中間地バゲット
早くも第二話です。読んでくだされば幸いと思います。
カムラとラリアは中間地バゲットに到着した。バゲットはアスチュートに行くにあたっての中間地点であり、人口は大凡2500人となる都市であった。
「ねぇ!カムラカムラ!」
「何…おぉ!!」
普段大きく反応を見せないカムラも思わず声を漏らす。正面にあるのは巨大な壁、城壁。
諸邦都とも思える巨大さは驚嘆、感嘆はさる事乍らアスチュートへの更なる期待をも彼等の心に齎していた。
「デカいな…」
「アンタ達は初めてか」
御者がカムラに話かける。
「ええ。そうです。自分らは村から出るのは初めてでして」
「バゲットがこうも大きい理由はわかるかな」
それにはラリアが応える。
「ん〜…あ!こうよ。ここには他にもいくつかの村からの道の合流地点、でしょ!」
「お嬢ちゃん賢いね。そうだ、ここは12の村落とアスチュートを結ぶ中継なのさ。
冒険者を目指す奴は大抵ここにくる」
御者と話す内に検問を通る。衛兵に冒険者証明書を見せるとその巨大な門は開かれた。一体どれほどの門というのか。高さは4mは下るまい。
門を通ってその中へ。内部は煉瓦造りの建造物の並ぶ街並みであった。
「バゲットは貴族の直下なんですか?」
「いや、領主様が作ったものさ。と言っても指示を出したのは公爵様だけどね」
「ハーデルハイト男爵はアルゲンタヴィア公の陪臣だから、ですかね」
「まぁ、そうなるかな」
会話の中でも景色は変わる。城壁の中はカリリオンと比してラリアが見たこともない景色になっていた。様々な人々が売り買いし、装備を着た人々、それも兵士とは違う人々がいた。
「カムラ、あの人達は?」
「あの人々は何ですか?傭兵?」
「アンタらがなりたい職の人さ」
彼等こそ冒険者であった。大きな得物を担ぐ人、魔杖を装備する人、剣を腰に下げる人。中には長物の銃を持つ人。
「銃を持ってるのか。御者さんも持っていらっしゃる?」
「ん?ああ。ほら、持ってる」
「へー…」
その後カムラらはバゲットの宿に到着し明日朝に出発する事が決まった。
バゲットの地に足をつけ、歩んで見れば更に賑やかな事に気付かされる。道に張り出す屋台に無数の人が品定めをしていた。武器屋、香辛料、金、更に怪物の皮まで。深い紅を持つ鱗には一際高い8アーレスもの値札がついていた。札にはサラマンダーの鱗と記載されていた。
「サラマンダーの鱗なんて売ってんのか…」
「カムラカムラ!」
売られていたものはこれだけでなかった。魔石も売られ、1kg辺り200デナースとなる。一瞬買おうともラリアは思案したが、1kgは過剰であった。
「ねぇ、お店の…人?」
ラリアが話しかけるとそこにいた少年は頭を縦に振った。
「そうだよ。でも待ってね」
少年は裏手に行き、父を呼ぶ。奥から現れたのは小太りな男。白の混じった口元を丸々隠す髭持っていた。
「何だ?」
「ど、ドワーフ…」
「ドワーフだからなんだ。買わないなら…」
「あー待って!待って!買うの!買いに来たの!」
するとそのドワーフは再び向き直って
「何が欲しい」
と聞いてくる。ラリアは幾つか言葉を詰まらせつつも、500g分が買えるかと聞いてみた。
「半分が欲しいと」
「そ、そう。買える?」
「…難しいな。これはこれで丸々売ってるもんだ。傷が付くと…値段が下がる」
「……」
キッパリと言われ、ラリアは黙ってしまった。しかしラリアはこれを買おうと決めた手前、そう引き下がれない。しかし黙っていても埒が明かない為にカムラはラリアにこう言わざるを得なかった。
カムラはラリアに耳を貸せとジェスチャーを見せるとコソコソと耳打ちする。
「まるまる買おう、ラリア」
「え?」
