いや、終わらせてどうすんよ!?
「…立花さん。あなたって本当にむかつくわね」
遠足のテーマパークで入ったお化け屋敷。
椎原くん、森重くん、野乃葉、私の四人で最初は回っていたが、私はクラスの女子に誘拐され、仲間の元へ離れていく始末。
誘拐された後は、クラスメイトの複数の女子に囲まれ尋問されるという謎の仕打ち。
尋問の内容は椎原くんとの関係だった。
彼女たちは、私が椎原くんに気に入られていると見ているらしい。気に入られているというよりも、告白された、告白した関係なんですけどね。
無論、そのことは口にしない。だって厄介なことになりそうだもん。頼むから、陰で生き抜くことをモットーにした私をこれ以上刺激しないでおくれ…。
これ以上、厄介ごとに巻き込まれたくない私は、お茶を濁しながら彼女たちの質問を促した。
しかしそのことで、私は女子のリーダーである鎌倉さんを怒らせてしまい、今の彼女はお化けよりお化けらしい女子へと豹変した。
ここまでが、前回のあらすじ。って呑気に考えている場合じゃない!
「か、鎌倉さん!おおおおお、落ちつこう?深呼吸しよ?」
「ええ、十分落ち着いているわ。…あなたを殺したいぐらいにねっ!」
「全然、落ち着ていないじゃないですかぁああ!」
おかしい。ここはお化けを見て叫ぶ場所なのに、私は豹変したクラスメイトの女子をみて叫んでいるのではないか。
「ご、ごごごごめんなさぁあい!」
「じゃあ、椎原くんとの関係を言える?」
「…そ、それは」
「そ。言えないじゃない。なら、遠慮なく痛めつけてあげる」
だからなんでそんなに、過激派なの!?ピース!ラブアンドピースを求めます!
そ、そうだ、助けを呼べばいいんだ。逃げ道だってあるかもしれないし!
「た、助けてくださーい!」
叫んで逃げようとした瞬間。私は無意味なことだと悟った。
だって、逃げようにも囲まれて逃げれないし、叫んでもここお化け屋敷だから叫んで当たり前。
つまり、現状は変わらず。残るのは女子の冷たい視線だけなのさ。
~完~
いや、終わらせてどうすんよ!?…考えろ。考えるんだぁ!
私の行動に呆れたのか、鎌倉さんは私を見て鼻で笑った。
「…馬鹿なのあなた?ここはお化け屋敷叫んで当然な場所なのよ?」
「やめてぇええ!精神攻撃慣れていないからやめてぇええ!」
顔を隠して悶える私は、羞恥心で死にそうになった。
これならいっそ、肉体攻撃の方がまだましだ。
「…なんでこんな奴が椎原くんのお気に入りなのかしら」
鎌倉さんは恨めしそうにも見える、悔しそうにも見える顔をした。
嫉妬。おそらくその感情だろう。
私は分かる、鎌倉さんの気持ち。好きな子が別の子に構っているのは快くないだろう。
恋する女の子は、その人のことしか考えられなくなるのだから。
「…お前、こんなところで何してんの?」
張りつめた空気の中、後ろから知っている声が聞こえた。
全員が声のする方に顔を向けると、森重くんがそこに立っていた。
「も、森重くん?」
どうしてここに?と言わんばかりの顔をした鎌倉さんは動揺していた。
野乃葉たちが私がはぐれたことに気づいたのだろうか、これで絶体絶命は免れた。
「おい、バナナ女。お前なにはぐれているんだよ」
「ば、バナナ女って言うな!」
「うるせ。お前のせいで、こんな寒いところを長く回ることになったから少しは反省しろ」
私のせいじゃないし!
とことん無神経な言葉を言ってくる彼にイラつくが、内心助けてもらっていることに感謝している。
急いで彼の元に逃げると、近くにいた鎌倉さんが前に出た。
「ま、待ちなさい!」
「ぶへ!」
急なことで俊敏に動ける私じゃないので、突然前に現れた鎌倉さんに思いっきりぶつかった。痛い。鼻がヒリヒリする。
「まだ、椎原くんとの関係を…!」
「そんなに、気なるなら唯人に聞けよ。こいつは関係ねーだろ?…迷惑なことしやがって」
「…っ!」
一喝する、森重くんに鎌倉さんは黙った。
…少しだけど、鎌倉さんに同情してしまった。恋の気持ちは私も知っていた。
嫉妬の辛さは、苦しくて息が出来なくなる。私も経験したことがある。
「と、永久ー!」
「立花さん!ここにいたのか!」
「野乃葉!椎原くん!」
野乃葉も椎原くんも遅れて登場した。
女子たちはさすがにまずく感じたのか、そそくさに離れる人が現れた。
「は、春ちゃん?い、いこ?」
「…あんたたちは勝手に行っていなさい」
「え?」
鎌倉さんの反応に、取り巻きに人は戸惑った。
「で、でもぉ」
「いいから!早く行きなさい!」
「う、うん…」
彼女のヒステリックな反応に、取り巻きの人はこれ以上言うのは無駄だと思ったのか、鎌倉さんを置いてその場を去った。
彼女は下唇を噛みながら、小さな声で言った。
「椎原くんに話があるの?」
「…なんだ鎌倉?」
椎原くんは、少し警戒していた。
私が残された現状に、さすがの椎原くんも異常に感じたのだろう。鎌倉さんの見る目つきが怖い。そんな目で鎌倉さんを見ないで欲しいと思ってしまう。
「立花さんとの関係はどんな関係なの」
ひやりと体が冷えた。
もしここで椎原くんが正直に私たちの関係を話したら、その後の私はどんな風に見られるのだろう。椎原くんを振った女子として疎まれるのだろうか。
「教えて、お願い」
椎原くんに聞いた鎌倉さんには覚悟のようなものを感じた。
一時の沈黙の間。椎原くんが口を開いた。
「友達だよ」
彼は、真っすぐ鎌倉さんを見て答えた。
友達。彼は私たちの関係をそう言った。
「本当に?」
「ああ、友達だ。…大切な人だ」
これ以上彼は何も言わなかった。
「そっか」
鎌倉さんは下を向き、小さく微笑んだ。
そして私に顔を上げて。
「ごめんなさい、立花さん」
静かな声で私に謝った。
一瞬だけ鎌倉さんの顔が泣いているように見えた。
暗くて顔がよく見えないけど、あれはきっと泣いている。
「…ううん。いいよ」
「…ありがとう立花さん」
私は彼女を許すことしかできなかった。
責めたくなかった彼女のこと。彼女は私と違って強い子かもしれないけど、私みたいになってほしくなかった。
「話はそれだけか?」
「うん、迷惑かけてごめんなさい」
暗く、狭い、お化け屋敷は静かに幕を下ろした。
気まずい状況、私はただ鎌倉さんの最後の顔が頭から離れなかった。