表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

65/301

64.香ばし食パンで仕込むサンドイッチ




「ただいまー!」


 足取り軽く帰宅する。

 明日は朝から出かけるというのに、レイさんの水魔法を見たおかげでなんだかテンションが上がって寝られそうにない。

 しかもレイさんも参加してくれるって言ってくれたし今さらながら楽しみになってきたのだ。


 そうだ。軽食用に、パンを仕込んじゃおう。


「お母さん。またキッチンを借りてもいい?」

「いいですとも。今度は何をつくるんですか?」

「食パンを焼いて、明日の朝、サンドイッチをつくろうと思って」

「でしたら賞味期限の近い小麦胚芽を使ってもらえませんか」

「小麦胚芽! いいよ。おいくら?」

「私たちのランチ分もつくってくれたら、お代はいいですよ」


 ということで幸運にも、濃い茶色をした小麦胚芽の未開封品をひと袋貰ってしまった。

 開けた途端に焙煎されたかぐわしい小麦胚芽の香りがぶわぁっと広がる。


 強力粉でも薄力粉でも、ふつうの小麦粉は、表皮と胚芽を取り除いた胚乳はいにゅうと呼ばれる部分からつくられる。

 基本的に胚芽は小麦粉には入らない。

 ただ、胚芽は小麦全体においてはごくわずかな部分だけど、発芽に必要なものなので栄養価が高いのだ。

 ちなみに表皮と胚芽もすべて合わせて挽いたものが全粒粉。さらに細かく言うなら、胚乳だけ細かく挽いたものはグラハム粉と呼ばれる。


 ということで小麦胚芽を粉の一部に置き換えて、小麦胚芽入りの香ばしい食パンを作ることにした。


 材料を揃える。

 小麦粉。小麦胚芽。インスタントのドライイースト。砂糖。塩。バター。水。

 今回の食パンは、小麦胚芽の風味を活かせる配合にしてみよう。


 こね、こね。

 ばしーん!


 食パンなので、いつも以上にしっかりと捏ねる。

 最近は店だとニーダーに任せている生地の捏ね。やっぱり、手でやるのは体力が要るものの、楽しい!

 小麦胚芽は粗めに挽かれているので、手に伝わるのはざらざらつぶつぶした触感。

 捏ねて伸ばして、叩いて引きしめて。

 きゅっと引き締まって捏ね上がる、茶色いパン生地。表面につぶつぶが見えてかわいらしい。


 じんわりと額に汗がにじむ。

 生地を発酵させている間に自分自身のシャワーを済ませて、さぁ、成形だ。


 実家には食パンの型はないので、パウンドケーキの型ふたつに3つ山の俵型で仕込む。

 少し小さめの食パンで、耳つきで食べ応えのあるサンドイッチをイメージ。

 型に収まったパン生地がもりもりと発酵してひとまわり大きくなってきたら、オーブンへ投入!


 ばんっ! すぽっ。

 もうひとつ。

 ばんっ! すぽっ。


 こんがりと焼き色のついたところで型を強く叩き、衝撃を与えてから取り出した。

 少し小さめの、濃い茶色で、小麦胚芽入り香ばし食パンの完成だ。


 仕上げは、明日の朝、起きてから……。

 うん。

 捏ねという運動をしたら、ようやく眠くなってきた……。


 ふわぁ……。あくびが止まらない……。



 ばちっと目が覚めてしまった早朝。

 さて、食パンの粗熱がとれてスライスしやすくなっているし、サンドイッチを完成させよう!


 石鹸で手を洗い、エプロンをつける。


 ぐつぐつ……。


 まずはコンロでお湯を沸かして、ゆで卵をつくる。加減は固ゆでにしないと、食べる前に傷んでしまうので要注意。


 食パンはナイフを使ってゆっくりと大きな動作で引き切りして、まずは薄めにスライス。

 しっとりとしたクラムは小麦胚芽の茶色に染まっている。

 香りも、冷めても香ばしい。

 片面にはうすーくバターを塗っておく。


「あちち」


 ゆで卵の殻を流水で剥き、ボウルへ移した。

 フォークであらーく潰しながら塩、黒こしょう、お酢、マヨネーズと和えてたまごペーストにする。


 すとすとすと。


 きゅうりは薄切り。

 そして、たまごペーストを塗った上に重ならないように並べた。


 もう1種類は、ハムとレタスとトマト。

 しっかりと洗った野菜の水気をペーパーで拭いてから載せていく。


「……そうだ」


 思いつきで、クリームチーズをハンドミキサーでやわらかくする。冷たいクリームチーズはかたいのでホイッパーでは混ぜづらいのだ。

 クリームチーズとはちみつを練り合わせてペーストにする。


 ぺたぺた。


 それだけを塗った、少し甘めのサンドイッチもつくる。

 きっとハイトさんが気に入ってくれるはず。


 よしっ。3種類のサンドイッチのできあがり。

 なじませるためにしばらく重しをして置いておこう。


 その間に出かける支度、支度。


 エプロンを外して、服を着替える。

 動きやすいようにボトムはスキニータイプのデニム。

 丸襟の白シャツの裾は、デニムにインしてひらひらさせない。

 あとは洞窟の入り口で、勇者気分を味わえる防具一式をレンタルできる。もちろん本物ではなくてなんちゃってなので、軽くて、ほんとの防御には向いていない。


 面白いのか、とか、つまらないけど、とか周りに散々言ってきたものの、いざ行くとなるとわくわくしてきてしまうものだ。

 ただ歩くだけでも、大人になってからではきっと見えるものが違うだろうし。


 手を石鹸で洗ったら、サンドイッチも重しのおかげでパンと具材が馴染んできたことを確認。

 家用のサンドイッチは大皿に移して、フードカバーをかける。持って行く分はひとつずつ薄い紙で包み、籐かごに詰めた。


 赤いスニーカーを履いたら、さぁ出発だ。


「テルー!」

「トゥルペ。おはよう、エアトベーレ以来だね」


 タイミングよく店の外にトゥルペが立っていた。


「……? どうしたの?」


 しかし何故だか気落ちしている。理由を尋ねようとするより先に、親友は口を開いた。


「ごめんなさい! 昨日急に、教育科での報告会が決まってしまって、今日行けなくなりました……。すごく楽しみにしていたのですが……。王都から急に偉い方々がいらっしゃるそうでどうしても出席しなくてはならなくて……」

「えぇっ!?」


 いちばん気のおけない友の不在。これはなかなかにショックである。

 だけど、学校の用事ならしかたないよね……。


「そっか……。残念だけど、偉いひとが来るっていうならどうしようもできないよね……」

「ということで報告を楽しみにしています。本来ならあたしがこの目で確認したかったのですが」


 なにを?

 というツッコミはさておき。


「またこの埋め合わせはヴィアベルの激励会前後でさせてください」

「あー、それもあったね……。うん。楽しみにしてる。発表会、がんばって」


 何度も頭を下げながらトゥルペは帰っていった。


 つまり、今日の参加者は。

 ハイトさん、ランさん、レイさん。それに、わたし……?

 それってわたし以外、どう考えても冒険者パーティー並に強そうなんだけど……?

☆突然の豆知識☆

食パンの型をレシピから変えて作るときは、容積比を計算してみましょう。

無理やり小さい型に入れたり、大きな型にわざと入れたりすると、仕上がりの状態、食感が変わってきてしまうのです……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
✼コミカライズ作品✼
各電子書籍ストアにて単話配信中です。
画像をクリックすると
comicスピラ様の詳細ページに飛びます。
i836473
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