神と妖怪と、女子高生!?
呪術廻戦の芥見下々先生に憧れて、頑張って書いています。女子が憧れる美しい世界を創り出していきたいと思っています。よろしくお願いします。
『ねえ。僕、百年ぶりに現世に行きたいんだけど、誰殺してきたら良いかな〜!?』
現世に住まう人々から畏れられ、極楽とは文字通り天と地ほど離れた世界――畜生地獄。
最下層・阿鼻地獄では、今日も業火に身体を焼き尽くされるという最も残酷な刑罰に耐える罪人たちの叫び声が、絶え間なく響いていた。
空は血と毒を混ぜたように赤黒く、苔むした石造りの路には百足や毒蜘蛛が蠢いている。
そんな中、罪人達を満面の笑みで観察する異常者の質問に対し、物腰の柔らかい老爺が丁寧に答えた。
『黒条美影。彼女を殺せば全て解決します』
二〇二五年、四月。
日本の何処かにある街・宵月市。
ひらひらと舞い落ちる桜が、目に映る景色を春色に染めていく。
桜は春風に乗ってどこまでも飛んでいき、春の訪れを祝福するように舞った。
春の陽気に包まれた街の一角で、桜から生まれた精霊のような少女が一人、宵月市のシンボルである時計台の前に佇んでいる。
透き通る撫子色の瞳が、うららかな春の日差しを反射して優しく輝く。
色素の薄い髪は生糸のようで、街に花を添える桜と同じ繊細な美しさを纏っている。
そんな稀代の美少女――黒条美影は、
「あれ?こっちで合ってるのかな⋯⋯?」
スマホで周辺の地図を確認し、途方に暮れていた。
そして、たった今自分の犯した恥ずかしいミスに気付いてしまった。
美影の通う高校・私立春光学園の最寄り駅は「宵月市駅」だが、今彼女がいるのは「宵之口駅」。
よく似た駅名に惑わされ、まったく知らない場所へ来たことを理解し、美影は涙目になった。
「次の電車待つしかないよね⋯⋯」
宵月市駅行きの電車は二十分後で、ホームルームに間に合うかどうか怪しいが、ひとまず待つことにした。
鞄を地面に置き、単語帳を探した。
「大丈夫。見つからない」
美影は少し低い声で呟いた。
鞄には水筒、授業で使う国・数・英・理・社の教科書、単語帳、そして――鞄に納められた刀が入っていた。
「はい始まりました!本日はパワースポットとして人気を博している妖花山に来ています。
あ、ご覧下さい!
あちらに聳え立つ立派な朱色の社が、地獄に住む妖怪の通り道との言い伝えがある『地獄の社』となっております!今日は土曜日ということで、いつにも増して賑わっていますね。では早速、お話を伺いたいと思います」
同刻。宵月市にある観光名所・妖花山。
麓の「地獄の社」の愛称で知られる浅葱色の立派な屋根と鮮やかな赤色が特徴的な社や今流行りの銀箔ソフトクリームの店は、多くの観光客で賑わいを見せている。
今日は女性アナウンサーが、番組のロケと称して訪れている。彼女は溌剌とした笑顔で声を掛けていく。
「ワタシはね、ニホンに来るのがユメだったんですよ。その中でも、ジゴクのヤシロは一番行きたかったバショです」
「美しい自然も一緒に楽しめますからね。私も大好きです!この後は…⋯」
日本好きの外国人観光客にインタビューをしていた時、突如地獄の社の付近で轟音が響き渡った。
音がした地点に目を向けると、そこに居たのは五十メートルを超える生物らしきもの。
身体は汚れた薄茶色で、表面が硬いうろこで覆われている。
その「何か」は、巨体をうねらせ、人々が居る方へ接近してくる。恐怖のあまり足がすくみ、身動きすら取れない人々を他所に「何か」は侵攻を続け、樹齢二百年を超える大木をいとも簡単にへし折った。
折られた大木は「何か」が動いた衝撃で吹き飛ばされ、麓へ向かって降ってきた。同時に、人間の拳程度の大きさの岩や礫が容赦なく襲いかかってきた。
「いやああああああー!」
「おい押すなよ!」
「皆さん落ち着いて、ひとまず避難を!」
