【最終章:えいえい!と生きていく】
【最終章:えいえい!と生きていく】
「武蔵様! 仕官先が決まりましたぞ! 薩摩です、薩摩藩です!
この伊織と一緒に薩摩の土になりましょうぞ。
石高は年間、なんと三百芋!毎年毎年三百芋!
これだけあれば、島原どころか日の本すべての飢えがなくなりますぞ!」
伊織の声が、静まり返った神社に響く。
「四郎殿もきっと喜びなさる。武蔵様、武蔵様、武蔵様?ほら、伊織の『い』ですぞ!」
「武蔵様 いえ、父上、父上……!」
「父上!父上!父上!、いおりの「い」、いおりの「い」、二刀流の申し子、いおりの「い」ですぞ!」
「伊織がおります。伊織がおりますから。父上……」
「伊織、儂はな、考えておったのだ」
「父上!」
「儂はどうして二刀ではなく胤舜の十字槍を持ってきたのであろうか。
二刀でも良いはずなのに。
この十字槍を使うとな、時々不思議な事が起こるのだ。
やはりこの槍には、一種の何かの加護があるんではないかと思うておる」
「加護ですが父上、しかし神仏には頼らぬとの教えでした」
「そうなのだ。そうなのだがな。
ここにはあえて『そういったもの』があれば良いような気がしてきた。
仏の加護と神の加護が相性が良いかどうかは知らぬがな。
それに武蔵の槍が宝物としてある神社を、その神主一族を、害しようとする馬鹿はいまい」
「……左様ですか。では、共に参りましょう。
まさか自分の剣が芋と引き換えになるとは思いもしませんでした!」
「儂も儂の剣が芋と引き換えにされるとは思わなんだ。
まあよいか。チェストとまた仕合えるとはな!良い士官先ではないか伊織!
チェストはいいぞ!
二の太刀不要のチェストはな、二刀の達人の儂から見てもその考え方からして痺れるのだ」
「同じ藩に仕える者同士です。斬らないでくださいね」
「流れ次第だ。全ては流れ次第、水の理と同じよ・・・水・・・水か」
宮本武蔵と伊織は薩摩藩に尽した。
その後宮本武蔵が書いた土の巻には赤芋の話が、
火の巻にはチェストという言葉が出てくることになる。
天草四郎時貞と彼の遺した子供たちは神社を継ぎ、何代にもわたってこの地を守り抜いた。
時は流れ、西暦2000年を少し過ぎた現代。
「はー……もう仕事やだ。残業やだ、帰りたいよう……」
深夜、俺――九十九は、重い足取りで交差点を渡っていた。
疲れ果てた視界の端から、暴力的な光が迫る。
巨大なトラック。
ブレーキの鳴き声。
(あ……信号、青じゃなかったっけ……。まあ、生きてても何にもないしな)
全てを諦め、俺は目を瞑った。
せめて、ネット小説にあるような「異世界」にでも行ければ、なんて。
その時だ。
(えいえい!)
耳元で、弾けるような、懐かしい声が響いた気がした。
猛烈な衝撃音と共に、トラックが「あり得ない方向」へ横転する。
俺の目の前数センチで、鉄の塊が止まっていた。
……生きてる。
俺の一族は、なぜか長生きが多い。
その理由は今まで分からなかったし、神仏を信じたことも無かった。
だけど、今の俺には、何かに呆れられながらも、力一杯守られているような不思議な確信があった。
「……明日は休みだし。晴れみたいだし。生きてるって悪くないかもしれないし。布団でも干すか」
そう呟いた瞬間、誰かの顔がパッと笑ったような気がした。
ちょっと怖い。今度、実家の神社でお祓いでもしてもらおうか。
「ばあちゃんの大学芋、楽しみだな」
妹のアマテには、とっておきのスイートポテトを買って帰ろう。
太陽の光をたっぷり浴びた、甘い、甘い芋を。
天照大御神(GM):
「――ふう! 危ないところであったぞ、九十九!
危うく、我が数百年かけて繋いできた血筋が、信号無視のトラックごときに途絶えるところじゃった。
天草四郎が泥を啜り、父を殺し、必死に守り抜いた命の火は、
今もこうして、芋を食い、呑気に布団を干そうと笑っておる。
さあ、物語はこれでおしまいじゃ。
スイートポテト楽しみじゃなあ。
あとは平和で、腹一杯に芋が食える……
そんな、世界で一番幸せな物語を見守るとしよう。
九十九、えいえい! と、元気にいくのじゃぞ!
えいえい! 天照! 天照!!」
【完】




