3-10財政官のお仕事
『貧すれば鈍する』というが、日々の貧しい生活に疲れていれば
路上などのゴミに気に留めて片付けるなどの余裕はないらしい。
ここルクティの街の第8区~第10区までは貧民街というだけあり、
あまりキレイな所とは言えない。
第7区より内側のルクティの街が整理整頓好きのドイツ人の部屋なら、
貧民街は日本国で一人暮らしをしているずぼらな男子大学生の部屋だろう。
雑然としており、貧困と犯罪の温床になっている。
しかし、その貧民街にもこの頃では徐々に目に見える変化が
起きつつあった。
花である。
木である。
クサリの提案で、獣人会の孤児達や体の弱い大人に
幾つかのの仕事をしてもらっていた。
それが
・道に落ちているゴミは拾うこと。
・道路の端や空き地に花や木を植えること。
街をキレイにすることは、治安や疫病対策にも繋がる仕事だ。
しかも、普通の仕事がなかなかない獣人達にとっての
雇用にもなる。
一石二鳥どころではなく、
成果も上がってきていた。
しかし、それが面白くない人物も少なからずいた。
「どうぞ、そちらにおかけ下さい」
「ありがとうございます」
第7区にある一軒の灰色の家。
ルクティの街で現在『教会の長』の立場にある
大神官の住まいである。
その1階にあるソファと机があるだけの
簡素な応接室にクサリは通され、目の前には大神官がいた。
「本日は第8~9区の一部で試験的に導入しておりました
孤児院や病院などを
第8~10区内で全面的に導入したく、ご説明に参りました」
「構いませんよ」
大神官は即答する。
孤児院や病院は一般的には教会が運営する施設。
それを財政官が作るといえば、教会に
運営がなってないと言っているも同じである。
実際にはあまり機能していないのは事実だが、
それを率直に言われて納得できる人物はそうはいない。
「驚いた顔をされていますね」
クサリの顔に浮かんだ微かな驚きの表情を大神官は読み取った。
「すみません。少し勘違いをしていたようです……」
「いえ、私ども教会の孤児院や病院は
財政面も含めあまり多くをカバーできておりません。
そのことは私も何とかしたいと日頃より思っておりましたが
力不足で至らず、痛恨の極みです。
この街の教会の長として、お詫び申し上げます」
深々と頭を下げる大神官。
慌ててクサリは大神官に頭を上げるようにいい、
協力してこれからはやっていきましょうという話しに落ち着いた。
「それでは本日はこれで失礼させていただきます、では」
クサリは大神官から協力の約束までもらえ、
ほっとした表情で大神官の家を後にし、
大通りへ出て行った。
予定も早く済んだし、
まだ日が暮れるまでには時間がありそう。
クサリは夕食前にお気に入りのスイーツでも食べようと、
第3区へと足を伸ばした。
一方大神官は、応接室で笑っていた。
「何か面白いことでもございましたか?」
クサリに出したお茶を下げに来た妖艶なメイドが訊く。
「━━はっ、こんな面白いことがあろうか。
私は、前前から関わりたくないという獣人風情の
孤児院だ病院だを
他の人がやってくれればと思っていた。
それを若く有能な財政官様がやってくれるという。
神の導きここに極まれり、くぅははははっ」
「神など利用すべき道具程度にしか考えていない御方が、
何を仰います。ぁっ」
たしなめるメイドの腕を掴み、
自身の膝の上へと引き込む。
「私は神を愛していますよ。
なんといっても神のおかげで
私は多くの盲目なる連中の上へと登ることができる」
大神官の手は妖艶なメイドのスカートの下へ伸びる。
妖艶なメイドは頬に若干色を加えて、
大神官の目を見つめる。
「それに貧民街の連中は
近日中にいなくなりますから、
あの財政官様の試みも必要なくなります。
ムダな努力に懸命な姿というは
私は大好きなんですよ」
大神官は目を細めると、優しい表情で笑う。
「ホントあなたは虫も殺さないような顔してるのに、
どうしてそんな悪いことができるのかしら」
「私は虫は殺しますよ。
特に神や他人に頼り
自分の人生から手を離すような虫けらは
大嫌いですから、殺します、大虐殺ですよ」
大神官のその言葉にはそれほど興味がないように、
その口を妖艶なメイドの口が塞ぐ。
応接室は、クサリを応対した時のままで
ティーカップや説明用にもらった羊皮紙が
同じ場所に置かれている。
ただ、違うのは、
大神官の前にいるのが、クサリから妖艶なメイドに
代わったこと。
それだけのことだったが、部屋に響く女性の声は
嬌声。応接室は男と女の匂いで充ちていった。




