そして再会
「凛ちゃんはぁ、こっちにいますぅ~!」
相も変わらず脳天気な摸に案内されて。
どこか緊張した面持ちでそれに続く美沙と。
両肩を落とせるだけ落とし、伏し目がちにトボトボと、さらにその後に続く俺が…。
校門を抜け、いつも当たり前のように通っている母校、神楽坂学園のその敷地内に足を踏み入れてみれば。
そこは…昼間の活気ある学園とは違い、全く人の気配が感じられない、ある種ミステリアスな…何と言っていいのか。
…そうだ!
どこか異世界に迷い込んでしまったかのような、とても不思議な空間で。
…。
そんな中…摸は、目の前にそびえ立つ校舎には目もくれずにノタノタと。
そのまま運動場を横切っては図書室や体育館の反対側の外れ、学園の敷地内の片隅にある農作部が管理している畑のすぐ近くまでやって来ると。
…そこで、何かに気がついたように、その足をゆっくりと、止めた。
“雨宮は、こんな所にいる…のか?”
俺がそう口を開こうとした、まさにそのとき。
立ち止まった摸の、ポッチャリとした背中のその向こう側。
俺達三人から四、五メートルほど離れた学園の畑の中で。
小さくしゃがみ込み、ゴソゴソと怪しく蠢いている人物の後ろ姿が…。
揺らめくような暗紫色の、まるでオーラのような妖気をその全身に纏い、漂わせているその後ろ姿が…俺の目の中に飛び込んで、きて。
…。
一瞬でその異変に気がついた俺は、嫌な予感と共にその言葉を呑み込み。
そのまま硬直したかのように、その異様な後ろ姿から目を離せないまま…その場で動けなくなってしまって、いた。
…。
その状態が…どれくらいの間、続いていたのだろうか?
きっと美沙も摸も、俺と同じ状態だったのだろう。
でも長く感じていたその時間も、おそらくは一分とも経っていなかったに違いない。
次の瞬間、まだら模様の雲の隙間から、ふいに月の光りが射し込んできて…。
その優しい光りで、俺達三人と畑の中で背を向けしゃがみ込んで、怪しく蠢いているその人物の後ろ姿を、静かに照らし出したとき…。
…。
そこには…。
オリーブグリーンの上着に、スカートはアイボリーとグレーのチェック模様。
まさに俺達三人と同じ、神楽坂学園 高等部のその制服姿に身を包んだ後ろ姿が。
その姿が俺達三人の瞳の中に、はっきりと映し出されて…。
…。
その後ろ姿を目にし。
そして射し込んできた優しい月の光りに、それにまるで肩を叩かれるようにして美沙が…注意深く、畑の中のその姿に視線を向けたまま
「…二人とも、気をつけて」
一番最初に硬直から立ち直って、囁くようにしてそっと…そう音を発すると。
美沙のその言葉に、俺と摸はハッとするように小さく頷いて。
畑の中で未だ蠢き続ける…そして、漂ってくる強大な妖気の根源であるその後ろ姿に、全神経をそっと集中させた。
…すると、次の瞬間。
畑の中でしゃがみ込んで、ゴソゴソと蠢いていたその人物の動きが、ピタリッ…と、止まったかと思うと。
その場で音もなくスッ~…と立ち上がり。
それを注意深く見つめていた俺達三人のほうへ、ゆっくりと静かに振り返り…。
…。
振り返ったその姿は紛れもなく…。
肩まで伸びた黒く艶やかな髪に、可愛らしくて愛らしい、見覚えのある…あの、顔。
胸元には、美沙と同じ神楽坂学園に通う女子生徒用のローズレッドのリボンが…まるでそこに咲くようにして、華麗に結びつけられており…。
摸の探索通り、そこにいるのは確かに、俺達が昨日の夕方雨宮神社で出逢った、雨宮 凛 “その人” で。
…でも。
その口元は畑の泥に塗れ、全身からは暗紫色の異様なオーラを発し漂わせ、まるで制服の上からさらにそれを身に纏うようにして。
…。
畑を…掘り起こして、いたのだろうか?
よくよく見れば、その大きな右手の中に握り締められているのは、半分ほど噛じられ…いや、噛みちぎったかのような泥だらけの生のさつまいも…で。
しかも、その大きな右手はどす黒い肌に変化し、おまけにその五本の指の爪先からは切れ味抜群そうな、長く鋭い爪が生え伸びて…いて。
…。
…ど、どうしちまったんだ!
こ、こんなの俺の知っている雨宮 凛じゃ、未来の嫁(仮)じゃな~い!!
…と、考える余裕もなく。
明らかに、様子の違う雨宮 凛のその姿に、俺が再び言葉を失っていると。
「…凛…ちゅわん…?」
そんな…中。
絞り出すかのようにして摸が発した、その言葉に。
雨宮 凛は…その瞳の中に俺達三人の姿を捉えたまま、不気味にニヤリッ…と微笑んだかと思うと。
次の瞬間、どす黒い肌に変化した大きな右手で掴んでいた、泥だらけで噛じりかけのその生のさつまいもを、横に捨てるようにしては乱暴に放り投げ。
…。
トサッ…コロコロコロ…という、放り投げた生のさつまいもが地面の上に落ち、勢い良く転がっていくその音が真夜中の学園の畑の中で響く…中。
「…凛さんが、凛さんが学園の畑を荒らしていたのね…。それに…その長く鋭い爪、そして…どす黒い肌のその大きな右手は…」
摸に続き緊張の面持ちで、そう言葉を放った美沙に。
雨宮 凛はその腕を立てるかのようにして、どす黒い肌の大きな右手とその指先から生え伸びる長く鋭い爪を自慢気に見せた後…。
美沙のその言葉にまるで応えるようにして、次の瞬間。
それをゆっくりと頭上に掲げ、空気を裂くように、俺達三人に向かってそれを、思い切り振り下ろした。




