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冒険者ライフ!  作者: 作者X
第五章 伝説
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第49話 イリナ・ガルディデス



ものすっごく遅れてしまって本当にごめんなさい!!

ようやく更新できました!!





「戦って、って……」


俺達は剣を向けてきたイリナを見て、呆然としていた。


「イ、イリナ、何言って……」

「そ、そうだよ!!なんで、イリナと戦わなきゃ……!!」


慌てふためく俺とメリス。

そうだよ、俺達とイリナが戦う理由なんて……!


「『願いの守護者ディザイア・ガーディアン』……」


そんな俺達に、グリーの呟きが聞こえてきた。


「そういうことなんだろう?『イリナ・ガルディデス』」

「……驚いた、気づいたの?この名前の、意味に」

「意味……?」

「あぁ……メリス、杖を貸してくれるかい?」

「え、う、うん」


グリーはメリスから杖を借りると、先端を使って地面に文字を書き始めた。


irena garudides


「これ……イリナの名前だろ?」

「そう、そして」


グリーはさらに、その下に文字を書いていく。


「……精霊語で、『願いの守護者ディザイア・ガーディアン』はこう書くんだ」


desire guardian


「………っ!!」


地面に書かれた文字を比較して、ようやく俺は気づいた。


「アナグラム……!?」

「……そういうことだよ」

「え?え?」


いや、なんでメリスが分からないんだよ。魔法使いだろこいつ。

……あーでも、こいつ頭の回転悪いからな。精霊語もあんまり知らなさそうだし。


「ハディ、何か言った?」

「えー!アナグラムってのはな!文字の並べ替えのことだ!!」


メリスの体が赤く光り始めたため、さっさと答えを教える。


「並び替え……?」

「ほら!irena garudidesを並べ替えると、desire guardianになるだろ!!」

「………えー………あー………」


メリスが地面に書かれた文字と格闘すること数分。


「本当だ!!」

「遅い!!時間かかり過ぎだ!!

 ほら!イリナが呆れた顔で待ってるぞ!!」


シリアスっぽい雰囲気になったのに、ぶっ壊しやがってこの野郎!!


「ガーディアンっていっても、私はゴーレムじゃない。普通の人間よ。

 ……だけど」


イリナはまた、無機質な微笑みを浮かべた。


「この珠を守るのが、私の役目なの。

 だから、あなた達が私と戦うのは、必然なのよ」


そう言って、イリナはゆっくりと剣を構え直す。

……なんだか、少し嬉しそうに見えるな。案外、戦いが好きなんだろうか?


「ハディ……」


メリスは杖を抱え込み、不安げな声を上げる。

……今日会ったばかりとはいえ、メリスは一番イリナと仲良くなってたもんな。

当然、戦いたくなんてないはずだ。


「ハディくん、どうするんだい?」


グリーからも声をかけられる。

ただし、こっちからは不安な様子は感じられない。

……というか、俺の答えぐらい予想してそうだな。


「……どうするって、決まってるだろ」


俺は剣を構えるイリナを見据えた。

イリナは『願いの珠』を守るのが役目。だから、『願いの珠』を狙う俺達と戦わなきゃいけない。

でも、俺達はイリナと戦いたくなんてない。

……なら、話は簡単だ。


「行こう、メリス、グリー」

「……え?」

「………」


きびすを返し、入り口へと歩き出す俺を見て、メリスからは疑問の声が、グリーからは小さく微笑む気配がした。


「ちょっ……ちょっと、どういう、つもり?」


イリナは戸惑ったような声を出す。

どういうって……。


「夕食の時にも言っただろ、イリナ。

 俺達がここに来たのは人に頼まれたからであって、別に『願いの珠』が欲しくて来たんじゃない」

「っ……で、でも、言ってたじゃない!!

