出発の日は唐突に
初…ではないけど、前のを消したので実質初投稿、という事にしてください。拙い文ですが読んでくだされば幸いと思う次第です。
冒険者、とそんな職業を聞けば誰しも憧れるだろう。農奴の解放から大凡一世紀程経った。
誰しも何も無い身分からの大成を目指し、特に若人は村を出て、地方都を出て。冒険者となる。御伽話の英雄が如く活躍できる事を願って、遺跡なる場所に脚を踏み入れる者達は後を絶たない。
例えば、今日、洞窟に脚を踏み入れた二人の男女も例に漏れない。
「はぁあああっ!」
男の気合いと共に振り下ろす剣は眼前の大蜘蛛の頭部を斬る。男を背後から襲おうとする大蜘蛛もいるが、叶わず。
何処からとも無く、風というにはあまりにも強いその風撃にその大部分を消し飛ばされ。
「ファイエルっ!」
少女の与える火球は大蜘蛛を飲み込む。悶える蜘蛛も脚を失い、のたうち回って朽ちた。緑の体液を浴びた男は長剣を構えて迫るトカゲに向き合った。しかし直後に後背から怪物。背中をやられ、痛みに堪え、しかし二人は退がらない。
彼等の続きは大凡一週間程前に遡る。
***
斧を振り上げ薪を割る。鳥の囀りも心地良いものだと感じる青年が一人。ヤスヒデ=カムラはカリヨン村で静かに暮らす青年だ。村に流れ着いて以来ここで暮らしている。
木を加工して生計を立てるのだ。加工といっても大雑把であり、寧ろ加工する前の木を材料にするのが彼の仕事であった。その他はどの木がいいか、どの木を材料として販売するか。その程度。
「ふぅ〜っ。疲れた。休もっと」
空は晴天。自然豊かが故に空気も綺麗だ。と言ってもカムラがここに来ておおよそ二年ではあるが。
「なぁに休んでんのよ!」
やっととカムラが地面に寝転んだ時、そんな声が聞こえた。青色の髪をたなびかせた少女が一人。可憐、いや、可憐とは程遠いその態度と共にカムラの頭上にそれはあった。
「ほぉ?んじゃお前やってみるこったな!」
「こんなの魔法でちょちょいのちょいよ」
「甘い、甘いね。俺のやる肉体労働はな、キツいんだよ」
彼女はラリア=ブラウン。カリヨン村に住む少女である。魔法を最近覚えたようで、上手く使っていたが、カムラは身体を動かす事に価値を見出しているのでいつもあーこーと言い合っていた。
「ウォーターカッターっ!」
高水圧で木が切れた。
「あっ!俺の木がっ!」
「アンタが遅いのが悪い」
「あにぃ!?」
木を切った後、ラリアは意を決したように口を開く。
「ん」
「ん?」
渡された紙は冒険者募集の紙。
「冒険者募集?もう探る場所なんてないだろ?
最近ウチの国のギルドが新大陸に新しく植民都市を建てたじゃないか」
「まだよ。遺跡が残ってる」
「…死ぬんか?」
「ちがーう!これを理由に都市に行くの!」
「行って?」
「お金欲しい」
「甘い」
あまりにも簡単で、楽観的。カムラも都市に行った事はないが甘いと理解るくらいには楽観的だった。
「都市なんて何があるんだよ」
「デンキュウっていう光るのがあってテツドウっていう鉄の塊が動くっていうの!見たい!それと冒険者なら都市で一発稼ぐのよ!」
「…どうだかねぇ。…………」
沈黙。カムラの顔は呆れた。が、何かに気付き、徐々に顔が引き攣った。
「まさか」
「その、まさか」
「いやだっ!!」
カムラは子供のように叫んだ。
当たり前だった。彼にとっては自由な日々だというのに壊しにきたこの者は何というのであろう。彼は思わずにはいられない。
とはいえラリアにも理由はあった。カムラに拒否されるのは困るではないか。
「そう言わないでよ〜。この通りっ!!」
「俺かよ…よりに?よって?」
その後に聞こえるは声にならない悲鳴、カムラは子供の様に駄々を捏ね、ラリアは鼻歌ついでにペンを出す。
「ここにサインすれば良し。一人だけだと私冒険者の資格級足りなくてさ〜」
見せびらかすように冒険者資格証。5級と初歩も初歩な資格証を自慢げに出す。
「だったらギルドが募集してる傭兵軍にでも入って植民都市行けばいいじゃん…なぁんでよりにもよってクソむつかしい遺跡攻略なんだぁ〜」
「ギルテッドさんにもOK貰ったわ。行くしかない、でしょ?」
「剣は?」
「ここ」
