3-11お宝探し
六太がクサリの下で働き始めて早二ヶ月が過ぎていた。
始めは大柄な獣人達に戸惑うこともあったものの、
今ではあと一ヶ月もしない内に
獣人会の皆との別れが来ることに寂しさも覚えていた。
加えて六太の主な仕事であったユールのお手伝いも、
短い単語での意思疎通することに慣れてからは、
非常に円滑に進んでいた。
ユールが使った道具を洗ったり、
完成したポーションのビンを運んだり。
素材集めに鹿男ニバと蜥蜴男ギュリゲらと
森へ行ったり。
かなり肉体的には忙しかったが
そのおかげもあり逞しさは増した、と六太は感じていた。
ただ、六太の心はかなり追い詰められた状態にはあったりする。
「お金が足りないんだよなぁ~」
六太は第4区の宿屋ファイン最上階の共同スペースで嘆いていた。
夕食も終わっており、後は寝るだけという時間帯に、
一人大工の親方ビーバー男のマイコーからもらった見積書を睨んでいた。
見積書の獣皮紙の下には、総額の記載があり、
【572万ジェジェ】
とある。
「足りないんだよなぁ~」
宿屋ファインの金庫をひっくり返しても
どう考えてもそんな金額は出せない。
かといって、せっかく進めてきたプロジェクトを
他のアイデアに変更するのは負けた気がする。
六太は意地でもこの風呂設置プロジェクトを
完遂してやると決意していた。
だが、決意しても、金は湧いてこない。
無い袖は振れないのである。
六太は金をどう集めようかについて考えるも、
結果何も思い浮かばないという思考のループにハマっていた。
「「ガチャッ」」
廊下から共同スペースへと入る扉が開かれた。
「むっ、六太まだ起きていたのか?」
落とし切れていない泥が付いた装備を身に纏って
シノギが珍しく部屋に帰ってきていた。
ここ最近は、ギルドマスターが作った
若手育成のパーティーに入って忙しくしていた。
度々特訓合宿と称し、2~3日から十日前後の期間泊まり込みで
訓練の日々を送っていた。
それ故、六太とは生活のリズムが違い、
あまり会うことは少なくなっているため、久しぶりに顔を合わせる。
「お疲れ様、今日はもう終わり?」
「うむ。ただ、明日からまた特訓合宿なので、
今日は装備の手入れをしなくてはならない」
「……想像を絶するハードさだね」
「これくらい厳しい方がやりがいもある。
ハンターランクこそ上がりはしないが、
確実に強くなっているのはわかるしな」
どうやらシノギには合っているらしい。
六太は呆れ半分尊敬半分のまなざしを向けていた。
「六太はまた厄介事か?
眉間に皺が寄ってる。そのうち取れなくなるぞ」
「ご心配どうも……」
六太は眉間の皺を右手で伸ばしながら、
机に突っ伏していた体を起こす。
シノギは六太の前の席に座り、
六太は自分が飲んでいるのと同じオキク茶を出してやる。
「スゴい色の飲物だな」
「今お世話になっている大工の親方に
教えてもらったお茶だよ。
ちょっとクセがあるけど結構気に入ってるから、
試してみてよ」
「うむ」
六太の勧めに従い、オキク茶を飲む。
「むっ」
少し眉を寄せ、なんだこの味は、
といった表情をシノギはする。
続けて二口目、そして三口目と一気に
湯呑みのオキク茶を飲み干した。
「うむっ、奇妙な味ではあるが、
確かに悪くない」
シノギが六太の方に空になった湯呑みを出してくるので、
六太はそこにオキク茶を注ぐ。
「それで、何に悩んでいるんだ。
相談ぐらい乗るぞ」
金策についてなので、シノギに相談してもあまりいい解決方法
は見つからない気がするが、
決めつけは良くない。
六太は風呂設置プロジェクトが資金繰りで行き詰まっていることを
ありのまま告げる。
「うむ、あたしにはどうしようもないな」
ですよね、と六太にむしろ納得させる回答をするシノギ。
「あえて回答するならば、
【財宝を探す】。これしかないだろう」
何を言っているんでしょうか、この人は。
六太はかわいそうな子を見る目でシノギを見つめていると、
シノギは眼光が鋭くなり、刀に手を━━
「そ、それで財宝の噂とか
知ってたり……するわけないですよねぇ~」
一瞬間が空き、
「うむ、一つ心当たりがある」
「え!?」
想定の上を行かれると、次の言葉が出てこなくなるらしい。
六太が驚きから復活できる前にシノギが言う。
「心当たりとは言ったが、
たわいもない噂話の域を出ないが」
「確実な財宝の話よりは
信憑性がある気がするよ。
で、どんな話」
「うむ、ある貴族の下で働いている使用人の話なんだが━━」
シノギはとつとつと語り始める。
上手な話し方とは言えないところがむしろ
六太をより一層その話にのめり込ませた。
内容は怪談ものっぽい。
ある貴族の下で使用人の欠員が出たため採用され
働き出した使用人が、
貴族が出かけている屋敷で夜に人影を見る。
そして、その後を付けていき、行き止まりの廊下で見失う。
同僚に相談すると、お化けかもしれないと脅され怖くなってしまう。
その後は特に何もなく日々を過ごしていると、
ある日掃除をしている際に、
その行き止まりの廊下で
偶然に地下に繋がる隠し扉を見つけてしまう。
好奇心から入ってみると、
そこには部屋が3つあった。
一つを覗いてみると、そこには金銀財宝が所狭しと置かれている。
そして次を見ると、貴重な本や裏帳簿らしき書類が置かれている。
そして、最後の部屋には牢屋があり、
壁から繋がるクサリを手に付けられ、白骨化している死体が一つ。
怯えていると、後ろから気配がし、
使用人が振り向くと、貴族がいる。
使用人が腰を抜かして座り込んでしまうと、白骨死体を指差し
「それはお前の前任者だよ」と貴族が言い、
「次はお前がそこに繋がる番だよ」と言われ、
その使用人が屋敷から消える。
というお話。
六太は使用人が死んだのなら誰がそんな話を語れるのか疑問だったが、
噂話に余計なツッコミは野暮というもの。
しかし、貴族と財宝とワードは親和性が高い。
使用人の後ろに急に貴族が立っていたり、偶然隠し扉を見つけたりと、
都合が良すぎる部分は作られているかもしれないが、
財宝が部分は真実であっても不思議ではない。
というかそうであって欲しい、と六太は切に願った。
六太はシノギにお礼を言って、
何もしないよりはいいだろうということで、
財宝探しを始めることに決めた。
「財宝はオレがいただくっ」
そう言ってその日六太は心穏やかに眠った。




