前章最終話 ダラダラ高校生の人生
玲真目線。
「「「いってきます!」」」
俺達はそう言って家から出て、学校へと向かう。
「いってらっしゃい」
フィリアに見送られ、進んでいく。
いつも通り、日常を歩んでいる。
当たり前を、過ごしていた。
あの日、父さんに守られて生き残ったから、今日を生きていられるんだ。
二か月前、シルヴィアと正面から喧嘩することが出来たから、俺は今幸せなんだ。
そう思うと、何か込み上げてくるものがある。
足も止まり、手で空を仰ぐ。
綺麗な青空が広がっていて、点々と浮かぶ雲が良い味を出していた。
いつもはあまり好きじゃない青空が今日は何故か、とても好ましく見えたんだ。
それはきっと、俺が変われたからだと思う。
俺は俺のまま、成長できた。
「兄さん?」
「玲真?」
優也とシルヴィアが、足を止めた俺に気づく。
あの日から俺たちは五人で暮らしている。新たにフィリアとシルヴィアを向かい入れた家はとても賑やかで、楽しいものだ。
俺は思う。きっとそれが、世界が俺に与えた――――――報酬なのだと。
アリスに誘われてゲームを始めたのも、ダンジョンで戦ったのも、異世界でフィリアに出会ったのも、シルヴィアと本気で戦い、助けたのも。
無関係に見えても、世界は何処かで繋がっているのだ。
俺という、一人の人間の目線で。
これは魔王を倒す物語でも、世界を救う物語でもない。
ただ―――――緒方玲真という人間の物語だ。
「……何でもない。さ、急ごうぜ」
俺は今日も歩いていく。誰かから受け取った今日という明日を。
◇◇◇
優也目線。
「……何でもない。さ、急ごうぜ」
そう言うときの兄さんは、大抵何かある。
それが過去のことなのか未来のことなのか、そこまでは分からないけど。でも今の兄さんはどこか吹っ切れたように笑っていた。
そんな兄さんが、一番カッコイイと思う。
最近の兄さんはいつも悩んでいた。
笑って気丈に振舞っていても、何処か無理しているように見えた。
でも今は違う。
兄さんの苦労はどうやら、実を結んだらしい。
僕は兄さんにコンプレックスを抱いていた。
いや、今もあるかもしれない。
兄さんはいつも、誰とでも仲良くなれた。勉強は僕の方が出来たけど、運動も、優しさも、兄さんに負けていた。
けど当の本人は自己肯定感が低くて、僕の方を見上げている。
その二人で起こる矛盾が、嫌いだった。
だから僕も大切な人を創ろうと思ったんだ。だから、椎名さんが告白してきたのは好都合だった。
でも、彼女と出会って、少しだけ変われた。
彼女は僕自身を見てくれた。兄さんと比べず、僕だけを。
それがとても嬉しくて、僕は彼女に惚れていた。
そして、キッカケになった兄さんに感謝した。
僕はいつも、兄さんに守られ、助けられている。
「……まったく、兄さんはいつもそうだね」
◇◇◇
シルヴィア目線。
私はあの日、玲真に命を救われた。
彼とした大喧嘩はとても楽しくて、戦争のことなんて頭から吹き飛んでいた。
暗殺も、誘拐も、したくない。
私は、一人の女の子として生きるんだ。
そう思えたのも、玲真に出会えたから。
彼とスノーホワイトとして関わり続けた数か月。
私は震えながら、彼と言う名の光を追いかけた。普通の人生に憧れた。星を見上げて、短い旅を歩もうと思った。
あの世界で、彼とともに旅ができて楽しかった。
私が絶望で打ちひしがれていても、彼は助けてくれた。
それが当たり前のように。
彼は私の手を握ってくれた。
孤独が終わりを告げる音がした。
幸せな、温かい音が鳴り響いた。
彼はきっと、輝く一番星。
本当なら絶対に届かない場所で一人輝く、一等星。
でも今は、彼から近づいてきた。
だから私は今、彼とともに歩めている。それが今の、当たり前。これから先、何があっても。
私はこの日常を守りたい。
それが、私の力に宿った意味だから。
普通の女子高生としての青春を謳歌する。
「玲真、変なの~。まあ時間あるし、ゆっくり行こうよ」
「そうだな、ゆっくり行こう」
「どっちなんだよ兄さん」
「うーんまあ、どっちでも」
私たちは、この平和な世界で笑えている。
◇◇◇
フィリア目線。
私は、この世界の人間じゃない。
でも私はこの世界で生きている。あの日、森の中で玲真と出会って全てが変わった。
きっと、私の方が彼よりも強い。
だけど、勝てるビジョンが浮かばない。
彼は本当の意味で強いんだと思う。
守るための強さ。
それが、玲真の強さ。
私は多分、あの日までずっと人形だった。森の中で一人、いつもの動きを実行するだけの肉人形。
それが、私だった。
でもあの日、彼と出会ってから世界に色が付いた。
夕焼けが綺麗だと思えたのはいつぶりだろう。
星空に心奪われたのはいつ以来だろう。
