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少しばかり飯の味が落ちるような話だ

「なるほど、ご立派なお考えだ。さすがは高名な鏡追いですね」

「そいつはどうも」


 声の主は、離れた場所にひとり座っていた男。さっきから向けて来るとある(・・・)感情といい、あまりにもわかりやすい態度は、苛立ちよりも呆れの方が先に来るようなものだった。


 珍しいな。


 むしろ気になったのは、その男が腰に剣をぶら下げていたこと。


 大半の鏡追いが得物とするのは鉄杖であり、俺も例外ではない。その理由としてはいろいろとあるのだが、手短に言ってしまうなら、なにかと都合がいいからだ。


 もちろん、刃物が必要となる局面もあるが、そちらは小ぶりの物――ナイフあたりを使う、というのが主流。


 そんなわけだから、剣を使うのは、見栄えを気にする連中。領主関連の輩が圧倒的に多い。まれに、剣士と呼ばれる連中が混じっていることもあるが。


 コイツの剣、相当に高く売れそうなシロモノだな。


 よくよく見れば、柄には(こまや)かな装飾が施され、大ぶりの宝石まで埋め込んであった。


 ここまでの物を持っているとなれば、ただの兵士ではない。兵長格……でもないな。領主か、その血縁といったところか?


 少なくとも、雰囲気や身のこなしからして剣士ではないようだが。


「おい、ヤーゲ」


 が、そんなことを考えるのは俺だけだったらしい。ハルクの声には隠すつもりの無い不快感が乗せられており、ミッシュやコ-ナス、ダイトたちにしても、非難めいた目を向けていた。


 たしかに、この男の態度は(はた)で見ていて気分のいいものでもないか。


「おや、どうかしましたか?なにやら腹を立てているようですが。生憎と、下賤な者の考えることはわからなくてね。よければ、お教え願えますか?」

「てめぇ……」


 ヤーゲと呼ばれた男が続けた言葉に、ハルクの額に青筋が浮かぶ。


 下賤な者、と来たか……


 その一言は、俺の予想を裏付ける。


 どこぞの没落領主だかのバカ息子といったところか。向けてくる感情からして、その原因を作ったのは俺。こいつの歳からして、ここ10年以内といったところなのだろうが……


 ……わからぬな。


 記憶をたどってはみたが、特定はできそうもなかった。思い当たることが多すぎて。


「ハルク、そこまでだ」


 今にも掴みかかりそうなハルクを制する。こんな場所で喧嘩を売って来るこの男は相当のロクデナシだが、それを言い値で買い上げてやる義理もあるまい。


「ダンナ。けどよ……」

「無闇に頭に血を昇らせるのはやめておけ。これが戦場で受けた挑発だったなら、死神に首根っこを捕まれているところだぞ」

「……チッ、わかったよ」


 舌打ち混じりにとはいえまとめ役のハルクが引いたことで、ミッシュたちもそれに従う。


「頭潰しと名高いだけのことはありますね。そこいらの野良犬よりは、少しだけしつけができているようだ」


 うん?


 こいつの口調、かすかにだが、訛りがあるな。これは……たしか……ニーグル地方……いや、フェドス地方の……。となると……………………そういうことか。


「おや、どうされましたか?言葉を理解する知能くらいはあると思ったのですが、私の買い被りでしたか……」


 なおも続ける男に、ハルクたちから怒気が噴き出すが、今度は抑え込んだらしく、何も言わなかった。


 ちなみに俺はと言えば、呆れを通り越して憐れみすら感じていた。ここまでバカ丸出しだと、道化の出来損ないにすら成れはすまい。よくこれで今日まで生きてこれたものだな、と。


「ところで、こうして出会えたのも何かの縁でしょう。私と手合わせ願えませんか?」

「うん?」


 そして、今度は唐突にそんなことを言い出す。


 ハルクと一緒にやって来たということは、俺の依頼を受けて来たということだろうに。何が出会えた縁なのやら……


「……ま、いいけどよ」

「おや、意外ですね。てっきり恐れをなして逃げるのかと思いましたが」


 狙いは透けて見えていた。手合わせに見せかけてあわよくば、といったところだろう。


 それでも、受けることにしたのは、この男の腕前を見ておきたかったから。今後の対処をどうするにせよ、実力を把握しておくに越したことはない。わずかばかりの好奇心もあった。それに――