 お金が欲しいとか、宝石が欲しいって!!」

「そりゃ、叶えたい願いが全くないかって言われたら、そんなことはないけどな」

「なら、どうして!?」


大声を出すイリナに、俺は笑って言ってやった。


「一宿一飯の恩があるからな。

 恩人と戦ってまで叶えたい願いなんて、俺達にはねぇよ」


イリナは『願いの珠』を狙う奴と戦わなきゃいけない。俺達はイリナと戦いたくない。

……だったら、『願いの珠』を狙わなければいい。ただそれだけで、俺達はイリナと戦わずに済むんだ。


「……うん!私も、イリナと戦いたくなんてないもん!!」

「メリスもこう言ってることだし、僕も異存はないよ」


2人も笑顔を浮かべ、俺を追ってきてくれた。

良かった、これで一件落着……、


「………ふざけないで」


安堵した俺の耳に、強い怒りを孕んだ声が聞こえてきた。


「やっと……やっと、終わると思ったのに……どうして、終わらせてくれないの……?

 これからも、私に苦しみ続けろっていうの!?」

「イ、イリナ……?」


イリナから発せられる殺気に、俺達は思わず硬直した。

終わらせる……?苦しみ……?一体、何を言ってるんだ?

イリナは左手を……その中指につけられた指輪を、胸の高さまで上げた。

次の瞬間、その指輪が緑色の光を放つ。


「な、何だ!?」


戸惑う俺達に構わず、イリナはそれ(・・)を口にした。


「……地表より気流の集いを呼ぶ 我は風を操る者なり!!」

「っ!?2人とも、伏せるんだ!!」


グリーがとっさに俺達2人を抱え込み、地面へと倒した。


「切り裂け ハリケイド!!」


数m上で、何かが空を裂く音がした。

次いで、何かが断ち切れる音。

……そして、次に目に入ったのは……、


「………っ!!」


俺達が来る時に通った、そして、今まさに通ろうとしていた洞窟が、轟音と共に崩れ落ちていく様だった。

あまりの出来事に、それがイリナの仕業だと理解するのに、俺には数秒間必要だった。


「何でだ……イリナさん!!」


俺達に覆いかぶさり、かばってくれたグリーが、起き上がり、イリナをにらみつける。


「『願いの珠』を守るのが、君の役目なんだろう!?

 だったら、僕達と戦う理由はないはずだ!!」

「うるさい……うるさい!!」


大声で怒鳴るイリナ。その顔は怒り一色に染まっている。


「もう、嫌なのよ……こんな物のために、私はずっとこの森にいなきゃいけない。

 こんな物、守りたくなんてないのに!!」


ぎり、と音が聞こえてきそうな程、強く歯をかみしめるイリナ。

『願いの珠』を、守りたくない……?


「……じゃあ、どうして、守ってるの……?」


メリスの言う通りだ。

守りたくないなら、守らなければいいはず。

メリスの言葉を聞いたイリナは、数秒の沈黙の後、ぽつりと言った。


「……『イリナ・ガルディデス』」

「……え?」

「これはあなた達が言った通り、『願いの守護者ディザイア・ガーディアン』のアナグラム。

 ……これ、私の本名なの。……偶然だと、思う?」

「………っ!!」


その考えに至った瞬間、俺は一瞬、思考が停止してしまった。

俺の考えを察したのか、イリナは自嘲気味に微笑んだ。


「……私は、『願いの珠』を守るた(・・・・・・・・・・)めだけに(・・・・)育てられた。これを作った、魔科学者に」

「そんな………」


イリナの生い立ちを聞き、悲しみをあらわにするメリス。


「……でも、守りたくなんてないんだろう?

 だったら、やっぱり守る必要なんてないじゃないか」

「あ……そ、そうだよ!!

 イリナ言ってたでしょ!?旅をしてみたいって!『願いの珠』なんて放っておいて、さっさと出て行けば……」

「仕方ないじゃない。私、この森から出られないんだもの」

「………え?」


硬直したメリスから少し顔をそらして、イリナは吐き捨てるように言った。


「どんなふざけた技術なのか、知りたくもないけど……。

 私ね、『願いの珠』と繋がってる(・・・・・)の。だから、私はこの森から出られない。

 ……それだけじゃない。

 『願いの珠』が願いを叶えるのは一度だけ。叶えたら、消えるの。

 ……私と(・・)一緒に(・・・)

「なっ!?」

「う、うそ……!!」


俺とメリスは驚愕の声を上げた。

ウソ……だろ?『願いの珠』を使ったら、イリナが、消える……!?


