22わ
「は?」
思わず声に出ちゃった。
誰だこいつ。
禿げ上がった頭に弛みまくった顔面。それに似つかわしくない翡翠色の美しい目をしたおっさんは、ブドウを丸ごと取ると、皮ごとぱくりと食べた。
「もっちゃもっちゃ……おい、頭が高いと朕が申しておるのだぞ!」
「自分のことチンっていう人初めて見た」
「さっきから無礼なやつめ!朕を誰と心得る!このヒエロソリュマ協会の大司祭、ヒエロ・ザ・クレメンスぞ!」
「どうも。私の名前はクリストス。呼ばれたから来たけど……」
「頭が高いわぁ!!!」
高いわぁ、たかいわぁ……と教会堂の中に彼の声がこだまする。
白魔道士はすべてを愛する多神教。白魔道士のランク付けのための序列はあれど、横並び社会だ。
誰かひとりが偉ぶるなんてあり得ない。
彼のその横暴を受け入れきれず、つい思考が過去にタイムスリップしてしまう。
以前の大司教様は子供たちとよく遊ぶフランクなおじさんだった。
どれくらいフランクかと言うと、夏になると子供たちと一緒に近くの湖で水泳をするくらいフランクだった。
白魔道士のローブを脱ぎ捨てた大司教様の、しわくちゃの体に似つかわしくないスーパースポーティなブラックパンツは、今でも脳裏に焼きついている。
あの大司教様の何代後かは知らないが、どうしてこんな横暴な人の子に任されているのだろう。
「これはノットビューティかなぁ…」
うーん、と頭を悩ませる私。
「汝、この国の情勢は理解しておるな?」
「いや、人里に降りたのは久し振りで、全然」
「そうかそうか。ほっほっほ。そうかそうか」
急に目の前のおっさんが楽しそうに笑い出した。
「急にどしたん?」
「知らないならば教えてしんぜよう。朕が!博識なるこの朕が!教えてしんぜよう。頭を垂れよ!」
「あ、じゃあお願いします」
ぺこり、と私は頭を下げる。
人にものを頼むとき頭を下げるなんて当然だよね。
「ほっほ、よいか?世界は今、混沌としておる。蒸気魔術の発達により人間は誰しも大きな力を得たが、魔人は更に強くなっておる。ただの小競り合いが、国を巻き込む大戦争にもなりかねん情勢よ」
意外と国の情勢とかよく把握していそうで、感心した。
まがりなりにもさすがはチンだ。
「そこに、汝じゃ。魔人をも退ける力を持つと聞く。朕にそのハニカムを見せてみい」
「うん、いいよ」
私は数歩前に歩きながら、首から下げているハニカムを取り出して見せる。
「どっひゃー!」
とチンはひっくり返る勢いで驚いた。
「こ、これはハニカム史上最高の逸材じゃ!」
「いやいや、種食べてただけなんで」
「種ぇ!?そんな苦行を積んできたのか…」
「いや、毎朝楽しみに生きてましたけど」
「苦行を愉しみとな!?変態じゃのう…」
「修行中の全白魔道士に謝れ」
「しかし、その苦行を乗り越え、でっかすぎる力を身につけた汝に頼もう。まずは北の最果て、シャライムの丘を目指せ。今そこが最もヤバイ。そこを攻略できたなら、汝を朕の認める白魔道士にしてやろう」
「一番難しいステージからか。了解した」
長としてあるまじき行為をしているようにも見えるが、やはり大司教だけあって各地の情報は彼に集結する様子。
しばらく彼から情報を得たほうが、困っている人々を効率的に助けられそうだ。
ついでに布教もできそうだ。
「シャライムにはもう汝が向かっている旨を伝えてある。早う行け」
早うって言われても、最果てだよね?さすがにちょっと時間かかりそう。
日が沈むまでに着けるだろうか。
「まぁ、行くけどさ」
「さっさと行けと言うとるんじゃ。何をトロトロしておるか」
我が物顔で指図する彼を指差して、私は去り際にこう伝えた。
「ところでナントカ・ザ・ナントカ。お前のその横暴な態度、ノットビューティだぜ」
「の、ののの、ノットビューティじゃとぉ!?お、おお長たるちちち朕が、のののノットビューティなわけあるまい!」
白魔道士が言われて最も傷つく言葉ランキング1位。それはノットビューティ。
私は狼狽するチンの姿を見て、小さな笑みを浮かべながらそこを去った。
「それと朕の名前はヒエロ・ザ・クレメンスじゃぁぁああ!!」
そんな声が聞こえたが、最後のほうはもう聞こえなかった。




