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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第五章 伝説
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第50話 豹変

「なっ……何なんだこれ……!?」


突然形を変え、恐ろしい叫び声を上げる『願いの珠』を見て、俺もメリスもグリーも、驚愕に目を見開く。


「イリナさん!これは一体……っ!!」


いち早くグリーがイリナを問いつめようとするが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。

……なぜなら、


「な……に……なに、よ……これ……!?」


そのイリナこそが、俺達の中で、一番驚いていたからだ。


「どういうことだよ……!?」


これは『願いの珠』のはずだ。

これを作り出した魔科学者の一番近くにいた、イリナがそう言ったんだ。

なのに……!!


「……とりあえずみんな、目の前の現実を見ようよ」


幾分冷静になった声でグリーは告げる。


「今、僕達に分かることは2つ。

 これは恐らく、願いを叶えてくれるような素敵なものじゃない。

 ……そして、どうみても、友好的には見えない!!」


そう叫ぶや否や、グリーは『風切り』を構え、『願いの珠』に向かって発砲する。



ギギィン!!



「っ!?」


しかし、発射された弾丸は、『願いの珠』に当たる寸前で、何かに弾かれてしまった。


「今のは……!?」

「ハディ危ない!!」


メリスの声によって、『願いの珠』の前足にあたる部分が持ち上げられてることに気付いた。


「ちっ!!」


とっさに後ろに大きく飛び退く。

その前足は一撃で地面を大きく削りとった。轟音が辺りへ響き、土煙が舞う。


「こんのっ……野郎!!」


衝撃にぎりぎり耐えて剣を振り上げ、思い切り前足へと振り下ろす。



ガギィィン!!



「っ!!……また……!!」


さっきの銃弾と同じように、『夜桜』は前足に当たる寸前で止まってしまっていた。


「……ん?」


よく見ると、前足の周りを、薄い半透明の膜のようなものが包んでいる。

これは、まさか……。


「ハディくん!一旦下がるんだ!」

「お、おう!」


グリーに言われた通り、一旦『願いの珠』から距離を取る。あの足で踏みつけられたら、ひとたまりもないからな。


「グリー、あいつは……」

「『結界』だろう?」

「……さすが」


まぁ、俺が分かったんだから、グリーも分かってるか。

さっき俺が予想した通り、『願いの珠』は体の周りに『結界』を作り出せるみたいだ。それも、一瞬で。

……もしくは、常に『結界』を張ってるのかもしれないけど。


「普通の銃弾や、君の斬撃程度じゃビクともしないみたいだ。

 ……となると」

「……だな」

「私だよね!!」


俺とグリーの視線を受け、メリスが勢いよく返事をする。


「『風切り』にはもう魔力が残ってない。

 僕じゃ魔力の補充に時間がかかるからね、メリスの『ブレイアム』に賭けた方がいいよ」


言いながら、カチャ、とグリーは『風切り』についているレバーを、ブラストに切り替える。

いつもなら銃が緑色に光るはずだが、今は何の反応もない。


「となると、俺とグリーは時間稼ぎか」

「そうなるね」


剣を握りしめ、『願いの珠』に向き直った。

その時、


「あ、あの……」

「……イリナさん?」


おずおずと、イリナがグリーに声をかけた。


「その銃……魔導銃、よね?」

「そうだけど……」

「……貸して」


真剣な顔でグリーに言うイリナ。

グリーは少しためらったが、その表情を信じたのだろう。イリナに『風切り』を渡した。

受け取った『風切り』に、イリナは自分の指輪を当てる。

一瞬指輪が緑に光ったかと思うと、『風切り』が緑色に発光し出した。


「これで、使えると思う」


イリナはそっと、グリーに『風切り』を返す。


「ありがとう、助かったよ」

「……うん」

「イリナさん」


グリーはイリナをまっすぐ見つめる。


「協力してくれないか?」

「………でも、私は、さっきまであなた達と……」


うつむくイリナに、グリーはほほ笑みを向けた。


「『昨日の敵は今日の友』って言うだろう?」

「………うん!」


イリナはグリーの顔をまっすぐ見つめ、力強く傾いた。


「ハディくん!メリスの準備が終わるまで時間稼ぎをしてくれ!

 僕とイリナさんで援護する!」

「了解……って、その指輪、メリスは使えないのか?」

「ごめんなさい……この指輪、『血の契約』を交わさないとつけられないの」

「なるほど」


『冒険者の腕輪』と同じようなもんか。

にしても、4人いるのに前線が俺1人か……。

まぁ、イリナの剣は俺が斬っちまったからしょうがないけど。


「行くぜ……化け物!!」


剣を構え、『願いの珠』と対峙しようとした……その時、後ろから、黒い光が走った。


「古代の時より培われし……」

「イリナ!?」

「イリナさん!!」

「っ!?」


俺とグリーの怒声に、イリナは『詠唱』を中断する。


「何をしてるんだ!?」

「だ、だって……」

「古代魔法『血印』は『命を力に変える魔法』だ!!