「さっき、言ったでしょ?これが、最後だって。……私は冒険者には、なれないって。

 ……だから、最後に一度だけでいい、戦ってみたいの。本物の、冒険者と……!!」


イリナの言葉に同調するように、指輪が再び光を放つ。先程とは違い、次は黒い光を。


「古代の時より培われし魔の力よ 聞け!我の言葉を!」

「っ!!この詠唱……やめるんだ!!イリナさん!!」


あせったように叫ぶグリー。しかし、その言葉も意に介さず、イリナは続ける。


「我が望むは一時の力!削るは我が命!

 我を喰らい、弱小なる我に絶対たる力を!!古代魔法(・・・・)『血印』!!」


イリナがそう叫んだ瞬間、イリナの額に赤い魔法陣が浮かび、体を禍々しい赤い光が包み込んだ。


「グリー、あれは……!?」

「……古代魔法『血印』。

 命を力に変える(・・・・・・・)……この国で定められている『禁忌魔法』の1つだ!」

「い、命!?」

「3対1だもの、こうでもしないと、話にならないでしょう?」


イリナは下ろしていた細身の剣を再び俺達に向ける。

その目には暗い光が宿っており、その薄笑いに俺は思わず恐怖の念を抱いた。


「さっき……私のことを恩人って言ったわよね?だったら、戦って。

 ……私はずっと、『願いの珠』に縛られてた。その上これと一緒に消えるなんて、嫌なの。

 最期ぐらい、死に方ぐらい!自分で選びたいのよ!!」


イリナの目は狂気に染まっていた。

死を覚悟した……いや、死を望む(・・・・)者の目。

でも、俺達は………くそ!!どうしたらいい!?どうしたら……!!


「………」


思い悩む俺の前に、グリーが進み出た。

そして、


「……D(クラス)冒険者、グルード・テーナス」

「っ!?グリー!?」


『名乗り』を上げ、『風切り』をイリナに向ける。


「グリー、何で……!!」

「出口が崩れて逃げられないんだ。戦うしかないだろう」

「だけど……!!」

「……それに、君は放っておけるのかい?あんな風になってしまった、彼女を」


そう言ってグリーはまっすぐ、イリナを見つめる。その目には、一点の迷いもない。


「………」


……そうだよな。理由は分からないけど、イリナは『命を削る魔法』まで使って、俺達と戦おうとしてる。

それでも戦わないなんて、そんなの、ただ逃げてるだけだ。

……しっかりしろ。俺はさっき、イリナを恩人だって、自分で言ったんじゃないか!

だったら、ちゃんと向き合うべきだ!!


「D(クラス)冒険者、ハディ・トレイト!!」


『夜桜』を引き抜き、イリナを、相手を、まっすぐに見据える。


「兄さん……ハディ……」

「……メリス」


後ろからの声で、半分放心状態のようなメリスに気づく。


「メリス、お前は……」


俺が声をかけた途端、メリスははっとし、数秒、イリナを見つめた。

そして、


「……『魔導師(ウィザード)』、メリス・テーナス!!」


メリスもまた覚悟を決め、『紫光』を構える。


「……大丈夫か?」

「……うん、大丈夫。

 友達だもん!ちゃんと、向き合わなきゃ!!」


きっ、といつになく真剣な面持ちなメリス。

……うん、心配はいらなかったな。

そう心の中で呟き、イリナへ目線を戻す。


「………ありがとう」


ほんの一瞬、イリナの目が、元に戻った気がした。イリナの家で、俺達三人と楽しく話していた目に。

しかしそれも束の間、その目に再び狂気が宿る。


「私は……イリナ・ガルディデス!!」


次の瞬間、イリナは剣を振り上げ、凄まじい速さで斬りかかってきた。


ガギイィンッ!!


「っ……!!」


二つの刃がぶつかり、金属音が闇夜に響く。

……魔法の効果か!?移動速度も、威力も、剣閃の速度も!シントさんよりも上だ!!

やばい、押し切られ……!!


ドンッ!


「っ!」


銃声とほぼ同時に、イリナが大きく一歩引く。

助かった……ってちょっと待て!!


「おいグリー!!銃は流石に……」

「剣しか狙ってないよ」

「あ、あぁ、なるほど」


そんなことを話してる間に、イリナの指輪が緑の光を放つ。


「地表より風の集いを呼ぶ!吹き飛べ ハリケン!」


直径1m程の小さな竜巻が現れ、襲いかかってくる。

やべっ……!!


