、商会の正面に移動していただき始めさせていただきます」

 ディアボロ商会の護衛ゲンシュウとの決闘が決まった。



~商会正面~

 特に用意する事もなかった俺は、話のあとすぐに商会の正面に移動した。俺が移動する前に商会の従業員が『決闘するよ~、爆買いの人がゲンシュウに腕試しで決闘を挑んだよ~』とふれ回っていたらしく、多数の野次馬が集まっていた。娯楽の少ない世界では決闘の観戦も立派な娯楽のようで、ディアボロ商会の従業員は酒やつまみを販売したり、賭けの元締めをしたりと忙しそうだ。いや、ほんと商魂逞しい限りです。

 因みにオッズは【ハカイ4:1.5ゲンシュウ】と、ハカイシン圧倒的不利の予想だ。悔しいから圧倒的な勝利を見せてやる事にした。大人気ないけど圧倒的な勝利でこのブックを引っ繰り返してやる。


 マモンに連れられてゲンシュウが出て来た。いかにも武人って感じのオーラを放っており、見世物的な決闘をさせられるのが不満のようで、初対面にも関わらず親の仇を見るかのような視線を送って来ている。

 そしてゲンシュウの腰にはなんと刀が差してある。この世界に刀がある事に驚きを感じるが、俺の敵ではないはず。俺には相棒の破壊剣デストロイヤーがある。


 圧倒的勝利を見せる為、俺はゲンシュウと向かい合った。

「ハカイです。ゲンシュウさん胸をお借りします」

 俺はゲンシュウに一言だけ言った。

「ゲンシュウだ。この決闘、面白くはないがマモン殿の命だ、引き受けよう。命までは取らんが五体満足で帰れると思うな」

 ゲンシュウは殺気を込めながら、自分の勝利を確信したような言葉を返してきた。ゲンシュウの言葉を受け、周囲の野次馬達が沸き立つ。


『ゲンシュウいけー!』『ゲンシュウ信じてるぞ!』など、ゲンシュウへの声援が止まない。

『シャッチョサン、ワタシノセイカツノタメニハデニマケテヨ~』『ゲンシュウに賭けてるから俺の為に負けろ!』など、俺への声援もちらほら聞こえて来る。そして切なくなって来た。


 が、勝負は勝負。互いに武器を構えて開始の合図を待つ。

 

「それではハカイシンとゲンシュウの決闘を執り行う!いざ尋常に、始め!!」 


 いつの間にかウメを抱きかかえたマモンの開始の合図で決闘が始まった。


 

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