第22話 芳声嘉誉(ほうせいかよ)
~サイドアウト~
ここはヨーグルト港町の近くにある海岸。
ギルドのエース、コウル・フレディアはその辺りを歩き回っていた。
そのそばには火を纏う赤いトカゲ、サラマンダーが浮遊している。
「ん~……おっかしいなぁ……」
コウルは頭をかきながら、不満そうにうめく。
「ねぇヒヒ、近くで変な気配とか感じる?」
ヒヒと呼ばれたサラマンダーは、それに応えるように辺りをうかがい始める。
と、何かを探知したらしく、ヒヒは近くの波打ち際を注視する。
コウルも気づき、それにならう。
次の瞬間、大きさ1m程のカニが砂の中から現れ、コウルに襲いかかってきた。
レッサークラブ、危険度Eの低位魔獣だ。
危険度Eの中でも危険度Dに近い強さを持ち、カニなのに前にも走ることができる。
「頼んだよヒヒ!」
コウルの周りが赤く光る。
すると、それに呼応するようにヒヒの体が赤く光った。
「行け!!」
コウルの声を聞き、ヒヒは口から炎を吐きだす。
レッサークラブはあっという間に炎に飲み込まれ、黒焦げになって倒れた。
「お疲れヒヒ!」
コウルのねぎらいの言葉に、ヒヒは目を細めて傾く。
「……でも、こいつも違うね……」
事切れたレッサークラブを見て、コウルは小さく嘆息する。
「おっかしいな、目撃情報は多いのに、これだけ探しても一匹も見つからないなんて……」
落胆するコウルを励ますように、ヒヒが周りを飛び回る。
「ん、大丈夫だよヒヒ、ありがとう」
コウルはヒヒに笑顔を向けてそう言うと、大きく伸びをする。
「さってと、がんばりますかね。
……手を抜いたらギルド長に殺されるし」
コウルは少し自嘲的に笑い、調査を再開するのだった。
~ハディサイド~
「はあぁぁっ!!」
気合いと共に水のカズラの本体である、緑色のつぼみのようなものを切り裂く。
「ふぅ……これで何体目だっけ」
「丁度30体目だよ。
……まだたくさんいるけどね」
グリーはうねうねと周りをただよっているつるを見て呟く。
「確か一つのビニールハウスに、50体ぐらいいるって言ってたよな……」
「じゃあもう半分以上終わったの?」
「……このビニールハウスは、な。
ビニールハウスは全部で五つあるからな?」
ほっとした表情のメリスに釘を刺しておく。
「お昼休憩までに、できれば二つ終わらせておきたいかな。
……後半は休憩も必要だろうし」
銃声と共に、少し離れた場所にいた水のカズラの本体が吹き飛ぶ。
「ハディ後ろ!!」
メリスの声に慌ててしゃがむ、と、さっきまで俺の頭があった場所を、緑色のつるが通っていった。
振り返り、その水のカズラに迫り、斬り伏せる。
「サンキューメリス!」
「気をつけてよ!」
メリスはそういうと、『集中』を始める。
メリスの周りが青く光るのを見て、二本のつるが襲いかかった。
しかし、それがメリスに届くより早く、俺とグリーがそれぞれ本体を倒す。
「……海底より水の集いを呼ぶ……」
メリスの両手の間に、水が大きな球体となって現れる。
そして四つに分裂し、メリスの周りを囲む。
「流せ アクアム!!」
四つの球体それぞれから水柱が飛び出し、凄まじい勢いで水のカズラを襲う。
上から押しつぶしたり、押し流してビニールハウスの壁に叩きつけたり。
……あ、今ので五体目だ。
「アクアムは一つ一つの威力は低いけど、長時間操れるのが強みだよね」
「いや、十分威力高いだろ」
つぶされた水のカズラを見て呟く。
うーん、植物だからまだいいけど、これ動物だったらけっこうグロいよな……。
「と、おしゃべりしてる場合じゃないか!」
剣の柄を握り直し、近くにいた水のカズラへ向かって走る。
……やっぱ水が張ってて走りにくいな。
一応防水加工されたくつを貸してもらったから、これでも少しはマシなんだろうけど。
向かってきたつるを右へ跳んでかわし、距離を詰めて本体を切り裂く。
「よし……うわっ!!」
右から飛んできたつるを慌てて前へ跳んでかわす。
あっぶね、油断した……!