「大気より火の集いを呼ぶ 燃えろ フレイア!」


後ろからメリスが炎を放ち、竜巻へとぶつける。2つの魔法は見事に相殺され、共に消えていった。


「って、同じレベルの魔法なのに……メリスと互角!?」

「古代魔法『血印』は、身体能力だけじゃなく、魔力も引き上げる。

 最も、それを使う前から『ハリケイド』を使っていたから、元々の魔力も魔導師(ウィザード)(クラス)なんだろうけど……!」


再びグリーはイリナへ銃を向け、引き金を引く。

しかし、放たれた銃弾はイリナの持つ剣で弾かれてしまった。

続けざまに数発放つが、全て同じように弾かれるか、よけられるかだ。


「……おまけに、反射神経や動体視力まで上がってるみたいだね。困ったもんだ」


そういってグリーは肩をすくめる。

でも、今の銃撃は無駄じゃなかった。

その隙にメリスがもう一度『集中』を始めてるし、俺も間合いを詰められたからな!


「はあぁぁっ!!」

「っ!!」


全力を込めた渾身の一撃。

しかし、それはあっさりとイリナに受け止められる。

……魔法の効果とはいえ、同年代の女にあっさり受け止められると、ちょっとショックだな。

まぁ、今はそんなのどうでもいい!


「魔科学者に育てられたって言ったよな……!

 それじゃ、お前はその魔科学者の……」

「違うわ、私はあの人の子供なんかじゃない」


鍔迫り合いをしつつ、気になったことを聞いてみた。

返答は予想と違ったけど。


「この森に捨てられていたそうよ、それをあの人に拾われた。

 物心ついた時からずっと、家事ばかりさせられてたわ!」

「くっ!!」


押し切られ、弾き飛ばされそうになるのをなんとか耐える。

さらに、続けざまに放たれた斬撃を、ギリギリの所で受け止める。


「小さい頃はまだ良かったわ。

 あの人は研究ばかりであまり構ってくれなかったけど、家事さえちゃんとこなせば後は好きな事ができた。

読書をしたり、絵を描いたり、冒険者に憧れて、魔法や剣の練習もした!

 タルト町に連れていってもらったこともある。誕生日に本や、絵を描く筆を買ってもらったこともある!

 ……だけど!!」


再び剣が押し切られたため、とっさに後ろへ退き、間合いを取って剣を構え直した。

くそっ……正面からじゃ勝てねぇ……!!


「……10年前、10歳の誕生日のことよ。

 突然こう言われたの、『願いの珠が完成した』って」

「っ!!」

「今でも鮮明に覚えてるわ、その時の言葉。

 『お前とこの珠を繋げた、もうお前はこの森から出られない。そして、この珠が消えた時、お前も消える。この珠を壊した時も同様にな』」


カタカタと、イリナの持つ剣が音を立てる。

怒り………当たり前だ。拾われて、10年間ずっと育ててもらって。

イリナにとって、その魔科学者はきっと、親も同然だったんだ。

……なのに、裏切られた。


「初めから、そうする気だったのよ。

 その時に全部白状してくれたわ。20年前、あの人はこの森で『願いの珠』を作り始めた。その時から、完成には少なくとも10年かかるだろうと予測していたらしいわ。

 だから、私を拾ったの。『願いの珠』を守る番人として、育てるために!!」


イリナの顔が歪み、赤い光を纏った体は、ワナワナと震えていた。


「自分がもう高齢だから、代わりの人材が欲しかったらしいわ!!

 ふざけてる!!だったら『願いの珠』で、不老不死でも願えばいいのに!!

