第七演目 レモンの冬
なさけ深く、陽気な王様のもとに、「レモン」とよばれるおどりこたちがいました。
おどりこたちは、王様のために毎日たくさんおどりの練習をして、夜のぶとうかいやおまつりでおどりました。そのおどりはみごとなもので、見ているだれもがむちゅうになっりました。もちろん、王様もレモンたちのことが大好きです。
おどりこたちが「レモン」とよばれているわけは、まっ黄色の服を着て、黄色い笛を吹き、黄色い旗をもっておどるからです。レモンは、王様にたのまれると、どこにでも行っておどりました。
とびっきり寒い冬のある朝、王様がレモンを呼び出して言いました。
「わたしのだいじなレモンや、国の一番北にある小さな村に、行ってくれないか。お前たちのおどりが、そこの人々に必要なのだ」
レモンのリーダーは、元気に答えました。
「かしこまりました! さっそく、出発しましょう」
その言葉通り、レモンはお昼にはお城を出発しました。レモンは全部で六人。みんな、若くて元気な少年少女たちです。雪がふる中でも、ずんずんと目的地にむかって進みました。
ところが、北へ北へと歩いていくと、だんだん雪が深く、はげしくなってくるのです。しだいに、足が雪にとられて、何度もつまづくようになりました。はじめのうちは互いにはげましあっていたレモンたちですが、つかれてきて、だまってのろのろと歩みを進めます。
夕方すっかり空が暗くなると、目的の村はまだまだ先ですが、レモンたちは宿をとることにしました。宿屋でブーツをぬぎ、だんろの火で体をあたためると、レモンたちはまた元気になりました。
「こりゃあひどい天気だ。北の村の人たちは、さぞかし大変だろうなあ」
レモンのリーダーがつぶやきました。宿屋の人があたたかいシチューを運んでくれて、夕食が始まります。
夕食の後は、レモンたちがおどりました。タンバリンをたたき、両手足につけた鈴を軽やかに鳴らしながら、とんだりはねたり、ステップをふみ、くるりととんぼ返りしたり。宿屋ではたらく人たちや、泊まっていた人たちも、彼らのおどりを楽しんでくれました。
次の日の朝早くにレモンは出発します。朝からすごい吹雪で、目の前もまともに見えないほどでした。レモンは何度も方位磁石を見て、自分たちがちゃんと北に向かっているのかどうか確かめます。
「あたしたち、そうなんしてしまうんじゃないかしら」
「大丈夫。だめだよ、そんなこと言っちゃ」
「ねえ、もう都に帰ったらどうだろう?」
「王様に怒られるから、だめ」
「何か、変な声が聞こえない?」
「風の音だよ。ほら、耳当てをしっかりとめなきゃ」
レモンたちはしっかりくっついて、だれ一人はぐれてしまわないよう、しきりに声をかわしながら進みます。
とつぜん、ものすごく強い風がレモンたちをおそいました。
「きゃっ!」
レモンたちは、雪に倒れこみました。その上を、風たちがめちゃくちゃに暴れ回っていて、とてもその場から動くことはできませんでした。まだお昼前だというのに空は暗く、雪をまだまだためこんでいるぞとレモンたちをおどしているかのようです。
「このままじゃ、とても北の村にはたどり着けないわ」
一人のレモンが、悲鳴を上げます。リーダーはしばらく何か考えていましたが、やがてにっこり笑って言いました。
「じゃあ、おどろう」
そして、がいとうを着てブーツをはいたまま、雪の上でおどり始めます。他のレモンたちはぽかんと彼のおどりをながめていましたが、やがて一人、もう一人とおどりに加わりました。するとだんだん体の中からぽかぽかと熱くなり、元気がわいてくるようでした。
リーダーがさけびます。
「このまま、北へ行こう!」
レモンたちは賛成し、おどり、とびはねながら北へと進むのでした。風はあきれてしまったのか、いつの間にかやんでしまい、雪もいくらかおさまったようでした。
どんどん進んでいくと、雪に半分うずもれた家がいくつも見えました。すかさず地図をとりだすと、北の村にちがいありません。レモンたちは歓声を上げて、深い雪の上を走ったり転げたり、そうぞうしく家に近づきました。
ところが、どの家のとびらをたたいても、返事はありません。とびらに耳をぴったりつけてみると、中から物音がきこえるのに。
「もしもし、だれかいませんかあ! 王様のお使いで来ました!」
そう呼びかけても、とびらが開く気配はありませんでした。
レモンたちはがっかりして、とびらの前に座り込みました。ここまで来て、家の中に入れてもらえないなんて。王様は、レモンたちが村の人々に必要だと言っていたのに。
「このままだとこごえ死んでしまうから、火をつけよう」
そう言って、レモンの一人がたいまつに火をつけました。そのたいまつは特別で、雪や雨の中でも、なかなか火が消えないようになっているのです。
火をつけたたいまつは、ふりしきる雪の中であかあかともえました。レモンたちはしっかり固まって、かじかんだ手を火であたためたり、雪にてりはえる火の影をじっと見つめてすごしました。
するとにわかに、家のとびらがばたんと開きました。はっと振り返ると、中にいたらしい女の人が、びっくりしたような顔でレモンたちを見つめています。