「飯の支度ができるまでの暇つぶしにはちょうどいい」

「暇つぶし……だと……」


 そう返してやると、俺を睨みつけてくる。


 この程度、お前さんが言っていたことに比べたら可愛いものだと思うのだがな。


 ま、いいけどよ……


 席を立ち、厨房に顔を出す。そこでは、女将が皿洗いの最中だった。お嬢ちゃんの姿は見当たらないが、気配からして場所は客室。掃除でもしているのだろう。


「女将、俺の分の昼飯も頼む」

「おや、遅かったじゃないか。すぐに用意するよ。少し待ってな」

「ああ。それと、ちょいと裏を使わせてもらいたいのだが」


 この宿の裏手には、そこそこに広い場所があった。軽くやり合うにはちょうどいい。


「そりゃ構わないけど、あまり荒らすんじゃないよ」

「それは承知している。飯が出来る頃には戻って来るだろう」


 そして、再び食堂に。


「聞いての通りだ。場所を変えるぞ。それと……ハルク、お前さんたちはどうする?」

「ああ、せっかくの機会だ。見学させてもらうぜ」




「さて、始めるとするか?」

「いいでしょう。頭潰し」


 女将から借りた場所に移動し、適当に距離を取って対峙。


「構えは取らないというのか……」


 相手は剣を右の片手で構え、俺は鉄杖を持った右手を下ろす。なにやら勘違いをして俺を睨んでくるが、別に舐めているわけではない。俺にとってはこの型がやりやすいというだけのことで。当然ながら、わざわざ教えてやる義理なぞ無いわけだが。