 ……そう言ったら、笑われたわ。『そんなことをしたら、この珠が消えてしまうだろう』って。

 意味が分からない。あの人、何のためにこれを作ったのかしら」


イリナは忌々しげに『願いの珠』を睨みつけ、そして、俺へと向き直った。


「5年前にあの人は老衰で死んだわ、研究で寿命を削ってたんでしょうね。

 ……だけど、これは残ってる。

 おまけに、あの人が昔タルト町で『願いの珠』の話をしたことがあったらしくて、それが未だに伝説として残ってるの。

 ……だから、たまにあなた達みたいな人が来るのよ。

 ずっと、うまくごまかして、隠し通せてたんだけど……ふふっ、見つかっちゃった」


軽い調子の声で、イリナは笑いながら言った。


「でもね、別に悲しくもなんともないの。

 ……だって、やっと終わるんだもの。いつこれが見つかるか、ずっと怖かった……そんな時間が、やっと終わるんだから!!」

「……イリナ……!」


そうか、それが、理由なのか。

イリナの目に宿っている、狂気の……。

……でも、本当にそうなのか?イリナは、本当に……。


「自殺すればいいって思ったことも何度かあるわ。でも、できなかった。

 これに負けるみたいで嫌だったし、何より……こんな私にも、願いがあったから。

 自由に世界を旅する……冒険者に、憧れてたから!!」


イリナの指輪が、緑色に光り輝く。

まずい、また魔法を……!


「ハディくん!下がるんだ!!」


グリーの声に振り向くと、丁度メリスが『集中』を終えたところだった。

俺が退避のために走り始めたのと同時に、二人が『詠唱』を始める。


「大気より炎の集いを呼ぶ 我は炎を束ねる者なり」

「地表より気流の集いを呼ぶ 我は風を操る者なり」


メリスの持つ杖の先にゆらめく炎。その炎に四つの炎が収束し、1mを超える炎塊と化す。

イリナの周囲の風がうねり、渦巻き、轟々と音を立てながら、左手へと集まっていく。

……そして、


「燃え盛れ ブレイアム!!」

「切り裂け ハリケイド!!」


大木を焼き尽くす巨大な炎塊と岩盤を断ち切る真空の刃が正面から激突する。


「っ!!」


ちょうどぶつかった地点の近くにいた俺は、剣を地面に突き立てて、生じた爆発と衝撃波に耐えなければならなかった。……近くっていっても、十分退避してたはずなんだけどな。

これが、基礎魔法レベル3同士の衝突……!!

地面が大きく削られ、土煙が舞い、イリナの姿も見えなくなってしまった。


「風よ集え ハリケ」


しかし、それも束の間、イリナが発動した魔法で強風が起き、土煙はあっという間に吹き飛ばされた。


「ここに来たのは、ほとんどが冒険者だったわ。そもそも、こんな森の奥地に来るなんて、冒険者や兵士でもないと無理だものね。

 ……みんな、気の良い人達だった、あなた達みたいに」


フッと、イリナの顔に陰りが見られた。


「私も、この人達みたいに生きられたらって、思ったわ。

 ……でも、それは無理だから。

 だったらせめて、少しでも近づけないかなって、思ったの」


寂しげに笑うイリナに、グリーが言葉を投げかけた。


「イリナさん……君が、冒険者に近づきたいと思っているのなら、1つ、大きな間違いを犯してるよ」

「え……?」

「冒険者に、死にたがっている人間(・・・・・・・・・・)なんて、1人もいない!!」

「っ!!」

「進んで危険な道を行く者ならいるよ。だけどそれは、その危険を乗り越え、より強くなるためだ。

 自ら終わりを望む者なんていない」


キッ、とグリーはイリナを睨みつける。


「君は生きたくないのか!?イリナさん!!」

「……生きたいわよ……自由に(・・・)生きたい!!」


グリーの言葉に、イリナも大声で応えた。

その顔は、やっぱり狂気に染まっているけど……でも。

………泣いているように、見えた。


「だけど、出れないの……この森から出れない!!

 『願いの珠』と繋がれた時から、何度も出ようとしたわ。でも、見えない壁みたいなものに弾かれた(・・・・)

 どれだけ剣をぶつけても、何度魔法をぶつけても!その壁は壊せない!!」


そう叫ぶイリナの目には、涙が光っていた。

……気のせいなんかじゃない!イリナは、きっと……!!


「だから……もういいの。

 もうここで……終わらせたいのよ!!」


カッ、と指輪が緑色に光る。


「地表より気流の集いを呼ぶ!我は風を操る者なり!!」


これは……また『ハリケイド』か!!

