第18話 涙のふるさと
マエダさんを追いかけて、バックヤードへ入る。入ってすぐの物陰にマエダさんはいた。
「ひっ、えっぐ。ごめん、なんか急に……」
向こうを向いていたマエダさんが僕の気配に気づいて振り向く。彼女の顔は涙でぐちゃぐちゃになっていた。こういう時どうすれば良いのだろう。下手に追いかけない方が良かったのか。女の子のこんな姿を見て良いものなのか。ぐるぐると考えていると、マエダさんが話し始める。
「……ごめん。なんかやっぱり少し怖くて、緊張が……ひっぐ。解けた途端になんか……せきとめてたものが溢れちゃって……ひっぐ」
「……」
僕はダメな男だ。こんな時に何て声をかけたら良いのかわからない。
「……」
僕は無言でスッとマエダさんの背中に手を伸ばす。背中をさすってあげる、僕にはそれくらいしかできない。
「ごめん……ありがと……」
マエダさんはそう言うと身体を少し僕の方に預けてくるのだった。
◆◆◆
「ありがとう、ちょっと落ち着いてきたかも」
少しの間……だろうか。時間の感覚がなかった。気付くとマエダさんは泣き止んでいた。
「もう大丈夫そう?」
「うん、大丈夫! あーー見られたくないところ見られちゃった」
確かに、と僕も思っていた。まさかビッグボスが泣くなんて。何だか見ちゃいけないものを見てしまった気分だ。現代では決して部下に見せない弱い部分。そんな部分を感じてしまった。今もこんなふうに泣いたりする時があるのだろうか、と邪推してしまう。いや、きっと今はもっと強くなっているんだろうな。こういう泣いてしまうような事を乗り越えて、今のビッグボスがあるんだ。
——でも……
今は強くなったからと言って、こんなことがまたないとも限らない。現代のビッグボスも元は泣いてしまうような弱さを持った女の子だったのだ。いつまでも僕が頼り切っていては、いつかその糸がぷつりと切れてしまうかもしれない。いざという時は僕がしっかりしないと、男として。
「仕方ないよ、あの人怖かったもん」
「うん……。怖かったのもあるけど、どうして私ヨコイくんみたいに毅然とした態度で接せなかったんだろうって思ったら、どんどん涙が出てきちゃって」
「マエダさんもそのうち毅然とした態度で対応できるようになるよ、それこそ僕なんかの毅然が比較にならない程に!」
「あはは、何それ!」
「あはは、何だろう」
緊張の糸が切れた僕たちは何でもない事で大笑いしていた。そうなんだ、僕は知っている。マエダさんがビッグボスになって、毅然中の毅然の人と化すことを。マエダさんも心配しないで欲しい。君はいつの日か、僕なんか目じゃないほどのすごいパークスタッフになるんだから。