「ハルク、合図は任せる」


 硬貨の1枚を投げ渡す。硬貨を放り投げ、落ちた瞬間を開始の合図に。決闘ではよくある手法だ。


「おう、任せな」


 視界の端にハルクを収めつつ、相手の挙手(きょしゅ)投足(とうそく)に意識を向ける。


 ふむ、この重心からすると初手は……(よこ)()ぎか?それにこの目線……。狙っているようだが。要警戒といったところか。


「じゃあ、いくぜ」


 そう前置きしてハルクが放り投げた硬貨が高々と舞い、放物線の頂点を過ぎ、落下を始め――相手の目線が硬貨から外れた。


「うおおおおおっ!」


 直後に駆け出してくる。


 俺の予想そのままに。


 さっきからあれだけわかりやすい殺意を向けていれば、俺を殺したいのだろうとは容易に理解出来るが、ここまで見事に読み通りとはな。


 不意を突くというのは、何をするにも基本中の基本だ。上手く行けば、それだけで圧倒的な優位に立てる。


 だが――


 初手は横薙ぎ。右足を引き、半歩下がることで首元を空振りさせる。


「なっ……!?」


 見せるのは驚き。


 おいおい……。これで殺れると本気で思っていたのか……。見抜かれている時点で奇襲は奇襲たりえなくなっているというのに。


 そうなれば、この男が繰り出してきたのは、多少練度が高いだけの横薙ぎでしかない。むしろ、奇襲を見抜かれていると気付けなかった分だけ、不利に働く。


 が、さすがにこれで終わりではなかったらしい。身体に染み付いた動きだったということなのか、真横に振り切った腕を引き、突きに転化させて来る。


 なるほど、剣の腕自体は、そこそこ程度にはあるらしい。


 もっとも、剣士を名乗るには程遠いだろう。この程度の使い手なぞ、数えるのも馬鹿らしいほどに相手取って来た身の上。対処はいくらでもある。


 刃を立てての突きなら――


 選んだのは、常日頃から多用している手口。


「よっ、と」


 左の甲を剣の横っ腹に触れさせ、流れに入り込んだ上で剣の行先(いきさき)()らす。これも、力の流れを意識する内に身に付いた芸当だ。


 同時に、右に持った鉄杖の握り位置を微調整。


 そして、引いたばかりの右足で踏み込むのと同時に、加減無しの全速で右手を突き出す。


 宙を待っていた硬貨が軽い音を立てたのはこの時。


「勝負あり、だな」


 手合わせでわざわざ手傷を負わせることもあるまい。そうなるように握り位置を調整した俺の突きは、相手の鼻先寸前で止まっていた。


「…………クソっ!汚いマネしやがって」


 いや、合図を待たずに仕掛けて来たのはお前さんだろうに。……仕掛ける前からバレていただけのことで。


 吐き捨てる相手に内心では呆れ果てる。


「おい!ヤーゲ!どういうつもりだよ!」


 が、それは俺だけだったらしい。怒り心頭でハルクが詰め寄る。


「そ、それは……コイツが卑怯なマネをするのが――」

「不意打ちをしたのはお前の方だろうが!」


 どうやらこの男の中では、俺が汚いやり方で勝ちを拾ったということになっているらしい。もちろんのこと、そんな理屈がハルクに……いや、他の誰にも通用するはずもなく。


 やれやれ……


「それくらいにしておけ」


 胸中でため息をひとつ。胸倉(むなぐら)(つか)もうかというハルクを制止する。


「ダンナ……。けどよ……」

「正々堂々、なんてお上品が推奨されるような稼業ではあるまいよ。命のやり取りとなれば、俺だって卑怯(ひきょう)不意(ふい)打ち(だま)しにハッタリくらい、いくらでもやるぞ」


「……わかったよ。けどよ、ダンナ」


 そう言ってハルクは男に目線をやる。このままでいいのか?と言いたいのは伝わっている。


「わかっている。その時は、俺が責任もって処理(・・)しよう」

「……ダンナがそう言うなら、ここは引き下がるけどよ」

「済まぬな」


 下がりゆくハルクたちを見送り、残っていた男に目を向ける。


「これで助けたとでも――」

「安心するといい。そんなつもりは毛の先ほども無いのでな。……今回は目をつぶってやるというだけのことだ。だが――」

「ひぃっ!」


 この男だけに伝わるように、殺気を叩きつけてやる。これも、いつの間にか身に付いた芸当。もっとも、こちらは(おど)しくらいにしか使えぬが。


 まあ、顔色を変えているあたり、効いてはいるのだろう。


「次にやらかすようなら、この仕事からは降りてもらう。ソレすら聞けないと言うのなら……わかっているな?」

「わ、わかった……。わかったから!」

「それならいいのだが」


 殺気を収めると、安心したように息を吐き出す。


「さて、そろそろ飯が出来ている頃だろう。戻るとしようか」


 軽く肩を叩き、耳元に口を寄せる。そして――


「なぁ、ヤーゲ・ハオカー」

「ば、馬鹿な……なんでそれを……」


 馬鹿はお前だ、とは思ったが、口には出さずにおいてやることにする。


 そして、こいつの正体に関する読みは当たっていたらしい。その名を聞かされて変わった表情が、それを証明していた。




「ティーク、ジェナイン」

「ああ」


 食堂に戻ったのは、ちょうどいい頃合いだったらしい。俺の昼飯を運んでいたお嬢ちゃんが気付き、声をかけてくる。


「ラース、インズゥ」


 皿を運び終え、妙に様になった仕草でペコリと頭を下げて引き上げていくお嬢ちゃんを見送り、腰を下ろす。


 ひとり離れたところに座るヤーゲの方に意識を向けてみるが、俺に向けて来る殺意は相も変わらず。まあ、反省なぞ期待はしていないが。


 それはさておくとして、昼飯の主役は、ゆらゆらと湯気を立てる橙色のスープらしきもの。中には、これまた橙色の何かがゴロゴロと沈んでいた。


 ふむ、見た目の印象は強いが、この匂いは……


「ほう……」


 口元が緩む。橙の正体は、俺の好物らしい。さて、早速食うと――


「……コ-ナス、何かあるのか?」


 好物にありつこうとしたのはいいとして、向かいには引きつった顔があり、その目線は俺の手元にある皿に向いていた。


 飯をマズくしてくれそうな挙動。気分のいいものであるわけもない。


「いや……そのですね……」

「はは、コ-ナスの奴、ニンジンが大の苦手なんですよ」

「ミッシュ、てめぇ……」


 なるほど。


 そういうことか。世の中にはニンジン嫌いがそれなりにいるらしいとは俺も知っているが。もっとも――


「ま、好みは人それぞれだろう。ちなみに、俺はニンジンが大の好物なのだがな」

「本気ですか!?というか、正気ですか!?」

「失礼な奴め」

「……すいません。けど、珍しいですね」

「……そうか?」

「ああ。コ-ナスはともかく、ニンジン好きってのは、俺の知り合いにも……馬くらいしか居ないぞ」


 ハルクも話に乗って来る。たしかに、言われてみれば俺の知り合いにもニンジン好きの人間は居なかった気がするが。


 それにしても……


 ある意味では、俺のニンジン好きにも馬が関わっているわけだが……


「せっかくだ、コ-ナスに教えてやってくれよ。ニンジン好きになる方法ってヤツを」

「ちょ、ハルクさん。俺は別に……」


 ニンジン責めを想像でもしたのか、コ-ナスの顔色が変わる。俺の目の届く範囲で、そんなことをさせるわけもないだろうに。もったいない上に、食い物に対して失礼というものだろう。


