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14、錬金術師アーニャちゃん

 打倒、向かいにできた新しいアイテムショップ。

 閑古鳥が鳴くロメオの雑貨店を救うべく、ついでにボムっとんをたくさん買ってもらうためにもシャーリーは立ち上がった。


「いらっしゃいませっ」


 ちょっと息を荒くして店の中に入ると、シャーリー達は目を丸くしてしまう。

 歯を輝かせ、素敵な笑顔を浮かべる眩しいイケメン。

 キレイでどこか豪華で、だけど清潔感が漂う内装。

 並べられたアイテムはどれもこれもが見たこともなく、その上で抑えるところは抑えているというラインナップ。

 そして、とってもかわいいまん丸な青いアザラシの爆弾。


「す、すごい……。こんなに、こんなにかわいいだなんてっ!」


 アザラシの爆弾を手に取り、目を揺らがせているシャーリーにドリーは敢えてツッコミを入れなかった。

 だが、そんなことを差し置いても唸ってしまう要素ばかりである。

 お店が新しいこともあり、清潔感がある。それに加えて陳列されたアイテムは幅広い種類があり、どれもこれもが目移りしてしまう。


 さらにこの一体では珍しい高級感が溢れる内外装だ。おそらく迷宮探索者だけではなく、一般人も相手にすることを想定しているのだろう。

 その証拠が、従業員の接客態度だ。ロメオの雑貨店も人当たりがいいが、このアイテムショップはそれ以上に気持ちよく買い物をさせてくれる。必要であればすぐに駆けつけ、そうでなければ買い物に集中できるようにサッと身を引く。


 まだ新人と思われるイケメンもしっかり教育されているようで、これではいくらシャーリーが頑張っても立て直すどころか太刀打ちすらできないことが明白だった。


『こいつは困ったな。勝ち筋が全く見えんぞ』

「さすがに相手が悪いわね……」

『かといって、このままにはできんしな。何か策を考えなければ』


 ドリーとアルフレッドは頭を悩ませた。

 ふと、何気なくシャーリーへ目を向けてみる。


「あれ、シャーリー?」


 そこら辺で一番楽しんでいたシャーリーの姿が、こつぜんと消えていた。

 ドリーが心配になって周りを見渡してみると、シャーリーはイケメン店員の一人に声をかけている。


「お願いしますっ! この〈水玉ザラシ〉を作った人に合わせてください!」

「申し訳ございません。ただ今、外出しておりまして……」

「なら待ちます! いつまでも待ちますから!」


 ドリーはため息を吐いた。

 困り果てているイケメン店員にシャーリーはかじりついている。これでは偵察もへったくれもない。

 シャーリーを連れ戻そう、と決めたドリーだが、アルフレッドが止めた。


『待て、これは好機かもしれんぞ』

「何が好機なの? メチャクチャ目立ってむしろ最悪よ!」

『だからこそだ。ここでどんな対応がされるのかがわかる。それに上手くことが運べば、ここのオーナーが見れるかもしれんぞ』


 訝しげな顔をしながら、ドリーはシャーリー達の様子を見守ることにした。

 一生懸命にシャーリーをなだめるイケメン店員と、必死に食らいついて離れないシャーリーの攻防が続く。

 他のイケメン店員が来るものの、シャーリーは頑として離れようとしなかった。


「大変申し訳ございません。製作者が帰ってくるのは一ヶ月先でして……」

「じゃあ、連絡先を教えてっ。直接聞くから!」

「申し訳ございません。プライベートに関わることでもあるので。お教えは――」

「じゃあ、連絡取れる人を紹介して! どうしても聞きたいことがあるの!」


 イケメン店員達の顔色が曇っていく。

 ここまでしつこい客は相手にしたことがないのか、とても困っている様子だ。

 悪目立ちをするシャーリーのこともあってだが、様子を見ていた客達がちょっと不安げな表情を浮かべていた。

 中にはヒソヒソと小さな声で会話を交わす者まで現れてしまう始末である。


『どうやらイレギュラー対応にはあまり強くないみたいだな』

「っで、放っておいたけどシャーリーはどうするの?」

『どうにもならん。どうにかしてくれ』

「ちゃんと考えておきなさいよ!」


 もはや収集がつかない状態だ。これでは助けに入りたくても入れない。

 どうしようか、とドリーは頭を抱えてしまう。

 周りにいるイケメン店員も不安そうで、誰がどう見てもどうしようもない状態だった。


「何をしているのかしら?」


 澄んだ声が響く。目を向けると、店の奥から顔を覗かせている少女がいた。

 ふんわりウェーブがかかるハーフアップされた赤い髪に、緋色に染まった綺麗な瞳。幼さが残る顔だがどこか勝ち気があるが、髪をまとめる大きなリボンがかわいらしさを出していた。


