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結界師失格

現時点で、雨宮 凛の身体の中からアッを追い出す方法が無く…。

そればかりか、十年の時を経て…人に対する憎悪と復讐心を煮えたぎらせた悪鬼ソレが、雨宮 凛の胎内でうごめき続けて…いる。

そして…その想いを、衝動を、雨宮 凛自身が抑え込め切れなくなったときに、その身体を乗っ取り、恐るべき残虐な悪鬼オニがこの世に覚醒する…。

そうなれば…十年前に起こった事件と同じような出来事が、この神楽坂の街の至る所で発生することになる…。


…。

…でも、だからといって、もし俺がこのじいさんと同じ立場だったとしたのなら。

いくらそれが役目とはいえ、自分の子どもである娘とその婿を失い…そのかたきである悪鬼は、娘夫婦の忘れ形見である…たった一人の孫娘の身体の中に封じ込められていて、結界師としての役目を全うするためにはさらに、その孫娘さえも自らの手を使って失うことを覚悟しなければならない…。


…考えれば考えるほど、そのあまりにも過酷な状況に、何をどうすればいいのか、どうすれば良かったのか、そしてこれから俺が、俺達三人が何をすればいいのか…。

正直俺には、分からなくなっていた…。


…助けを求めるように俺がチラリと、隣りの摸を見てみれば。

摸は体型と同じく、そのポッチャリとした手のひらで握り拳を作って、それを強く握ったまま俯いており…。


…もう一方の美沙のほうを見てみれば。

珍しく美沙も、静かに下を…向いて、いた。


俺達三人には、今回の件は荷が重すぎるのかもしれない…。


…俺も含め、俯いたままの摸と美沙を見て、俺がそんなことを思い始めていたときに


「…わしには、わしには出来んかったのじゃ…」


しぼり出すように呟いた、じいさんのその声に…俺達三人が顔を上げると。

いつの間にか瞳を開けて…それでもやはり俺達のほうは見ずに、庭のほうへ顔を向けたままのじいさんが…口を開き始めたところだった。


「雨宮家の役目として、結界師としてしなくてはならん…ということが分かっておったにも関わらずじゃ…。異形の者を、悪鬼を、この世に出してはならぬ。…それはじゅうじゅう々分かっておる。凛を…道具として用いてまで、その役目を全うしようとした娘夫婦の苦渋の決断もじゃ…。さぞかし心、引き裂かれるような悲しく辛い決断じゃったことじゃろう…」


じいさんはここで、一度言葉を区切ると小さく一呼吸してから


「…娘夫婦のそのような気持ちを理解しておっても、それでもわしには、出来んかったのじゃ…。孫娘を…凛を目の前にして…自らの手で再び封印し直すことが…その愛しい存在をこの世から消し去ることが…どうしても、どうしても出来んかったのじゃ…」


そう言って、真剣な眼差しで俺達三人の顔を、瞳を、順番にゆっくりと見つめた後…


「…今まで、雨宮家の役目じゃの、結界師として封印は当然のことじゃの、…何だかんだと偉そうなことを言ってきたのじゃが…。いざそうなってしまったときに、わしは…孫娘可愛さに、少しでも…少しでも長く…一緒に居たいというその気持ちに打ち勝てず…。十年もの間、悪鬼を抑え込むという長く辛い戦いを凛に課しただけではなく、悪鬼をその胎内で成長させる…というとんでもなくおろかなことをしてしまったのじゃ…。結界師として、凛の祖父として、…どう考えてみても、わしは…失格なんじゃ…」


そう言って力無く俯くと…再びそのまま静かに瞳を閉じた。

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