「参考にするかどうかは任せるが、俺がニンジン好きになった理由くらいなら、話しても構わぬぞ」

「じゃあ頼むわ。俺も興味はあるんでな」

「とりあえずは、食いながらでもいいな?せっかくの温かい飯だ。冷めてしまったらもったいない」


 木製のスプーンでスープと一緒に具のニンジンをひと掬いし、口に。


 歯応えと独特の香りがたまらない。それに、スープの底には、すりおろしたと思しきニンジンが沈んでいた。


 なるほど、徹底したニンジン尽くしというわけか。


「さて、何で俺がニンジン好きかという話だが、駆け出しの頃にいろいろとあってな……」

「ティークさんにもそんな頃があったんですか?」


 不思議そうに聞いてくるのはネブラ。


「いや、お前さん、俺を何だと思っているんだ?」


 誰だって何だって、始めたばかりの頃は駆け出しだろうに。


「まあとにかく、だ。その頃に金のやり繰りでヘマをやらかしてな。素寒貧になり果てたのさ。……オチは見えただろう?」

「その時に食ったニンジン料理が美味かったってことですかね?参考にはならなそうですね」


 そう言いつつ、安堵したように胸を撫で下ろすコ-ナス。もっとも――


「ちと違うな」


 さすがにそれは早計というものだろう。


「言ったろう?素寒貧だったと。それで手を出したのが、馬小屋のニンジンだったのさ」

「「「えぇ……」」」


 新人たちはそんな反応をしてくれる。勝手に憧れて勝手に幻滅するのは当人の勝手ではあるとはいえ、差し引いても失礼な奴らだ。


「いやはや、あれはマズかったな。腹が減っていれば何を食っても美味いとはたまに聞く話だが、それを差し引いてもマズかった。硬いわ冷たいわ泥まみれだわで。おまけに、次の日には腹も痛くなってきてな……。あの時は死ぬかと思ったぞ」

「いや、それはむしろニンジン嫌いになる話じゃないのかよ?」

「最後まで聞け。ともあれ、そうやって食いつないで、ようやく手にした金で飯屋に行ってこう言ったのさ。一番美味い飯を頼む、と」


 今にして思えば恥ずかしい言動だが、あの時は妙に高揚していた。ま、若気の至りということにしておこう。


「……今度こそ、オチは見えただろう?」

「そこで出されたニンジン料理が美味かったってことですかね?」

「ああ。美味かった。途轍もなく美味かった。あまりの美味さに泣けるほどに。というか、実際に泣いて他の客からも気味悪がられてな。代金は要らないから二度と来るな、なんて言われたぞ」

「「「「「「うわぁ……」」」」」」


 今度はハルクを含む6人全員に引かれた。


 聞かれたから話してやったというのに、どこまでも失礼な奴らめ。


「あの……できればもっと有名な話を聞きたいんですけど……」

「とは言われても、なぁ……」


 どこでやった何が広く知られているか。自分のことに関してはまるで興味も無かった俺がそんなものを知るはずも無いわけで。まあ、わかりやすい指定でもあれば話してやるのは別段構わないのだが。


