第36話 タイプC
『愛の爆弾のスタッフ、リュウとして活動している男性が未成年飲酒を強要したとの疑いで……』
「……」
——終わったな……
俺はスマホでニュースを見ながら、カフェのテラス席に座っていた。何かとトラブルの多かったリュウだ。いつかあいつがやらかすとは思っていた。それを俺は止めることができなかった。俺の責任でもある。いつのまにか愛の爆弾はボロボロになってしまった……。
あいつらと喧嘩別れしてから、俺の足は何故かシャクレとの思い出のパークへと向かっていた。このパークのショーで踊っているシャクレを見ては、俺も何か自分のやりたいことを見つけなきゃと思っていた。だから、愛の爆弾に誘ってきてくれた時は嬉しかった。
——どこで間違ったんだ、俺たちは……
「それが、さっきから話してるシャクレの“愛の爆弾”達や」
——?!
俺が過去に思いを馳せていると、隣の席から声が聞こえてくる。どうやら、俺達の話をしているようで、思わずビクリと驚いてしまう。それと同時に正体がバレないように顔を伏せていた。
「……んで、二つの世界での“愛の爆弾”の人気の差は異常や。ツリー点灯式事件のこともあるし、“愛の爆弾”の誰かが何か情報を知っとるやないかと思ってるねん」
——何の話をしているんだ?
俺は何故だか気になって、隣の席の話に耳を傾けていた。何やら不思議な話をしている。二つの世界がどうとか。タイムスリップがどうとか、歴史が変わってしまっているとか。そして、何やら“愛の爆弾”へとコンタクトを取りたがっているようだった。
——ツリー点灯式事件……
10年前のことだ。あの事件の映像がネットで拡散されたおかげで、シャクレは有名になった。そしてその後3人で“愛の爆弾”としての活動を始めたんだ。しかし、今この3人が話していた話を整理すると、それはタイムスリップによる歴史改変の可能性が高いという。馬鹿馬鹿しい空想話だ……とも思ったが、どうしてだか俺はそいつらの話に信憑性を感じてしまっていた。
「あの……今の話本当ですか?」
気がつくと俺は隣の3人組に話しかけていた。3人で活動して感じていた少しの違和感。これが俺たちの居場所じゃないんじゃないかと思っていたその少しの違和感の答えがここにある気がしていた。
「俺、ちょっと力になれるかもしれないです。今の話」
◆◆◆
「まさか……メガネさんのご本人登場とはな……」
僕たちの目の前に現れたのは“愛の爆弾”のメンバーのメガネさんだった。
「タイムスリップって本当ですか……?」
僕がメガネさんが今の話をどこから聞いていたんだろうと思っていると、ハッタリが立ち上がって張り切った様子で話し始めた。それはまるで殺人事件の容疑者に聞き取り調査を行う探偵そのものといった感じだった。
「……。まずはメガネさん。あんたは“どっちの記憶”を持っとるんや?」
「え、どっちって?」
「アホ探偵。事情も話さずにそんなこと聴いてわかる訳ないだろ」
「な、誰がアホ探偵や! これは聞き込みのテクニックでカマかけとるんや!」
「すいません……。この探偵みたいな格好した人は何なんですか?」
「お、オレのことやな。オレの名前は……」
「こいつは自称探偵のハッタリってアホです。で、俺がパークスタッフのタテノです」
「なっ、適当ぬかすな! 正しく言うと、オレは天才パーク探偵のハッタリで、こいつがアホスタッフのタテノや!」
「2人ともふざけてる場合じゃないわよ……」
デイちゃんが揉める僕らを仲裁してくれる。メガネさんは僕らのことは無視して、先ほどの問いに答えるのだった。
「あの……俺はタイムスリップとか歴史改変だとかの記憶はなくて。でもちょっとだけ心当たりがあるというか……。今の話詳しく教えてくれませんか?」
◆◆◆
僕とハッタリはメガネさんに事の顛末を話した。メガネさんは時折頷き、驚きながらも真剣にその話を聞いているようだった。こんな話突然されてよくすぐ信じられるな。
「なるほど……。理解できました。一つだけ質問していいですか?」
「おう、ええで!」
「タテノさんになんですけど」
「え、俺に?!」
「はい、タテノさんが元いた世界では……俺たちは……愛の爆弾は普通に活動しているんですか?」
「はい……。元気にやってますよ! こっち程人気じゃないですけど……」
「そうか……。そうなんですね……」
メガネさんはその話を聞くと、グッと俯き何かを考えているようだった。突然「貴方の今の人気は歴史改変によるものです」と伝えられる人気者の気持ちとはどういうものなのだろう。僕にはわからないが、この人も10年頑張って今があるのに、すぐ受け入れられるものなのか。
「……。俺協力します。俺に出来ることなら何でも……」
「ほんなら、何かシャクレやリュウについて、怪しいところとかなかったか? こいつ歴史を変えとんのちゃうか、みたいな」
——バカな質問をする探偵だな……
僕は揉めたくないので黙っていたが、日常生活で他人に「こいつ歴史を変えとんのちゃうか」などと思うことなんてないに決まっているだろう。もっと他の質問の仕方が……。
「実は一つだけあって……」
——いや、あるんかい!
僕はメガネさんのまさかの回答に驚いていた。メガネさんが続けて話す。
「実はリュウのやつが変なUSBメモリをずっともってたんです」
「変なUSBメモリ?」
「はい、こう……USBメモリの両側が端子になってるやつあるじゃないですか? 片側はタイプAで片側がタイプCみたいな」
「なにの話? タイプAとかCとか、新手の動物占い?」
「デイちゃん……ちょっと黙っておいてくれるか?」
ハッタリは素っ頓狂なことをいうデイちゃんを黙らせる。メガネさんはその様子を見ながら、話を続ける。
「リュウはそのUSBメモリを10年前から持ってたんです」
「……! なるほどなぁ〜」
「え、何がなるほどなの? どういうこと?」
「……ということは……」
ハッタリは今の話を聞いて何か考え込みながらぶつぶつと呟き始めた。おい、僕とデイちゃんを置いていくな。ちゃんと説明してくれよ。
「おい、ハッタリ。今の話の何がなるほどなのか説明してくれるか?」
「何やわかっとらんかったんかいな。タイプCが普及したのはここ最近の話や」
「え、そうだっけ?」
「アホ助手やなぁ」
「ねぇねぇ、タイプCって何?」
「あ、デイちゃん。タイプCっていうのは、こうスマホとかの充電端子で楕円みたいに……」
僕は全く話についてこれていないデイちゃんにUSBのタイプCから説明をしていた。デイちゃんは僕の話に納得したようで「これタイプCって言うんだ〜」と感心していた。その様子を見て、メガネさんは続きを話し始めた。
「……で、最近になってシャクレと2人で話したんです。あいつが昔からタイプCのUSBメモリ持ってるのは変だって。それで検証動画を撮影しようってなって……」