「あんたたちは、氷鬼ではないの?」
「氷鬼?」
レモンたちが聞き返した時、たいまつの火がふっと消えました。女の人の顔がみるみるうちに恐怖で固まります。
「はやく、中に入って!」
言われるままに、レモンたちは家の中に転がり込みました。女の人はすばやくとびらを閉め、錠をいくつもかけました。
吹雪がちょうど始まったのか、すさまじい風のうなり声が家の外を回っています。
家の中はあたたかく、雪だらけのレモンたちはほっとして座り込みました。住人らしい女の人と、その子どもたちが三人、まじまじとレモンたちをみつめています。
レモンのリーダーが、女の人にお礼を言いました。
「中に入れてくれて、ありがとうございます。ぼくたちは「レモン」、王様のおどりこです。王様にたのまれて、この村にやってきました」
「王様の……?」
女の人は、困ったような顔をしました。
「あいにくだけど、おどりこさんの出番はないわ。見ての通りここの冬は厳しくて辛いから、おまつりをやるひまもないの」
レモンたちはがっかりしました。
「そういえば、氷鬼って何ですか?」
「冬を司る、恐ろしい鬼よ……」
氷鬼の名前を聞くと、子どもたちがぶるっと震えました。レモンたちはそんな子どもたちをくすぐったり、変な顔をしてみせたりして笑わせます。
「氷鬼は吹雪を起こし、太陽を分厚い雲でおおいかくし、出会った者を手当たり次第にこおらせてしまうの。だから、冬はだれも外に出ないことにしているの。あなたたちが来たときも、氷鬼だと思った……でも、火を灯していたから、ちがうとわかったのよ」
「氷鬼……」
レモンたちは、窓をのぞきました。雪ばかりが見えました。
「氷鬼の姿を見た人はいないのよ。出会ったが最後、氷の像にされてしまうから」
それを聞いて、レモンたちもみぶるいします。
「怖いね」
「氷にされたら、おどれなくなっちゃうしね」
そんな中、リーダーがすっくと立ち上がり、高らかに言いました。
「いいや、おどろう!」
そして、がいとうをぬぎすてて、せまい家の中でおどり始めました。子どもたちが喜んで、見よう見まねでおどりに加わります。女の人はおどろいていましたが、やがて手拍子をしてくれました。
おどっているうちにすっかり熱くなり、着込んでいたレモンたちも子どもたちも、次々と上着や中着をぬぎました。火も楽しげにおどっています。
その日一日おどってすごして、皆夜はぐっすり眠りました。すると翌朝、吹雪はやんで、太陽が顔を出していました。
女の人がおどろいています。
「今まで、冬に太陽を見ることなんてなかったのに」
レモンたちは、外に出てみました。雪がすっかり固くなって、ずぶずぶ沈まずに雪の上を歩けます。子どもたちも、窓から顔を出して、つららを折ったり雪にさわって遊んでいました。
「気をつけて。氷鬼が、いつでてくるか分らないんだから」
女の人が忠告します。
「他の人たちも、家の中に閉じこもっているんですか?」
「ええ、そうよ」
「じゃあ、そこでおどってきます!」
レモンたちは、女の人たちにお別れを言い、別の家のとびらをたたきました。空はくもり、また雪がふりましたが、家の中ではげしくおどっていたので、寒いとはだれも思いません。
その翌日、また少し晴れ間が出たので、レモンたちは次々と家を回りました。するとだんだん晴れている時間が長くなり、少しずつ雪がとけてきました。
そうしてレモンと村の人々が楽しくすごしていると、ある夜、だれかが家のとびらをたたきました。ちょうどおどりつかれて休んでいたので、音に気がついたレモンたちはとびらを開けました。
そこに立っていたのは、真っ白なドレスを着た女の子でした。家の中がにわかに冷え込み、みんなくしゃみをします。外の吹雪がどんどん入り込んで、床をうめました。
女の子は、細い声で言いました。
「わたしも、おどりに入れてくださらない?」
「いいとも!」
レモンたちは答えました。しかし女の子を中に入れると、だんろの火が消え、まどにしもがおり、食べ物はこおってしまいました。
そうです、その女の子が、氷鬼だったのです。
レモンのリーダーは、氷鬼の手を取り、言いました。
「外でおどろう。外の方が広い」
そして、恐ろしく冷たい氷鬼の手をにぎったまま外に飛び出し、そのまま吹雪の中でおどりはじめます。レモンたちも、リーダーの後を追いました。氷鬼はけらけらと笑い、レモンといっしょにおどります。
タンバリンをたたき、冷たい風といっしょになって笛を吹き、旗をくるくると回し、とんだりはねたり、ステップをふみ、とんぼ返りをしました。おかげで、こんなに寒いところにいるのに、体の中からぽかぽかと温かくなりました。
氷鬼は、言いました。
「ああ、楽しかった。今年の冬は、もういいわ。またね」
そして、つむじ風になってレモンたちの目の前から消えてしまいました。
吹雪はおさまり、空に月が出ました。レモンたちは顔を見合わせ、家の中に帰っていきました。
その翌日から、ひどい吹雪になることも、雪がうずたかくつもることも、ありませんでした。
閉幕