やばい!メリスはさっき魔法を使ったばっかりだ、間に合わない!!


「メリス!!」


グリーがメリスに一声だけ呼びかけた。

その意図を理解したのか、メリスは『集中』を始める。


「グリー!どうする気だ!?」

「レベル3は無理だけど、今のメリスなら、レベル2なら間に合うよ」

「って、基礎魔法レベル2で、レベル3に対抗する気か!?そんな無茶な……!」


と、そこで俺はようやく気づいた。

グリーの構える銃が、緑色に光っていることに!


「切り裂け ハリケイド!!」

「大気より火の集いを呼ぶ……」


俺達に向かって襲い来る巨大なカマイタチ。

一方、メリスはまだ『詠唱』の段階だ。

……間に合わない。



ドオオオオオォォォォォン!!



……グリーの援護がなかったら、だけどな。

『爆風の魔弾』によってカマイタチは大きく威力をそがれる。

さらに、


「燃えろ フレイア!!」


続けざまに放たれた炎によって、カマイタチは完全に消滅した。

あっぶねぇ……かなりギリギリだったな。

……というか、さっきから気になってたんだけど。


「イリナ、その指輪は……?」

「……あぁ、これ?」


俺に応えるように、イリナは左手の中指につけられた指輪を三人に見せる。

あれが光った後、イリナは『集中』なしで魔法を使っている。

一体……。


「これは、『願いの珠』の試作品(・・・)よ」

「なっ!?」


『願いの珠』!?……いやでも、試作品って……。


「『魔法石』は知ってる?自然界から採掘される、魔力を蓄える性質のある石よ。

 それを加工して、より魔力を蓄えられるようにした物が『魔法玉』。

 そして、その中でも特に優れた物は『魔宝玉』と呼ばれる。

 『願いの珠』は、とてつもない魔力を蓄えた『魔宝玉』なの」


目線を『願いの珠』へと移す。

なるほど、あの虹色の輝きは、魔力によるものなのか。


「なるほどね……それなら全てつじつまが合う」

「グリー?」

「なぜ、魔科学者はこの森で『願いの珠』を作ったのか。そして、『願いの珠』が完成するのに、10年という歳月がかかった理由」


グリーは一呼吸おいて、説明を始める。


「『魔宝玉』に魔力を蓄えるには、大きく分けて2つの方法がある。

 1つは魔法使いが直接魔力を与える方法。

 もう1つは、大気中の魔力を蓄えさせる方法だ」

「……そうか!この森は……」

「そう、『神佑地』だ」


『神佑地』。『土地神』や『守り神』が存在する土地のことだ。

普通の土地と比べて、大気中の魔力が濃く、質も良いらしい。


「つまりあの『願いの珠』は、少なくとも『神佑地』の濃い魔力を10年間に渡って蓄え続けたわけだ。

 どれほどの魔力が溜まっているのか、想像するだけで恐ろしい。

 ……メリスが気配を感じたのも、当然だろうね」

「え……あっ!!ハディ!!私が感じた変な気配、あれだよ!!」

「何っ!?……ってか、遅ぇよ気づくの!!」

「うーん、でも、さっき洞窟の前では、何も感じなかったのに……」

「おそらく、入口が閉まっていたからだろうね。

 これを隠すために、何か細工でもしてあるのかもしれないし」


グリーはさらに続ける。


「そうなると、『願いの珠』の仕組みも想像がつくね」

「仕組みって、ただ願いが叶うってだけじゃないの?」

「どうして願いを叶えることができるのか、ってことだよ。

 『魔法』ははっきり言って、なんでもありだ。その代わり、対価として相応の魔力が必要になる」

「つまり、『願いの珠』ってのは……」

「人の願い……その『言霊』を元に擬似的な『魔法』を作り出し、蓄えた莫大な魔力を用いてそれを発動させる『魔導装置』……ってところじゃないかい?」


グリーの答えに、イリナは首を縦に振る。

マジか。できるのかよ、そんなこと……。


「正解よ。もっとも、私が説明を聞いたのは10年前だから、細かい仕組みなんて覚えてないけど」

「……後は、君と『願いの珠』が繋がってる、というのがよく分からないんだけど……『願いの珠』を作れるような魔科学者なら、それぐらい可能かもしれないね」


グリーは説明しつつ、何かを考えているように見えた。

一体、何を……?


