01
葬儀師とは、本来故人の死を受け入れるための場を整える者のことを指す。が、これは地上での話。
冥府に籍を置く葬儀師は少し違う毛色を持っていた。
『お呼びでしょうか』
葬儀師カリンの一日は主人――冥王ハデスからの指令で始まる。
『この魂。何か変だ』
冥府の鏡を苦悩の表情で見つめるハデスがカリンに視線を寄越すことはない。
『調べろ』
短くそう告げたハデスが黒革のバインダーを執務机に滑らせた。慌てることなく平静に受け取ったカリンは、二つ折りのそれに挟まれた霊子カルテに軽く目を通す。
(なるほど――)
主の前なので、じっくり読むのは後だ。カリンは静かにカルテを畳み、小脇に抱える。
そのまま流れるように顔を上げれば、未だ常闇の王の目は鏡に縫い付けられたままであった。
「………………。」
カリンが見る鏡には眉間に深いシワを蓄えた美丈夫が映るばかりだ。同じ鏡を見ているはずなのに、自分の目に映るのは光の反射に過ぎず、冥王はそこに迷える御魂を視ている。
埋めようのない隔絶がそこにはあった。
『承りました。――マイ・ロード』
カリンは膝折礼を捧げ、執務室を後にする。
「ふぅー……」
音がならぬように細心の注意を払い、閉じた扉のドアノブに両手を掛けて深く息を着いた。
神の傍はやはり身体の芯がヒリついたような痺れに襲われる。
人知を超えた永劫の静寂を統べる存在など、ただの御使いが己の天秤に掛けること自体間違っているのかもしれない。