その水のカズラに狙いを定め、一気に肉迫して斬り伏せる。
水のカズラの武器は長いつるだ。
遠くから飛んでくるのは厄介だけど、その分一度伸ばしたら戻すのに時間がかかるからな、その間無防備になるのが弱点だ。
さらに近くに二体の水のカズラを発見し、そっちに向かって走る……と、向こうも俺に気づき、つるを伸ばしてきた。
……足元に水が張ってるからな。
やっぱりその音で気づかれるか……!
一本目をしゃがんでかわし、二本目を切り裂いて本体に迫り、二体とも真っ二つにする。
「さて、後は……」
周りを見ると、もう生きている水のカズラは見当たらない。
「ここはもう終わりみたいだね」
「それじゃ、次に行くか!」
「水のカズラを回収してから、ね」
グリーは大きな袋を出す。
そういえば、回収もするんだっけ。
「あれ、もう終わったんですか?」
回収し終えてビニールハウスから出ると、クアルさんに驚かれた。
「はい……あ、これここに置いておけばいいですか?」
「あ、はい」
水のカズラが入った三つの袋をビニールハウスの近くに置く。
「それじゃ、次行くか!」
「うーん、今12時前だから、ちょっとギリギリかもね」
12時前か……。
始めたのが11時少し前だったから、やっぱ1時間はかかるな……。
「お弁当は少しぐらい食べるのが遅れても大丈夫ですので、ゆっくりで構いません。残りもよろしくお願いします」
クアルさんが笑顔でそう言った。
なんか、少し態度が軟化したような……?
「ハディ、寒いよ?」
「心の声にダメ出しすんな!ってか、別にダジャレ言ったつもりはなかったんだけど」
「ほら二人とも、じゃれてないで行くよ……?」
「分かった!!分かったからグリー、その黒いオーラをしまえ!!」
依頼主の前だからさすがに銃は突き付けてこないけど、殺気だけで十分怖い。
とりあえず祟られないうちに仕事を始めよう。
グリーも仕事中はそっちに集中するだろうし……。
「ハディくん、無駄なことを考えてないかい?」
「バカな!?心を読まれた!?」
「……カマかけただけなんだけどね?」
「ハディ、無駄だって認めちゃダメでしょ」
次々にダメ出しをしてくる二人。
こういう時ホント息ぴったりだよなこいつら……。
「ラスト!!」
二つ目のビニールハウス最後の水のカズラを斬り倒す。
これで後三つ、大体150体ぐらいか……。
「……多いな」
「そんなの今更でしょ。ファイト!!」
「なんだその他人事みたいな言い方!?」
「何言ってるんだいハディくん!メリスもしっかり働いているじゃないか!!」
「いや、サボってるなんて言ってないけど」
「ハディひどーい!!」
「人の話聞け!!むしろ聞いててわざと言ってるだろお前ら!!」
グリーはともかく、メリスは絶対わざとだ、絶対。
「絶対」
「なんで三回も言うの!?」
メリスめ、やっぱり心読んでやがったか。
見切った!見切ったぞ!これでもうメリスの読心なんて怖くな……
「ハディ、果たしてそうかな?」
「うわ、また読まれた!!」
くそ!やっぱり常に読まれてるんじゃどうしようもない!!
「二・人・と・も?じゃれてないで仕事してね……?」
グリーが殺気を向けてきた……俺に対して。
グリーが銃を向けてきた……俺に対して。
「待てグリー!!メリスは!?」
「僕がメリスに殺気や銃を向けるわけないだろう?」
「分かってたけど理不尽だ!!」
「ほらハディ!早く仕事しなきゃ!」
「おいコラ元凶!!いつの間に仕事始めたんだ!?」
既にメリスの持っている袋は大きくふくらんでいる。
油断も隙もない……!!