「この指輪の『魔宝玉』は、『願いの珠』と比べたら全然大したものじゃないらしいけど。

 それでも、基礎魔法レベル3を10回ぐらい使える魔力を蓄えられる」

「10回!?」


俺は思わず戦慄した。

魔力が少ないとはいえ、『魔導師(ウィザード)』の称号を持つメリスですら、基礎魔法レベル3を2回も使えば魔力が無くなるってのに、10回!?


「となると、長期戦は不利だね……」

「あ、でも兄さん!私、ブレイアムなら後4回ぐらいできると思うよ!!」

「……え?」


俺はもちろんのこと、グリーも一瞬目を丸くする。


「あ……その杖の効果かい?」

「うん!そうだと思う!!」


嬉しそうに『紫光』を抱えるメリス。

『夜桜』や『風切り』もすごい武器だけど、『紫光』もそれに劣らない代物だったみたいだ。


「……それでも、イリナさんはまだハリケイドを6回は使えるはずだから。やっぱり、早めに終わらせるべきだね。

 そのためには……ハディくん」

「おう、分かってる」


俺は『夜桜』を持つ手に力を込める。


「彼女は死を望んでる。だけど、それは彼女の本意じゃない。

 ……イリナさんは、生きたいんだ」

「分かってるっての」


俺はキッと、狂気に呑まれるイリナを見る。

さっきイリナは、『もういい』って言った。『自由に生きたい』、でも、『もういい』って。

………ウソだ。そんなの、ウソだ。

剣からも、魔法からも、イリナの気持ちがビシビシと伝わってくる。


生きたい。

この森から出たい。

自由になりたい!

………諦めたくない!!


「だから、助けたいって思えるんだ!!」


剣を交える度に、心の叫びを聞かされてる気分だ。

そう何度も聞かされてちゃ、見捨てる気も失せるっての!!


「っ……!!」


俺の言葉を聞いて、イリナは動揺したようだった。

しかし、すぐにまた、その目は狂気に染まってしまう。


「助けたいって……そう思ってくれるのなら、ちゃんと、殺す気で戦ってよ!!」


イリナの持つ指輪が緑色に光る。

それを見ても、もう俺が焦る必要はない!


「2人とも、頼んだ!!」

『了解!!』


メリスの体は赤、杖は紫、そしてグリーの持つ銃は緑の光を放つ。


「地表より風の集いを呼ぶ!我は風を操る者なり!

 切り裂け ハリケイド!!」

「大気より火の集いを呼ぶ!燃えろ フレイア!!」


『ハリケイド』に『フレイア』と『爆風の魔弾』が向かい、激突する。

爆風と衝撃波に耐えながら、俺は足に意識を集中した。

カオスの話では、『爆風の魔弾』が使えるのは2回まで。

メリスが『ブレイアム』を使うのには時間がかかるから、もう『ハリケイド』に対抗する手段はない。

だから……これで、決める!!


「縮地!!」


足にためた力を解き放ち、一気にイリナへ近づく。

強力な魔法を使った直後の不意打ち、普通ならとても対応できないが、イリナは『血印』の効果か、反応し、剣を振ってきた。


「ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


『縮地』の勢いをそのまま剣に乗せ、思い切りイリナの剣へとぶつける。

普通に斬り合えば力負けしちまうだろうが、これだったら勝機はある!!

2つの刃が重なり、そして……。






一方の刃が、もう一方の刃を、切り裂いた。


「っ!?」


剣を斬られ、驚愕に目を見開くイリナ。

その隙を逃さず、俺はイリナの首へ剣を突き付けた。


「………」


数秒の間を置いた後、イリナの体を包んでいた赤い光が消え、イリナは目を閉じ、両手を上げる。

それを確認して、俺は告げた。


「俺達の勝ちだ、イリナ」

「………えぇ」


そう応え、ゆっくりと目を開くイリナ。その目には、もう狂気の色はなかった。


「それで?……やっぱり、殺してくれないの?」

「当たり前だ、まだ言うのかよ」

「……『願いの珠』、使わないの?」

「……あぁ」


イリナの瞳が哀愁の色に染まる。

俺は思わず、目を背けてしまった。そうだ、これじゃ、何の解決にもなってないもんな……。

そんな俺を見て、イリナは力なく笑った。


「……ごめんなさい。まだ会って間もないあなた達に、無理なお願いをしちゃって」

「………」


俺は、イリナの顔を見ることができなかった。

……何か方法はないのか。………何か!!


