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第14話 闇に潜むものの会合



 活発的な活動により、一躍表の世界でも恐れられるようになった境界大学。クルミを作った翠竜会と同じく5大悪と呼ばれる人造魔法少女の製造技術を持つテロリスト集団の一つだ。

 彼らも元々5大悪として恐怖の対象ではあったのだが、一般市民の犠牲が聞こえるようになったのは最近だった。

 裏に潜む闇の結社が表の世界に顔を出し、様々な被害をもたらしているのだ。

 

 そんな極悪非道な彼らの現在の状況を一言で言うと……”溺れかけた犬がよってたかって棒で叩かれている”というものだった。


 そう、5大悪と呼ばれて世界を荒らしても所詮はテロリスト。【次元相転移式核融合炉】の暴走により世界を滅ぼしかけた大中華。その亡霊として世界の支配者たる大国を打ち滅ぼさんと非道に手を染めても、大国が本気を出せば踏み潰される程度の代物でしかない。

 彼らが活動できていたのは、そう。踏み潰されない理由があったのだ。彼らがテロリストであることそのもの、それが大国にとって……もっと言うなら権力者にとって都合がいいという事実。


 だって、彼らが居なければ国家の危機として国民を支配することができないではないか。彼らが居るから国家総動員法でもなんでも使って民衆を支配できるのだ。

 他の理由、例えば魔物では少し弱い。都市に閉じこもって暮らす民衆では危機感を煽るのに足りないのだ。もしそれを理由にすれば、都市内の監視も強制捜査も出来ないではないか。


 追い詰められた結果としてなりふり構わぬ行動に出た境界大学、だが吠える狗は(くび)るのが世の定め。民衆を支配するのに必要な脅威が、境界大学である必要はなくなった。

 今、境界大学という闇の組織は壊滅の危機に瀕しているのだ。


 そして、実感としてそれを理解できぬ阿呆ではないからこそ境界大学の上級エージェントは顔を突き合せて議論を白熱させていた。

 その数は7、そして後方に控える下位エージェント達の総数は65名。

 これは精鋭ということではない。中国大陸が吹き飛び魔物が現れた、その責任が各地の中国人に被せられた結果として目も覆うような魔女狩りが起きた。その凄惨な虐殺の末、生き残ったのが彼らである。


 選りすぐられた訳ではない。けれど、生き残ったことには理由がある。彼らとて、馬鹿でも無能でもないのだ。

 そんな彼らが死に追い立てられて、活路を見出そうと四苦八苦している。


「”エンジェル”だ。魔法少女をエンジェルに錬金変性すれば、この苦境を突破できる。エンジェルの戦闘力であれば……!」

「――翠竜会が持つとされる”エンジェル”の作成法、それを手に入れられれば」


 怒鳴るように議論をぶつける。

 すがる先は、先の港湾で軍が使った”エンジェル”。強力な魔法少女であるクリムゾンを一撃で蒸発させた強力な兵器だ。

 テクノロジーと言うのは天才なら500年先のそれを持つような性質のものではない。それは、国家の文明レベルとして顕される。例えば核爆弾。あれは世界で同時に開発が行われ、一番先に開発したのがアメリカということでしかない。

 つまり、エンジェルだってそうだ。軍が先に完成させていたと、そういう話。そして軍から情報を奪わなくては作れないということはない。


「我らにも成り損ないまでは作れた。別系統の知識を入れるより現状の技術を発展させた方が良いのではないか?」

「何を言っている。今すぐにでも完成させねば戦力として使えないではないか。悠長に待っている暇はない。そうだ、あるかどうか定かではない翠竜会よりも、あの港湾で日米混成軍が使っていたと言う報告があったではないか」


「ふん、ダークの報告か。今となっては実行部隊カラレスも奴一人。その他は寄せ集めの集団に成り下がってなってしまったな。……利用価値が下がったのを勘付いて、処分されぬようにと吐いた嘘ではないか?」

「だが、軍が相手だったとしてもカラレスが全滅させられたのだぞ。エンジェルを使ったとしてもあながちおかしな話ではないように思うが」

「……待て、軍に潜入する気か? 馬鹿げたことを言うな。それだけの重要な技術なら、アメリカにあるはずだろう。例え日本に研究施設があったとしても、米軍が厳重な守りを敷いているに決まっている。我々は現実的な議論を行うべきと考えるがな。そう、出来もしない夢想論ではなく……な」