当たり所が悪ければ即死、運が良くても致命傷は免れない。最悪の想像が頭に浮かび、人々は混乱状態に陥ってしまった。焦るあまり、皆が周囲を顧みず一斉に走り始めた。
中には面白半分で写真を撮り、SNSに投稿しようとする若者もいたが、結局は逃げる事を優先した。
漸く地上が見え始めたその瞬間、恐ろしい震動がやって来た。恐る恐る山頂付近を見上げると、斜面が呆気なく崩れ落ち、再び岩と礫の嵐が襲い掛かってきた。
「誰か通報してよ!!」
「あんなの対処できる奴なんて……もう嫌だ!地獄の社なんて来るんじゃなかった!」
完全に冷静さを欠いた人々は断末魔の様な悲鳴を上げた。致命傷を防ごうと、頭部を鞄や土産袋などで覆った。が、落石は人々の腕や脚に次々と直撃していった。相当な勢いで飛んできたため、出血量は相当で、殆どの者が身動きの取れる状態ではなくなった。
「おとうさん……おかあさん……おきて」
そんな中、ただ一人傷を負っていない五歳の少女が意識の戻らない両親の身体を揺すっていた。彼女の両親は落石から我が子を庇ったことで、頭部からひどく出血していた。一刻も早く救命措置を行わなければ二人が助からないのは確実だ。
が、年端もいかぬ少女にそんなことが出来る筈もなく、彼女はただ両親の手を握りしめたまま目を瞑っていた。
両親と無事に帰りたいという少女の想いも虚しく、「何か」は更に進行し、山を破壊していく。少女が目を開けると、尖った黒い岩が既に目と鼻の先まで迫っていた。その刹那、彼女は一縷の希望に縋る思いで、声にならない声を上げた。
「たすけて……」
無惨にも石が少女に直撃―することはなかった。突如として現れた何者かが、一秒にも満たない間に落石を全て叩き斬った。今度は何が起こったのかと顔を上げてみれば、視界に飛び込んできたのは、制服に身を包んだ華奢な少女だった。
透明感ある白縹色の刃に、重なる桜の花が描かれた銀色の鍔、そして何物にも染まらない漆黒の柄が印象的な日本刀―白露を握っている。
付近の高校の制服に日本刀というのは、中々に異様な組み合わせなのだが、彼女が纏う神秘的な美しさが全ての違和感を解決してしまった。
「七色 蓬莱」
霞がかかった山と共に、棚引く金雲と空を泳ぐ二匹の龍が現れた。古来の日本絵巻を連想させるこの風景は、不老不死の果実の伝説が残る仙山・蓬莱山である。
「遅れて申し訳ありません」
小さな三匹の龍が傷ついた人々に近づくと、彼らを苦しめていた傷が一瞬にして消え去った。入院・治療が必要な酷い怪我を負った者も決して少なくはない。彼女――美影は重傷者も含む大勢を一挙に治療してみせた。傷が完治した事を喜び、皆が美影に礼を言った。
「おねえちゃん。たすけてくれて……ありがとう」
両親の無事を確認した少女が、美影のスカートの裾を引っ張ってそう伝えた。美影は想いに応えるように、その少女に目線を合わせてしゃがみ、頭をそっと撫でた。
「よく頑張ったね。おねえちゃんが絶対に守るから、ご両親と一緒に待ってて」
少女に微笑みかけると、美影はブラウスの胸ポケットから小さな鈴を取り出した。銀色の可愛らしい鈴――珠雪で、淡い七色の組み紐が鮮やかで上品だ。何の変哲もない鈴に思えるが、一つ不思議な点がある。
美影は学校から相当な速さで、止まらずに走り続けたが、珠雪は一切音を立てなかった。
摩訶不思議なこの鈴に、美影は呼びかけた。
「胡蝶之夢」
呼びかけに応え、珠雪はシャラン、と音を一つ響かせた。桜舞うこの季節を祝福するように、音が虚空を駆け抜けていく。優しく温かい春風に乗せられ、どこまでも遠く響いた。音を聞いた人々は「綺麗な音…」と、思わず感嘆の声を漏らしていた。その刹那、美影以外の全員を夢の世界へと誘った。幸せそうに眠る彼らの様子を確認した美影は、珠雪を一旦しまうと、全速力で山の斜面を駆け上がった。
