第48話 願いの珠
「お待たせー!!」
「待たせてごめんなさい」
居間で待つこと十数分。
メリスとイリナさんが料理を持ってきてくれた。
「手伝います」
「あ……ありがとう」
イリナさんの手から料理を取り、机へと並べていくグリー。
普段は結構紳士だよな、こいつ。
……俺には銃とか突き付けてくるのに。
「ほら、ハディも手伝ってよ!」
「あ、悪い悪い」
料理の量は多かったけど、4人で協力したおかげで、すぐに並べ終わった。
「それじゃ!手を合わせて下さい!」
「………」
メリスの台詞に、子供か、とツッコミたくなったが、別に悪いことをしているわけではないので黙っておく。
「いただきます!!」
『いただきます』
メリス指示のもと、しっかり手を合わせて食事を始める。
木の実を使ったパンに野菜と魔物の肉が入ったスープ、焼き魚に果物と自然味あふれる食卓だ。
少し薄味だけど、素材の味が活きてておいしい。調味料をあんまり使ってないのかな?
「おいしい!!イリナって料理上手なんだね!!」
「ありがとう。でも、メリスも手伝ってくれたじゃない」
「えー、私野菜やお肉を切っただけだよ?」
楽しそうに話しながら食事を進める2人。なんか、すっかり仲良くなってるな。
微笑ましく思いつつ、ゆっくりと料理を堪能する。
「ごちそう様ーーーー!!!」
聞こえない!俺には何も聞こえない!!
「えっ……と……?」
イリナさんの困惑した声が聞こえてくる。
そりゃ困惑するよな!!どこのバカが人と談笑しながら1分未満で食事を終えるんだよ!!あぁ、ここのバカか!!
「メリス」
「ん、何?」
「空気読め」
「何で!?」
うるせぇよ、ここのバカ!!
「……メリス、おかわりする?」
「本当!?ありがとうイリナ!!」
すげぇ!この人普通に対応してる!
「む、このメリスの扱い……。
イリナさん、油断ならない相手だね……!」
「待てグリー、何の対抗心だそれは」
ってか、夕食の時に探りを入れるんじゃなかったっけ?
すでにそんな空気じゃなくなってるんだけど。
「そういえば……あなた達、冒険者よね?」
「え、はい、そうですけど……」
「すごいイリナ!!どうして分かったの!?」
「ほら、ハディさんとグルードさんが、腕輪をしてるから」
「あ、本当だ!!」
「待てメリス、お前のその反応はおかしい」
まるで今知ったかのような反応をするメリスに、思わずツッコむ。
「え、あ、し、知ってたよもちろん!!忘れてなんて全然ないよ!!」
「………」
忘れてたのか、こいつ。
「私、ずっとここに住んでるから、冒険者の話に興味があるの。良かったら、聞かせてくれない?」
「ずっと……ですか?」
「……えぇ」
イリナさんの返答に、グリーは少し考えるような顔になる。
「よーし!そういうことなら話そうよ!私達の冒険談の数々を!!」
「おう、何がいいかな……」
「じゃあまずは!この前の『赤ちゃんのお守』の話を……」
「冒険談を話せ!!」
よりにもよってそれかよ!!冒険者のイメージがぶっ壊れるぞ!!
「えーとね、私とハディが新婚夫婦に間違えられたんだよ!」
「ストップ!!グリーストップ!!
ってか、2週間以上前の話でキレんな!!」
「勘違いしないでくれハディくん、僕は怒ってなんかいない。
ただ、君への殺意が抑えきれないだけだ……!」
「余計怖いわ!!」
銃を取り出そうとするグリーを必死に取り押さえる。
「それでね、その後ビスケット町を旅立ったら、途中の森でこわーい魔物が襲ってきて……」
「メリスてめぇ!!普通に会話を続けてんじゃねぇ!!」
「ハディ、なんて言ったっけ?あの魔物!」
「まずグリーを止めてくれ!!」
「……そんなに長い名前だっけ?」
「名前じゃねぇよ!!」
「『バトルプラント』だよ、メリス」
「そうそう、それそれ!!」
「会話しながら銃を取り出そうとすんなグリー!!
一旦会話を止めやがれメリス!!」
ちくしょう、こいつらいつも俺をないがしろにしやがって!
覚えてろよ!!いつか目に物見せてやる!!
「ハディ、そのセリフ雑魚っぽいよ?」
「心を読むなぁ!!」
肉体的にはグリーに、精神的にはメリスに追い詰められて、俺は一体どうすれば……!!
「……ふふ」
と、ふいにイリナさんの笑い声が聞こえてきた。
「あ……ごめんなさい。
……あなた達、本当に仲が良いのね」
「……仲が良い……?」
この状況のどこを見てそう思ったんだ……?