ラリアはちゃっかり長物の剣を下げていた。
「本気かよ…俺は折角のこの仕事にも慣れたってのに……」
「私に恩は感じないのかしら?1年前に道端でくたばってたアンタを助けたのは〜」
「ラリア様ラリア様」
「わかってるじゃなーい。アンタは差し詰め私の騎士!私がこき使ってあげるわ!」
「あげるわちゃうわ!」
ラリアは中々堕ちないと思ったか、顔を下に向け
「…行ってくれないんだ」
こう言った。カムラは頼まれ事を何でもする人間ではなかったが、こう言われるとやらざるを得ないと思ってしまった。
「……一年だけだぞ。俺はお前に死なれたら、マーサさんに申し訳も立たんが為にこそ、行くんだからな。危ないと思ったら帰る。それなら…やってやる」
「ヨシっ!」
カリヨン村は人口500人にあるかという小規模な村である。村唯一の学舎は最早全学年揃えて40人。カリヨンは諸邦都アスチュートまでは遠く、山に隣接する為、行きの便も悪かった。その為か殆ど隔離されたようなものだった。
ラリアは元よりこの窮屈な場所を抜け出したかったわけで、言うなれば若気の至りだろう。しかし彼女の意志たるや村でも指折りの頑固者だった。カムラにとってはそれに付き合わされたようなもので、当然、頭を抱えた。
「…という事で」
カムラは村の中でも取り分け仲のいいアムールにこれを話した。
「お前ら仲良いな!」
返ってきたのはこれである。どうもアムールは前より二人がお似合いだなんだと言ったが今回もアムールはカムラとラリアをこう評した。
「待て、今回は俺の命かかってんだぞ!?」
「…まぁでも殆ど攻略された所ばかりだからなぁ。もう獣だってそう気をつけていれば遺跡でない限りは問題無いだろうし」
アムールもまた冷静な物言いに聞こえた。
「一応、親父に頼んでいい剣持ってくるわ。待っといてな」
「あぁ。それは忝ない」
「…?」
「なんでもないさ、ありがとう」
カムラに渡された剣は一際出来がよく見えた。幅広の片刃の刀身に鋭い刃先。斬るにも刺すにも足りるだろう。直剣なのがお気に召した。直感的に、本能的な攻撃に向いている。叩くという行為に使えるのだから用途としても汎用性があるものであった。
「良いもんだな。ふむ…気に入った」
「木も安心して切れ。ナタだぞ?肉も真っ二つ」
「なるほど。後生大事にするぜ」
「おう!使ってくれ!」
武器の話も終わったところで、アムールがこう言った。
「本気で行くのか?俺は…」
しかしその言葉をカムラが遮った。
「止めてくれるよな。知ってる。お前はそうする。でも、まぁ。ラリアにとってもこれは一つ経験になる、なんて思う。部外者の言う事じゃないし、何を偉そうにって思うかもだが」
「そんな事誰も思わない。カムラはこの一年で村に馴染んだよ。誰も疑わない」
「なら今回は止めるな。いや、違うかな、ラリアを止めないでやってくれ。何が何でも、守ってみせる」
カムラの言葉にアムールは仕方ないと漏らさざるを得なかった。そうまで言われては。とアムールは思ったのだろうか。カムラの言葉を、真剣なその眼差しを。アムールは信頼し、カムラを送り出した。
***
翌週、多数村人がいる中で村長の許可を取って出発した。
「行ってくるわーっ!!」
「行ってこーい!!」
村人の声を背に一歩。随分と楽しそうなラリア。いざゆかんと村を離れる。カムラにとってラリアが見ているモノ等知った事ではないが、直ぐに現実を見て諦めるのだろうと。
馬車に乗り込み、先ずの目的地はアスチュートである。到着予定は四日後の午後三時。カリヨン森林帯を抜け、バゲット平原を通り、中間宿バゲットを経由し目指す。
「な、お前は何に憧れて魔法を覚えた?」
その間、カムラにふとそんな事を聞かれた。ラリアはカムラを見て応える事にした。
「…憧れよ。知らない?ローズ=フォン=バーベンバッハ。稀代の天才」
ローズ=フォン=バーベンバッハ。カムラもその名は聞いた事があった。ヴィーラント出身の特等魔術士。神学にも精通するとか。有名人も有名人であったが、カムラとしては、あれほどの人物は努力だけに成し得ないものが存在するものだと、常日頃思う所にある。
「そりゃまぁ。けんど、ありゃ才能だろ」
