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サラリーマン、銀河を行く ~底辺から花形部署へ成り上がれ  作者: 無海 シロー


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天使と完璧令嬢 2-4

 4.再会と流通、宣伝



 フィオーレ・カティエスはわざとパーン・ロス・へメナスの進路を塞ぐようにして彼の目の前に立つ。威圧するように。

 その時のパーンはどちらかというとサイバーグラスに映し出されるプログラムや情報精査をメインに本社ビルの通路を歩いていた。それでも人や物にぶつからないようにセンサーを展開していたため彼女の胸元に飛び込む前に立ち止まることが出来たのである。

「あらパーン。こんなところで何をなさっているのかしら?」

 きつく冷え冷えとした声がして顔を上げると、フィオーレが腕組みしパーンを見下ろしている。潤んだような薄紫の瞳に流れるように腰まで伸びた金髪が艶やかで、淡い水色のスーツとリボン。タイトスカートが身体のラインをさらに強調している。

「久しぶり、フィオ」

 親しい間柄にしか呼ぶことを許さない愛称で彼女を呼び挨拶をした。

「ずいぶんそっけない挨拶ね」高圧的な物言いで咎めてきた。「私が声を掛けなければ素通りしていたのでしょう。従弟さん」

「気が付いていたけれど、忙しいかと思って」

「貴方の方が、でしょう。ずいぶんと面白いことを始めたようね」

「TDFのこと? よく知っているね」

「銀河系でも屈指の情報通から聞きましたのよ」

 そのきつい口調と笑い声から彼女が金髪縦ロールの似合う高慢なお嬢様に見えてくるから不思議だ。

「流石です」

「私が、それとも彼が?」

「フィオにですよ。容姿端麗頭脳明晰ですからね」

 妖艶な笑みを浮かべながらパーンの頭を撫でる。「嬉しいわね」もっと褒めなさいと彼女は暗に言っていた。

「フィオーレ・カティエス。宇宙歴では二十六歳になり現在、市場調査課に所属。ジプコ本社に三名しかいないS級ライセンス保持者のひとりで」

「褒めろと言ったのに、個人情報をベラベラと口にしない」

 撫でていたはずの手が頭皮に爪を立ててパーンの頭部を掴みかかっていた。

 フィオーレの握力は見た目以上に強力であったが、平然とした顔で悪びれる様子もなくパーンはポケットから端末を取り出し画面を彼女に見せた。

「これどうかな?」

「私を誰だと思っているのかしら」

 秒で画面を見切ると、鼻を鳴らした。

「フィオーレは僕の従姉にして才媛。身長、体重、スリーサイズまで答えられるよ」

「答えなくていいわ」頭を抱えそうになってしまう。「この私に市場流通関係だけでなくプラットフォーム作りとそのリスク管理までさせるのだから、どうなるのか分かっているのでしょうね」

