大団円
「ハハハハハ! 俺が犯人だって? 調子に乗るなよ名探偵。証拠を見せてみろ」
「証拠。そう言うと思いましたよ。ですが、悪あがきなことに気付いているのでは?」
「一郎太兄さんのスマートフォンに非通知で電話をしたことか?」
「はい。発信履歴を調べれば、いずれあなたが電話をしたことがわかります」
「俺はここまでか。案外早かったな。何から聞きたい?」
「動機です。私には、動機はわかりませんでしたから」
「俺が殺人事件を起こした動機。そんなに気になるのか?」
「探偵としても、人間としても興味があります」
「最初は一郎太兄さんを殺すのが計画だった。慶二郎を殺すのは予定外だったから、偶然を利用して殺した。兄を殺した動機は単純だ。二葉家の当主になるため。兄が死ねば、家督を継ぐ権利は俺に回ってくる。慶二郎を殺したのは、慶太を田沼家の当主にさせるため。慶太は事件には関わっていない。俺が独断で慶二郎を殺した」
「そこまでして当主になりたかった理由は?」
「お金のために決まってんだろ。慶太を当主にさせたかったのは、気が合うからだ。一緒に当主だったら、二人で何でも出来る」
「随分とくだらない動機ですね」
「まあな」
「それで、慶太さん。あなたも隠していることを話してください」
その言葉に、次郎太を含めたその場にいる全員が慶太に目を向けた。
「何のことですか?」
「慶太さん。あなたは次郎太さんが犯人だと知っていた。共犯ではない。ただ、あなたは田沼家の当主になりたかった。実質当主になることは出来たが、殺人犯と仲良くはなりたくなかった。それで、次郎太さんが埋めた東郷さんの死体を掘り起こして、死体を早期発見されるようにしましたね?」
急展開だ。驚きを隠せない。
少し間を置いてから、慶太は口が裂けるほどの笑みを浮かべた。「大正解! 僕が東郷を掘り起こした! ギャハハハハ! だけど、お前らは僕を殺人罪じゃ逮捕出来ない! せいぜい犯人隠匿や死体を破損させた云々だろ?」
「ええ。ですが今回の殺人事件で、慶太さんあなたが一番狂っています」
俺は慶太を蹴り飛ばし、次郎太を殴って床に倒した。「テメェら逮捕だ!」
その後、次々の証拠が発見された。次郎太の部屋からは東郷の切断された右手が見つかり、丁寧に埋葬された。慶太は気が狂っていて、弁護士は精神に異常を来していたことによって無罪を求めるも、有罪判決だった。次郎太は当然死刑囚となった。
明智が二葉邸殺人事件の推理を披露した翌日、俺は明智探偵事務所の扉をノックした。
「何ですか、警部」
「何だはないんじゃないか?」
「ま、中に入ってくださいよ」
「ああ」
事務所に並ぶ椅子の一つに腰を下ろすと、明智はソファに横になった。
「明智のお陰で丸く収まった。また出世しそうだぜ」
「それは良かったですね。また難事件があったら呼んでくださいよ」
「そいつは安心しろ。明智じゃなきゃ解決出来ない事件はたくさんあるから、出世のために呼んでやる」
「ありがとうございます」
「それより、今回の事件は実に奇々怪々だった」
「私好みの事件でした。楽しめましたよ」
事件解決の次の日の朝刊には、『二葉邸殺人事件解決』という大見出しで掲載されていた。ニュースをテレビで観ても、ずっと二葉邸殺人事件のことしか取り上げられていない。それを解決に導いたのは俺ということになっており、まさか明智という探偵が解決したとは夢にも思うまい。
「明智。今日は仕事をもう切り上げて、酒を飲まないか?」
俺はそう言うと、ビニール袋から缶チューハイを二本机に並べた。
「別に構いませんよ。久々に飲みますか」
「だな」
明智は缶チューハイを手に取ると、プルタブを手前に引いた。「二葉邸殺人事件は、推理小説さながらの事件でした。私が、推理小説の登場人物の一人ではないかと錯覚しましたよ」
「それもそうだ。現実で推理小説のような殺人事件は滅多に起きない」
「興奮しました。テーブルマナーを使った殺害方法はよく思いついたと感心してしまったぐらいです」
「明智は有名になりたくないのか?」
「難事件に関わり、それを解決出来るならばそれで良いんです」
「無欲だな」
「いえ、私は強欲です。探偵でありながら、警察関係者とともに難事件解決を欲するのですよ?」
「そんなものか」
今回の事件は動機が納得いかないが、犯人がわかればそれで良い。
「神田警部。次郎太さんの動機が腑に落ちない感じですか?」
「まあな」
「私も腑に落ちていません。当主になりたいがために殺したとは、本当にくだらない」
「ただ、そういうことはこの世界を創った神様にしか知らねーことだ。神のみぞ知るってところだろ」
「ですね。神様がいたら、の話しですが」
「そういえば、田沼家と二葉家は失脚したらしい。二葉村は稲葉家という名家が新たな大地主となるんだとさ」
「田沼家も失脚ですか。二葉家の方達はかわいそうですね」
「二葉家の奴らは、また一からコツコツ地位を確立すると言っていた」
「出来れば良いですが、それまでに何年掛かるのでしょうか」
「無理だ。期待はしない方が良いぞ」
ちなみに、一郎太の婚約者だった坂上は次郎太が犯人と知ってから発狂していて自殺未遂をしている。坂上家の当主もカンカンに怒っていた。
殺人事件が解決しても、全てが解決するわけじゃない。人間関係、社会的地位などは失う。修復は不可能と言っても過言ではない。終わりよければ全て良し、というわけではないことを『二葉邸殺人事件』を通して学んだ。
「警部。スマートフォンが鳴ってますよ」
「え!?」
スマートフォンを取り出して、耳に当てる。
「もしもし、神田だが?」
「警部、事件です」
「今日は非番だぞ!」
「小田警視監が、至急、とのことです」
「け、警視監が! すぐに行く!」
電話を切ると、俺は飲み干した缶を握りつぶす。
「また機会があれば居酒屋行こうぜ!」
「わかりました。待っていましょう」
「割り勘だけどなっ!」
探偵事務所を飛び出すと、停車させていた車の運転席に乗りこんで、署を目指して発車させた。
俺も明智と同類かもしれない。明智と同様に、難事件という病に取り憑かれている。
出世するより、難事件に出会った時の方が嬉しかったことを明智に気付かされたのだ。
完結です。最後まで読んでいただき、ありがとうございます!
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