カムラの言葉にきっぱりとラリアは否定した。
「努力もあると思うわ。だって多少差はあれどみんな同じ様に生まれるのよ?才能で強くなるほど甘く無いはず」
「成程」
カムラはそれに多くは返さなかったが、魔法に思い入れのあるラリアに配慮が無かったと、申し訳なくなってしまった。
「カムラを選んだのは信頼だから。なんだかんだで村に来て、我儘な私といてくれたし、何より外に興味があるのはアンタも一緒でしょ?」
「…俺をよく見てるぜ」
ラリアの言葉は選んだものではなかった。故にカムラには響いた。カムラとて、己の過去等語った事はない。しかしカムラは恐らくはこの一年弱ラリアと過ごしてきた。一年にも満たないというのに、自分を理解する人がいるのだと思えば彼はやはり彼女には感謝しなくてはならないのであった。
「そういや、いくら持たせてもらった」
「え?あーね。ほらこれくらい。15アーレスと、500デナース、それからね200セース」
ずっしりとしたその袋をラリアは見せつける。
「ふ、ふふっ」
「な、何?」
「いや、それ、それでも…武器、鈍器じゃ!あっははははは!」
アーレスとデナース、セースは彼が生きるこの国、アイヴァースに流通する金貨幣であり、デナースは銀貨幣、セースは銅貨幣である。始まりは遥かに昔、帝政カルタノから始まったアウレウスとデナリウス、セステルティウスであり、帝政カルタノの消滅した後も普及、今でこそ紙幣もあるが金貨銀貨銅貨は辺境では普及し、紙幣に取って変わってはいなかった。
そして、彼女は当然それを持っていたが。
「ふぅ…で、都市部で通用すんのか?」
「私達の村じゃ通用してたじゃない」
「うーん。いや、そうだけど。そうだけども。最近金貨見ないだろ?」
「確かに」
「まぁ、金か」
「そうよ。使えないわけないわ」
「確かに。それもそうだな。杞憂だ杞憂。気にすんな」
カムラには紙幣の流通度合いが気になって仕方がなかった。しかし、カムラにとっても都市は初めて。カムラが紙幣を知るのは彼が都市部の人間に木材を売るからであり、その時に紙幣を渡された為に知っていた。
「紙っぺらの金を代金として出されたんだよ」
「へー。そんなのあるんだ」
「あるらしい?俺もこう、詳しく知ってる訳じゃなくてな」
そんな言葉にラリアは頭を抱える。
「あー!なら村長に聞けばよかった!」
が、カムラは何や納得を得ていた。
「んま、何とかなる。お前もそう言ったし」
「…そっか、そうね」
「さっきもしなかったかこの話」
「そう?」
二人の会話はそのまま進んだが、次第にラリアは舟を漕ぎ、そのまま目を閉じてしまった。カムラはラリアが目を閉じたのを見て、手帳を開くと、日誌を書き始めた。
「これを書き出していつになる事やら」
カムラは日課としてこれを書き続けていた。いくつか書き、その後、別項に何やら書くと、それを丸めて道端へ捨て、また別のを書き綴った。
口も寂しい為に硬いパン切れを齧り乍らカムラは何やら満足だと表情を浮かべた。カムラは外を見る。鮮やかな緑、広葉樹であろう。木々が生茂り、しかし道は何度も何度も踏み固められたからなのか、それとも、整備しているからと浪漫の無い理由かは彼の知る所でも無いが、少なくとも見てわかる事として、雑草も生えない路である事は理解出来、改めてここはカリヨンに続く数少ない通りなのだと理解させられる。
「贅沢を言えば、サ。あんな村がよくも保つ。普通は災害一つで潰れそうなものを」
独り言を漏らす。彼自身これは贅沢だと知っていた。知った上で、言わずにいられない。お世辞にも性格の良い言葉ではない。寧ろ悪い、悪い方であろう。ただ、ふと、改めてそう思うのは人間として当然で、ラリアは言わずもがな、カムラもまた、助けられたとは言え、そう思う事はあった。無論、それは別の村、という考えにあって、都市、それも遺跡になどラリアの方から行く事になろうとは想像だにしないのは違い無き心中ではあった。
読んでくれましたか、と聞いても多分これを見てるなら読んだんだと思います。ありがとうございます。面白かったですかね?自分は自信なんてこれっぽっちもありません。これからも読んで頂ければ幸いです。