「一人で完璧にこなしてくれるんでしょう? じゃあ手伝ってくれる?」

 他の部署の人間を手玉に取るように誘いかけてくるパーンを、扇子があったら口元を隠しながら彼女は従弟をねめつけていたかもしれない。

「私はこれまでの貴方が嫌いでした。自分を隠してこそこそと生きている姿が。堂々と生きなさい。堂々と」

「猫など被っていませんよ」

「小賢しいというのです。それに貴方が被っているのは猫などという可愛げのあるものではありません。悪魔か、テザーワルナー鋼製の鎧でも纏っているのでしょう」

「なんか強そう。それに僕はまだ子供ですよ」

「どの口がいうのかしら。籠っていた穴倉から出てきて部長になったことは評価します」

「まだ僕自身自覚は無いけれどね」

「いいわ。やって差し上げても良くてよ。私の能力すべてを使い切らせて御覧なさい」

「いいの?」

「手伝って差し上げると言っているでしょう。まあすでにS級のライセンス持ちがいるでしょうけれど、プログラミングもいけますわよ」

「大助かりです。大幅な時間短縮になりそう」

「三人目も入れたら?」

「いいのかなぁ。ジプコ本社にも三人しかいないS級ライセンス保持者なのに」

「必要なら独占してしまいなさい。彼なら私が言えばホイホイやってきますわ」

「付き合っているの?」

「腐れ縁かしら」

「ただれた関係?」

「秘密よ」鼻で笑った。

「でもフィオが手伝ってくれるのなら心強いよ」

「素直でよろしい」

 再びパーンの頭を撫でる。

 周囲にいた社員達はそのやり取りと二人の姿を唖然として見ているのだった。


 パーンは本社ビルでの要件を手短に済ませるとフィオーレを伴って専用のエアカーでTDFに戻る。

 TDFは本社ビルから南西に四キロほど離れた丘陵地帯に本棟や研究施設が建てられている。彼女のTDFでのIDとセキュリティカードは移動中簡易的にフィオの名刺カードから作った。

 中に入ると事務室ではオガワとシュルドが待ち構えていた。

「パーン、喜んでくれ、名称許諾が下りて契約が出来たと報告があった。秘匿回線で契約書も送られてきたから、今、法務担当部署に確認させている」オガワは嬉しそうだった。「本当にディはよくやってくれたよ」

「流石はデュエルナ嬢だ」

 珍しくシュルドが人を誉めている。ディだけを。

「ノルディックがこの状況見たら憤慨? それとも納得かな?」

 懸案事項のひとつが解決したのでオガワは手放しに喜んでいたが、パーンの後ろからゆっくりと優雅に事務室に入室してきたフィオーレを見て驚いた。

「パーン。彼女は?」

「フィオーレ・カティエスです」礼儀正しくカーテシーをとるとオガワに彼女は優雅に挨拶する。「お久しぶりでございます。オガワ部長」

「今、ここでは部長代理でしかないんだが」彼女がそれを知らないわけがない。

「失礼いたしました」

「それでカティエスさんがなぜここに?」

「僕が彼女を誘ったのです」

「この私に市場流通とゲームのプラットフォームを任せるというのです。面白そうだったので釣られて差し上げました」

 頭越しにヘッドハンティングしてきたようなものだったので、オガワは頭を抱える。

「流通販路とネットを含め、我々にはノウハウが無いから、懸案事項のひとつだったし、誰かに頼めないかと考えていたところだったが、いきなり連れてくるとはな」

 彼女は市場流通課のエースだった。

「偶然フィオと会ったので、その場で話をしたら釣れました」

「一本釣りみたいに……市場調査課の了承は得ているのかな?」

「問題ありませんわ。私がパーンとやると言っているのですから」

「それはこれからオガワさんにお願いしようかなと」

「分かった」また折衝事が増えてしまったとオガワは心の中で嘆く。「出向扱いでいいのかな?」

「異動で構いませんよ。どうせあの課長は私を持て余しているでしょうから」

「異動交渉はするが、今は手続きの関係上、異動は標準時四月まで待ってほしい」

「面倒ですわね。パーン、貴方の権限を使ってスパッとやっておしまいなさいな」

「いくら創業者の息子でもそこまでやっていいのかなあ?」

「脛かじってここを手に入れたってことになっているのですから、いまさら美女を二人さらったことになっても、かまわないでしょう」

 フィオーレの言い様にシュルドは声をあげて笑ってしまう。

 実際にディに続き、フィオーレが出向し、その後異動となると本社内では、パーンに関して『女嫌い』から『女好き』の『ませた子供』へと噂が変化していく。やっかみ半分でどれだけ強権を使ったのだと言われ、その後も個性的かつ社内でも人気ある女性が次々と採用または異動となったので、その噂は強固に補強されていくことになる。パーン曰く『能力を見て採用していたら容姿もついてきた』宣っていたが、周囲は信じていなかったようである。