「申し訳ございません、オーナー! すぐに対応しますので――」


 イケメン店員が何かを言いかけた瞬間、赤い少女は静かに歩き出した。

 赤いドレスワンピースのスカートが翻ることなく、優雅に歩を進ませていく。そのままイケメン店員の隣に立つと、赤い少女はニコッと笑った。


「わたくしに任せなさい」

「し、しかしっ!」

「業務が止まっているでしょ? ほら、早く指示を出して」


 赤い少女に促され、対応していたイケメン店員はガックリと肩を落とした。

 だが、すぐに立ち直りシャキッと背を伸ばして目をキリッとさせる。手を叩き、不安げに見つめていたイケメン店員達に「持ち場につけ!」と指示を出した。

 号令を受けたイケメン店員達はすぐに持ち場へ戻っていく。それを見た赤い少女は、ちょっと安心したのか顔を綻ばせていた。


「あ、あのっ!」

「どうしましたか、お客様?」


 そんな中、シャーリーが赤い少女に声をかけた。少女はニッコリと笑い、シャーリーへ振り返る。

 シャーリーはちょっと手を震わせながら、赤い少女にどうしても聞きたいことをぶつけた。


「このかわいい爆弾、誰が作ったのか教えてください!」


 緊張した面持ちで、シャーリーは持っていた〈水玉ザラシ〉を差し出すように見せる。

 そこまでそれに拘るか、と見ていたドリーは心の中でツッコミを入れたがその行動が思いもしない効果を発揮させた。


「あなた、見る目があるわね!」


 赤い少女は爆弾ごとシャーリーの手を握った。

 目を輝かせ、興奮気味なのか鼻息が荒い。シャーリーもそれに負けじと興奮気味に言葉を返した。


「もしかして、あなたが作ったんですか!?」

「そう、その通りよ! 私の最高で最大で最カワな爆弾よ!」

「おぉーっ! すごい、すごいすごいすごいっ!」

「讃えなさい! もっとわたくしを讃えなさい!」


 盛り上がるシャーリーと赤い少女に、ドリーはドン引きしていた。

 周りも同じなのか、できる限り離れようとしている。部下であるイケメン店員ですら近づこうとしない始末だった。


「ぜひ、ぜひ教えてください! 私ももっとかわいい爆弾を作りたいです!」

「ふふん、いいですよ。その前に名前を伺ってもよろしい? わたくしはアーニャです。あなたは?」

「シャーリーって言います! よろしくお願いします、アーニャちゃん!」


 手を差し出したシャーリーだが、アーニャは握ろうとしなかった。

 何か変だ、と気づいたシャーリーは顔を見る。するとアーニャは、ちょっと険しい顔をしてシャーリーを見つめていた。


「あなたが、シャーリーですか?」


 どこか棘がある言葉である。

 だからなのか、先ほどとアーニャの雰囲気も態度も明らかに違っていた。


「え、えと、そうですけど……」


 思いもしないことにシャーリーは戸惑ってしまう。

 するとアーニャはズイッと顔を突き出し、ビックリするような大きな声で叫んだ。


「許さない! あなたは絶対に許しませんから!」

「え? えぇっ!?」


 シャーリーはさらに戸惑った。

 周りにいた人々も、ドリーもアルフレッドも突然のことに驚いてしまう。

 そんな中、アーニャはシャーリーに人差し指を突き出した。


「勝負ですシャーリー! わたくしが勝ったら、あの御方をいただきます!」


 突然の宣戦布告に、シャーリーは混乱した。


 何が原因で怒っているのか。

 どうしてここまで怒っているのか。

 そもそもなぜこんなにも敵意を剥き出しにしているのか。


 何もわからないまま、シャーリーは勝負を挑まれる。

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