『美影はん、また強くなったんちゃう?流石はワイの惚れた女やわ~』
切れ長の漆黒の目、鋭い銀色の二本の角、人を喰い殺すように歪に開かれた口。恐ろしさを凝縮した顔に、裾が少し乱れた紅椿色の着物が合わさって、より一層凶暴に見える。
彼の名は夜叉。元々は古代インド神話に登場する鬼神で、人を喰らう凶悪な鬼と考えられていた。が、仏教に取り入れられて以降、毘沙門天の卷属となり、仏法を守護する護法善神となった。
この夜叉はとても気さくで、彼の口振りからは美影を心から慕っていることが窺える。
「ありがとう。早速だけど、破壊された山を修復してきてくれない?その代わり、私が絶対にアイツを倒すから」
『ええよ勿論。気ぃ付けて行きや~』
「うん。じゃあ、また後でね」
美影は夜叉と別れると、助走を付けて飛び上がり、相当な高さがある木々を次から次へと飛び越え、進行を続ける「何か」の前へ降り立った。
『シシシ…⋯小学生が迷い込んできたのか?ハズレだわ』
八つの頭を持つ大蛇が、完全に舐め切った様子で美影を見下ろしている。硬いうろこに覆われた大木のように太い茶色の頸、見る者を射殺すような黄色と黒の目。無論、唯の蛇ではない。蛇の妖怪・八岐大蛇だ。
『おーい。早くどけよ。まあどいても助かんねえだろうけど』
八岐大蛇は彼女を滑稽だと考え、嘲笑っている。命知らずな子供も居るな、と面白がっていた。
文明が発達する遥か前の時代に、自分を倒そうと奮起し、圧倒的な力の前に絶望した人々の苦痛に歪む顔を思い出し、八岐大蛇はほくそ笑んだ。
戦で名を馳せた武将達ですら敵わなかったのだ。
普通に考えれば、身長一四三センチの美影が、刀一本で体長五◯メートルを超える八岐大蛇の頸を落とすことは限りなく不可能に近い。窮地に追い込まれた経験すらない八岐大蛇が彼女を侮るのも無理はない。
この状況を、美影は好機と捉えていた。相手が油断している隙に叩けば短時間で片付く。瞬時にそう判断し、白露を持ち直す。眉一つ動かさずに目の前の敵を静かに見据え、再び珠雪に呼びかけた。
「鬼哭鳴々」
胡蝶ノ夢とはまるで違う、この世のあらゆる不快音を集めた音が響き渡った。その音を聞いた八岐大蛇の巨体が大きく傾いた。
『……ちょっと待ってくれ。話を…⋯』
朦朧とした意識の中で、八岐大蛇は声を振り絞った。美影は氷のように冷たい表情を浮かべ、白露を握る手に力を込めた。
「一色 八重」
一切の情を見せずに、大蛇の頭よりも高く飛び上がると、白露を瞬きする間に八回、頸を狙って振った。掠り傷すら付いていないように見えたが、次の瞬間には丸太のように太い八つの頸が一斉に宙を舞った。その太刀筋は神業としか言い様がない程正確だ。頸を斬られた大蛇は、程無くして塵芥と化して消滅した。美影は大蛇の消失を確認すると、そのまま音一つ立てずに地面に降り立って白露を鞘に収めた。
「夜叉、ありがとう。もう戻っていいよ」
現場に到着してから僅か十秒足らずで伝説の妖怪を打ち倒した美影を見て、夜叉も目を見開いて驚いている。美影の指示通り、夜叉は破壊された山頂から中腹を、綺麗に修復している。適当に誤魔化したのではなく、本当に元に戻っている。戦闘を得意としない夜叉の主な役割は、被害が出た場所の修復だ。
『いや早すぎやて。十秒かかってないやん』
「被害が拡大して休校になるのは嫌だから。それに…⋯あああっ!」
美影が突然頭を押さえ、苦しみ出した。
額に夜叉と似た角が一本生え、歯と手指の爪は獣の如く尖り始めていた。加えて、色白な肌は生気の無い色に変化し、所々に赤黒い椿の紋様が浮かび上がった。撫子色の瞳は血液と毒を混ぜたような赤に染まった。
彼女の繊細な美しさは奪われ、人間と化け物が入り混じった「異形」の姿をしていた。
「夜叉。念のため私から離れて。あと、人が近付いて来たら教えて」