「そのことなんだけどさ」


その時、グリーが前へと進み出た。


「実は、1つ叶えたい願いができたんだ」

「は……?おい、グリー!?」


思わず怒鳴った俺を、グリーは片手で制する。『大丈夫』、と。

……信じるぞ、おい。


「……どんな、願いなの?」

「みんなが望む願いだよ」


グリーはイリナに笑顔を向けた後、『願いの珠』へ顔を向ける。


「『願いの珠』は、どんな願いだって叶えられるんだろう?」

「……えぇ、そのはず」

「だったら」


グリーはもう一度イリナに笑顔を向ける。


「『イリナ・ガルディデスを願いの珠から解放する』って願いも、もちろん叶えられるんだよね?」


………え………?………あ………!

そう、だよな。どんな願いでも(・・・・・・・)、叶えられるんだもんな……!!

俺だけじゃない。メリスも、イリナも、思わず思考停止状態になっているようだった。


「に、兄さん……!!」

「グリー……お前って奴は!!」


歓喜に震える俺とメリスに笑顔を向けるグリー。


「………本、当に………?」

「うん」

「だ、だって……そんな……!!」

「イリナさん」


グリーは真剣な眼差しをイリナに向ける。


「君は、もっと早く気付いていたんじゃないのかい?

 こうすればいいってことに」

「……それは……だって、私は『願いの珠』と繋がってるから、『願いの珠』が、使えなくて……!!」

「他の人に頼めばいい、とは思わなかったのかい?」

「だ、って……!!」


イリナの瞳から、涙がこぼれる。


「みんな……楽しそうに、話してたから……!

 私、なんかのために……その願いを、諦めるなんて……!!」

「……そうか」


泣きじゃくるイリナの頭に、グリーは優しく手を乗せた。


「大丈夫」

「っ……!」

「大丈夫だよ。もう、君はこんな物に囚われなくていい」

「う……あ……!」

「自由に、生きていいんだ」

「う……っ……あ……あああああ……!!」


せきを切ったように涙を流すイリナの頭を、グリーは優しくなでる。

……ったく、本当に大した奴だよ。お前は。


「……グリー」

「うん、頼んだよ」


俺は傾き、ゆっくりと『願いの珠』へ顔を向ける。

イリナを今まで縛っていた物、それを使ってイリナを開放するなんてな。


「そんじゃ、叶えてもらおうか。俺達の、願いをよ!」


俺は『願いの珠』へ歩み出した。

『言霊』を使うんだよな?とりあえず、手を触れて願いを言ってみればいいかな。

そんなことをのんきに考えていた。それぐらい、俺は安心しきっていた。

もう、これで終わりなんだ。万事うまくいったんだ。

俺は、そう思っていた。






………その時だった。











ギョロッ………






「………え………?」


『願いの珠』の、その白い表面に、赤い目玉のようなものが現れる。

次の瞬間、それは大きく見開き、俺に焦点を当てた。


「なっ……なん………!?」


それだけではない。

ミシミシという、まるで骨を砕くような音と共に、『願いの珠』は形を変えていく。

4か所が枝のように伸び、一度折り曲がって地面に着いたかと思えば、その先端が五つに分かれ、獣の足のような形になる。

さらに、後ろの部分が盛り上がっていき、天使を思わせる、巨大な翼に変わる。

最後に、球体の体の上に、これまた天使を思わせる、赤く輝く光の輪が現れた。


その、異形としか言い表せない姿に、俺達は全員、言葉を失う。

そんな俺達に目を向け……それ(・・)は、甲高く、奇怪な産声を上げたのだった………。











では、次回予告です!


「グリーだ。

 突然姿を変え、暴れ出す『願いの珠』。一体、どうなってるんだ!?

 これは……一体、何なんだ?

 次回、冒険者ライフ!第50話『豹変』。

 ……諦めないよ、絶対に!!」



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