第19話
〜那古野城〜
広間にて信長の前に跪き、頭を垂れる少年がいた。
「こ…この度は…信長様にお会い出来…うれ…嬉しく思い…思います。」
緊張からか言葉が上手く出ていない。
それもそうか…慣れない敬語に、わずか4.5才の子供が人質として他人の領地に連れてこられたのだから。
「竹千代よ…楽にしていいぞ。その歳で親と離れ寂しかろう。説明を受けたかと思うが…こうしないと松平家も織田家も今川に滅ぼされる可能性があってな。”人質”と言っておるが、何か要望があれば言ってくれ。出来る限りのことはすると約束しよう。なるべく早く戻れるようにこちらも動くからな。心配するなよ。」
竹千代も人質として送られる前に、ある程度の説明を受けたが、それでもまだ子供。何かされるのではないかと不安でしかなかったが、信長の優しい言葉を受けて、少しだけ安心する。
「好きなモノはあるか?食べ物でも、やりたい事でもいいぞ?父が戻るまではここで過ごす事になっている。遠慮はいらん。なんでも言ってくれ。」
その問いに竹千代は考えた。
そして…数分後。
「あの…父から…信長様は”剣術”も一流とお聞きしました。なので…時間があれば僕に稽古をつけて頂けないでしょうか。」
「ほぉ…それはなぜじゃ?なぜ強くなりたい?」
意外な一言に信長の雰囲気も変わる。
「ぼ…ぼ…僕に力があれば…。三河を…僕の故郷を…守れると思ったからです。」
「…………フハハッ。ハハハッ。よし!!分かった。時間があれば稽古をつけるとしよう。私の稽古は厳しいぞ?ついてこれるか?」
「「「はいっ!!!」」」
信長は竹千代の事を気に入った。国は違えど、将来は家を継ぐかもしれない者同士。
それを見て家老達は頭を抱えた。
「はあー。信長様は分かっているのでしょうか?将来敵になるかもしれないのですよ?それを自らの手で稽古をつけるなど…。」
「良いではないか。子供ひとりで敵国に来て…剣の稽古をつけてくれなど、言える者はそうはいないぞ?」
「竹千代殿の将来は楽しみですな。」
色々な意見を言っているが、どうやら竹千代の事を、皆んなも気に入ったようだ。
今は那古野城にいるが、父信秀が戦から戻れば竹千代も場所を移動するだろう。それまでは時間がある限り稽古をつけてあげようと考える信長だった。