「チ、だがお前の言うことも正しいだろうな。現状、位置も分からない軍の研究施設。奴らがエンジェルを完成させていたとしても横取りは難しい。ここは翠竜会の技術を奪取し、うまいこと使ってエンジェルを完成させるのはどうか?」

「それは現実的か? 翠竜会にエンジェル製造技術がある”として”、うちの技術部がそれを応用して技術を完成させられる”とする”。賭けになるぞ」


「そもそもカラレスが全滅したことを深刻に受け止めるべきだ。【アルテミス】が完成したとはいえ、これで魔力値DがCに勝てるようになるわけではない。我々の保有戦力は他の5大悪に比べて大きく劣ってしまったのだぞ」

「いいや、【アルテミス】はまだ完成していない。それは攻防自在の絶対兵器。魔法少女を戦車として運用するためには、魔法による鉄火とアルテミスによる防壁が必要だった。あれは未だ、防壁を貼りながら攻撃できるようになってはいない。真の【アルテミス】ならば……!」


「そもそも【アルテミス】開発の構想は誰が練った? 防御だけがあっても攻撃できなければ仕方あるまい。強力な魔法少女はあまり残っていないぞ。あれが完成したとしても、現状我々は追い詰められているだろうが……」

「犯人探しに意味はない。そもそも【アルテミス】開発は上級エージェント全員が同意したことではないか」


「だが、我々の戦力ががた落ちな現状は変わらないぞ。さらに至るところでも襲撃を受けている有様だ。このままでは防衛ですら……」

「そうだ。このまま襲撃が続けば、じきに立ちいかなくなる。”支援者”からの連絡も途絶えてしまった……!」


「そう、その支援者だ! いきなり連絡がつかなくなったとはどういうことだ!? 彼らと連絡が付けば、このような事態にはなってなかったというのに!」


 支援者。そう、テロリストも義援金がなければ活動できないのだ。どこかから奪えばいいと思われるかもしれないが、現代では強盗で奪える金銭など端金なのだ。企業を脅し取って1億円脅し取ったとしても、すぐになくなる。

 戦争と言うのはお金がかかる。そして、種類にもよるがテロリストも同じことだった。彼らは大国を魔法少女と言う兵器で潰そうとする者達だから、潤沢な開発資金が必要だった。

 その金を出す奴らが行方を眩ませてしまったから、もうどうしようもない。


「支援者についても目下捜索中だ。詮索するなと言われていたため裏でこっそりやるしかなかったが、今となっては気にすることもない」

「ふん。以前より正体を掴んでおけば、どうということもなかったというのにな」

「日本政府のとある2世議員がつなぎ役になっていることは既に分かっているのだ。だが、トカゲの尻尾切に繋いだところで諸共に切り捨てられるだけだろう。黒幕にたどり着かねば……」


「ならばどうしようと言うのだ!? 現時点で軍と戦っても潰されるだけだ。そして、翠竜会から技術を奪おうにも、奴らの研究施設も分かっていないのだから攻める手段もないだろう」

「――待て、捨て置かれている翠竜会の脱走者についてはどうだ? εー33の植物を成長させる力。翠竜会が捨てたのは研究が終わったということではないか? あれを生命を増殖させる力として応用発展できたのなら……」

