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第49話 いつかのメリークリスマス

『あぁ、そう言う訳やからもう大丈夫や。リュウのことは解決したで』


「そうか。わかりました。ちょうどこっちもシャクレと……」


「おーい! メガネー! 久しぶりー!」


「ちょうどシャクレがきた、切るぞ」


『おう、わかった!』


プツッ


 ハッタリからの連絡を聞いた俺は、探偵缶バッチをポケットにしまった。しかし、すごいな探偵缶バッチ。操作もしやすいし、通話相手の声も聞きやすい上に、こちらの声もクリアに届いてそうだ。なによりコンパクトだ。パーク内ならどこでも通じると言っていたが、パーク内も結構な広さがある。一体どういう技術を使っているんだ、探偵缶バッチ。気になる。


「メガネー! 急にどうしたんだよ?」


「シャクレ……」


 探偵缶バッチのことが気になっている俺の元にシャクレが近づいてくる。しかし、若いな。流石に10年前だと全然違うな。俺も老ける訳だ……。しかし、こいつは俺が老けているのが気になったりしないのだろうか。いや、気にならないか。シャクレだもんな。


「さっき急に新人に『眼鏡の男性がシャクレさんに会いたがってます』って言われてびっくりしたよー!」


「そうそう。あの人……。お礼言わなきゃな、なんていう人なんだ?」


「あーあの新人ね。名前なんだったっけな……」


「お前……。同僚の名前くらい覚えておけよ……」


「悪い悪い……! でもダンサーの新人なんてすぐ辞める奴も多いんだから覚えてられねぇんだよ!」


——あぁ、こんな感じだったなぁ


 涙が出そうだ。こんなに気兼ねなくシャクレと話すのはいつぶりだろう。喧嘩別れの前から、俺たちは昔のように話すことは無くなってしまっていた。何でも動画のネタ。会話のほとんどがインフルエンサーとしてのものになっていた。あとはお金やブランド品の話、関係者との飲み会の話。でも俺がシャクレと話したかったのは何でもないような馬鹿な話だったんだ。


「でも、悪い急がなきゃいけないんだ。もう直ぐ点灯式が……」


「点灯式……?」


「あぁ、俺は点灯式でヒーローになるんだ。バズるんだよ」


「……」


 ダメだ。ならなくていいんだよ、ヒーローになんか。ヒーローになったお前はカッコよかった。でも、ダメだ。その先には破滅がある。俺たちの道はそれじゃなかったんだ。


「で、インダストリアルセンサーになるんだ。俺たち10年後も一緒にいるんだぜ?」


「悪い、シャクレ。選んでくれ……!」


「は……? 選ぶって何を……」


「点灯式と俺とどっちが大切だ」


「何だ、お前……。彼女かよ……」


「悪い!! 選んでくれ!」


「……?」


 シャクレ、お前のいう通りかもな。ウザい彼女みたいなこと言っちゃってるかな、俺。気持ち悪いかもしれないけど、これが俺の今の心からの言葉なんだ。点灯式に行って“皆”のヒーローになるのか、“俺”の友達としてここにいてくれるのか。


——お前が選ぶんならもう仕方ない……


「なんだよ?」


「え?」


「何か話があるから来たんだろ?」


「い、いいのか?」


「わけわかんねぇやつだな……。ちょっとだけ待ってろ」


 シャクレはそう言うとケータイで何やら誰かに連絡をしていた。その姿が滲む。滲む。どうしてだ。いや、理由は明快だ。泣いていたのだ。俺の目からは流流と涙が流れ出ていた。


「しゃ、シャクレェ……。俺、ごめんなぁ。シャクレぇ!」


「う、うわ。何だよお前。抱きつくな! 何かあったのか?!」


「ごめん、ごめんぇん。なんか俺……俺……!」


 涙と共に零れ落ちたのは、謝罪の言葉だった。今から10年後のお前に言えなかった謝罪の言葉。今のお前になら澱みなく言えた。10年間見て見ぬふりをし続けた俺とお前の間にある綻びが今全て解けた気がした。俺も素直になれなかった。ごめん、ごめんなシャクレ。


◆◆◆


「なんだよ、急に。思い出話ばかり……! おじさんかよ!」


「おじさん……なのかもしれないな」


 俺はシャクレと下らない思い出話に花を咲かせていた。俺の話にシャクレが笑って、シャクレの話に俺が笑う。


「なんだよ、それ! こんなくだらない話するためにお前……。俺ツリー点灯式サボっちゃったよ! あー怒られるのかなぁ」


「ははは! まぁ怒られてクビになったらさ、俺と……」


ガシャァアン


「なんだ?」


 ツリーの方角から何かが落ちた音が聞こえる。その方角を見ながら、シャクレが呟く。


「ツリーの点灯式の方からだ。飾りが落下するって話本当だったんだな」


「え?」


「こんな話お前だからするんだけど……点灯式でツリーの飾りが落ちるって話を未来から来たって男に聞いたんだよ」


 未来から来た男……誰だろう。ハッタリの話からすると、リュウなのか。


「そいつ曰く……飾りが落ちるのからみんなを救うヒーローに俺がなるって話だったんだけど……。お前が来ちゃったからさ!」


「大丈夫なのか?」


「さっきの新人くんに連絡しておいたんだ、気をつけてって。だから誰かがちゃんとやってくれてるだろ、きっと」


「そうか……」


 俺の記憶では点灯式を救うのはシャクレだった。しかし、飾りが落下した瞬間シャクレは俺の隣にいる。これは歴史を変えることに成功したと言うことなのだろうか。


「あれ? お前なんかちょっと消えてない?」


「え?」


 シャクレのバカみたいな言葉に呆れかけたが、身体を見てみるとスーッと消えかかっていた。タテノくんが言っていた、タイムスリップは1 〜2時間くらいだと。タイムリミットが来たのかもしれない。


「悪い、シャクレ。時間みたいだ。“お前”と話せてよかったよ」


「え、死ぬの? お前死ぬの? 消えてるんだけど。え? どういうこと?」


「またさ、会えるよな。“お前”と楽しく……」


「楽しく……?」


 目の前で狼狽するシャクレを見ながら、俺は緩やかに消えていっていた。視界が歪んでいくのがわかる。ついに戻るんだ。戻った先でシャクレと俺は仲良くやれているんだろうか。歴史は変わったのか。わからない、わからないけど、俺の心はシャクレと久しぶりに話せたことの充足感でいっぱいだった。


ぐわぁああん


——これでいいんだよな


「メリークリスマス」


「消えた?!」


 メガネはシャクレの目の前から消えていた。その場に1人ぽつんと残されたシャクレは時々目を擦りながら、目の前を見つめていた。しかし、いくら目を擦っても目の前にメガネはおらず、何度もキョロキョロと辺りを見回すのだった。


「メガネ……?? 幻影だったのか……?!」

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