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凛 ③

悪鬼から放たれた、感情を露わに叫ぶようなそんな激しい言葉と共に…凛の全身が小さく震え、揺り動かされる。

…それでも凛は、悪鬼のその言葉にも、小さく震え揺れ動く自身の身体にも、全く動じる様子を見せず


それ…でも…。


再び自身の中に封じ閉じ込められている悪鬼に向かって、語り掛けようとしたその言葉を遮るようにして


“アノヨウナ話シ、誰ガ信ジラレルモノカ!大方ノトコロ、我ガ アノ壺ノ中ニ 封ジ閉ジ込メラレテイル間ニデモ、お通トイウ アノ女ガ、オノレノ都合ノ良イヨウニ 触レ回ッタダケニ違イナイワ!…クダラヌ!実ニ不愉快デ クダラヌ話シダ!!”


怒りに満ちた感情で悪鬼はそう言葉を放つと、やはり凛の全身を小さく震わせる。

その言葉に対して凛は


…でも。

与六さ…あっ、鬼さん。

私は…私はそうだとは、限らないような気がする…。

…ううん、絶対にそうだとは思わない。


どこか確信的にそう語り掛けると、続けて


だって…もし本当にそうなら、お通さんはきっと…自分に都合の悪いことはすべて、鬼さんのせいにして、雨宮の鬼物語の内容もお通さんとその周囲の人々の証言や語り継ぎによって、自分達の都合のいいように、それ相応の内容に変わっていった…はず。

…でも。

お通さんはそれをしなかった。

それはどうして…なの?


凛のこの問い掛けに対して、悪鬼は黙り込んだまま…何も応えようとはしない。


…。


…そんな悪鬼の返答を、しばらくの間待っていた凛は、それがないと分かると…諦めたかのように続けて


この物語の中で…ただ一つ確かに言えることは、お互いに想い、愛し合っていた二人の男女が、悲運ながらも…過去にいた、ということだけ。

…ただ、それだけ。

このことは、どんなに時が流れても…例え時間というその波の中で、物語の内容が少しは変わっていったとしても…大筋の、一番大事なその部分だけは変わらない、変えようがない…ということ。

それはつまり…その部分が、お通さんにとって一番重要で、何よりも “伝えたいこと” だったから…。

きっと…もしいつか、どこかで、この物語が鬼さんの耳に入ったとしても。

本当の自分の想いが、気持ちが伝わるように願って…。

だからお通さんは…


“敢えて物語をそのままの内容で、後世に伝えようと…した”


凛がそう言葉を続けようとしたのを、まるで耳を塞ぎ聞きたくないとでもするかのように


“ウルサイ!!黙レ、小娘ガ!!!”


悪鬼は遮り、怒鳴るようにそう一喝すると。

…それと同時に、凛の全身に大きな震えと共に今まで感じたこともないような…“怒り”…とも、“悲しみ”…とも、そして“後悔”…とも感じとれる不思議な感覚が、駆け巡り…。

次の瞬間、まるで凛にそれ以上、言葉を語らせないとでもするかのように…悪鬼は、どこか呆れたような、話しを逸らすような物言いで


“モウソノ話ハ セズトモ良イワ!…ソレニシテモ オ前ハ、マッタクモッテ相モ変ワラズ シャクナ娘…ダ。…コノ十年ノ間、アノ手コノ手 デ オ前ノ身体ト、心ノスベテヲ 手ニ入レ乗ッ取ッテヤロウト 画策シテキタガ…見事ニモッテソレハ、叶ワズ…ソレドコロカ生意気ニモ、コノ我ト対等ニ話シ、サラニハ意見ヲスルヨウニマデ ナルトハ…”


そう言葉を放つ。

悪鬼のこの言葉に、真っ暗闇の座敷牢の中…瞑想状態の凛は、少しだけ優しい表情かおになって


それは…。


そう語り掛けながら…小さく頷くと、そのまま続けて


人封の札の術で、私の中に鬼さんが封じ閉じ込められた当初は、お父さんとお母さんが境内前で戦う十年前の姿を…鬼さんとの戦いに敗れ血塗れになっていくあの日の姿を…まるで映画館のスクリーンが目の前にあるかのように、ビジョンとして何度も、何度も、私に見せていたのに…。

いつからか、鬼さんはそれもしなくなって…。


悪鬼は凛のその言葉に応えるかのように


“ソレデ オ前ノ気ガ狂イ、心ガ死ニ絶エ、発狂シテクレタノナラバ 乗ッ取リ易カッタモノノ…。オ前ハ 苦シミ悲シムダケデ…最後ニハ イツモ、両親ニ ソコマデシテ託サレタ コノ我ヲ…コノ術ノスベテヲ成シ遂ゲヨウト、前向キニ自身ヲ見ツメ、思イ直シ…一向ニ心ガ狂イソウナ気配ガ、ナイ…”


いまいま々しそうにそう言葉を放つと、続けて


“ナラバ一層ノコト、己ノ ソノ運命ヲ呪イ 自ラ命ヲ絶ッテクレレバト、ソウモ思ッタガ、ヤハリ結界師ハ…結界師ノ娘デアル オ前ハ…血筋ト共ニ ソノ外見カラハ 想像モ ツカヌホドノ、心ノ強イ人間ダトイウコトニ 我ハ気ガツキ 今ハ考エヲ変エ 思イ至ッタノダ…”


認めるようにして、そう言葉を放つ。

悪鬼のこの言葉に、凛は首を左右に小さく振りながら


ううん…。

私は全然…強くなんか、ない。


そう寂しそうに語り掛けてから


でも…どんなに辛く悲しいことでも、あの瞬間に、お父さんとお母さんが私のことを信じて託してくれたのは、確かなことだから…。

だからその責任として、私に最期のときが来るまでは、自分なりに出来る限りのことをしておきたいと思っている…だけ。

それに…元はといえば、すべての始まりと原因は、私自身にあるのだから。

…そしていつの日か、お父さんとお母さんにどこか別の世界で会えたときに…再会したときに、胸を張って笑ってその場に一緒にいたいと思うから…。

…。

それに…。


凛はここで言葉を一旦区切ってから。

胎内の悪鬼に…そしてまるで自分自身に、言い聞かせるようにして


この十年の間で、鬼さんが私のことを知ることが出来たように…私も鬼さんのことを、少なからずとも知ることが出来たんだもの…。


そう静かに言葉を続けると。

…次の瞬間、まるでそこに悪鬼がいるかのように、自身の左の手のひらを胸の上から優しくそっと…充てがい、小さく小さく頷いた。

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