「うん!!もっちろん!!」
「僕達は運命共同体だからね、仲が悪いはずがないよ」
「待てコラ!!」
人に危害加えようとしといて、その発言はどうなんだ!?
「……ハディは、私達のこと嫌いなの?」
「いや、そんなことないけど……」
「そっか!そうだよね!良かったー!!」
嬉しそうに笑うメリス。
……本当、こいつには敵わないよな。
「……何を見惚れてるんだい?ハディくん」
「見惚れてねぇ!!銃を向けるな!!」
……こいつにも敵わない。別の意味で。
「それで話の続きだけど、チョコレート町でレイラって子に会ってね……」
その後、メリスはここ最近の冒険や依頼の話をイリナさんに話した。
チョコレート町でレイラに会ったことから始まり、精鋭部隊『ソレイユ』や他の冒険者達と協力して、魔物の軍団と戦ったこと、港町ヨーグルトで冒険者ギルドへ行き、そこで受けた依頼でブラッディヴァインと戦ったこと、海釣り船の護衛でアザがシーサーペントを一撃で倒したこと、ミカン村では自分が風邪をひいて、危うく審査の申請が間に合わなくなりそうになったけど、出発が延びたことで、3年前の反乱の話が聞けたこと、など。
……なんか、思い出すとなつかしいな。まだ、そんなに時間経ってないのに。
「そっか……本当に冒険者は、そんな冒険をしてるのね……」
「あれ、イリナひょっとして、冒険者に興味があるの?」
「えぇ、冒険者もそうだけど、世界を旅して回るっていうことに興味があるわ」
「そうなんだ!じゃあ、そのうちこの森を出て、旅とかしようって思ってるの?」
「………」
「……イリナ?」
「あ……うん、そうね。……いつか、きっと」
少し暗い顔で呟くイリナさんに、メリスは首を傾げる。
んー……この家に住んでるのに、何か理由がありそうだな……。
ひょっとすると、それは……、
「……そういえば、まだ聞いてなかった」
「え、何を?」
「あなた達が、こんな森の奥で道に迷ってた理由」
「うっ……」
そういや言ってなかったな……。
ってか、この人が『願いの珠』に関係があるとしたら、正直に話していいか分からないし……どうしたものか。
……とりあえず、無難に『狩り』に来たってことにしておこう。イリナさんは冒険者についての知識も持ってるみたいだし、これなら納得してくれるはずだ。
「俺達がこの森に来たのは……」
「『願いの珠』を捜しに来たんだよ!!」
「そうそう、『願いの……ってうおぃ!!!」
このバカあっさりとバラしやがった!!
こいつに警戒心はねぇのか……って、しまった!こいつイリナさんと仲良くなってたんだった!警戒なんてしてるわけねぇか!!
「なんでも、どんな願いでも叶えてくれる魔法の道具なんだって!!ロマンチックだよね!!」
俺の心境なんて全く知らず、さらに続けるメリス。
……もういい、今更止めても遅いし、全部言っちまえ。
「………」
「この森のどこかにあるって聞いたんだけど、イリナは知らない?」
「あるって断言すんな。そもそも存在自体疑わしいんだからな?」
「もー!ハディにはロマンが足りないよ!!」
「いや、お前が子供過ぎるだけだろ。そんな話酒場でしたら、その場にいる冒険者全員に笑われるぞ」
「あの人達はいっつも笑ってるでしょ!!」
「そういう意味じゃねぇよ!!」
……しまった、いつもの調子で会話を遮ってしまった。
俺とメリスが言い争いを始めたせいか、イリナさん黙っちゃってるし。
「それで、どう?手掛かりとか!関係ありそうなことだけでも良いんだけど……」
「……ごめんなさい、知らないわ」
イリナさんは少し顔をうつむかせ、呟くような声で言った。
んー、知らないのか……。いや、言われたことを丸呑みにするのはダメだよな。ウソついてる可能性もあるし。
「そっかー……んー、やっぱりないのかなぁ……」
がっかりしたように呟くメリス。
……こいつは全く疑わずに丸呑みにしてんな。一応冒険者(正確にはまだ違うけど)なのに大丈夫か。
「………ねぇ」
「ん、なぁに?イリナ」
「もしも……もしも、『願いの珠』が手に入ったら、あなた達はどんな願いを叶えてもらうの?」
と、イリナさんが質問をしてきた。
どんな願いって……、
「それ以前に、カオスに捜せって言われたから捜してるだけで、別に俺はそこまで欲しくないけど」
「えぇっ!?ハディもしかして、何にも願いがないの!?」
「いや、そうは言ってないだろ。俺にだってあるぞ、欲しい物の1つや2つ」
「例えば?」
「金」
「………」
「待てメリス、なんだそのかわいそうな人を見るような目は」
「だって……」
確かに、最近はそんなに金に困ってないし、必要以上に金を手に入れたら、怠けてしまって逆に良くないのかもしれない。
それでも!金はあるに越したことはない!!なかったら絶対困るからな!!
