13、おじいちゃんの憂鬱
「はい、三ヶ月分のお薬だよ」
「ありがとねぇ、シャーリーちゃん」
チチチッ、と小鳥達が楽しげに歌う平穏な朝、珍しくシャーリーの錬成工房に多くの人が集まっていた。
用意した椅子とソファーに腰をかけ、談笑するおじいちゃんとおばあちゃん。
お薬をもらってシャーリーと楽しく話し込むおじいちゃんとおばあちゃん。
ドリーを口説こうとする元気なおじいちゃんに、アルフレッドと世間話をするおばあちゃん。
といった感じで、部屋は人生の先輩であるご老人でいっぱいだった。
「ホント、いい子だよねぇシャーリーちゃんは。あ、そうだ。孫のカータをもらってくれないかね? あいつは結構真面目だよー」
「ふふふっ、ごめんねおばあちゃん。私もっといろんなことがしたいから、まだ結婚はできないよ」
「あら、そうかい? それは残念だねぇ」
他愛もないやり取り。こんな風にご老人方の相手をするシャーリーの顔は、いつにも増して優しさで溢れていた。
相手にしてくれたおばあちゃんも嬉しいのか、また違う話題を口にする。シャーリーは楽しげに耳を傾け、おばあちゃんが満足するまで会話をしていた。
「ハァ……」
ふと、とても落ち込んでいるため息が耳に入ってきた。おばあちゃんと一緒に振り返ると、そこには一人のおじいちゃんが肩を落として座っている。
どうしたんだろう、と思っているとおばあちゃんが困ったような顔を浮かべた。
「ロメオさん、最近お店の売れ行きがよくないそうなのよ」
「雑貨店が? 最近行けなかったけど、そんなに困っているの?」
「詳しくはわからないけど、なんでも近くに新しいお店ができちゃったみたいでね。お客が取られて、困ってるって言ってたわ」
ロメオの雑貨店が危ない。それを聞いたシャーリーは、順番が回ってくるロメオに話を聞いてみようと思った。
おばあちゃんに「お話ありがとね」と笑顔で別れを告げる。おばあちゃんはおばあちゃんでシャーリーにお礼を言い、小さな椅子から腰を上げた。
「ロメオさーん」
シャーリーはロメオを呼ぶ。
ロメオは待っていました、とばかりに笑顔を咲かせてシャーリーの元へ移動した。
「いやぁ、久しぶりだノォ。最近来てくれないから、心配してたノォ」
「ごめんなさい。いろんなことがあって、それで忙しくて。それよりロメオさん、お店が危ないって聞きましたけど……」
「そうなんだノォ。向かい側に新しいアイテムショップができてしまってノォ。もう閑古鳥が鳴いて仕方がないんだノォ。売上は前の三分の一だしノォ、このままじゃあお店をたたまないといけないかノォ」
「えっ? そんなの困りますよ! ロメオさんのお店じゃないと手に入らない素材がありますし、それに〈ボムっとん〉を売ってくれてますし!」
「ごめんノォ。でもこのままじゃあ閉めるしかないんだノォ」
ロメオは申し訳なさそうな顔をして微笑んだ。
とても胸が痛む笑顔である。それほどまでにロメオの雑貨店は追い詰められているのかもしれない。
「よし! ロメオさん、私決めました!」
「何をだノォ?」
「私達が、ロメオさんを助けます!」
だからこそシャーリーは、ロメオを助けるべく立ち上がる。
ロメオさんの雑貨店を立て直しちゃうぞ作戦の始まりだ。
「大丈夫かノォ? 迷宮探索とかそっちが――」
「大丈夫です! 絶対にお店を立て直しますから!」
「おぉっ! シャーリーちゃんがなんだか張り切っているぞ!」
「あら、もしかして結婚してくれる気になったのかしら?」
「何を言っとる! わしの孫と結婚してくれるんだよ!」
シャーリーのやる気に気づいたのか、ご老人方も妙な盛り上がりを見せる。
そのまま持ち上げるかのように、「シャーリー! シャーリー!」と波打つような応援コールが起きていた。
シャーリーはえっへんと胸を張ると、さらに歓声が大きくなっていく。
まさに救世主。ロメオはそれにありがたさを感じ、何度も何度も祈りを捧げていた。
「ねぇ、これ何?」
『わからん』
ドリーとアルフレッドは、冷めた目でその光景を見つめていた。
一体何が起き、どんな風になって、こんな歓声が上がっているのかわからない。
そもそも異様なテンションに二人はついていけなかった。
「みんな、ロメオさんの雑貨店を立て直しちゃうぞ作戦を始めるよ!」
号令に伴い、作戦が開始される。
ドリーとアルフレッドは何も理解できないまま、シャーリーと一緒にロメオの雑貨店へ向かうのだった。
◆◆◆◆◆
賑やかな大通り。その一角に店を構えるロメオの雑貨店には、奥さん以外誰もいなかった。
棚にいっぱい置かれているアイテムに、丁寧に並べられているボムっとん。どれもが手を付けられておらず、物寂しさを感じさせる。
「話は聞いてたけど、ここまでだなんて……」
『こりゃ閑古鳥も鳴くな』
ドリーとアルフレッドがあまりの物静かさに店の中を見渡してしまう。
そんな中、シャーリーはロメオの奥さんと話しており、気がついたドリーが近づくとシャーリーは唐突に声を上げた。
「えー! そんなに売れてないんですか!」
「お客さんが入らなくなって、全然買ってくれなくなったのよ。一番の目玉商品なんだけどねぇ」
シャーリーがガックシと肩を落とす。
そんなシャーリーを見て、ドリーは心配して声をかける。
するとシャーリーは、グズグズと涙を溢しながらドリーに抱きついた。
「ど、どうしたのよ?」
「ボムっとんが、ボムっとんが全然売れてない……」
「は?」
ドリーは会計場所の近くに置かれているボムっとんコーナーを見た。
確かに手がつけられていないのか、キレイに並べられている。
「ねぇ、シャーリー。私帰ってもいい?」
「ボムっとんだよ! 一生懸命デザインを頑張ったんだよ!」
「頑張るところが違うって、前にも言ったけど?」
ドリーは困り果てながらロメオに顔を向ける。
ロメオも同じように困った顔をしながら、シャーリーに事情を話した。
「客足がかなり遠のいちゃってノォ。一日に一人二人入ればいいほうなんだノォ。そのせいもあって、シャーリーちゃんのボムっとんも売れなくてノォ。前は一番の売上を誇っていたんだけどノォ」
「うぅ、新しいお店めぇー!」
ちょっと怒るシャーリーだが、ドリーの胸の中でグズグズと泣き崩れていた。
一向に泣き止む気配を見せないシャーリーをどうやって離そうか、と考える。すると店内を見渡していたアルフレッドが、こんな提案をした。
『一度、偵察しに行ってみたらどうだ?』
「偵察、ですか?」
『ああ。敵の情報なく戦いを挑んでも勝てる見込みはない。必要な情報を集め、勝つための戦略を練らなければ勝てるものも勝てんからな』
「その通りね。アルフレッドにしてはマトモなことを言うじゃない」
『ワシはいつだってマトモだ』
アルフレッドの言葉を受け、シャーリーは泣くのをやめる。
憎きアイテムショップを倒すためには、情報が必要だ。ボムっとんを元の売上以上にするためにも、泣いてなんていられない。
「弱点を見つけてやるっ!」
シャーリーの目に炎が灯る。
いつもとはちょっと違うシャーリーに、ドリーは若干戸惑いながらも一緒に行動する。
打倒、向かい側にできた新しいアイテムショップ、という目標を掲げて。




