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封じの道具

じいさんは、どこか寂しげな顔で美沙の顔を見つめたまま


「…そうじゃな。過去に起きたその事件と、凛との間にあることを話さんからには、まったくと言っていいほど意味の無いことじゃのぅ…」


そう言うと、視線を再びリビングルームから続く、立派な庭のほうへ向けながら…静かに口を開き始める。


「その事件の…異形の者によって惨殺された両親の死体を最初に発見した第一発見者…いや、あの場合には発見したとは言わんのかもしれんがのぅ…。それが…凛じゃ、まだたった六歳の…」


じいさんはここで、何かの感情を呑み込むように言葉を区切ると


「…ご近所の方が回覧板を届けに、たまたま神社うちに訪れてのぅ…それで発見通報されたんじゃ…。そんなだいがあったというに、わしとばあさんは所用でその場を留守にしておった…。警察から連絡を受けて、急いで戻ってみれば…感情の無いまるで人形のようになった孫娘が、凛が…人封じんぷうふだをその小さな手に握りしめ、たたずんで…」


そのときの光景を思い出したのだろうか…。

じいさんは、今度は感情を呑み込み切れずに言葉をつまらせて…そのまま静かにうつむいた。


…。

…六歳の女の子が、惨殺された両親の側で、為す術も無くそれを見つめて…ただ呆然と立ち尽くして、いる…。

そんな光景を思い浮かべるだけで、やるせない。

俺はただただ、やるせない…。


そんな悲しい空気が漂う中…。

小さく鼻をすすり上げる音に、俺がチラリと隣りを見てみれば。

摸が俯いて、手の甲で一生懸命…頬にこぼれ落ちた涙を拭っている。

もしかして美沙も、摸と同じように泣いているのだろうか…?

気になった俺が、今度は美沙のほうをチラリと見てみると。

美沙は真剣な眼差しで、じいさんを見つめたまま


「…あの “人封の札” …とは、何ですか?」


落ち着き払った声で、そう口を開いたところだった。


じいさんは、込み上げていた感情をまるでおさえ込むように、小さくゆっくり息を吐き出すと


「人のからを道具として、その中に害為すモノを封じ込める術のことじゃ…」


そう言って真っ直ぐに、美沙を見つめ返した。


「…!!ちょっと、ちょっと待って下さいよぉ~!それじゃぁ…それじゃぁ凛ちゃんの身体の中には…その人封の札の術によって、異形の者が封じ込められている…ということですかぁ~!?」


じいさんの説明を聞いて、感情が爆発し取り乱した摸が、涙でれた顔をサッと上げて、じいさんに抗議するように叫ぶ。

じいさんはそんな摸のほうへ顔を向け、その顔を真っ直ぐに見つめながら


「…そうじゃ、その通りじゃ。おそらく数百年もの間、封じ込められておった壷の中で、力を溜め込んでおったのじゃろう…予想以上に異形の者のその力が強く、娘と婿の二人の能力だけでは、再び封じ込めることが不可能だったのやもしれん。そこで居合わせた自分達の娘に…凛の胎内に、人封の札を使つこうて封じ込めたということじゃろう…」


「…そんな!そんなのひどすぎま…」


すぅ~!…と、再び叫ぼうとした摸の声をさえぎるように


「異形の者を外界に出さぬのが、我らが役目。例え身内といえど、それ叶うならば道具として使うは…必然」


じいさんは、取り乱している摸を落ち着かせるような厳しく冷静な口調でそう言い切ると、続けて


「異形の者が野放しになれば…わしの娘夫婦と同じような事件が数多く、この街で発生することになるだけじゃてのぅ…」


静かにそう言うと、悔しそうに自分を見つめる摸の濡れた瞳を、優しく見つめ直した。

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