「もー、ハディったら、せっかくどんな願いでも叶うのに、そんな願いでいいの?」
「じゃあ、お前だったらどんな願いを叶えるっていうんだ?」
「私?私はね……」
よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに自信満々な様子でしゃべり始めるメリス。
まぁこいつのことだから、どうせそんな大した願いじゃないだろうけど……。
「超高級な宝石専門店に並ぶような、超高級なアクセサリー!!もしくは時価数億Gの宝石が欲しい!!」
「やっぱりか!!ってか、俺と大差ねぇじゃねーか!!」
「一緒にしないでよ!私はハディみたいに卑しい願いじゃないもん!!」
「金が卑しいなんて考えは偏見だ!!
ってか、金が卑しいものだったら、世の中のほとんどの人間は、卑しいもののためにがんばって働いてるってことになるぞ!」
「魔法の道具を使って手に入れようとするのが卑しいの!!」
「だったら、お前が言ったアクセサリーも同じだろ!!」
ギャーギャーと、いつもながらに口ゲンカをしていた。
……だから、俺とメリスは見ることができなかった。
「……悪いね、なんだか騒がしくて」
「………」
「イリナさん?」
「あ……うぅん、なんでも……ない」
この時、イリナさんが、どんな顔をしていたのかを……。
「うわー!広ーい!!」
夕食と風呂の後、雑談をしているうちに11時になってしまったため、俺達は泊まらせてもらう部屋へと来ていた。
メリスは騒ぎ過ぎ……と言いたいところだけど、本当に広いよな、この部屋。客間か何かなのか?それにしても広過ぎだと思うけど……。
「お布団、ここに置いておくわ」
「ありがとな、イリナ」
俺がお礼を言うと、イリナは微笑みで返してくれた。
3時間以上雑談していたおかげで、とりあえず、タメ口で話せるぐらいには仲良くなれた。
……『願いの珠』の情報は、結局何も得られなかったけど。
「私も部屋で休むわ。おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみー!!」
「おやすみ」
イリナが出た後、布団を敷き始める。
……なんか、布団で寝るの久しぶりだな。宿屋は大抵ベッドだもんな。
「にしても、結局『願いの珠』の情報はなしか」
「そりゃそうだよ、イリナは何も知らないって言ってたでしょ?」
「お前……うん、まぁ、そうだな」
雑談してた時も、特におかしいところもなかった。
それに、一宿一飯の恩があるのに、あんまり疑うってのもよくないよな。
そもそも、俺は『願いの珠』の存在自体、怪しいと思ってるし……。
「……そうかな」
「グリー?」
「いや……何でもないよ。とりあえず、今日のところはもう休もう。
昼歩いたせいで疲れてるしね」
「だな……んじゃ、おやすみ」
「おやすみ~……」
「……おやすみ」
だいぶ疲れていたのか、俺の意識はあっという間に闇の中へと落ちていった……。
「……きて……起きて!!ハディ!!」
「……あ?」
慌てた様子のメリスに、体を揺らされる。
……なんだ、もう朝か?全然寝た気がしないんだけど……。
「って、まだ1時間しか経ってねぇじゃねーか!!