「『大きくふくらんでいる』だって!?ハディくんメリスのどこを見ているんだい!?」
「そこだけ!?中途半端に心読むなグリー!!」
こうして、俺はグリーに追われながら水のカズラを回収していくのだった。
「あ、皆さんお疲れ様……、どうしました?」
「……いえ、何でもありません」
ビニールハウスから出ると、クアルさんに心配された。
たぶん俺が疲れているように見えたんだろう。
正直自分でもそう思う。
「もう100体程相手にしているわけですからね。疲れていて当然だと思います」
違うんです、仲間に追われていたんです。とはとても言えない。
「先程お弁当が届きましたので、お昼にして下さい」
「はーい!!」
「メリス、手は上げなくていい」
興奮気味のメリスをなだめて、クアルさんについていく。
案内されたのは小さな休憩室だった。
小さいっていっても飯食べるぐらいなら十分だけど。
「すみません、休憩室はここしかないもので、私もご一緒しますがよろしいですか?」
「はい、もちろん」
机には四つの弁当が置かれていた。
……普通の大きさだけど、メリス足りるか……?
「それでは、いただきます」
クアルさんにならって、全員いただきますと言い、弁当を食べ始める。
んー、やっぱり仕事の後の飯って格別だよな!
ここまでビニールハウス一つ1時間ぐらいで終わってるからあんまりあせる必要もないし。
ここはゆっくり昼飯を堪能するとし……
「ごちそう様ーー!!」
ツッコまない!!ツッコまないぞ!!
「え、あ、あの……」
「気にしないでください、こういう奴なんです!」
戸惑うクアルさんに弁明しておく。
そりゃ仮にも女が弁当を5分足らずで食べ終わったら驚くよな!!
「そういえば、クアルさんは僕達のこと、ギルドからどのくらい聞いていらしたんですか?」
「どのくらい……と言うと?」
「いえ、初めに僕達を見た時、少し不安そうな顔をされていたようなので」
グリーの言葉を聞き、クアルさんは気まずそうな顔をする。
「はは……申し訳ないです。
いつもはギルドのエースの方に来て頂いているもので、少し不安だったんです」
「エースって、コウルさんですか?」
確かプラムさんはギルド長で、エースはコウルさんだったよな。
……まぁ、ギルド所属の冒険者はコウルさん一人だって言ってたけど。
「はい、コウルさんはC級冒険者で、実力もあるし、町のみんなから信頼されていますよ」
「C級!?」
あ、あの人が!?
「レイラさんに比べたら普通だけど、十分天才の部類だね……」
「……プラムさんに脅されてた姿からは想像できないけど」
「それと、プラムさんはB級ですよ」
「B!?え、あの人冒険者なんですか!?」
「当たり前だよハディくん。
基本的に冒険者ギルドの職員は冒険者しかなれないんだから」
そういやそうだっけ……。
「プラムさんはコウルさん以上に町の人に慕われていますよ。
あの人は実力はもちろん、この町のことを本当によく考えてくれていますから」
クアルさんはうれしそうに話す。
『魔女』なんて異名だと悪いイメージがありそうだけど、プラムさんは町の人達にちゃんと信頼されてるみたいだ。
ギルドに多く依頼がいってるのも、そのおかげなんだろうな。
……その分コウルさんが苦労してるけど。
「あなた達のこともプラムさんに聞いたんですよ。
剣士一人、『魔導師』一人、それと銃使いが一人って」
「……見抜かれてたんだね」
グリーが小さく呟く。
どうやらプラムさんはかなり俺達のことを見抜いてたみたいだ。
実力とかも計られてたのかも……。
そう考えると、最初追い払われそうになったのって、俺達が力不足だと思われたから、だよな……。
「あの、私達のことどんな風に聞いてたんですか?」
「え……っと、そうですね……」
クアルさんが少し言い淀む。
やっぱり、きつい評価なのか……。
「お願いします、俺も気になりますし。
少しぐらいひどいことを言われても大丈夫です!」
「……分かりました」
クアルさんが真剣な表情になる。
一体なんて言われたんだ?
……いや、どんな風に言われたって俺はくじけたりしない。
さぁ、どんと来い!!
