美沙 ④
ふらふらとした足取りで、再びあたし達二人の前に現れたそのおじさんの右手には、さっきは持っていなかった高級そうなシャンパンのボトルそのものが握りしめられていて…。
明らかに悪酔いしているそのおじさんのことを美玖は、冷たい眼差しで一瞥した後
「…いえ、まだ開けていないので、何とも…。楽しみは後に取っておきますので」
…そう、落ち着いた様子で口を開いた。
美玖のその言葉を聞いたおじさんは、口元を歪ませるようにして自嘲気味に鼻で笑いながら…
「…フンッ、何が “楽しみは後に” …だ、見てたんだよ!俺があげたプレゼントを放りつけるようにして…こいつに渡してたじゃないか!」
偏屈そうにそう言って、一瞬あたしのほうを…そしてその両腕の中に抱え込むようにして持っている、自分があげたピンクのリボンのついた大きなプレゼントの箱を…それをチラリッと見て。
手にしていたシャンパンのボトルをグラスも使わずにそのまま口に運び、グビグビと喉を鳴らして飲んだ…後。
口元に零れ出たそれを服の袖で拭い拭きながら
「…お偉い魔術家の名門、黒川家のお嬢様は、俺んとこみたいな弱小魔術家のプレゼントは、端っから必要ない…ってか?」
語気を少し強めてそう言うと、再びシャンパンのボトルを口に運ぶ。
「そんなこと…一言も言ってません」
美玖はおじさんのその言葉に、冷静にそう応えてから…あたしに目配せをするように小さく頷くと、急いでこの場を離れようとする。
…。
こんなとき、あたしと美玖は阿吽の呼吸で…やっぱり双子なんだな、と改めて実感することが、出来る。
それにしても…アルコールの魔力に掛かって、弱小魔術家であるがゆえに、ついつい抱え込んでしまっている日頃の鬱憤と、名門家の誕生会に呼ばれた…という華々しさとプレッシャーで、気持ちが変に高ぶり過ぎて…。
…恐らく普段は、いい人なんだろうけれど。
大人って色々と大変だから…きっとそんな気持ちと想いが複雑に混ざり合って、誕生会というハッピーな場所なのに…こんな状態になっちゃってるんだろうな、このおじさん…。
悪酔いしているおじさんのことを、あたしは変に大人ぶりながら…少しだけ気の毒に思いつつも、美玖の賢明なその判断に、問題となっているプレゼントの箱を両腕の中に抱え込んだまま、小さく頷き返して、美玖と一緒にこの場を離れるために、足を一歩踏み出そうとした、その瞬間…。
この場を離れようとした美玖のその左肩を、おじさんは掴むが早いか
「知ってる…ぞ。黒川家の跡取り候補は、雷撃の魔術が使えないらしいなぁ…?この俺でさえ使えるっていうのによぉ…」
そう言って…美玖を見下すように、ニタリッ…と笑った。
「やめて下さい!」
美玖は小さく叫ぶようにそう言って、自分の左肩に乗せられているおじさんのその右手を払い除けようと、する。
…でもおじさんは、そんな美玖にまるで囁くように
「…他の魔術家の間では、かなり有名な話しだぜ?黒川家の跡取り候補は、母親の腹ん中で…その双子の姉貴に魔術の能力の一部を…雷撃の能力を奪い取られて生まれて来たんだ…ってな!」
続けてそう言うと、やはりニタリッ…と笑う。
…あたしはほんの少し前まで、アルコールの魔力に負けて悪酔いしているこのおじさんのことを少し気の毒に思っていたのだけれど。
そんなことを思っていた数秒過去の自分のことさえ後悔するくらいに…いくら酔っていたとしても、言っていいことと悪いことの区別くらいは…ましてやこんなおめでたい場所で…。
明らかに言い過ぎなその言葉に、あたしがそう思いながら…この不快なおじさんから何とか美玖と逃れようと
「ちょっとおじさん、いい加減に…」
そう言いつつ、あたしが二人の間に割り込もうとした、まさにそのとき…。
今まで冷静に対応していた美玖が、キッ…!とそんなおじさんのことを強く睨んだかと思うと。
未だ自分の左肩に乗せられているおじさんのその右手を強い力で撥ね除けてから
「ほんとみっともないわね、弱小魔術家の僻みは!そんなことだから…いつまで経っても弱小は、弱小のままなのよ!」
フラフラとした足取りで、ニヤニヤと笑いながら…自分のことを見下すように見つめている…。
…そんなおじさんに向かって美玖は、キツくはっきりと、そう…言い放った。




