脳天気を越える男
自分を見つめる、俺達三人の興味津々のその眼差しに
「しょうがないのぅ…」
じいさんは溜息混じりにそう言うと
「本当に…今回の件とは、まったく関係のないことなのじゃぞ…」
そう念を押してから、静かに口を開き始める…。
「“ヨネ” とはのぅ…わしの家内の名前のことじゃ。…わしがアイドルに、KRZ48に、うつつを抜かし過ぎたばかりに…ヨネは、家内は、あんな…こと…に…」
言っているうちに感極まってきたのか…じいさんは言葉を詰まらせると、一瞬どこか遠い目をした後に、悲しそうにそのまま俯いてしまう。
…そんなじいさんの隣りでは、さっきまで確かに、楽しそうに笑っていたはずの雨宮 凛までもが、これまた悲しそうな表情をして、同じように俯いてしまって…いる。
…!?
こ、これは、ひょっとしたら…。
悪鬼のことなんか、足下にも及ばないくらいの…触れてはいけなかった “雨宮家のタブー” だったのではないのだろうか…。
笑顔だった雨宮 凛を…未来の俺の嫁(何度ももう、これはいいか…)を…一瞬でこんなに悲しそうな表情にさせてしまうだなんて…。
悲しそうに俯く二人を見て、俺が気まずく感じ始めていた、次の瞬間…。
「あははははぁ…!熱神なKRZ48ファンなら、ありがちなことですよねぇ~!おじいさんがぁ…KRZ48に入れ込み過ぎちゃってぇ…奥さんのヨネさんに見捨てられちゃったんですねぇ~!」
…。
空気を読めないにもほどがある、脳天気を超えた男… “摸” が、そんな言葉を朗らかに…発した。
「…」
「…」
「…」
「…」
…摸、よ。
じいさんは一言も、 “奥さんに見捨てられた” などとは言っていないぞ…。
…まぁ、じいさんの様子や雨宮 凛の様子を見る限りでは、遠からずも…なのだろうが…。
しかもそれを笑いながら朗らかに、口に出しちまうなんて…。
摸のその言葉に、摸以外の俺達四人が無言で凍りつき…リビングルームの空気が、クーラーもかけていないのに、地球環境に優しく、軽く3℃ほど下回った頃…。
悲しく俯いたままのじいさんのその口からボソッと…
「…みさりん、Go…」
そんな承認の言葉が小さく発せられ…。
…。
その数秒後、哀れ摸は…本日二度目の美沙の雷撃をそのポッチャリとした身体全体で受け止め浴びて…。
焙じ茶とはまた違った、黒焦げの芳ばしい香りをリビングルームに撒き散らしながら…座布団の上に倒れ込み、ヒクヒクと痙攣しているのであった…。