メリス、何のつもり……」
「また、あの“変な気配”がするの!!」
「……え?」
変な気配って……。
「ここに来る途中で感じたものと、同じものかい?」
「うん!!」
俺と同じく起こされたと思われるグリーの質問に、メリスは力強くうなずく。
「……気のせい、とかじゃないんだな?」
「違うよ!だって、こんなにはっきり感じるもん!!」
「……もう少し静かにしろ。イリナが起きちまうだろ」
「う……」
黙ったメリスをしり目に、布団から起き上がり、夜桜を腰に差す。
「んで、場所は?」
「あ……うん!!えっと、とりあえず外だよ」
「……流石に、家の中にはないだろうからね」
「え?」
「いや……早く行こう、またここに来た時みたいに、いつ気配が消えるか分からないからね」
メリスに先導され、俺達は外へと出た。
……完全に真っ暗だな。何にも見えない。
「ほら2人とも、懐中電灯」
「用意がいいな」
「さっすが兄さん!」
「森の中だからね、日が落ちたら真っ暗になるのは当たり前だろう。
それでメリス、場所は?」
「えっと……こっち!!」
メリスは家の裏口へ回り、そこからまっすぐのびる道を指差した。
俺達が来たのとは反対の道だな。
「……あ、イリナに一言言っておかなくていいかな?」
「いいだろ別に。それだと起こさなきゃいけないし」
「……起こす必要は、ないと思うけどね」
「……グリー?」
「いや……まだ、確信はないよ。それより、早く行こう」
……グリーの考えてることが少し気になるけど、とりあえず、進んでみるか。
メリスの言った道を進むこと数分……。
「……おい」
「あ、あれ……?」
俺達の前には、高い岩の壁が広がっていた。
……うん、行き止まりだ。
「何にもないじゃねぇか!!」
「え、で、でも!確かに気配が………あれ?」
と、メリスが驚いたような顔をする。
「き、消えちゃった……」
「………はぁ」
俺は思わずため息をついた。
「やっぱり、気のせいだったんじゃないか?」
「ち、違うよ!!だって、確かにさっきまでは……」
「って、言われてもな……」
信じたいのはやまやまだけど、実際、何にもないわけだし……。
「………」
「って、グリー?何やってんだ?」
グリーが壁に近づき、懐中電灯で照らしながら、注意深く見ていることに気づく。
「……おかしいと思わないかい?」
「え?」
「この道」
グリーは俺達が歩いてきた道を見ながら言う。
「邪魔になるような草木が刈られてる、明らかに、人為的に作られた道だ。
……だけど、その道が、この壁で不自然に途切れてる」
「……あ」
言われてみれば……。
「でもそれって、誰かがここまで道を作ったけど、壁に当たったから、そこでやめた。とか」
「……だったら、すぐにまた植物が生えて、道は消えてしまうはずだ。見た感じ、刈られてまだ3日も経ってないよ。
もちろん、ハディくんが今言ったことが、たまたま3日以内に行われたって可能性もあるけど……」
グリーは口を止めて、壁のある部分に手をかける。
よく見るとそこには、切り込みのようなものがあった。
グリーが手に力を入れると、その部分の岩がはがれ……、
「……どうやら、そうじゃないらしい」
「……レバー?」
グリーがそのレバーを下げると、ガコンという音と共に、壁の一部がへこむ。
そして、その壁の中央が割れ、左右へと開いていく。
……そうして、道の先に、洞窟の入口ができあがった。
「隠し、洞窟……!?」
「……全く、面白い仕掛けだね」
やれやれ、という感じにグリーが呟く。
「わざわざこんな仕掛けを作って隠してるってことは、この先には、人には見られたくない何かがあるってことだ。
……2人とも、心の準備はいいかい?」
「おう!」
「うん!!」
俺とメリスは元気よく返事をする。
散々疑ったけど……『願いの珠』が本当にあるんじゃないかって、俺でも思えてきたからだ。
洞窟に入り、暗い中歩くこと数分……出口が見えてきた。
「……ここは……」
洞窟を抜けると、目の前に広場のような開けた場所が広がった。
森の中と違って月や星の光が遮られないし、そこら中に淡い光を放つ、街灯のような物が置かれているため、結構明るい。上には夜空が見えるから、さっきの洞窟は洞窟っていうより、ただの壁みたいなものだったみたいだ。
「ハディ!あれ!!」
メリスの指さす方を見る。
そこには……直径3m程ある巨大な宝玉が、台座の上で、虹色に輝いていた。
これが……まさか……!!
「……見つかっちゃった」
「………え?」
宝玉の後ろから、1つの影が現れる。
「5年間、私1人でも隠せてたんだけど……」
「……な、なんで、ここに……」
「案外、あっけなく見つかってしまうものね……」
肩をすくめるその人物を、メリスは驚愕の表情で見つめる。
「イリ、ナ……!?」
「……えぇ、私よ?」
微笑みを浮かべるイリナ。
……だけど、それは最初に自己紹介をした時や、数時間前に雑談をしていた時に見せたものとは、明らかに違う、思わず、背筋に寒いものを感じるような、無機質な笑みだった……。
「……ねぇ、夕食の時に話したこと、覚えてる?」
「え?」
「冒険者に興味があるって……言ったでしょう?
だけど、私は冒険者には、なれないから。それに……これが、最後だから。
1つ、わがままを言わせてほしいの」
無機質な微笑みを浮かべたまま……イリナは、右手に握った細身の剣を、俺達へと向けた。
「私と……戦って」
では、次回予告です!
「メリス、だよ。
『願いの珠』を見つけた私達に、剣を向けるイリナ。
どうして、こんなことに……私達は……!
次回、冒険者ライフ!第49話『イリナ・ガルディデス』……。
……どうして?イリナ……!!」