「『バカそうだけど仕事はたぶん大丈夫』、と……」
その評価はあんまりでしょプラムさん!?
「それで少し不安だったんです」
「はは……」
そりゃ不安になりますよ!!
もう少し言い方ってものが……。
「何でも、顔がバカそうだから初め追っ払おうかと思ったらしくて……」
「そんな理由!?」
俺達そんな理由で最初『帰れ』って言われたのか!?
「『実力は申し分ない』とも言われたんですが、やっぱり少し不安で……」
「ははは……」
どうしよう、実力は認められてるって喜ぶべきか、バカってなんだ!?って怒るべきか判断に困る。
「そっかー、じゃあ最初追い返されそうになったの、ハディのせいだったんだ」
「待てコラメリス!!誰がバカ面だ!?」
「むっ!じゃあ私のせいだっていうの?責任転換はよくないよハディ!!」
「それを言うなら責任転嫁だ!絶対お前の方がバカだろ!!」
「バカって言う方がバカなんだよ!!」
「子供かお前は!?」
「……止めなくてよろしいんですか?」
「放っておけばその内止まりますよ」
「そ、そうですか?」
「はい、なんだかんだであの二人は仲が良いですから。
……仲が、良いですから……」
「グ、グリーさん?なんだか声が怖いのですが……」
な、なんだ!?外野から殺気を感じる!?
「二人とも、食べ終わったのならさっさと仕事に戻るよ……?」
「はーい!」
「お、おう……」
とりあえずグリーに黙らさ……止められて、俺達は仕事に戻るのだった。
「これで最後、か」
最後、一番奥のビニールハウスを前に、俺は呟いた。
「二人とも、休憩は必要ないかい?」
「うん!大丈夫!」
「疲れてないわけじゃないけどな。後50体ぐらいなら大丈夫だ」
「それじゃ、行こうか」
「おう!これで最後だ!」
やる気満々でビニールハウスの中に入る俺達を、一番に迎えたのは……
異臭、だった……。
「え……?」
思わず、そんな言葉が口からもれる。
俺達の目の前に広がっているのは、大量の、水のカズラの死体。
「な、なんだこれ……!?」
手に取ってみると、まるで何かに食い散らかされたように見えた。
水が張ってて分かりにくいけど、ぐしゃぐしゃになったつるや本体からは汁が出ていて、異臭の正体はこれみたいだ。
「ハ……ハディ!!」
メリスが震えた声を出す。
その指の差す先にいたのは……。
「何だ……こいつ……!?」
そこにいたのは……、巨大な赤い魔物だった。
赤い葉が何枚もくるまれたような物体から、五本の大きく、太いつるが伸びている。
本能的に、感じた。
やばい、と……!!
「ブ、ブラッディ、ヴァイン………!?」
グリーも驚愕の表情でその魔物を見ていた。
グリーのその反応を見て、俺の勘が当たったと、確信した。
その魔物……ブラッディヴァインは、何かに気づいたような反応を見せた後、赤いつるを二本、こっちに向けてきた。
……気づかれたみたいだ。
「……ハディくん」
「危険度C、か?」
グリーは緊張した面持ちで傾き、メリスはビクッと肩を振るわせる。
体が震えそうになるのをぐっとこらえ、ゆっくりと、剣を引き抜く。
何でそんな魔物がここにいるんだ?
戦ったとしても、勝てるのか?
そんな疑問が浮かんだが、すぐに消した。
……そんなことを考えている余裕なんて、ない!
「ギシャアアアアアアァァァァァァァァアアアアアアア!!!」
巨竜の咆哮のような音が響き、二本の赤いつるが、凄まじい勢いで俺達に襲いかかってきた。
サブタイトル解説
芳声嘉誉
意味は良い評判。
主人公達や町の人から見たギルドの印象です。
では次回予告です!
「グリーだよ。
突如現れた危険度Cの魔物、ブラッディヴァイン。
戸惑う間もなく、僕達は戦うことを余儀なくされる。
僕達に勝機はあるんだろうか?
次回、冒険者ライフ!第23話『孤軍奮闘』!
あの時とは違うかもしれない。
でも、きっと無理なんかじゃないはずだ!」