第13話 魔法少女のお茶会
そして、クルミはファントムペインに連れられてカフェにやってきた。彼女は隠しておいたパーカーを上に羽織っている。眼鏡とマスクを着ければもう彼女だと気付く人間はいないだろう。
そして、お金持ってないけどどうしようかと、どうでもよいことに悩んでいるクルミを見てくつくつと笑った。
「……へえ、いいね。君。魔法少女服を解除しない。財布を取り出そうともしないのは良い判断だ。他人のことは信用しすぎない方がいい。なんでもかんでも信じすぎる奴はいつか周りを巻き込んで破滅するからね」
ま、言い出しっぺは私だし奢るよ。と、財布を取り出す。こちらも魔法少女服を着ているまま。どうやら一度財布を出して、変身した後にしまい直したらしい。
彼女からは、そう”慣れている”雰囲気を感じる。
――今着てるの、パジャマなんだけどな。
クルミが変身を解除しなかったのは何のことはない。靴も履いていなかったし、あまり他人に見せるような服じゃなかった。しなかったのではなく、できなかった。どうせ魔法少女服に変われば何を着ていても関係ないのだ。
つまり、別に目の前の彼女を警戒してのことではなかったのだが。目の前のファントムペインはうんうんと勝手にクルミの評価を上げていて、見ていて苦笑いしかできなかった。
「窓側の席に行こうか。こういかにもって感じで奥に行くと、勘ぐってくる人も居たりするからね。こういう話は逆にオープンにした方が怪しまれないんだ。みんなゲームの話だと思ってくれるからね」
「……あ、はい」
何も迷いもなく二人分の注文をして、飲み物を受け取って席に着く。
勝手に紅茶を頼まれたが、そんなものかなと思って、渡されたカップにストローを差して口に咥える。
「それで、君も逃げ出した魔法少女のうちの一人で良かったかな?」
「その……はい」
クルミは目を逸らす。けれど、彼女はクルミの罪悪感とかそう言うものを歯牙にもかけずに続けた。
「彼女、あなたを追って来たの?」
「たぶん、そうだと思います」
「そう……ま、あなたほどの魔力値なら追手がかかることもありえるわね。成長、ない話ではないけど」
「――こういうの、よくあることなんですか?」
「ん? 逃げ出した魔法少女ってことなら……そうね、よくある話だわ。あいつらにとって魔法少女なんて資材同然、価値がないなら追いもしない。そして当然、誰かに拾われる魔法少女も居る。あなたも、お世話になった人が居るのでしょう? そんな顔をしていたから」
「はい。私のこと、助けてくれたお兄さんがいます。クルミは。その人のところに居ます。ずっと一緒に居たいけど……」
迷惑なのかな、とは口に出せない。それを口に出したら全てが終わってしまう気がして。
そして、追手のこと。勝手に話が逸れていったから良かった。話を戻す勇気は、クルミにはない。
「そう、良かった。うまく行かない子もいるからね。私たちは人間だけど、人間だから色々と相性とかあるもの。犬や猫と同じようにはいかないの。……まあ、私は人から生まれた魔法少女だけど、あなたみたいな人造魔法少女の気持ちも少しは分かるわ」
「――」
本当かな、と思ったけど口には出さない。こういう風に、自分を持った強い人は人造魔法少女の中には居なかった。
強いのは魔力だけじゃない。しっかりとした意思に裏打ちされている。こういう人には敵わない。
「ま、その人とうまいことやっていけてるのなら私は何も言わないわ。どうしようもなくなったら私の伝手で孤児院に入れてあげることもできるから、覚えておいて。ま、あのトロンボーンの子は信じてくれなかったみたいだけど」
「……孤児院? でも、魔法少女だよ」
「ええ、だから普通の子と同じようにはいかない。けれど、魔法少女のためのそれだってあるのよ。魔法少女の発症を病気と捉え、治療施設に隔離する名目なのだけど……そうね。人とうまくいかない魔法少女は、魔法少女の中で暮らした方が良いわ」
「どういうこと……ですか? その孤児院は魔法少女を集めているんですか?」
「そういうことになる。けど、日本政府が裏に噛んでいるから問題ないわよ? 私もそこに数人お世話になっているけど、彼女たちは幸せそうにしているわ。まあ、そこに居る魔法少女にも色々あるようだけど……人間ってそういうものよね」
「色々? 大丈夫なの?」
「魔法少女を発症して、捨てられる形で入れられた子は荒れて喧嘩を吹っ掛けるようになる場合もある。事情は様々。だから、そこでは他人の過去について触れることはご法度になっているようね。ま、そこは逆に人造魔法少女も助かっているようだけど」
「みんな、色々あるんだね」
「そう、色々ある。けれど、絶対に状況は良くなっていくはずよ。最近、物騒なことが続いているけれど――それでも皆が解決しようと頑張っているわ。外野から勝手なことを言う人も居るけれど、日本政府だって遊んでるわけじゃない。テロリストが暴れまわっているこの状況だって、ただ騒ぎに乗じてのことに過ぎない。すぐに鎮静化されるわ」
自信満々に言い切った。そこには、治安を維持する民間協力者とのしての誇りがあった。そして、それだけの力があることも事実だろう。
一応クルミだって臨戦態勢は解いていないはずなのだが、幻痛の魔法に勝てるヴィジョンはどうも浮かばない。何も警戒していないように見えるのは、クルミが相手でも勝てるという自負だ。
「……そうですか。でも……あの……」
ファントムペインは強い。それは分かるが――それでも、例え彼女だったとしても”どうにかなる”とも思えない。
閃は皮肉屋で世界を裏から見るような人間だった。影響を受けたクルミもそう。
彼女は素晴らしい人間で、熱意もある。けれど、それでも……どうにもならないのが世界だ。世界は重苦しくて予測もつかない不幸を運んでくるものでしかないから。
「ま、君に世界を変えてくれだなんて言うつもりはない。そういうのはやる気がある人間が自発的にやるものだからね。でも、そんな気になったら話してくれれば私も嬉しい」
「……」
「組織から外に出たばかりじゃピンと来ないのも分かるわ。まあ、何か魔法少女関連で困ったら私に連絡して頂戴」
「あ、はい」
ピ、と名刺を渡した。かっこいいな、とクルミは思った。
「あと、街に悪い魔法少女が来たら撃退するのを手伝ってくれたら嬉しいわ」
ポンと頭を撫でられた。
「あ……はい」
優しいな、とクルミは思う。すでに二度ターゲットにされたのだから、三度目だって当然来るものだろう。
それを手伝うと言ってくれたのだと分かった。
「ま……私は外に出ていることも多いからその時手伝えるかも分からないんだけど」
「ええ……」
肩透かしの気分を喰らったクルミだった。
「この後予定はある? 私、普通の人間に友達が居ないからこういうのって新鮮なのよね。よければ、もう少し付き合ってくれないかしら。カラオケとか、ケーキを食べに行くのもいいわね」
「あの……クルミ、お勉強もしないといけないから」
「そ。じゃあ、今日はこれくらいにしましょ。その電話番号、いつでもかけてくれていいから」
「はい」
それで別れていった。
夜、閃にそのことを話すと使っている財布ごと現金を貰えた。




