第60話 剣と魔法の夢彼方
「ドラグストライカー……」
魔法の力をイメージで創り出す。
竜の顎を思い起こす。
弾ける。
砕けろ。
「貫け!」
無数の力が重なった竜と光線が正面から激突する。
威力は拮抗、故に決着は未だつかず。
敵は立っている。
終わっていない。終わらせるつもりで放ったのだが、ツメが甘かったか。
「…………いくぜ、相棒」
静かに語り掛けたのは、異界でともに戦った友。
≫YESマスター。
(今から結構大きい魔法を使う。その補助を頼む)
≫了解。
「刀剣魔法――――――ブレード。タイプ………………カタナ」
握っていた剣の形状を変化させ、片刃の日本刀へ。
それを右手に構え、疾走する。
「…………魔力衝撃波!」
魔力を後方へと放つことで更に加速。
もっと、もっとだ。
「もっと迅く………………いくぞ!」
魔力衝撃波・二重奏。
単純に術式を重ね合わせただけの代物だが、その分構築は単純で威力も高いときた。
ぶっつけ本番だったが、これだけ出来れば充分だ。
「――――――優也!」
「オッケー。――――『リヴァイアサン・デッドライン』!」
弾けたのは、俺たちの足元にあった大地。
水分を多く含んでいたそれは優也にとって支配下にある奴隷も同じ。奴隷に人権はなく、時には爆弾をつけて特攻させる。
この場合、奴隷そのものが爆弾だっただけの話だ。
「地面が流動している……⁉」
おっと、敵さんも大層驚いているご様子。
「くっ……私はここで負けるわけにはいかない!」
「どうでもいいよ、アンタの背景なんか」
………………いや、どうでも良くなったの方が正しいか。
「アンタのお陰で理解できたんだ。俺は他人のことを本心から心配出来ていなかったんだ。
妹が死んで、その優しさを真似ていただけなんだ。まるでロボットみたいにな」
「な、何を……!」
距離が急速に縮んでいく。
俺の思考も同時に加速していく。
「よーするに、俺とアンタは同類なんだよ。……自分さえ良ければ周りなんてどうでもいい………………いや、ちょっと違うか。
自分の周囲さえ平和ならそれでいい、ってカンジだな」
「わ、私がそんな身勝手……! ふざけないで!」
初めて見たよ、アンタの怒っている顔。
「ホワイトさん……いや、シルヴィア!」
怒号。
心のそこから怒りを解き放つ。
「今から俺の全部をぶつける……だから、アンタも心を全部解き放っちまえ!」
「え……?」
一瞬、彼女の顔が崩れた。
本当に、心底戸惑っている表情だ。
「限界解放、覚醒解放!」
全身から魔力が噴き出す。
俺の中で何かが吹き荒れる。まるで竜巻のように。
すべて、飲み込んで壊したくなる。
「終わらせようぜ、俺達の短い因縁を!
――――――俺が俺自身の、アンタのバッドエンドを、ハッピーエンドに変えてやる!」
それで、全部チャラだ。
◇◇◇
眼前に、白銀の勇者が迫っている。
本来私は殺されても仕方ない立場の人間だ。彼のことをずっと騙し、彼の家族を殺そうとした。
なのに、彼はどうでもいいと言った。
私の過去なんてどうでもいいと。
「……ふふっ」
悠久とも思える引き延ばされた時間で、思わず笑みが零れる。
そんなこと言われたの、初めてだったから。
「だったら、私も本気でぶつけるよ……マオさん!」
「来い、最後の大喧嘩だァ!!!!!」
彼の笑顔は悪魔のような笑み――――――狂戦士にも見えるかな。
今、目の前の状況を楽しんでいる。
『自分の周囲が平和ならそれでいい』
よく言うよ。
本当はそんなこと思ってもいないくせに。
二つの拳が炸裂する。
「っ……!」
「ハハッ、流石軍人! 硬ェ、スゲェ!」
凄いのはそっちだよ。その軍人と真正面から対等に殴り合えるんだから。
私も「兵器」としての教育を受けている。その中に対人格闘術……マーシャルアーツもあった。
私にはそっちの才能もあったみたいで、よく教官を気絶させちゃってた。
そんな兵器と、渡り合ってる。
「ウらぁ!」
「見えてるよ!」
彼の蹴りを受けとめる。重い。
なんて威力。
これが学生の筋力だっていうの?
「ヒャッハー!」
見覚えがあると思ったら、昔見た海賊映画に出てくる海賊そっくりだ。
人生に戦いを見出すのではなく、戦いに人生を見ている。
これで負ければそれでおしまい、そんな気迫がある。
「なんだ、演技じゃなかったんだ」
あの世界、仮想の異世界で見せた笑顔は、本物だった。
「知ってるか?
この世界は捨てたモンじゃないって、まだ綺麗な空が広がっているって。
知らないだろ、人の優しさを。
忘れたろ、大切に思う感情を。来いよ、それを教えてやる!」
うん、教えて。
私に、『光』を――――貴方を教えて!
◇◇◇
「はあっ!」
固有魔法『剣』は親父から受け継いだ魔法『斬撃』と俺が生来保有していた魔法『獣』が交じり合ったもの。
正確に言えば、その一部分。
そうしていた理由は簡単。
―――――怖かったからだ。
「自分の力が怖いっていうアンタの気持ちは痛い程理解できるぜ……でも、それでも俺には、大切な家族がいる!」
俺を守って、死んだ家族がいた。
今度は俺の番だ。
俺はこの魔法を恐れた。
だけど今はそれが消え去り、唯一のストッパー―――リミッターが外れる。
精神だけで、恐れだけで抑え込んでいた最強の力。
妹曰く、絶対に負けない守るための力。
父曰く、ちっぽけな希望を大いなる勇気へと昇華する器。
弟曰く、心そのものを写し、光と闇両方の面を世界に轟かせる者。
その魔法の名は――――――
『龍』
「俺が、アンタを救うヒーローになってやる!」