 そんなものを短時間に何度も使えば、君の身がもたないだろう!!」

「……ご、ごめんなさい」


グリーの説得にイリナは応じてくれた。

がんばろうとしてくれるのは嬉しいけど、『命を削る』となれば話は別だもんな。

俺は気を取り直して、5m程距離を取って『願いの珠』と対峙する。

時間稼ぎが目的だからな。距離にさえ気をつけてれば……。



ブゥン……!



「……っ!」


次の瞬間、『願いの珠』の頭上に、直径2m程の光の塊が現れた。

……あー、遠距離攻撃がないなんて、考えが甘すぎたか。


「うおっ!!」


頭上から、振り下ろすような軌道で降ってきた光の弾を、飛び退いてかわす。

地面にぶつかった光の弾は、小規模のクレーターを作って消えた。

……当たったらシャレにならねぇな。

そんなことを考える暇もなく、次は『願いの珠』から、まっすぐ光の弾が向かってくる。

よける……のは、間に合わなさそうだ!


「こんっ……のぉ!!!」


『夜桜』を思い切り光の弾にぶつける。

一気に腕に衝撃が来るが……これなら、なんとか!


「うおっ……りゃあぁぁ!!」


なんとか光の弾の軌道を、左方向へと変える。

……今の感覚、どこかで……。


「あ」


思い出した。シントさんの『光芒斬』だ。

あれの『詠唱を省略したやつ』と、威力がだいたい同じなんだ。


「あれを、魔法も何もなしで使ってくるのかよ……」


グチを言いつつも、少し光明が見えてきた。

確かにきつい攻撃ではあるけど、これぐらいなら時間稼ぎはできる。

そもそも、弾が1発だからな、落ち着いて対処すれば………。


「………」


次の瞬間、目の前の光景を見て、俺は思わずつぶやいた。


「………冗、談……だろ」


1、2、3……いや、そんなもんじゃない。10発はあろうかという、大量の光の塊が、『願いの珠』の頭上をゆっくりと旋回していた。

それらは、突然動きを止めたかと思うと、最初と同じように、振り下ろすような軌道で降ってきた。

……ただし、今回は1発じゃない。10発全部、同時に!


「やばっ……!!」


範囲が広すぎる。逃げ道なんてない。

俺には、『夜桜』を頭上に構え、衝撃に備えることしかできなかった。


「ハリケイド!!」


しかし、俺のそれは杞憂に終わった。

巨大なカマイタチが俺のちょうど頭上にきた光の塊に直撃する。

さらに、それでも残った光の塊に『爆風の魔弾』がぶつかり、吹き飛ばした。



ズドドドドドドドォォォォォォォン!!!



流星が降り注いだかのような衝撃音。

衝撃と土煙で思わず目を閉じてしまった俺は、目を開いて、絶句した。

俺の周り、360°全てに、クレーターができている。


「あっぶねぇっ……!!」


クレーターを飛び越えながら、小さくつぶやく。

グリーとイリナの援護がなかったら、潰されるところだった。


「2人とも、ありが……」

「ハディくん、下がって!」


言い終わる前に、グリーから指示が飛ぶ。

おっと、もう、か。


「大気より炎の集いを呼ぶ 我は炎を束ねる者なり」

「地表より風の集いを呼ぶ 我は風を操る者なり」


『集中』を終えたメリスと、さっき魔法を使ったばかりのイリナが『詠唱』に入る。

2人とも、短時間で強力な魔法を何度も使ってるからか、具現した『魔法』が、少し弱いような気がする。

……でも、大丈夫だ。これで、終われば……!


「燃え盛れ ブレイアム!!」

「切り裂け ハリケイド!!」


発動される2つの基礎魔法レベル3。

さらに、グリーも『爆風の魔弾』を撃ち放つ。


「いっけええぇぇぇぇ!!」


三度、『願いの珠』の体が薄い膜のようなもの、『結界』に包まれる。

その『結界』に、まず『ハリケイド』が切り込み、ついで『爆風の魔弾』がぶつかり、とどめに、『ブレイアム』が直撃し、大爆発を巻き起こした。


「やった……!」


今の俺達にできる、間違いなく最強の攻撃だ。

万が一これで倒せなかったら、正直もう、為す術がな……、


「………っ!!!」


土煙に浮かぶ影を見て、俺は思わず、息をのんだ。

……ありえ、ねぇ。

……そんな……バカな……!!


「ウソ……だろ……!?」


岩盤を切り裂く『ハリケイド』、

爆弾のような威力を持つ『爆風の魔弾』、

そして、大木をも焼き尽くす『ブレイアム』が、直撃した、はずなのに……。


「無、傷……!?」


『願いの珠』は、傷1つ負っていなかった。

倒すどころか、『結界』を破ることすら、できてない……!!

唖然とする俺達の前で、『願いの珠』の体に、小さな穴があく。

動物でいうなら……『口』にあたる部分だろうか。その、黒い穴の中に、小さな光の粒子がゆっくりと溜まっていき……そして、その穴が、真っ白に光り始めた。

その瞬間、本能的に、危機を感じた。

……やばい!!!


「……っ伏せろ!!!」



ズドオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォン!!!