「わかる。わかるとも、重いし、200デナース、安くない。わかるとも。だが。買わないより買っちまおう」
「で、でも重いよあれ」
「心配すんな!俺が持つ!」
ラリアはそれでも尚逡巡の期を見せたが頭を縦に振るとドワーフに振り返る。
「買います!」
そう言ったラリアにドワーフの男は頷いた。ラリアは結局200デナースを払った。カムラがこれを持ち上げてみる。袋に包まれたその魔石は明確に重みを感じさせた。杖に嵌め込むとなると職人が必要となるが、ギルド組合に任せると安くすむ。その為にこれは放置せざるを得ない。カムラは片腕に抱くように抱え、そのまま二人はそのドワーフの店を去った。
またカムラ自身も欲しいものがあった。それが短剣である。カムラの考えにあったのは自身の帯びる剣で解決し得ない目標があった場合、短剣はトドメか、急所、特に眼球、頭部、関節、脈路に対する攻撃手段として欲していた。
「ナイフ買っていいか?」
「値段によるけどね。やめてよ合金製の短剣とか」
「鋼鉄製ならいいだろ。ミスラル単品ならんまぁさして高くもない」
「オリハルコンはダメなの?」
「…鉄よりも軟いのに?ミスラル製がいいな、うん。大丈夫、天然ミスラル製なんて買わないから」
そう言うとカムラはその足で屋台に行き、品定めを始めた。店主も気づいたかカムラの元に歩み寄る。
「何をお探しですかい?」
「短剣を。頑丈なのがいい。尚且つ鋭いのが」
「ミスラル製なんてどうでしょう」
渡された短剣を手に持つ。硝子にも見える刃が煌めいている。
「頑丈か?」
「刃こぼれはミスラルですから。ですが鉄と混ぜております。ですから、腹から折れる心配はございません」
カムラは刀身の腹を見た。刃と異なり腹はより黒く見えた。刃は綺麗に研がれており、一切の厚みをも感じさせぬ仕上がりを言葉なくとも見せつけていた。
「なるほど…砥石も買えるならありがたいんだが」
「勿論!ご用意しております」
そうして店主が出した砥石は細かくも大きさが一辺20cmほどの大きさであった。
「こちら。ミスラルに丁度いい細かい目の砥石、これもミスラルとなっております」
「合計で?」
「300デナースでございます」
「買った」
「ありがとうございます!少々お待ちください!」
カムラの手元に短剣と、砥石が置かれる。その二つも手に下げるとカムラはラリアの元に戻った。
「ほい、ただいま」
「何買ったの」
「ミスラル合金製の短剣」
「ご、合金…」
「おっと待て、こいつはアダマント無しの鉄と混ぜたもの。定義的には合金だが、比率はさして高くもない。安心しろ」
「いくら?」
「300デナース」
「魔石より高いじゃん…」
「気にするな、一生もんだ」
「本当?」
「そうとも」
カムラはどうだと言わんばかりにラリアに見せつけると、ラリアはそれを手に取り、鞘を抜く。鈍いミスラルが日の光を浴びて煌びやかに輝いていた。
「…綺麗…」
「そうか!なら買った甲斐はあったな」
「ただ!あの鉄の短剣なら150デナースも安いわ!頑丈だしね!」
ラリアは屋台にかけられた短剣を指差した。しかしカムラはラリアの肩を笑って叩く。
「まぁまぁ。稼げばいいじゃないの」
「なーんか、私より浮かれてない?」
「素材一つで死ぬなんて、真平だからな」
カムラの顔は先程の笑いを見せていない。本当に死ぬのだと、そう目が語る。
「お前に助けられたその前、モンスター連中に痛い目にあったのをよく覚えている。だからよくわかる」
「あ、そういう事。…んー、なら許す」
ラリアは魔石を安く買わなかった事を思い出し、気を変えた。カムラも顔を緩ませ、答える。
「そりゃ良かった」