人間らしい考えができたのは、久しぶりだった。
「あらフィリアちゃん、三人はもう行っちゃった?」
「お母さま。……はい、ちょうど今」
「そう。見送りありがとね」
懐かしい。
種族の違う両親との生活も、幸せだった。
今は、もっとかもしれない。
大好きな人と一緒に暮らせるのだから。
「ねえフィリアちゃん、玲真のことどう思ってるの?」
「えっ、ええっ! いきなりどうしたんですか⁉」
あまりに突然すぎて驚いてしまった。
顔が熱くなっているのを感じる。きっと、紅葉のように赤いのだろう。
「いやぁ、いつも見てて思うんだけど、玲真ってフィリアちゃんのことを妹みたいに見てるじゃない。
じゃあ逆はどうなのかなーって」
「………そう、ですか」
そう、妹。
玲真は私を死んだ妹と重ねている節がある。私がどれだけ女性らしくしても、彼は何も感じない。
すこし、ほんの……ほんのすこーしだけ不満だ。
私は玲真が好きなのに。
彼は答えてくれない。でも、
「私は、玲真が好きです!」
たとえ叶わなくても、私は彼のことを愛する。
「………そう」
「大好きなんです!」
私の答えを聞いてお母さまは安心したような表情を見せた。
そして同時に、少しだけ瞳を潤わせた。
「多分、これから沢山の強敵が現れるわ。
玲真は誰でも助けてしまうような子だから、きっとね。シルヴィアちゃんだってそうよ。それでも、頑張る?」
「――――――……当然! です!」
それだけは、心の底から断言できた。
◇◇◇
玲真目線2。
帰宅後、俺は自室でそれを被った。
フルダイブ用ゲームハード――――――『クロノス』。今思えば、初めてコイツを被ったときから、このストーリーが始まったのではなかろうか。
きっとこれが無ければ、全ては始まらなかった。
「――――――ゲート・オープン」
意識が元居た世界から断絶され、電脳異世界へと転送される。
数秒の浮遊感を感じた後、足に地面が触れた。
「随分と…………久しぶりな気がするな」
自身の姿を見下ろすと、全身黒一色の装備。
黒いシャツ、ロングコート、そして――――――黒い剣。
初期から殆ど変わっていない装備一式。
愛着もある。
が、
「……少し恥ずかしいかも」
と思うようになった。
「……さて、今日は何をしようかな」
「あれ、マオ?」
「…………アリス」
俺をこの世界に誘った張本人。長い黄金の髪に青い瞳の美少女アバター。別のゲームでも一緒にいた相棒だ。
「久しぶりだね、マオ。元気だった?」
「ああ。中々入れなくて悪かったな」
「ううん、全然。でも……ちょっと寂しかったかな」
「……ごめん」
忙しかったのもあるが、何故かこの世界を避けるようになっていた。
自分でも分からなかった……けど、今分かった。
俺はこの世界が好きなんだ。
だから、魔法と血に塗れた生活の中でプレイすることを拒んだ。
きっと、無意識に神聖化していたのだろう。
「でも、戻ってきてくれてよかった」
「アリス……ああ、俺も戻ってきてよかったと思うよ。またお前と一緒に、ゲーム攻略したいしな!」
俺は殲滅級魔法が使える、ただの高校生だ。
この世界では剣士で、そして――――――ゲーマー。
「じゃあ、行こうよ。二人で一緒にこの世界を!」
「…………ああ!」
◇◇◇
かつて、ダークネスと呼ばれた剣士がいた。
多数の女性を侍らせたその男は漆黒のコートを羽織り、二刀の剣を携えていたという。
その剣技の腕は一級品で、あらゆる達人を屠った。
その魔法の腕は最強で、あらゆる国に恐れられた。
そのお人好しな性格は折り紙つきで、あらゆる人を助け続けた。
ゲームを好み、初めは険悪でも一緒にゲームをして仲を深めたとされる。
「かかってこいよ、勝てるものならなァ」
戦闘中はニヒルな笑みを浮かべ、喜びの声をあげたという。
二つの世界を統一し、世界最強の王となった彼のことを、かつてのキャラネームにちなんで、人々はこう呼ぶ―――――――――。
魔すら統べる王、
『魔王』、と。
最後の最後でかなりの駆け足となってしまいましたが、一応『高校生』としての物語はここで完結です。
現在続編の構想だけはありますが、連載するかは未定です。
こうなってしまった理由としましては、これ以上のストーリーを描くと『ダラダラ高校生』としての物語にはならないからです。
これから起こるのは二つの世界を巻き込んだ大きな戦い。
一応それが完結編にはなるのでしょうが、出し渋っております。そういう思いを込めて、タイトルを『前章最終話』とさせていただきます。
ひとまずの完結をすることができて良かったですが、中々に複雑な気持ちですね。
ここまで読んでくださった皆様へ精一杯の感謝を。
次回があるならまたこの作品で、もしかしたら違う作品かも。そう
それまで、ごきげんよう。




