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おさげ眼鏡のモブ少女。それが私のはずなんだが…  作者: 伊月
自称モブ少女!陰で生き抜くことを決意した!
7/7

いや、終わらせてどうすんよ!?

「…立花さん。あなたって本当にむかつくわね」


遠足のテーマパークで入ったお化け屋敷。

椎原くん、森重くん、野乃葉、私の四人で最初は回っていたが、私はクラスの女子に誘拐され、仲間の元へ離れていく始末。

誘拐された後は、クラスメイトの複数の女子に囲まれ尋問されるという謎の仕打ち。

尋問の内容は椎原くんとの関係だった。

彼女たちは、私が椎原くんに気に入られていると見ているらしい。気に入られているというよりも、告白された、告白した関係なんですけどね。

無論、そのことは口にしない。だって厄介なことになりそうだもん。頼むから、陰で生き抜くことをモットーにした私をこれ以上刺激しないでおくれ…。

これ以上、厄介ごとに巻き込まれたくない私は、お茶を濁しながら彼女たちの質問を促した。

しかしそのことで、私は女子のリーダーである鎌倉さんを怒らせてしまい、今の彼女はお化けよりお化けらしい女子へと豹変した。

ここまでが、前回のあらすじ。って呑気に考えている場合じゃない!


「か、鎌倉さん!おおおおお、落ちつこう?深呼吸しよ?」

「ええ、十分落ち着いているわ。…あなたを殺したいぐらいにねっ!」

「全然、落ち着ていないじゃないですかぁああ!」


おかしい。ここはお化けを見て叫ぶ場所なのに、私は豹変したクラスメイトの女子をみて叫んでいるのではないか。



「ご、ごごごごめんなさぁあい!」

「じゃあ、椎原くんとの関係を言える?」

「…そ、それは」

「そ。言えないじゃない。なら、遠慮なく痛めつけてあげる」


だからなんでそんなに、過激派なの!?ピース!ラブアンドピースを求めます!

そ、そうだ、助けを呼べばいいんだ。逃げ道だってあるかもしれないし!


「た、助けてくださーい!」


叫んで逃げようとした瞬間。私は無意味なことだと悟った。

だって、逃げようにも囲まれて逃げれないし、叫んでもここお化け屋敷だから叫んで当たり前。

つまり、現状は変わらず。残るのは女子の冷たい視線だけなのさ。

~完~

いや、終わらせてどうすんよ!?…考えろ。考えるんだぁ!

私の行動に呆れたのか、鎌倉さんは私を見て鼻で笑った。


「…馬鹿なのあなた?ここはお化け屋敷叫んで当然な場所なのよ?」

「やめてぇええ!精神攻撃慣れていないからやめてぇええ!」


顔を隠して悶える私は、羞恥心で死にそうになった。

これならいっそ、肉体攻撃の方がまだましだ。


「…なんでこんな奴が椎原くんのお気に入りなのかしら」


鎌倉さんは恨めしそうにも見える、悔しそうにも見える顔をした。

嫉妬。おそらくその感情だろう。

私は分かる、鎌倉さんの気持ち。好きな子が別の子に構っているのは快くないだろう。

恋する女の子は、その人のことしか考えられなくなるのだから。


「…お前、こんなところで何してんの?」


張りつめた空気の中、後ろから知っている声が聞こえた。

全員が声のする方に顔を向けると、森重くんがそこに立っていた。


「も、森重くん?」


どうしてここに?と言わんばかりの顔をした鎌倉さんは動揺していた。

野乃葉たちが私がはぐれたことに気づいたのだろうか、これで絶体絶命は免れた。


「おい、バナナ女。お前なにはぐれているんだよ」

「ば、バナナ女って言うな!」

「うるせ。お前のせいで、こんな寒いところを長く回ることになったから少しは反省しろ」


私のせいじゃないし!

とことん無神経な言葉を言ってくる彼にイラつくが、内心助けてもらっていることに感謝している。

急いで彼の元に逃げると、近くにいた鎌倉さんが前に出た。


「ま、待ちなさい!」

「ぶへ!」


急なことで俊敏に動ける私じゃないので、突然前に現れた鎌倉さんに思いっきりぶつかった。痛い。鼻がヒリヒリする。


「まだ、椎原くんとの関係を…!」

「そんなに、気なるなら唯人に聞けよ。こいつは関係ねーだろ?…迷惑なことしやがって」

「…っ!」


一喝する、森重くんに鎌倉さんは黙った。

…少しだけど、鎌倉さんに同情してしまった。恋の気持ちは私も知っていた。

嫉妬の辛さは、苦しくて息が出来なくなる。私も経験したことがある。


「と、永久ー!」

「立花さん!ここにいたのか!」

「野乃葉!椎原くん!」


野乃葉も椎原くんも遅れて登場した。

女子たちはさすがにまずく感じたのか、そそくさに離れる人が現れた。


「は、春ちゃん?い、いこ?」

「…あんたたちは勝手に行っていなさい」

「え?」


鎌倉さんの反応に、取り巻きに人は戸惑った。


「で、でもぉ」

「いいから!早く行きなさい!」

「う、うん…」


彼女のヒステリックな反応に、取り巻きの人はこれ以上言うのは無駄だと思ったのか、鎌倉さんを置いてその場を去った。

彼女は下唇を噛みながら、小さな声で言った。


「椎原くんに話があるの?」

「…なんだ鎌倉?」


椎原くんは、少し警戒していた。

私が残された現状に、さすがの椎原くんも異常に感じたのだろう。鎌倉さんの見る目つきが怖い。そんな目で鎌倉さんを見ないで欲しいと思ってしまう。


「立花さんとの関係はどんな関係なの」


ひやりと体が冷えた。

もしここで椎原くんが正直に私たちの関係を話したら、その後の私はどんな風に見られるのだろう。椎原くんを振った女子として疎まれるのだろうか。


「教えて、お願い」


椎原くんに聞いた鎌倉さんには覚悟のようなものを感じた。

一時の沈黙の間。椎原くんが口を開いた。


「友達だよ」


彼は、真っすぐ鎌倉さんを見て答えた。

友達。彼は私たちの関係をそう言った。


「本当に?」

「ああ、友達だ。…大切な人だ」


これ以上彼は何も言わなかった。


「そっか」


鎌倉さんは下を向き、小さく微笑んだ。

そして私に顔を上げて。


「ごめんなさい、立花さん」


静かな声で私に謝った。

一瞬だけ鎌倉さんの顔が泣いているように見えた。

暗くて顔がよく見えないけど、あれはきっと泣いている。


「…ううん。いいよ」

「…ありがとう立花さん」


私は彼女を許すことしかできなかった。

責めたくなかった彼女のこと。彼女は私と違って強い子かもしれないけど、私みたいになってほしくなかった。


「話はそれだけか?」

「うん、迷惑かけてごめんなさい」


暗く、狭い、お化け屋敷は静かに幕を下ろした。

気まずい状況、私はただ鎌倉さんの最後の顔が頭から離れなかった。

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