凄まじい爆発音と共に、『願いの珠』から、光の帯が発射される。

世間一般では、レーザーとでも呼ばれるんだろうか。それは俺達の後ろの、崩れた洞窟を吹き飛ばした。

さらに、おそらくその後ろにあった木々をも吹き飛ばしていったんだろう、遠くから、それらが倒れていく音が聞こえる。


「お……い……っ!!」


とっさに後ろに走って3人を抱え込み、倒したから、なんとか全員無事だ……けどっ……!!


「シャレに……ならなさ過ぎだろ……!!」


空洞と化した洞窟から、一直線に伸びたレーザーの痕跡を見て、俺は戦慄した。

もう少し軌道が下だったら、もう少し発射されるのが早かったら、絶対俺達は無事じゃ済まなかった。


「みんな!!」


真っ先に我に返り、立ち上がったグリーが、俺達に告げる。


「逃げるよ!!」

「えっ……グ、グリー!?」


グリーの言葉に、俺は思わず戸惑う。


「でも、こんな奴野放しにしておいたら……!!」

「大丈夫だ!僕達さえ逃げれば、他に被害を受けるような人は近くにはいない!!

 それに、『ブラッディヴァイン』の時とは、相手が違いすぎる!!

 一旦タルト町に戻って、応援を呼んでこよう!!」

「そ、そうか……!」


確かに、こんな奴俺達だけじゃどうにもできない。グリーの言う通りにしよう。


「メリス!立てるか!?」

「う、うん……」

「イリナさんも、早く!!」


俺達4人が、脱兎のごとく洞窟へと走り出した。

……その時、


「っ……!!」


背後から、巨大な光の波が、襲いかかってきた………。
















「………うっ………」


目を開き、体を起こす。ずき、と全身が痛んだ。

俺は……気絶、してた?


「……みんな……!!」


はっと我に返り、痛む体を無理やり起こし、周りを見渡す。


「……グリー!イリナ!」


土煙が舞う中、数m離れた位置に、2人を見つける。

駆け寄ると、全身ボロボロで気絶しているが、命に別状はなさそうだ。


「……メリス……」


メリスの姿が見えない!どこだ……どこに……!?

必死に周囲を探していると、


「……あ……!!」


土煙の中に、1つの光を見つけた。


「メリス!!」


2人と同じで、ボロボロだ。だけど、ちゃんと生きてる。


「……これ」


メリスの首にかけられた、ガラスのネックレス、これが光ってたのか。

『港町ヨーグルト』の祭りで買ったやつだ。これがあれば、危機を乗り越えられるとか言われて。

……まさか、本当に役に立つなんてな。


「……良かった。とりあえず、全員無事……」




ブゥン………!!




「っ!!」


ゾクッ!と背筋に悪寒が走る。

とっさにメリスを抱え、前へと飛び出した。



ズドオォォォォォォン!!



その直後、さっきまで俺とメリスがいた場所が潰され、小さなクレーターができあがる。


「くっ……そ……っ!!」

「うっ……」


今の衝撃で俺が倒れて、放り出されてしまったためか、メリスの意識が戻る。

だけど、それを喜んでいる暇なんてない。

なぜなら……、


「ハ、ディ……う、後ろっ……!!」


俺のすぐ後ろに、もう『願いの珠』が迫ってきていたから。


「くっ……!!」


なんとか起き上がり、メリスの所まで移動するが……振り返れば、『願いの珠』の口に、光の粒子が着々と溜まっていっている所だった。

……さっきの……レーザー……あんなのが直撃したら、絶対に、命は……。


「メリス……」

「ハ、ハディ……?」


俺は歯を食いしばり、持てる力を尽くして、メリスを持ち上げた。

……そして、


「………え………?」


その刹那、メリスと目が合う。

……はは、目が完全に丸くなってるな。そりゃそうだ。

俺は、できる限りの力で、メリスを遠くへと投げた。痛いだろうけど、あのレーザーをくらうよりはマシなはずだ。

一方、俺はといえば……もう、逃げるだけの力が、残ってない。


「ハ………ディ………!?」

「………メリス」


今際の際だというのに、その時、俺はたぶん、笑ってた。

……なんでだろう?

……そんなの、考えるまでも、ないか。

……バカ、みたいだ。

……こんな……最期になって、やっと、気づくなんて……。


「……メリス、俺……」


できるだけ優しい声で、俺は告げた。

……やっと気付いた、自分の気持ちを。











「自分より、お前の方が……大切みたいだ」











それを聞いてメリスは目を見開き……そして、その目から大粒の涙をこぼして、何事かを叫んだ。

……だけど、それが俺の耳に届くことはなかった。

直後に起きた爆発音と、光の噴流に、飲み込まれてしまったから。

……そして、











……俺の目の前が……真っ黒に、染まった……。










では、次回予告です!






「オレオレ、オレだよオレ。オレオレ。

 ……ま、冗談はさておき、なーんかあいつら大変なことになってんなー。

 まぁ、あいつらがいくらケガをした所で、俺は痛くもかゆくもねーけど……死なれるのは、論外だ。

 次回、冒険者ライフ!第51話『絶望』。

 この俺が関わってるんだ。バッドエンドなんざ認めねーぜ?」



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