「とりあえず出向手続きは、やっておくよ」

 オガワが深いため息をつくと端末を取り出して人事部と総務部、市場調査課に連絡を入れて話を始めるのだった。

「美女二人って?」

「私とデュエルナ・ネルミス・ツイングよ。彼女がここにいるのでしょう?」早く出しなさいとパーンにきつく言い放つ。

「何をするつもりなのかな?」

「彼女は頭脳明晰、容姿端麗。私の好敵手にふさわしい方です。ライバル宣言してあげますわ」高笑いするにフィオーレだった。

「何で戦うつもりなの?」

「今のところ美の勝負では一勝一敗」

 どうやら社内ミスコンテストのことをさしているらしい。ディが入社してからこれまでに二回開催されていて一位をお互いに一度ずつ取り合っていた。

「スポーツでも仕事でも競えることはいくらでもありますわ」

 自信たっぷりにフィオーレは言った。完膚なきまで勝って見下してやるのだと高慢に笑っていた。

「悪役でも演じるつもりなの?」

「悪役令嬢ではなく完璧令嬢よ。足元にひれ伏させてあげますから」

「令嬢であることには変わらないんだね。デュエルナもお嬢様っぽかったから?」

「あの子は所作も礼儀作法も見事です。美女二人がライバル関係というのも面白いでしょう」

「つまり、そこでも勝負するのね。それなら高笑いも高圧的な態度も必要なくない? フィオも普段は清楚系お嬢様で通しているのに」

「私は高飛車な令嬢も似合うからよ。彼女は天真爛漫可憐系のお嬢様でしょうから」

「良く分かるね」今まで会ったことすらなかったはずだ。「あえて違う方向性で演じると? デュエルナの性格を理解しているんだね。まったく面倒見がいいというか、フィオらしいというか」

 それを聞いていたシュルドはパーンがフィオーレとディの本質をどこまで洞察しているだろうかと、考えずにはいられなかった。

「当然です。私を誰だと思っているのです」

「フィオーレ・カティエス。身長百七十二センチ、上から八十四,五十八,八十八センチ、今履いているヒールは五センチもので」

「油断も隙もありませんわね。ハラスメントで訴えますわよ」

「見ただけで分かるからなぁ」シレッと言ってのけるパーンだった。「身長で九センチ、フィオの方が高いから体形とかで比べるのはちょっとと思って」

「パーンに審判をやってもらうつもりはなくてよ」

「フィオも疲れないように、程々にお願いしますね」


 フィオーレは身体能力だけでなく採用以来仕事でも能力を遺憾なく発揮しすぎて市場調査課でも持て余されていると聞き及んでいたので、突然の出向依頼でもオガワ自身問題は無いとは考えていたが、拍子抜けするほどあっさりフィオーレのTDF出向が決まってしまうのであった。

「あとは宣伝とスポンサーかな。誰が良いだろうか?」

「宣伝は私でもよくてよ」

「全部仕切るつもり? フィオにはプラットフォームの件もあるから、別の人で」とパーンは言う。

「あら残念ね」

「アサノにやらせればいい」

 シュルドが珍しく口を挟んできた。

「商品開発課の? 確かに彼は適任だが……」

 オガワは考え込む。

 タクオ・ダリル・アサノはシュルドとは同期入社で、現在は商品開発課の課長になっている。宣伝では右に出るものがいないほどの手腕を発揮しているため、忙しいほど仕事を抱えていたはずである。

「構いはしません。市場に打って出るのであれば、アサノ以上の適任者はいませんよ」

「受けてくれるかな」とオガワ。

「私の名前を出してください。あいつにはさんざん貸しがあるのでね。嫌ならば、今後一切の手伝いはしないと言ってやってください」

 シュルドは一緒に転職してきたアサノの手助けをこれまでに何度も行っていたのである。断れるはずがないと自信満々なシュルドだった。

 実際、眉間にしわを寄せながらアサノ課長は渋々宣伝を了承してくれた。

 こうしてサポート体制も決まり、少数ではあるが精鋭な人材が集ったことで、驚異的なスピードでゲーム開発が行われることになるのだった。



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