「なら、アルバ。お前さんが聞きたいという話、具体的には何かあるのか?」


 だから、丸投げしてやる。


「それは……」

「お前さんは、俺の武勇伝でも期待しているのではないかと思うがな。本人が話すその手のネタほどあてにならぬものはそうそうあるものではないと、俺は思うぞ」


 盛ろうと思えばいくらでも盛ることは出来る。それこそ、駆け出しのアルバでさえ「戦場で500人の敵を無傷で全滅させた」などとも、言うだけならば可能なわけで。


「たしかにな。繋ぎ屋からの情報ならともかく、噂話は話半分……いや、話一割程度に聞いておいた方がいいってのは、俺らの常識みたいなもんだしな」

「そうかもしれませんけど……」


 ハルクが俺に同意するも、新人たちは納得出来ない様子。


 やれやれ。こいつらの中で俺はどうなっているのやら……


「ダンナ絡みの噂話(うわさばなし)だと、一番笑えたのはフィテクト大橋の件だな。アレは酷かった」

「うん?」


 聞いた地名が出て来た。過去に足を運んだ場所であり、やらかした場所でもある。出来れば流してほしいところだが。


「どんな噂なんですか?」


 そして、俺の願いもむなしく、ダイトが食いついてくれやがった。


「ああ。聞いたのは何年も前だが……コーニス大陸から来たって商人と話す機会があったんだよ」


 出所はコーニスの人間……。ますます嫌な予感がしてきた。そもそも、俺がコーニスからアネイカに流れて来た理由というのが、向こうでやらかしたからだったわけで。オマケに、フィテクト大橋というのは、40年近く前にやらかした場所と来ている。


「細かいことは忘れたが、今から何十年も前のことらしい」


 何十年も前。時期も一応、一致すると言えないことも無い。


「500人の騎兵。この場合は500騎って言えばいいのか?ともかく、そいつらをダンナひとりで全滅させたって話だ」


 それは誇張しすぎだ。少なくとも、全滅()させていない。


「はは、さすがにそれは……」


 ニンジンの件を聞いた時とは別の意味でだろうが、ダイトの顔が引きつる。


「だよな。いくらダンナでも、500は無理だろ」

「……当たり前だろう」


 そうは言ってみるものの、俺も顔が引きつるのを完全に隠しきれていた自信はない。


 こちら――今のアネイカ大陸は、それぞれの地域を領主が治めるという形でそれなり程度には安定しており、時たま小競り合いが起きるくらい。ここ数年は頻度が上がってきているような気がしなくもないが。


 対して、当時のコーニス大陸はと言えば、そんな地方領主が揃いも揃って大陸統一を掲げた騒動の末期であり、2つの勢力――国、と呼ばれていたか――が最後の決戦に備える、なんて状況だった。そんな中で俺がひとりで喧嘩を売ったのが、一方の国が抱える最精鋭部隊。


 あれで死ねない方がおかしかったのではなかろうかとは今でも思うが、結果的に俺がひとりでどうにかしつつも生き残ってしまったわけで。


 頭潰しの悪名を頂戴(ちょうだい)する羽目になったのもその件が原因で。


 その件が2国の勝敗を決定付けてしまったらしいわけで。


 妙な形で祭り上げられそうになり、コーニスに居辛くなり、アネイカに逃げてくることになったわけで。


 自業自得とはいえ、海を越えて年月まで超えて、未だに(たた)って来やがるとは……。少しばかり飯の味が落ちるような話だ。




「ふぅ」

「リンジ メイナード」


 ともあれ、そんな馬鹿話やらをツマミ代わりにしつつ、飯を食い終える頃、ちょうどいいところでお嬢ちゃんが茶を持って来る。


「ありがとうな」

「そういや、あのお嬢ちゃん、ダンナが保護したんだって?」


 茶をすすり、一息入れていると、ハルクがそんなことを言ってくる。


「……女将から聞いたのか?」

「いくらかはな」

「そうかい」


 それを話すこと自体は別にいい。ただ問題なのは――


 あの野郎、お嬢ちゃんに手出しするつもりか?


 ヤーゲが俺に向けて来る殺意が揺れたこと。


 正直な気持ちを言うなら――万死に値する、といったところか。


 あの様子では、俺の居ぬ間を任せてもロクに仕事をしないのではなかろうか。むしろ……


 さすがに村の中で殺るわけにはいかぬが、適当に山の中に誘い出して始末した方が良さそうか?


 やれやれ……


 どんな経緯(けいい)であの男が来ることになったのかはさておくとしても、あんなのを寄越(よこ)しやがったターロの繋ぎ屋には恨み言のひとつも言ってやろうか。


「……聞かされているのなら話は速い。噂でも何でも構わないがアテは無いか?聞いたことのない言葉が使われている地域とかに関しては」


 とりあえずは、意識をハルクたちとの話に戻す。


「いや、初めて聞く話だ」

「そうか」


 他の5人を見るも、反応は同じだった。そうそう上手くは行かないということか。


 それはそれとして……


「雑談はこれくらいにしておくか。そろそろ仕事の話をするぞ」


 そう告げて、残った茶を飲み干した。

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