帰寮 ~それぞれの場所へ~
モクドナルドから退店した俺達三人は、学園近くの寮の前までやって来ると。
学園の図書室に用があるという美沙とそこで別れ…。
特にそんな所に(普段から全く)何の用もない俺と摸は…そのままそれぞれの自分の部屋へと向かうべく、大人しく寮の敷地内にその足を踏み入れた。
俺と摸は肩を並べ、寮の入口…エントランスに向かってスゴスゴと歩き出し始める。
…。
俺達三人の住む…遠方から神楽坂学園に通う学生用に作られた、近代的なマンション並みの作りの八階建てのこの寮は、まるで銭湯のようにエントランス部分でその入口が、男子学生用と女子学生用に別れている。
そして…銭湯の番台にあたる、その場所、管理人室には、学生達の間から通称、 “コンビニおじさん” と伝統的にそう呼ばれている、頭頂部が少し寂しくなった五十代半ばくらいの管理人のおじさんが常駐しており…。
…なぜそう呼ばれているのかといえば。
いつ、誰が、どんな時間帯に寮に帰って来ても…常に、管理人室の監視用の小さな窓の向こう側で、スチール製の椅子に腰掛け、腕を組みながら目を瞑っていて…。
…しかも、誰もその場を離れたところを、それどころか動いたところさえも見たことがないという…学園外の七不思議並みに謎の人物で…。
そして…このような謎の管理人のおじさんがいることで、その管理人室の灯りが二十四時間消えずに煌々と光り続けている…というところから、安心感や親しみを込めて、その謎の管理人のおじさんのことを “コンビニおじさん” と、通称で呼ぶようになり。
…その通称の伝統を怪しくも遡ってみれば。
過去にこの寮に初めて入寮した先輩の学生達の一人が命名したものだ、と噂されていて。
つまり、その当時から…コンビニおじさんの今のスタイルは何も変わらずに継続されてきた、ということが眉唾的に立証されたことになり…。
…。
その後脈々と…この寮に入った学生達の間で謎に満ちたまま、その通称を大切に引き継いできた…ということも手伝ってか。
現 神楽坂学園寮に入寮している後輩学生の俺達もその例にもれず、まんま “コンビニおじさん” という通称をありがたく使用させてもらいながら、バカバカしくもミステリアスに後世に受け継げられていっている…という訳だ。
…。
ところでここからは、あくまでも俺の推測なのだが…。
密かに俺は…この謎の管理人のおじさんこと “コンビニおじさん” も。
“食事不要” だとか、 “冬眠監視” だとか、 “分身同体” だとか(能力名はすべて俺が苦心の末に考え出した適当な仮名なのだが…)、何らかの能力を持った俺達三人と同じような能力者なのでは?…と、考えている。
でなきゃあ、二十四時間も同じ場所に同じ姿勢、姿、でいて。
しかも誰もその動いたところさえも見たことがない…というその奇っ怪な存在自体が説明出来ない!
…。
コンビニおじさんについて力説してしまっているが…。
でもしかし…だ。
先輩の学生達から脈々と引き継がれてきたのは、 “コンビニおじさん” というその通称だけには留まらず。
コンビニおじさんに纏わる触れてはいけない “謎” という…これまたバカバカしくもミステリアスな口伝が引き継がれてきており、その中の一つに
“コンビニおじさんの謎を解明するなかれ!それに背きし者は恐るべき天罰が下るであろう…”
と…いう恐ろしい内容の一文があって。
そんなこと…ある訳がない!
…そう、思いつつも…。
もちろん小心者の俺には、その謎の解明をする勇気などはなく…。
それゆえ確かめる術も失われた訳で…。
…。
今の今までそのような怪しい噂と謎と推測状態のまま…俺は、そんなコンビニおじさんと共に、この寮の一つ屋根の下でミステリアスにも一緒に暮らしている…という状況だ。
…。
…ちなみに、遠方から通う学生以外にも。
様々な事情を抱えた俺や摸や美沙のような特別科の生徒には、例え近隣に住んでいたとしてもその入寮が、比較的容易に認められる…ということもあり。
また内装が、ホワイトグレーの壁紙にウッディでおしゃれなフローリングの床。
洋式の六畳一間という普通のワンルームでありながらも…IHのミニキッチン、バスルーム、ウォシュレット付きのトイレに、ドアで隠せる収納機能付きの洗濯機置場…などなど。
生活するために必要最低限の設備をしっかりと備え付けているところから…その破格の家賃と共に、近代的なマンション並みのその外観も手伝ってか、入寮を希望する学生が後を絶たずの結構な人気物件であるらしい…とのことだ。
…俺が、そんなことを考えながら。
摸と一緒に寮のエントランスへと足を踏み入れ、いつものようにそこに常駐するコンビニおじさんの管理人室の横をそそくさと通り過ぎて。
男子学生用のその入口から中に入り、階段の前までやって来ると…
「囁聞くぅん、また明日ぁ~!」
部屋が一階の摸は、笑顔でそう言いながら陽気に小さく手を振って…自分の部屋へと向かってノタノタと歩いて行って…しまう。
「…ああ、またな…おやすみ」
俺は摸のポッチャリとしたその背中に、いつものようにボソボソッと、そう言葉を返すと。
二階の自分の部屋へと向かうべく、階段に足を伸ばし…それを一段一段静かに登り始めた。