「境界大学流のエンジェルを完成させることができる。不完全でも【アルテミス】とともに軍事運用できたのなら、軍に対抗できる力を得ることができるかもしれない」


「なるほど。アレを研究材料にするか」

「現実的な方策が見えて来たな……」

「あれを拾った男はただの一般人。国と関係ないなら殺してしまってもよいか」

「いや、生かして捉えた方が良いのではないか? 一般人なら大した手間でもないだろう……」


 この議論の結論は……そう、徹夜をすると碌なことにならないというアレだ。


 支援者は姿を消し、主力の精鋭部隊は戦闘能力のないダークを残して全滅した。そして、弱った犬を叩くのは強者としての義務とばかりに他の4大悪は手を緩めない。

 本拠地まで攻め込まれて皆殺しにされる運命もはっきりと見えてきた崖っぷちの現状。何とかして逆転しなければと、そう決意して実行したことは大抵の場合で悪手だから。


 境界大学。彼らは自ら悪になることを選んだと思っている、闇を堕ちた人でなし。実際には、ただ選ばされただけの時代の犠牲者が、屠殺台の上に自ら首を差し出すのだ。




「――なんて話をしてるわけよ、あいつら」


 銀色の髪をなびかせ、赤い目を愉悦に歪ませながら音瑠は言う。閃と同じく【翡翠の夜明け団】が大幹部の一人である。

 日本地区の防衛を担当する脳筋の閃とは違い、国家の裏に隠れて策謀を巡らせている役割を持つ女だ。


「ふうん。ま、窮地に陥って大逆転できるようなのは選ばれた人間のみ。10年前から続く【大災厄】の系譜として生き残ってきたようだが、まあこれが彼らの生存限界だったのかな」


 一方で話を聞く閃はまずそうにコーヒーをすすっている。なんとなく目覚まし代わりにコーヒーを嗜んではいるものの、味覚は子供であまり好きではなかった。600円したので、悪い味がするはずがないのだが、と飲み続ける。


「ええ、そうね。彼らも所詮利用されるだけの”悪者”。いつだって最後に笑うのは支配者の側。自分だけは違うなどとうぬぼれた、他者の犠牲も厭わない勇者の結末はいつだって牢獄の中と相場が決まっている」


 けらけらと笑う音瑠はタピオカミルクを飲んでいる。ちょっとした雰囲気の良い喫茶店に二人で来ていたのだ。

 どうせ他の人間に話を聞かれても何も分かるはずがないとタカを括っている。


「首を切った方が早くない? で、夜明け団としては境界大学の始末など軍に任せておけばいいんじゃないか。どうせ、その【アルテミス】の技術だって貰ってるだろ?」

「ま、うちも出資者の一人だし。ただ、もう一つの出資者……軍の方は自らの手で滅ぼしたいみたい。まだ【アルテミス】の複製が出来てないらしいのよね」


「ああ、資料が欲しいのか。じゃあますます放っておけばいいじゃないか。軍が勝手に始末してくれるんだろ」

「それがそうもいかないの。別に資料はどうでもいいんだけど、欲しいものがうちにもあるのよ。【アルテミス】を完全に扱うためには、元となった魔法少女が必要。半エンジェル化してるから、こっちで確保して完全化しておきたい。万が一他の組織に奪われて壊されでもしたら厄介だもの」


「へえ……ただ君の方でどうにでもできる話だろ? 一旦【道】に避難すればいいから、俺たちにとっては難しいじゃないはずだ」

「いや……面倒臭いし。あんた、私に借りがあったわよね。それに、あんたんとこのかわいこちゃんも関係してくるかもよ」


「クルミが?」

「溺れる者は藁をも掴むってね。あの子、けっこうおあつらえ向きに藁よ? 狙われる可能性は高いわね。まさか翠竜会あたりに挑んで勝てると思うほど抜けている訳でもないでしょうし」


 閃はため息をついて、お手上げとばかりに肩をすくめる。


「……はぁ。分かった、俺の負けだ。やればいいんだろ、やれば」

「あ、今からとかやめてくれるかしら。どうせ数日中に大爆発するわ、軍でも緊張感が高まっているもの。――で、誤魔化しやすいからその大騒ぎに紛れてソレを確保してほしいのよね」


「なんとも面倒な仕事を押し付けてくれる。だが、まあ仕方ない……引き受けた仕事はちゃんとやるさ」

「お願いね。うまいことやってくれたら、リーダーにもよく伝えてあげるわ」


「それはいいよ。もう……」

「ふふ。じゃ、また会いましょ」


「仕事と一緒に来るなら会いたくないな」

「そう言いながらも待ち合わせには遅れないの、私はけっこう好きよ」


「やめてくれ。その気もないくせに」


 閃が苦い顔をすると音瑠は立ち上がる。


「あはは。まあ、お互いに頑張りましょ? 人類の夜明けのために」

「――人類の夜明けのために」


 別れていった。残念ながらそれは恋人のようにとは行かず、ビジネスの関係性でしかなかったが。


「やれやれ。人類の命運を背負うとは、何とも面倒なことだ……」


 呟いて、閃もまた外に出る。魔物は外の世界からいくらでもやってきていてキリがない。ここでサボることになれば、日本はいとも簡単に魔物どもに踏み荒らされてしまうのだからやってられなかった。



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