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第16話 時をかけるタテノ

「ねぇ、ヨコイくん。これって……」


「あぁこれはね……」


 僕はあれから時々絵を通って、いや……絵から『ダイブ』して、過去のテーマパークへとやってきていた。理由はデイちゃんに写真を撮ってくるように頼まれたから。断じて、マエダさんに会いたいからというわけではない。……ないのだ。


「時々外国の人が来るでしょ?」


「あー。そんなの慣れっこだよ。何となく気持ちで話せば……」


 そうか、10年前はまだ外国の人は今ほど多くはなかったのか。現代では外国のお客様への対応は日常茶飯事である。ビッグボスもこんな仕事に手探りな時期があったんだな。


「この前こういうことがあってね、フリーズしちゃったんだよねー」


 過去へ行くと、その度にマエダさんが僕を見つけて色々と仕事の質問をしてきたり、作業を手伝うように頼まれたりしていた。そうしているうちに、僕たちは気付けば気軽に話すような間柄になっていた。


「なるほどなー! ありがとう、ヨコイくん本当に物知りだよねー!」


「そ、そうかな! このくらい誰でもできるよ、あはは!」


「……。誰でもか……」


 不思議なものだな。現代ではビッグボスに怒られてばかりだけど、こっちの過去では対等に話すどころか、逆に僕がアドバイスをする側になっているなんて。


「ヨコイくんはすごいな……」


「え……?」


「同い年ぐらいなのにこんなにちゃんと仕事できてて……」


——仕事ができる?!


 僕は働き始めてから初めて言われた言葉に戸惑った。僕も時々は思っていた。お客様からの笑顔をもらった時、お客様からお礼を言われた時、「前も助けてもらったんです」等伝えてもらえた時。もしかして僕って仕事出来るやつなんじゃないか、と。しかし、その度どこかにミスや抜けがあり、ビッグボスに指摘されては怒られるという毎日だった。「僕だってたまには褒められたって……」というその思いは間違っていなかったのだ。


「私もヨコイくんみたいに頑張らなきゃ!」


 しかし、本当にこの二人は同一人物なのだろうか。現代のビッグボスはちっとも褒めてくれはしないのに。こっちのビッグボスは優しくて、可愛……。そう、何というか可愛げがある。近寄りがたい感じが全くないのだ。頑張っている女の子という雰囲気がある。


「ねぇ、ヨコイくん」


「夢とかってある?」


「夢?」


 マエダさんが改まって話し始める。その顔は真剣そのものだった。こういう顔は今のビッグボスに近いものを感じる。


「私はね。このパークにたくさんのお客様が帰ってきてほしいの」


「帰ってくるって?」


「ここ数年ね、パークの来客数が右肩下がりだって話があるの。実際、減少しているのは事実なんだけど」


——そうなんだ……


 確かに現代のパークに比べて人が少なくは感じていた。今は多すぎるくらいな気もするけど……。


「で、ネットではもう映画のパークはオワコンだとか、時代遅れだとか、閉園して工場にでもした方がいいだの無茶苦茶言われてるの。腹立つよね!」


 僕はそうやって怒るマエダさんにビッグボスの影を感じていた。ビッグボスがネットの書き込みに苛立つのはこの時からだったのか。


「私、きっと何年か経ったらパークが沢山のお客様で溢れるような。前に来た人がまた戻って来たくなるような、そんなパークにしていきたいの。それこそ世界一のパークに!」


——すごいな……


 僕には夢なんかない。やりたいことも、得意と言えることだってない。でも、マエダさんはこの時にはもうパークのことをこんなに考えていたんだ。そして、僕は知っている。10年後にはマエダさんの言う通り、パークに沢山の人が溢れることを。


「ゾンビナイトも始まったし、来年には魔法エリアもオープンする。なんかさ、これからどんどん忙しくなるような気がしてるんだよね」


「……マエダさんはすごいね」


「ううん、そんなことないよ。ヨコイくんは? 夢……ないの?」


「いや、俺には……」


 何も言葉が出てこなくて口を閉ざしてしまう。ここで話せるような夢なんて……。


「……。急にこんな話してごめんね。なんかヨコイくんに話したらわかってもらえる気がして」


「いや、すごい! 応援するよ!」


「ありがとう。まぁ毎日迷ってばかりだけどね、へへへ」


 そう言って照れくさそうに笑うマエダさん。僕も笑ってしまった。『考える前に動け!』って言ってたのに、自分だって新人の時は迷ってばかりだったんじゃないかと。


——でもこの時に迷ったからこそだったのかもな


 迷いながら考えながら仕事をするマエダさんを見て、僕は少しだけ自分の姿を重ね合わせていた。僕も今から頑張ったらビッグボスみたいに……。でも、あそこまで忙しいのはごめんかもしれないな……。


◆◆◆


 ある日僕は再び過去のパークに訪れていた。そろそろ、デイちゃんに頼まれた写真もあらかた撮り終わったかなと思っていると、ストリートの一角にマエダさんとお客様が話している姿が目に入った。


「おい!」


「……ですからそういうわけではなく……」


「じゃあ何なんだよ!」


——あ、マエダさんが……


 どうやらマエダさんはお客様に絡まれているようだった。僕はビッグボスが毅然とした態度でお客様から迷惑客へと変貌した人に対応するのをよく見ていた。きっとマエダさんもそうするはずだとその様子を少し遠くから眺めていたのだが、少し様子が違うようだった。


「いえ、そうではなく……」


「なんだよ! はっきり言えよ、使えねーな!」


——あれ?


 明らかに困っている様子のマエダさん。いや、困っているどころではない。怯えて怖がっているようにも見えた。


「気分を害されたのであれば……」


「は? 何? 舐めてんの?」


「いえ、舐めてなんか……」


「舐めてんだろぉつってんの!!!」


「いや……あの……」


——だ、大丈夫なのか?!


 体格の大きな男に凄まれているマエダさん。僕は助けに入るべきか、誰かを呼ぶべきか迷っていた。


 僕はふと思い出して、ポケットの中の紙きれを取り出した。それはビッグボスから貰った『考える前に動け!』の紙だった。紙に書かれた文字をチラリと見る。


——えぇい!


 僕は気付くとその迷惑野郎とマエダさんの間に割って入っていた。


「おい、何やってんだよ! やめろよ!」

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