***
日も落ち始め、カムラとラリアは宿を選んだ。旅人用の馬小屋も隣接しているようだったが、彼等二人には関係のない話である。部屋はやや小さく、大凡にして二〇平方米といったところであろうか。
「まぁ、一晩泊まるだけだしな」
と、カムラは溢すが、ラリアは不満を隠し得ない。
「何が嫌さ」
「二人部屋じゃん」
「だな」
「男と一緒じゃん!」
ラリア曰く、いくらカムラとでも異性と一緒の部屋なんて、と、こういう言い分である。
「仕方ない。3アーレスで納めたいならな」
「じゃ、じゃあ何もしない?」
「当たり前だろ?はっ、お前の身体にどう…ぶふぁっ!」
カムラの顔面に枕は飛ぶ。
「馬鹿っ!」
ラリアはその後カムラに包めた布団をなん度も叩きつけた。カムラは観念して謝ったが、部屋は全て埋まっており、変える事はできなかった。
かかる事ありつつも、日が完全に落ち、外を見ると光が幾つも灯っていた。ラリアも感嘆を禁じ得ない。
「…凄い」
路地にある幾つもの柱の上に角灯があり、火が灯る。カリリオンでは昼が終われば建物の角灯以外は暗がりであったが、柱の上に置かれた角灯が街の隅々に設置され、街を照らす。光の届かぬ所なく、下方には数多影が街を渡り行く。
ラリアはその景色をただ見る事しか出来ない。何せ、彼女は弱冠一六年の身なのだ。それ故にかかる景色はそうそう目に入れる事は無く、否、祭りである時で以外に目に入れる事は無かった。故に驚嘆を隠せないのである。
「ラリア」
カムラがそんな見惚れるラリアに声をかけた。カムラは時計を見せる。時刻は十九時を廻っていた。
「あ、もうそんな時間?」
「んまぁ、来てから一時間弱ってところにはなるが。飯いこう」
「あったっけ?」
「街に飯屋があったさ。旅人向けのな。遅くならん内に行くぞ」
カムラは準備を手早く済ませていく。ラリアも慌て上着を羽織ると頭を縦に振ってカムラの後ろをついていった。
下の街は上から見るものと又、別の風情をラリアの五感に感じさせる。昼中でさえ彼女にとって新鮮な心境を齎すも、夜中の昼中と違わぬ騒々しさを残す景色は初めてを知る赤子の感覚を取り戻しさえしたかもしれない。それはカムラとて似ていた。圧倒と驚嘆を内包した感情は言葉にしなくとも隠し通せぬ目はその内心を如実に表現していたであろう。
カムラが向かったのは彼等の宿のある通りと反対に位置する店であった。居酒屋であったようで、ワインとパン、そして乾燥されたハムであった。ワインはやはりと言うべきか、酸味が強く、この街であったとしても決してそれは嗜好品ではない。しかし乾燥ハムは燻製されたものであったようで、香ばしい香りは二人の食欲を質的に満たすに充分であったのは言うまでもなかった。
「カムラ、このワイン飲む?」
「は?」
「これ村のよりも強い気がする…いつも飲んでるのは五番だから…」
「水いるな。すいませーん!」
「はい、どうしました」
「水ありますか」
「水ですね。10セースかかりますが」
「大丈夫なんで。お願いします」
「多少高いが。あった方がいいだろ」
「…うん」
やや頭を抑えるラリアにカムラは水を渡し、そのまま店を出た。最後の最後になって、まさかワインが強い等と言うとはカムラは想像をしなかった。
「ごめん、最後に」
「いや、確かにあれは村のピケットとは違うやもしれんからな。これは仕方ないさ」
宿に戻り、ラリアは倒れるように寝込んだ。そのまま静かに寝息を立てて眠る。
カムラもまた、今日の様々な出来事を日誌に綴った。街灯、街の形。城壁の高さ、売るもの、人口。事細かに日誌に記し、そのまま寝入った。
ここまで読んでくれた方、ありがとうございます。大体後二話分は戦闘シーンがありません。どうか宜しくお願いします。