唯一残された撫子色の右目で、夜叉に必死で訴えかけた。助けを求め、他者を巻き込むことは絶対に許されない。その為一人で底知れぬ恐怖と格闘し、元に戻るのを待つ以外に成す術がないのだ。
そんな中、幼少期の忌まわしい記憶が蘇ってきた。
守られるだけの存在だった彼女を襲った、最上位の妖怪の一種である般若。
般若は今の美影と瓜二つの外見をしていた。
大切な家族との思い出が詰まった我が家を一瞬にして破壊し、抵抗する術を持たない美影に留めを刺そうと迫ってきた。
わずか数分の出来事だった。
辛うじて般若は倒されたものの、対峙した者達は皆酷い怪我を負った。両親と兄は、まだ五歳の美影を残して亡くなった。心の傷は十年が経過した今も癒えていない。また、般若の攻撃を受けた際、脳に強いダメージを受け、記憶の一部分が抜け落ちてしまった。
“鬼化”が起こるようになったのは、それからだ。
「ハァ…⋯ハァ……夜叉。もう大丈夫」
角と牙が消え、瞳と肌の色も漸く元に戻すことができた。何とか立ち上がって歩き始めたが、精神的には相当堪えていた。夜叉は返す言葉が見つからず、二人の間に重い空気が流れていた。が、一分後には美影の「ああ…どうしよう…」という間抜けな声で、いつもの空気感に戻った。
『お、何や?』
「道分かんなくなっちゃった…⋯」
『優秀なんかアホなんかどっちやねん』
「バカです」
夜叉は苦笑いをしながら美影に道案内をする。次の授業に遅刻するまいと、夜叉を信用して急な斜面を躊躇なく駆け下りていき、麓まで戻ってきた。
「ねえ、これから地獄の社の前で写真撮ろうよ」
「銀箔ソフトクリーム、絶対待つよね…でも、やっぱり食べようかな」
「お土産何が良い?」
八岐大蛇の襲撃で怪我をした人々は、何事もなかったかのように観光を楽しんでいる。美影が治療を施した事も、記憶から綺麗に消し去られていた。「普通」の時間を過ごす人々を見て、美影は微笑んだ。
神在―地獄から地上へ降り立ち、無差別に人々を害する妖怪を討伐する能力者。
「榊」は、神を能う能力であり、回復、剣術、身体強化など使い道は様々である。
人間が何千年という時を生きる妖怪に対抗するための唯一の手段と言っても過言ではない。
一般の人々は神在と妖怪の存在を知らない。女性アナウンサーが言っていた、観光名所である地獄の社の言い伝えは、迷信ではなく事実だ。
地獄の社がある妖花山が最初に被害を受けたのはその為である。
また、珠雪は神在全員が持つ神具の一種で、「胡蝶之夢」と唱えると、軽快で美しい音が鳴る。
半径五百メートルにいる民間人に催眠をかけ、妖怪や神在に関する一切の記憶を消し、日常に戻す。
一方で「鬼哭鳴々」と唱えると、妖怪の脳にダメージを与える不快音がけたたましく響く。但し、こちらも人間に害はない。
一般人に正体が発覚することを避けるべく、先達が長い時間を費やして生みだした代物だ。
般若に化ける神在が許される筈がない。
彼女は「人ならざる者」として忌み嫌われること、何より罪なき人々を傷つけることへの恐れから、何年も鬼化の問題を一人で抱え込んでいる。
普段の生活で、鬼化が起こることはない。
問題なのは戦闘時だ。
それは神在として妖怪退治をする中で分かったことだった。
榊を一定量消費すると、身体は徐々に般若に侵されていく。
今回は榊の消費が比較的少なかった為に、すぐに戻ることができた。
もし格上の相手と対峙すれば、長期戦に耐え切れず、自我さえ失う危険性がある。
加えて、後頭部を強打したことによる記憶喪失で、幼少期の記憶は未だ戻らない。
僅か十六歳の少女が一人で背負うには、あまりに過酷な運命だ。
ヒロイン・美影ちゃんの可愛さと強さ、葛藤が表現できたと思います、零くんとの恋愛もこれから書いていきますので、待っていて下さい。




